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ソトノバTABLE

プレイスメイキングを地方都市から問い直す|ソトノバTABLE#54 in熊本

公園や街路などのパブリックスペースは、そこで暮らす人たちが関わることで、もっと訪れやすく、心地よい場所へと変わっていくという考え方は、「プレイスメイキング」として発展しました。2000年には米国NPO「PPS(Project for Public Spaces)」が『How to Turn a Place Around: A Placemaking Handbook』(2000年に初版、2021年に改定版)を出版し、世界中にその実践が広がりました。

この本はソトノバの有志が改訂版の翻訳を行い、2025年2月に『プレイスメイキング・ハンドブック〜パブリックスペースを魅力的に変える方法〜』として出版されました。ソトノバTABLE#54は、熊本在住であり、本書の訳者メンバーでもある小仲久仁香が企画、熊本市の中心部ー上通商店街にあるカフェ、OMOKEN PARKで開催しました。

特別ゲストに熊本の土木デザインを手掛ける星野裕司氏(熊本大学工学部土木建築学科・くまもと水循環・減災研究教育センター教授)を迎え、泉山塁威氏(日本大学理工学部建築学科准教授/一般社団法人ソトノバ共同代表理事/Placemaking JAPAN)からのイントロダクション、本田薫子氏(当時、日本大学理工学部建築学科都市計画研究室(泉山ゼミ))、山之内陽起氏(同)による熊本の中心市街地を対象にした研究発表、そして参加者からの質問を通して、プレイスメイキングの考え方や実践について学び、意見を交わしました。

オーディエンスは一般の方に加え、熊本市役所職員や上通商店街(商栄会)、隣接する下通商店街(繁栄会)の会長、会場であるOMOKEN PARKオーナーの面木健氏にも参加してもらいました。

このレポートでは、講演者の発表やトークセッションの内容を中心に、企画者である小仲久仁香が当日の様子をお伝えします!

Cover Photo by Kosuke Nakamura


イントロダクション「プレイスメイキングとは?」

2025年2月に出版された『プレイスメイキング・ハンドブック〜パブリックスペースを魅力的に変える方法〜』のメインテーマであるプレイスメイキングとは何かを、泉山さんが話しました。

プレイスメイキングは、PlacemakingXによれば、「コミュニティの中心としてパブリックスペースを再考し、改革するために人々が一緒に集まって描く共通の目的」と定義されています。プレイスメイキング(Placemaking)という言葉を分解すると、「プレイスをつくり続ける」という現在進行形の意味を持ち、この取り組みが終わりのない、つくり続ける過程であることを示しています。

また、重要な考え方の1つに「Power of 10+(本書ではパワーオブ10+)」があります。冒頭に挙げた『プレイスメイキング・ハンドブック』では、「よい場所は、人々がそこに居たくなるような理由が多いほど豊かになる」と定義されています。対象とするエリアに点在する複数の目的地をかけあわせ、目的地が面的に増えていくと、一層まちが活性化し、多様性が増していきます。

 

01_Power of 10+Power of 10+について(泉山さんのスライドより転用)

そのほか、日本の各地で実践されているプレイス性を評価するプレイス・ゲームや、通行人にエリアの評価に参加してもらうポップアップエンゲージメントなど、具体的な手法や事例について紹介がありました。

 

02_泉山さんプレイスメイキングの概念を説明する泉山さん

研究発表「熊本市の中心市街地における複数のパブリックスペース活用の可能性」

地方都市では人々は自動車で目的地に向かうことが多いため、パブリックスペースを通過してしまうという課題があります。それに対し、日本大学理工学部建築学科(当時)の本田さん、山之内さんは、先述のプレイスメイキングのPower of 10+のように、複数のパブリックスペースが活用されると利用者の活動の選択肢を増やすことができるという視点から、熊本市内におけるパブリックスペース活用の計画や実態について卒業論文として調査をしました。

 

3_山之内さん調査結果を発表する山之内さん

両氏は中心市街地の公園や広場、商店街の街路といった複数のパブリックスペースに関する文献調査や関係者へのヒアリング調査を通して、戦略と戦術を分析しました。具体的には、戦略は自治体主体で策定する計画や公民連携で策定するエリアビジョン等の計画により長期的にパブリックスペースを活用する動き、戦術は公民連携で実施する社会実験や民間主体で実施するイベントなどにより、短期的にパブリックスペースを活用する動きを指します。

調査を通して、商店街組織同士や学生団体などが合同イベントやお祭りを実施したり、複数のイベントが被らないように相互に情報共有したりするなど、日ごろから連携していることが中心市街地全体の活性化につながっていると感じた

と話しました。また、

複数のパブリックスペースを活用してこのような連携を発展させていくために、熊本市が作成した熊本市中心市街地ウォーカブルビジョンに多様な主体の関係性や連携状況を地図に記載し、情報を可視化するなど、戦術を戦略に組み込むことができるとよいのでは

と提案しました。

 

4_本田さん山之内さん質疑応答で上通商栄会の会長からのコメントに応じる本田さん(左)と山之内さん(右)

基調講演「熊本の土木デザインとプレイスメイキング」

星野先生は熊本市内の河川や駅前空間などの土木デザインを手掛けています。土木は完成するまでに非常に長い時間を要します。その時間軸の中で、プレイスメイキングの視点をどのように計画や整備のプロセスに取り入れていくことができるか、という視点でお話ししました。

講演は熊本市の中心部を流れる白川(しらかわ)に架かる明午橋から大甲橋までの約600mの区間(通称「緑の区間」)を対象に、プレイスメイキングのダイアグラムの4つの指標に沿って、どのようなデザインの工夫が施されているかを紹介しました。

 

5_星野先生スライド緑の区間として親しまれる熊本市の河川空間(写真は整備前[上]と整備中2015年の比較)

例えば、河川改修に合わせて堤防の高さを調整して人々が滞在しやすい空間を設えたり、従来からある樹木を活かして歩行者の小道を計画したりすることで、そのエリアの本来のポテンシャルを活かした整備を心掛けています。

また、河川敷で夜市を行う団体(SHIRAKAWA BANKS)が整備の過程で意見を出し合うなど、どのように地域コミュニティと関わっているかなどに触れました。

 

6_星野先生緑の区間についてお話をする星野先生

トークセッション

基調講演の後、筆者がモデレーターとなり星野先生、泉山さん、本田さん、山之内さんのトークセッションを行いました。本記事ではその一部を紹介します。

話題①「プレイスメイキングに関わる人に持ってほしい、大切なマインドとは?」

ゼミの調査研究とソトノバTABLEの開催にあたって熊本市を訪れた泉山さんは、イベント会場のある上通商店街や会場のOMOKEN PARKの印象を次のように語りました。

上通商店街を歩いてみて、中庭のような空間や商店街から裏へ抜けるサインなど、歩行者に優しい工夫を見つけました。なかでもOMOKEN PARKは、カフェの前面に広場空間が設けられていて、パブリックな空間を生み出しており、プレイスメイキングの実践が感じられます。

 

7_OMOKEN ParkOMOKEN PARK前面の広場空間

これに対してOMOKEN PARKオーナーの面木さんは次のように答えました。

自分自身はプレイスメイキングの専門家ではありませんが、同じような考え方を持ってお店づくりをしてきました。都市を変えるというのは一個人にとっては対象が大きいが、店舗を持つオーナーの一人一人がプレイスメイカー(プレイスメイキングを実践する人)の自覚を持てば、まち全体が変わるのではないでしょうか。まずは自分の持つ空間をオープンにすることが大切だと考えています。

7.5_面木さんOMOKEN PARKオーナーの面木さん(右)

星野先生からは、次のような意見がありました。

日本では、行政が主体となってパブリックスペースの整備や改善を行うのが一般的です。しかし、プレイスメイキングの考え方が広まるなかで、特に大切だと感じるのは、地域の人々が行政の動きを待たずに、自ら行動を起こしていいのだと教えてくれる点です。

話題②「熊本のまちはどう変わっていく?」

参加者からの事前質問に「熊本市では今年の4月からまちなか再生プロジェクトが始まり、中心市街地の建物更新にあたり高さ制限の緩和などがされるが、熊本のまちはどう変わっていくのか?」という質問がありました。

これに対して星野先生からは、次のような意見を聞きました。

この話題がテレビで取り上げられるなど、市民の関心も高まっています。老朽化したビルの更新にあたり、経営を成り立たせるために高い建物を建てたいという建物所有者もいますが、そのような建築がまちに与える影響を考慮して丁寧に議論していくことが大切だと考えています。 

例えば熊本では、まちから熊本城の天守閣が見えることと、熊本城から阿蘇の山並みが見えることが景観上、重視されています。絶対的な条件は守りつつ、建物所有者の事情も加味して検討を進めることが必要です。また同時に、高さだけでなく、アイレベルの空間を魅力的にできるよう、公開空地を使った新しい店先の空間づくりも検討しています。

これに対して泉山さんは

民間開発では、1つのデベロッパーであっても開発と運営の担当者が異なるために、計画のコンセプトから実施までの一貫性が保たれていないことがあります。プレスリリースでまちに開かれた建物だと発表されても、実際には異なる空間ができてしまう問題もあるのです。行政側も民間事業者とも合意形成をしておくなど、活用段階も見据えた準備が重要です。

とコメントしました。

 

8_会場の様子アットホームな雰囲気で参加者との対話を取り入れながらトークセッションが進みました

おわりに

本イベントには、多様な分野の学生・実務者・研究者の方々が参加し、プレイスメイキングの考え方や手法について理解を深めました。また、熊本に暮らす人にとって馴染みのあるパブリックスペースに、プレイスメイキングのPower of 10+やダイアグラムをあてはめてみることで、改めて身近な空間の価値や大切さに気づくきっかけになったのではないかと思います。

最後にはアフターパーティーも開催し、初対面の参加者同士の新しいつながりができているのが印象的でした。

 

9_アフターパーティアフターパーティでは軽食を楽しみながら、自由な交流の時間を楽しみました

All photos by Kosuke Nakamura

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