「民間が支える都市公園」の3つの視点とは?|都立公園初の Park-PFI 明治公園
近年、公募設置管理制度(以下、Park-PFI)を活用し、カフェやレストランなどの民間施設を整備・運営する都市公園が全国で増えつつあります。
当制度の活用は、にぎわいの創出や自治体の財源確保といった面で注目される一方、収益性に偏らず社会性や環境への配慮をどう確保するか、地域と連携した持続的な運営体制をどう築くかといった課題も見えてきています。
このような中、都立明治公園(東京都新宿区)は、都立公園として初めてPark-PFIを導入し、2024年に全面開園しました。
本記事では、日頃の業務から公民を問わない開発事業やまちづくりに従事し、同公園の設計・運営に携わる日本工営都市空間株式会社の吉成主税(よしなり・ちから)さんへの取材と現地観察を通じて、民間事業者が関わる都市公園の可能性や、デザインとマネジメントの工夫を探りました。これらの取材をもとに、日本大学大学院でPark-PFIを研究する筆者・菅原悠希が、公園づくりの新たな形を探ります。
Cover Photo by Haruki Sugawara
Contents
「公園は誰のものか」を問い直す、Park-PFIの現在地
Park-PFIの目的は、通常であれば自治体が単独で整備・更新や維持管理する公園に対して、民間事業者が参入しやすい仕組みを構築し、公民が連携して地域に対して魅力的な公園整備を促進することにあります。
そのため、事業内容の検討段階では、民間事業者を対象としたサウンディング調査が積極的に行われます。実際に、筆者が実施した2022年度末までにPark-PFIを用いて公園内に施設を開業した全国45公園を対象とした調査(全国45公園におけるPark-PFIの適用傾向及び課題 註1)では、9割以上の自治体において、民間事業者へのサウンディング調査を実施したことが明らかになっています。
一方、市民を対象とした聞き取りや要望調査は全体の約4割にとどまり、事業内容を検討する段階で市民の意見が十分に反映されていない可能性が伺えました。
Park-PFIを用いる際に、自治体が実施した調査の傾向 出典:都市計画論文集 第59巻3号 pp.1636-1643
しかし、近年では、あらかじめ社会実験を実施し、公園利用者のニーズを踏まえて公募施設管理を実施する事例や、整備後に市民団体と連携してイベントを実施する事例など、事業に市民の声を取り入れようとする取り組みも各地で確認されています。
こうした動向から見えてくるのは、Park-PFIが制度創設当初の「シンプルな民間活力の導入」から、地域住民や市民団体を含む「多様な主体による協働」へ見直されているという点です。
今後は、民間活力導入による整備・運営の過程においても、いかに市民の視点を制度の中に組み込むかが重要であると考えられます。
筆者は、今回紹介する明治公園では特に、「多様な主体による協働」が色濃く出ていると考えており、その理由を考察してみたいと考えます。
都立公園初のPark-PFI事例 明治公園とは?
明治公園は、新国立競技場に隣接し、神宮球場や東京体育館などの運動施設や、国立能楽堂をはじめとする文化施設が集積するエリアに位置しています。周辺には小学校や高校もあり、子どもや学生、高齢者、住民、観光客など、さまざまな世代や属性の人々による利用が見られます。
明治公園の案内図(明治公園公式HPより引用)
実際に明治公園を訪れて、まず目を引いたのは、洗練されたカフェのオープンスペースです。テラス席には、ノートパソコンを広げて作業をする人や、談笑しながらコーヒーを楽しむ人の姿があり、都心らしい「おしゃれな空間」がゆったりと広がっていました。
公園内に整備された飲食店のテラス席でくつろぐ人々の様子 Photo by Haruki Sugawara
一方、夕方が近づくにつれて、公園のもうひとつの表情が見えはじめました。
インクルーシブ広場では、子どもたちが遊具を囲んでにぎやかに駆け回り始め、笑い声が聞こえてきました。さらに、公園内の「誇りの杜」では、虫を捕まえたり、木々のあいだを走り抜ける子どもの姿も見られました。ビルに囲まれた都心で、ここまで自然の中で遊ぶ姿が見られることに驚かされました。
自然の中で遊ぶ親子連れ Photo by Haruki Sugawara
夏の時期でも、気温が少し下がってくると、公園内のベンチに人が増えてきます。ベンチに腰かけておしゃべりを楽しむ人、足を伸ばして一休みする人、静かに本を読む人、使い方は人それぞれですが、共通していたのは「自由でいられる空間」だということ。そこには、明確な目的を持った人が集まる商業施設にはない、各々が自由に過ごせる心地よさがありました。
公園内に設置されたベンチでは、利用者ごとに多様な過ごし方が見られる Photo by Haruki Sugawara
明治公園は、カフェや施設を通じた「商業的な顔」や、誰でもふらっと立ち寄れる「公園としての顔」といった、公民の両方の側面を併せ持つ場所があります。しかし、時間帯によって変わっていく人の流れと使われ方を見ていると、この公園は、公民の空間を明確に分けることなく、ゆるやかに重なりあいながら、人それぞれの過ごし方を受け止める空間となっていました。
明治公園は、カフェや施設を通じた「商業的な顔」や、誰でもふらっと立ち寄れる「公園としての顔」といった、公民の両方の側面を併せ持つ場所があります。しかし、時間帯によって変わっていく人の流れと使われ方を見ていると、公民の空間が明確に別れることなく、ゆるやかに重なりあいながら、人それぞれの過ごし方を受け止めていました。
持続可能な都市公園に必要な3つの視点
都市公園が果たすべき役割は、これまで以上に多様化しています。にぎわいを創出する場であると同時に、地域に根ざし、持続的に運営される空間でなければなりません。
こうした中で、吉成さんは、明治公園の整備・運営を通して、「環境」「社会性」「経済性」の3つの視点のバランスがこれからの都市公園に必要だと語ります。
人が集まり、賑わいが生まれることは大事ですが、それだけでは公園は長続きしません。自然との共生や、地域との信頼関係、経済的な基盤。3つの視点が揃うことで、持続可能につながるんです。
この言葉からは、単なるハードの整備ではなく、設計から運営に至るまで「公園をどのように社会の中で位置づけていくか」という都市における公園の役割、つまりソフト面の思想が強く感じられます。明治公園では、まさにこの3つの視点を軸にしながら、空間・運営の設計がなされています。
公園内の説明をする吉成主税さん Photo by Haruki Sugawara
①「環境」-「誇りの杜」が象徴する都市と自然の共生
明治公園の大きな特長は、公園東側に位置する「誇りの杜」です。約7,500㎡にわたるこの杜は、100年後に東京のレガシーとなる杜を目指しています。
誇りの杜の木々の間を通り抜ける遊歩道 Photo by Haruki Sugawara
ここでは、あえて完成形を作らない「ハーフメイド」の考え方を採用し、自然と人の手によって徐々に成長していく杜が構想されています。
「誇りの杜」の中には、遊歩道やちょっとした広場のような空間も点在しています。これらの空間は、間伐や伐採のタイミングにあわせて位置が少しずつ変化し、木々の成長や変化に応じて「自然に触れられる場所」そのものが移ろっていくように意図されています。
さらに注目すべきは、森の中を走り回る子どもたちの存在です。彼らが何度も通ることで、計画にはない「獣道(けものみち)」が自然と生まれ、設計者の想定を超えたルートがつくられています。
こうした人と自然の相互作用は、この杜が単なる植栽地ではなく「生きた自然」として育まれていることを物語っています。
都市の中にありながら、「生きた自然」と日常的に触れ合い、関わり続けることができる、この「誇りの杜」には、都市と自然の共生というテーマが、空間のあり方だけでなく、利用者の行動によっても体現されています。
②「社会性」-地域とともにつくり、育てる公園
空間だけでなく、その「育て方」にも注目すべき点があります。明治公園の再整備では、整備段階から運営段階に至るまで、地域との持続的な関係づくりが重視されてきました。
例えば、「誇りの杜」の造成に際しては、地域住民と共に苗木を植える植樹祭が実施されました。自然環境だけでなく、地域との関係性も「育てる」ことが意識されています。
地域住民と実施した植樹祭の様子 資料提供:日本工営都市空間
運営面では、周辺施設との連携も積極的に進められています。近隣の国立能楽堂や日本将棋連盟と協力し、伝統文化や地域資源を活かしたイベントが実施されるなど、公園が地域の文化的ハブとして機能しています。
③「経済性」-デジタルとデータで支える公園経営
公園に求められる役割が多様化するなか、明治公園ではデジタル技術の活用によって、運営の効率化と質の向上が図られています。その中核を担うのが、次世代街路灯「Secual Smart Pole」です。
公園内に設置されたスマートポールとデジタルサイネージ Photo by Haruki Sugawara
このスマートポールは、AI BeaconとAIカメラを搭載し、来園者の属性やリピート状況などを取得・分析します。分析されたデータは、管理運営に反映され、公園運営の最適化に寄与しています。
また、公園内のデジタルサイネージではイベント情報やテナント情報が発信され、来園者の回遊促進や経済効果の波及にもつながっています。
こうした取り組みは、単なる利便性の向上にとどまらず、データに基づいた意思決定を可能にし、「持続可能な都市公園」の実現へ向けた、重要な第一歩となっています。
多様な人の居場所をつくる、「インクルーシブ」な都市公園のこれから
明治公園のあり方を支えているのは、3つの視点──「環境」「社会性」「経済性」の共存です。
しかし、それらをただ寄せ集めるだけでは意味がありません。吉成さんが語るキーワードは、「インクルーシブ」です。それは、年齢や立場、目的の異なる多様な人たちが、同じ場所を「自分の居場所」として感じられる公園をつくることです。
インクルーシブという言葉には、子どもから高齢者までのすべての利用者に加え、近隣住民や観光客、ビジネスワーカー、そして地域の団体や企業も含まれます。そうした多様な人々が、公園というひとつの場に集い、それぞれのペースで過ごす。そうした関係性を、空間のつくり方や運営の仕組みによって紡ぎ出すのが、明治公園の大きな特長です。
実際に、明治公園では時間帯ごとに利用者の層が移り変わっていきます。
朝は犬の散歩をする近隣住民、昼はカフェを利用するビジネスワーカー、放課後には遊具で遊ぶ子どもたち、夕方にはベンチで語らう若者やカップルたち──。それぞれが自分の時間を過ごしながらも、ときに視線が交わり、言葉を交わすような偶発的な出会いを生みだします。
明治公園の試みは、Park-PFIという制度を超えて、公共空間がいかに人と人をつなぐかを示しています。「環境」「社会性」「経済性」という3つの視点が、空間や時間軸の中で柔らかく交差し、誰にとっても「自分の場所」と感じられる空間が実現されています。
筆者は、都市公園の公民連携プロセスの研究や明治公園のインタビューを通じて、都市公園の新たな未来像やあり方を想像しました。
明治公園を支える3つの視点や取り組みそのものに、これからの全国のPark-PFI事業に必要な要素が詰まっていると感じています。単なる事業期間内の公民連携ではなく、真に都市公園や地域社会の将来を考えた取り組み・事業が増えていくことを期待します。
取材・スポンサー協力:日本工営都市空間株式会社 吉成主税さん
取材場所:都立明治公園
資料提供:日本工営都市空間株式会社
ライター:菅原 悠希(日本大学大学院理工学研究科建築学専攻都市計画研究室(泉山ゼミ))
参考論文
註1:全国45公園におけるPark-PFIの適用傾向及び課題 地域及び公園特性に基く整備·管理運営の分析|菅原悠希、久志木ひま梨、竹中彩、一之瀬大雅、泉山塁威|日本都市計画学会都市計画論文集Vol.59 No.3、2024年10月、査読あり
DOI:https://doi.org/10.11361/journalcpij.59.1636
- この記事を書いた人 寄稿枠
- ソトノバに発信したい思いのあるライター、研究者、実務者などの方からの寄稿をお待ちしています。 寄稿をご希望の方は、ソトノバ編集室宛にメールをお願いします。 ソトノバ編集室 hello@sotonoba.place
