ソト事例

Example

パーク|公園

「日比谷音楽祭」が教えてくれた、最新の公園イベント活用4つの視点

都心の森で上質な音楽を無料で思いっきり楽しめるイベントがある!そんな情報を聞きつけ、去る2023年6月2(金)~4日(日)、東京都・千代田区の日本で最初につくられた近代西洋風公園・日比谷公園で行われた「日比谷音楽祭」に出かけました。

タイトルに「最新の」とありますが、何が最新なのか?それは一言でいえば、「公園のあるべきイベントの姿」が最新なのです。

現状の公園とイベントには様々な問題点があると筆者は認識しています。

例えばPark-PFI制度(以下、「P-PFI」)に基づくイベント開催。財政逼迫の軽減策として公園の自律的運営を目的に、収益を上げる施設を園内に建て人々を呼び込み、収益の一部を公園運営に回すというしくみです。しかし、その収益が尊重されるあまり、より人々を呼べる商業主義的なイベントに偏る傾向も多々見受けられます。日比谷公園はP-PFIを活用している公園ではありませんが、イベントの一部は、集客とお祭り騒ぎと商業化が加速している傾向が見受けられます。

今回の記事は、そのような公園を取り巻く環境の中、日比谷音楽祭は、それに一石を投じる非常に示唆に富んだイベントである、という点を強調し、お伝えします。

Cover Photo by JUNIICHI-ITO

ソトノバ・スタジオ|ソトノバ・ライタークラス2023の卒業課題記事です)


都市中の公園で上質な音楽が響く。日比谷音楽祭とは?

日比谷音楽祭とは毎年5月から6月のうち3日間、東京都立日比谷公園で開催される音楽イベントで、2019年から行われています。(2020年は新型コロナにより中止、2021年はオンライン生配信にて開催)

野外大音楽堂(通称「野音」)や小音楽堂、第二花壇(芝生広場)でのライブをはじめ、ニレノキ広場での音楽メーカーによる楽器の演奏体験、草地広場での市民参加の音楽プログラム、大噴水広場での音楽関係企業や団体の紹介、軽飲食ブース等が展開されました。

プログラムとしては、ライブ、ワークショップ、トークショー、音楽マーケット、展示会等、来場者と主催者・演奏者等との様々な関わり方が用意されています。

DSCF0896日比谷音楽祭は、音楽の新しい循環をつくるためにリアルに参加し様々な体験を通して音楽と出会い、公園という場所への関わり代をつくろうとしています。 Photo by JUNIICHI-ITO

一流のミュージシャンや誰でも知っている著名なアーティストも参加し、話題を集めていました。

また、アプリを利用しての取り組みも充実しています。例えば会場で今どんなことが起こっているのか、ライブやワークショップなどのプログラム情報や出店ブースの情報を「現在地」や「時間」に合わせて表示したり、実行委員長のお気に入りスポットや、日比谷公園サービスセンターの協力により日比谷公園見所や魅力を盛り込んだコンテンツも掲載しています。

更にボーダーレスな取り組みとして、開催プログラムに手話歌を取り入れたり、公式ホームページの読み上げ機能を追加したりして聴覚障害者に配慮しているほか、児童福祉施設の子供達をライブへ招待等にも取り組んでいます。

DSCF1016日比谷音楽祭は園内の様々なエリアで多様なプログラムが用意されています。Photo by JUNIICHI-ITO

緑豊かな都心のオアシスである公園で上質な音楽が聴ける、しかも無料で!

筆者がこのイベントに参加した動機は、緑豊かな都心のオアシスで上質な音楽が聴けるという心地良さを体験してみたかったこと、無料が原則という市民に広く開かれた公共性の高さを意識したイベントであること、加えてそれが公園という場所と相性が良いと感じたことが挙げられます。また、主催者だけでなく協賛企業や参加アーティストらが、来園者と音楽や楽器を通じたコミュニケーションを形成する様なイベントを開催していることに加えてそれが公園内だけでなく周辺エリアでも同時多発的に展開していることが挙げられます。

参加してみて特に印象的だったイベントの特徴として、

①無料で音楽を楽しめる
②公園内の屋内外含めたあらゆる場所でイベントが開催されている
③敷地内だけでなく近隣のオープンスペースや屋上庭園等でも展開されている
④飲食ブースを最小限に抑えている

という4点が挙げられます。

DSCF0997日比谷音楽祭は敷地外にも展開し、日比谷公園を一望できる近隣複合高層ビルの屋上庭園も会場の一つになっています。Photo by JUNIICHI-ITO

皇居に、劇場街に、官庁街に、大規模商業施設。日比谷公園とその周辺の様子

音楽祭が開催される都立日比谷公園は、皇居南西に位置する都立公園で、1903年(明治36)年6月に開園した日本初の近代西洋風公園の先駆けとして開園しました。面積は約16ヘクタール、園内には約3000本の樹木が植えられ、施設は日比谷公会堂、野音、小音楽堂、陳列場、テニスコート、草地広場、軽飲食店、「緑と水の市民カレッジ」等があります。時代の変遷と共に、周辺の街並みだけでなく公園を取り巻く社会環境も大きく変わり、公園もその時々のニーズに応え、姿を変えてきました。

公園の管理は、東京都が指定管理者制度を利用し外部委託しています。委託先は公益財団法人東京都公園協会です。P-PFIは活用していません。

最近の動向として、2021年7月に「都立日比谷公園再整備計画」(以下、再整備計画)が公表されました。開園130周年を迎える2033年を目標に公園の再生事業に取り組んでいます。

DSCF9530日比谷公園内にある草地広場。遊具などが置かれており、近隣のオフィスワーカーや、劇場や大規模商業施設等を訪れる人々の憩いの場として多くの人々に利用されています。Photo by JUNIICHI-ITO

皇居の隣りでお祭り騒ぎ?!日比谷公園で開催されているイベントの課題

現在、多くのイベントが日比谷公園で行われていますが、「集客」「飲食」「お祭り騒ぎ」を目的としたと感じられる様なイベントが多く、日比谷公園の歴史と風格とのギャップに驚かされることもしばしばです。周辺の方々や造園の専門家からも「日比谷公園でやることなのか?」という疑問の声が聞かれます。

筆者は今回、この日比谷公園で行うイベントの質という点に注目しました。

近年、多くの公園の運営においてP-PFIが導入され、一定の成果を上げています。同時に、イベントや園内集客の商業的側面と、公園が本来担うべき公共的側面、公共性とのバランスが課題とされています。

DSCF9485飲み食いとお祭り騒ぎが目的と化していると思わざるを得ないイベントが一部見受けられ、日比谷公園という場所との相性が気にかかります。Photo by JUNIICHI-ITO

これからの公園のあるべき姿とは? 日比谷音楽祭が伝えてくれる4つの学び。

日比谷音楽祭では、「音楽の新しい循環をみんなでつくる、フリーでボーダーレスな音楽祭」をコンセプトに掲げ、音楽の新しい循環のきっかけとなるイベントを目指しています。ここでは、そこから学ぶべき、筆者が考える公園イベントの方向性を4点挙げたいと思います。

無料で楽しめるイベントに

一つは無料でイベントが楽しめることです。「入れる」だけでなく「楽しめる」ということが重要ではないでしょうか。本来公園はお金が無くても、誰もがその価値を享受出来る場所であるべきだと考えます。そこで行われるイベントもそうあるべきです。しかし、美味しいものを飲み食いすることのみが趣旨のイベントだと、入場は無料であっても結局はお金を払って飲み食いしなければイベントを楽しめない、ということになりがちで、それでは本来の公園の姿としては疑問を示さざるを得ないからです。

IMG_4824主催者は家族揃って音楽を楽しみたい人たちが、気兼ねなく楽しめる音楽祭を提供することを目標としています。Photo by JUNIICHI-ITO

公園全体を会場に

二つ目は敷地内の様々な場所で行われているということです。日比谷音楽祭は、日比谷公園の特徴である多様な場所や時間を重ねて育まれた豊かな自然等、公園全体を活かしたイベントを設定しています。

日比谷公園は設立当初から来園者に様々な使われ方を提供し楽しめる様に考えて設計されたといわれています。手法として多種多様な性格の異なる場所を用意し、且つ相互に喧嘩しない様にS字園路という境界で区分けされています。

結果、一つの公園内に様々なアクティビティが同時多発的に発生するという魅力的な景観をつくり出している、といわれています。本イベントは、日比谷公園の場所の特性を反映していると言えます。あるべき姿として重要なファクターです。

DSCF0893大音楽堂や小音楽堂等、ステージ然した場所だけでなく、公園全体が会場となり多様なアクティビティを生み出しています Photo by JUNIICHI-ITO

地域を巻き込んでいろいろな場所で

三つ目は敷地外にも展開し、近隣の場所も巻き込んでいる点です。日比谷公園は北東方向に皇居と日比谷濠、南東に日比谷の再開発で完成した超高層複合ビル(日比谷ミッドタウン)と帝国劇場等の劇場街、南西には日比谷パークフロント等が並ぶ内幸町のオフィス街、北西には霞が関の官庁街が立ち並ぶ環境にあります。つまり性格の違う街区が四方に近接する特異な都市公園なのです。

この公園は貴重な緑のオアシスとなっており、多様な人々が憩いを求めて利用する場所です。周囲に対してに開けていることが、公園のハードとしてもソフトとしても重要になってきます。

このような公園で行われる音楽祭が、近くのオープンスペースや屋上庭園、ビルのアトリウム迄にも展開し、敷地を超えた人々の流れをつくり出し、地域の活性化に繋げようとしている点は、このイベントが地域に開かれた公園の役割を十分担い活かしていると言えます。

DSCF0987通りを挟んで隣接する複合高層ビル「日比谷ミッドタウン」の足元の「ステップ広場」も音楽祭の会場となっています Photo by JUNIICHI-ITO

商業的側面を控えめにして誰もが楽しめる空間に

最後に飲食ブース・スペースを最小限に留め、イベントの商業的側面を抑制していることです。場の持つ雰囲気や公共空間の本来あるべき姿として、商業的側面に偏り過ぎない、その公園に合った、適切なコントロールをしてゆくことが重要です。

DSCF0963飲食ブースは最低限に控えることで、イベントのコンセプトを邪魔しない設えとなっている印象 Photo by JUNIICHI-ITO

P-PFIから考える、これからの開かれた公園とは?

参加してみて強く感じたことは、一言でいえば「心地良い開放感」です。揺らめく若葉の天蓋を通り越して、都心の青空へ抜けて行く上質な音楽は、その空間をより高く感じさせます。また、公園のあちこちから様々な音楽や歓声が聞こえ、それが公園内だけでなく近隣にも展開している様は、その空間をより広く感じさせます。

更に老若男女多様な人々が笑顔で過ごし、交流し、それが同時多発的に展開している光景は、気分を開放的にし、自然に心を開かせてくれます。あらゆる意味でオープンな場所と化しているのです。それこそが公園のあるべき姿なのではないか?と感じたのです。

IMG_4707太陽と空と緑と風と音楽と人々の笑顔。どこまでも開放的で心地良い空間 Photo by JUNIICHI-ITO

昨今の公園運営の主流の一つにP-PFIがあります。日比谷公園はP-PFIを取り入れていませんが、P-PFIの課題の一つとして、「公園イベントのあり方」挙げられます。

P-PFIのメリットとして、公園に設置可能となった民間施設からの収益により、自律的運営への一助となり得るという点が挙げられます。また、民間の資金や運営ノウハウが入ることで、公園の使われ方が多様化し、今迄あまり公園を利用しなかった人達も公園を訪れる様になってきました。結果、利用者公園の関わりが増え、利用者が運営に関わる機会もや利用者の主体性が高められたケースもあるかもしれません。

一方で、P-PFIによって実施される公園のイベントには、多様な主体が参画するコミュニティによる自律的なコントロールが求められています。主体的で自律的な利用者参加が開かれた公園を象徴するとともに、今後の公園のあり方の大きな課題の一つでは無いかと思うのです。

DSCF0911日比谷音楽祭の噴水広場まわりの様子。白いテントで統一された出店は、景観を損なわず存在し、結果、日比谷公園全体の品格を保っています Photo by JUNIICHI-ITO

閃いた!日比谷音楽祭を参考に、これからのあるべき公園イベントへの試案

以上の考察を踏まえて、改めて日比谷音楽祭から得られる4つの注目点から、具体的な解決策への試案を提示したい思います。

1点目の「無料であること」に関しては、例えば飲食メインのイベントでも、出店者にお金を使わなくても楽しめる場所の提供を義務化するということが考えられます。無料の試飲試食コーナーの設置や出店者どうしの協賛で仮設ステージを設け、イベントテーマに沿った無料のイベントを開催する等が思い浮かびます。

2点目の「敷地内の様々な場所で行われていること」に関しては、園内の複数のエリアの活用が考えられます。現状のイベントの多くが公園南東側の噴水広場だけに過密な店舗配置となっています。それを改め、他の園内エリアも活かした余裕のある分散配置とし、来場者も園内を巡り散策しながら楽しめるしくみ等が考えられます。

3点目の「敷地外にも展開し近隣の場所も巻き込んでいること」に関しては、周辺のエリアマネジメント団体等と協働し、同じ日時に類似のイベントを別の場所で同時開催すること等が思いつきます。あるテーマを共有することで、興味ある人は園内だけでなく周辺まで足を延ばし、結果イベント自体の活性化だけでなく地域の活性化にも繋がる可能性があります。

4点目の「飲食ブース・スペースを最小限に留め、商業的側面を抑制していること」に関しては、イベント自体を一定のルールに沿ってコントロールする必要性が挙げられます。それには自主的なルールづくりから始まり、主体的に運営しつつ、自らイベントをコントロール出来る公園のコミュニティが必要です。

そして何より、実際に目の前で展開されているイベントの良い点を参照することは、目指すべき具体的ビジョンを与えてくれるのではないでしょうか?

DSCF0962様々な楽器に夢中で触れるこどもたちと見守る親 Photo by JUNIICHI-ITO

ソフトを伴ったハードに期待!「都立日比谷公園再整備計画」により新たに生むべきもの

先に述べた様に、日比谷公園の再整備計画が公表されました。ハードの計画と共に、来園者する利用者に喜ばれ、且つ、日比谷公園の歴史と風格を纏ったソフト、具体的には非日常的なイベント、日常的なプログラム、日常的利用、ボランティア活動等の方向性を模索する必要があると感じます。

非日常的イベントのあるべき姿の一例として、日比谷音楽祭はその好例の一つと思われます。計画されている再整備計画がハードの更新だけでなく、ソフトも更新され、名実共に日本を代表する公園として更なる躍進を遂げることを期待します。

20210528122548424s (中)「都立日比谷公園再整備計画」よりイメージパース(出典:東京都建設局ホームページ)

<参考HP>
日比谷音楽祭公式ホームページ
READYFORホームページ

Twitter

Facebook

note