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歩きやすい街のための101のルール/「Walkable City Rules」

今回は「Walkable City Rules: 101 Steps to Making Better Places」のレビュー記事です。

本書は、2012年に出版された「Walkable City」の続編として、著者であるJeff Speck(ジェフ・スペック)が2018年に出版しました。ジェフ・スペックさんは、ソトノバレポート「ロードダイエットの解説」でも紹介された都市計画家です。

前作「Walkable City」はそのコンセプトや事例を紹介し、人々に読んでもらうという点に重きを置いていましたが、本書は読者に実践してもらうことを目的とし、19のセクションにまとめられた101のルールを写真とともに紹介しています。

最近では日本でも「ウォーカブル」という単語を耳にする機会が増えました。実際に国土交通省都市局も「居心地が良く歩きたくなるまちなか」の形成を推進しています。(考察記事

しかし、自分たちの生活を振り返ったとき、実際に日々の生活における実践のポイントを抑えて行動できている人はそれほど多くないのではないでしょうか?

私自身も、「ウォーカブル」というコンセプトを理解することと実際に行動に移すことには大きなギャップを感じてしまいます。そこでこのブックレビューでは、101の中から厳選したいくつかの「ウォーカブルを行動に移すためのルール」を確認していきたいと思います。

※本書「Walkable City Rules」は2021年邦訳出版決定!
解説:泉山塁威+ソトノバ 訳:田村康一郎+猪飼洋平+小仲久仁香+佐川夏紀+高橋愛


そもそも、なぜウォーカビリティなのか?

「ウォーカビリティ」は、近年都市計画やまちづくりの一つのゴールに設定されることが増えており、多くの人はそれを漠然と良いこととして認識しています。ただ一方で、自動車を中心として開発されてきた現代都市において、その経済効果や利便性を重視し反対する人も一定数いることも確かです。そこで、本書のパート1では、ウォーカビリティの効果の中から特に大きな影響を及ぼす5つのポイント「経済・健康・環境・公平性・コミュニティ」について再考しそのメリットを再認識することと、それを発信していくことの重要性について解説しています。

9153_56_Speck緑や街灯もあり、歩道もある程度の広さがあり歩きやすそうですね!(Photo credit: Jeff Speck)

初級レベル:ウォーカビリティの効果を再認識して発信すること

それでは、パート1で紹介されているルールをみてみましょう。

ルール1:資産価値、人材誘致、雇用創出、交通費、補助金・外部性などの経済へのプラスの影響を発信すること

ルール2:肥満、医療費、交通事故や大気汚染による死亡率などの公衆衛生へのプラスの影響を発信すること

ルール3:気候変動について考え、立地効率を重視すること

ルール4:データをもとに、社会的公平性に関するメリットを広めていくこと

ルール5:その社会資本へ影響に関するデータを忘れず、コミュニティへの効果を認識すること

ここで強調されているのは、それぞれのメリットについて発信していくことだけではなく、「データ」に基づいた効果の認識です。ルールの文字だけ読むと少し難しいような気もしますが、例えば「地域内で就業率が向上した」「コミュニティの交流行事に参加する住民が増えた」などの見逃している変化があるはずです。

地域における「ウォーカビリティ」の取り組みを思い出し、それに関係した小さな変化をまずは5つの「経済・健康・環境・公平性・コミュニティ」に分類してみましょう。コミュニティにおけるウォーカビリティの効果を再確認することが第一歩です。その上で、それを多くの人へ発信していくことが2つ目のステップです。このシンプルな2ステップなら、散歩中に頭の中で意識しながら気楽に始められそうですね。まだあまり実践できないという人はまず、ここから実践してみてはいかがでしょうか。

実践編:ウォーカブルな空間創造のためのポイントを押さえる

ここからは少しレベルを上げて、実践レベルが高いルールをいくつか紹介していきます。と、その前に少し考えてみましょう。みなさんはどんなときに徒歩を移動手段として選びますか?「目的地が近いから」「他の交通手段よりも安く済むから」「最近ちょっと食べすぎたから」

理由はさまざまあると思いますが、大体の理由は「利便性」と「快適さ」のどちらかのカテゴリーに分類することができるはずです。ここでは、その後者「快適さ」に注目していきます。

本書パート16「適切な歩道のための整備」とパート17「歩行者にとって快適な空間の創造」では、快適さをさらに細分化した「緑地レベル・デザイン性・光(ライト)・安全性」などの多数の観点から細かいルールを設定しています。以下に例を上げてみます。

78:街全体の植樹を中心としたキャンペーンを実行し、歩道だけでなく縁石に沿った街路樹を含むように土地開発規約を改正すること。気象災害対策や、サスティナビリティ、公衆衛生に効果が期待できる。

80:使用目的に応じて適切な幅の歩道を整備すること

86:最低限の明るさを確保。加えて、低エネルギーの使用や、都市レベルに応じて創造的な装飾ライトの導入などの工夫を取り入れる。

87:現行の安全対策の有効性やそれに伴うリスクについて話し合い再検討できる場を設定する。

パート1の5つのポイント「経済・健康・環境・公平性・コミュニティ」に比べると、ここで紹介されている「快適さ」は、「ウォーカビリティ」に与える影響がわかりにくいかもしれません。そのため、どうやって実践に移すの?と頭の中に?マークが浮かんでしまうかもしれません。

そこで、こんな考え方をしてみてはどうでしょうか?

「どんな場所なら歩きたくなるだろう?」

そう問いを立て直すと、実践することが比較的見え易くなるのではないでしょうか。私の場合、「昼夜を問わず明るく活気があること」と「安全性が保たれる仕組みがありながらも、それら意識せずに楽しめること」が挙げられます。

DSCN7516筆者が住む街では、トランクボックスにパブリックアートが取り入れられています全て一つずつ違うデザインなので散歩が楽しく、街の雰囲気も明るくなります。(Photo by Midori Dobashi)

そのためには、「歩道の日当たりの調整や街灯の設置」「花壇やベンチなどの設置」「災害対策設備にパブリックアートを取り入れる」などの実践的な項目がみえてきます。これをやらなければいけないというチェックリストを基に実行するのではなく、「こういう風にウォーカブルな環境をつくりたい」という熱意や夢ををもとに計画を作成することが重要になります。

DSCN7532日陰になることがわかっていれば、その壁にパブリックアートを取り入れてみるのもいい例かもしれませんね。(Photo by Midori Dobashi)

一番重要なことは、今ここで実践に移すこと

本書の最後のセクションであるパート19は、

「DO IT NOW(今行動に移しなさい!)」

という強いメッセージから始まります。このパートでジェフ・スペックは、短期間でできる小さな行動からはじめることの重要性を再度念押しするだけではなく、全体像の把握と長期的な計画の必要性も強調しています。

DSCN7514もともと車道だったのを歩行者と自転車専用に変えた道路。ここでは、立ち話したり川を眺めたり皆がそれぞれの時間を過ごしています。ロックダウン前には、マルシェも開催もしていました。(Photo by Midori Dobashi)

全体を通して、ウォーカビリティの実践のために何ができるかを考え行動するための基本的な考え方だけでなく、さらにそこから街全体の将来のビジョンを考え計画するという1つレベルアップした視点が印象に残っています。自分のウォーカビリティ実践のガイドブックとして今後も手放せなくなる1冊でした。

#14 Special Keynote 「ウォーカブルな都市に生まれる居心地のよい場所」by Jeff Speck


本書の著者であるジェフ・スペックは、3月12日から3月17日までオンラインで開催されるPlacemaking Week JAPAN 2021のプログラムである「ウォーカブルな都市に生まれる居心地のよい場所」(開催3月17日(水) 9:30〜10:30)に登壇します。

テキスト by 土橋美燈里(The University of Sheffield MSc Urban and Regional Planning)

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