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まちの「空」を民地から変える!名古屋の建設コンサルが描く都市ストックの活用

アバター画像 西村 隆登

まずは民地を目に見えるかたちで変えてみる――そんな想いから始まった「マチゾラシンサカエマチ」。まちを歩くと、空き地や空き家、活用されていない公開空地など、いたるところに空(あき)を感じる場所があります。こうした場所は「低未利用地」とも呼ばれ、都市の課題としてしばしば取り上げられてきました。

これらの空間は、都市のストックとして捉えられ、所有者に加え、警察や行政等が協力、適切に管理・活用し、地域に不足している機能を補うことで、様々なアクティビティを誘発でき、暮らす人や働く人の生活の質を高める可能性があります。

「マチゾラ」という名称には、そんな空(あき)を空(そら)と読み換え、新しい価値を見出そうという想いが込められています。このプロジェクトを推進するのは、新栄町駅近くに拠点を構える総合建設コンサルタント会社の日本工営都市空間株式会社(以下、NKUrban)です。

本記事では、NKUrbanが自社の研究開発として、名古屋市中心部にほど近い新栄町エリアで取り組む「マチゾラシンサカエマチ」の仕掛け人である澤井遼さん(市街地開発部/事業戦略部)と、同メンバーの森定麻友さん(官民連携部)にお話を伺いました。自社の駐車場を地域に開き、社員が主体となり、プレイスメイキングの考え方に基づいた都市ストック活用の経緯やその可能性について紹介します。

002取材時の様子。マチゾラシンサカエマチついて、それぞれの立場・目線で語る澤井さん(右・オンライン)と森定さん(左)(Photo by 西村隆登)

新栄町の空(あき)部分とその可能性

新栄町エリアは、名古屋市の中心部・栄駅と、交通の要所である千種駅の中間に位置します。業務・商業が混在し、働き手が集まる平日に多く人の流動がある一方で、土日は流動人口が減少するという特徴があります。また周辺にはマンションやアパートもあり、名古屋駅や栄駅へのアクセスの良さから、筆者を含め一定数の居住者が暮らしています。

このような都市構造の中で、新栄町エリアには「まちなかの屋外空間に誰もが気軽に滞在できる場所や交流できる居場所」が不足しているという課題があります。大通り沿いには広い歩道があるものの、その多くが未利用か駐輪場としての利用に留まり、公共空間や公開空地に設置されたベンチも、地域のたまり場としてアクティビティを誘発しているとは言いにくい状況です。

こうした新栄町エリアの現状に対し、この地域に拠点を持つNKUrbanは、自社の事業領域の拡張と新栄町エリアの低未利用地の活用という都市課題の解決という2軸から、まちにアプローチする意識を持っています。同社はこれまで「つくるまちづくり(=区画整理事業等による市街地開発のハード事業)」を得意としてきましたが、近年は「つかうまちづくり(=都市ストックのマネジメントなどのソフト事業)」も含めた都市のマネジメントへも本格的に踏み出そうとしています。

低未利用地の都市ストックと捉え、適切にマネジメントし、様々なアクティビティを誘発する空間に変えることが、結果的にエリアの魅力を高め、来訪者を増やし、収益や再整備ニーズの創出につながる。NKUrbanはそうした考えのもと、未利用の公共空間や広い歩道といった新栄町が持つポテンシャルに着目しつつ、「まず自分たちの持つ都市ストックの有効活用」を選択しました。

003マチゾラシンサカエマチが活動範囲として想定する新栄町駅から半径400mのエリア

きっかけはコロナ、まずは自社ビル前敷地から

まずは、自分たちの敷地からプレイスメイキングの実践をやってみようと思った

そう話すのは、NKUrbanでこのプロジェクトを担当する澤井さん。コロナ禍が始まった2020年、出社制限やテレワークの導入が一気に進んだことで、オフィスのあり方そのものが見直されるようになりました。社内でも、「リアルな場でこそ生まれるコミュニケーションの価値」をあらためて認識し、社内環境のアップデートだけでなく、外部空間の活用にも目を向けるようになったといいます。

当時、都市のにぎわいを取り戻す手段として、道路空間の利活用が全国的に注目され始めていました(道路占用に関するコロナ特例:2022年6月〜2023年3月)。澤井さんもまた、「道路や公園などの公共空間を、もっと柔軟に使えるようになれば」と考えていましたが、一企業がいきなり公共空間の活用に踏み出すには、制度面・調整面でのハードルが高いのが現実でした。

そこでまず選んだのが、自社ビル正面玄関前にあるスペースを活用するというアイデアです。2021年、キッチンカーやコーヒースタンドを設置し、社員だけでなく、近隣住民や通行人も気軽に立ち寄れる場をつくる実証実験をスタートします。

004自社ビル前、スモールスタートで始めた実証実験の様子。コロナウイルスの発生がオープンスペースの活用に向かう流れにつながった。

なぜ建設コンサルタントが「つかう」ことに挑むのか

建設コンサルタントとして「つくる」ことには自信があるが「つかう」ことには手を出せてこなかった

この小さな実験は、社員にとって気分転換の場であると同時に、近隣で働く他の人々にも開かれたプレイスとなりました。キッチンカーの出店者との関係性や地域住民との接点が生まれたことで、自らの手で「つかってみる」、プレイスメイキングの価値が実感として見えてきたと澤井さんは言います。

「つくる」まちづくりから、「つかう」まちづくりへ。NKUrbanが見据えるのは、社会資本として整備されてきた都市ストックを適切にマネジメントし、エリア全体の魅力を高めるという好循環の創出です。

005澤井さんが目指す、都市ストックのマネジメントの実践による事業領域拡大のイメージ図

具体的には、こうした「つかう」実践によって地域の魅力が高まれば、来訪者や活動人口が増え、周辺エリアの収益性が向上し、さらなる再整備や改善ニーズが生まれる。結果的に、それが建設コンサルタントとして本業とする「つくる」領域の新たな需要につながる。この循環をつくることが、会社の得意分野と地域の課題が重なる接点であり、今まさにNKUrbanが研究開発として取り組んでいるテーマなのです。

本業である官民連携の業務と相互に良い影響があり、会社としても個人としてもメリットが大きい

マチゾラシンサカエマチでの実体験をもって得たノウハウが本業にも生きている。そう自信をもって語る森定さんの姿が印象的でした。

006マチゾラシンサカエマチが目指す新栄町エリアのイメージイラスト

マチゾラシンサカエマチの始まり

コロナ禍をきっかけに始めた自社敷地での小さな実験で手応えを得た澤井さんは、次のステップとして2022年、自社ビルから道路を挟んで反対側に位置する社用駐車場へと展開します。

007実証実験の場は、自社ビルから大通りを挟んで反対側。普段は社用車の駐車場として使用している。(Photo by 西村隆登)

その頃、まちなかには再び人の流れが戻りつつあり、社会的にも屋外空間の活用がポジティブに受け入れられる機運が生まれていました。社会的な追い風も背景に、名古屋都市センターのまちづくり活動助成を受けながら「マチゾラシンサカエマチ」の活動を始めます。

008マチゾラシンサカエマチの掲げる目的達成に向けて、次の4つのステップが基本方針とその取り組み、具体的な内容がまとめられている。

新栄町エリアの新たな動きとマチゾラシンサカエマチ

自社の駐車場という「都市ストック」の活用を起点に、都市空間の新しい活用方法を仮説検証し続けているマチゾラシンサカエマチ。2025年度は、事業性の確保と活動の認知向上を軸に、企画ごとのターゲット設計や、自社敷地外への展開、地域・行政との連携強化など、さらなる一歩を見据えた活動を展開しています。

0092024年度の実証実験の成果と課題が整理された資料のゴールには”10Place=1Area”と記載されている。

こうした積み重ねが認められ、2025年6月18日には、名古屋市住宅都市局都市計画部ウォーカブル・景観推進課が進める「Poc upスクールNAGOYA」の協力団体としても声がかかりました(2024年度の同取り組み実証実験の取材はこちら)。2025年度のこの企画の対象がまさに新栄町エリアとなったのです。地域まちづくり団体としての実践が、他の取り組みとも交差し始めています。自社の駐車場(1つのPlace)から始めた場づくりが、2つ、3つと広がり、最終的に目指すのは10Place=1Areaの魅力向上です。

10にも及ぶたくさんのPlaceが生まれ、面的な広がりをもって、1つの魅力的なAreaを形成する。前述の事業内容が書かれた資料の基本方針「活用する公共空間を増やす」と「活用する公共空間をつなぐ」のゴールをわかりやすく示し、「複数の場を点在的に生み出し、それらをつなぎ合わせて、初めて1つのエリアの魅力が立ち上がる」という考え方を、わかりやすく数式的に表現したものが、この10Place=1Areaなのだと筆者は理解しました。もう一段階深読みすると、1つの地域が目に見えて活性化していくためには、1つの場の変化では足りず、複数箇所が当時多発的に盛り上がる必要があると考えていることも伺えます。

010自分の挑戦でまちの未来を創り出せ!Poc upスクールNAGOYAに登壇し、マチゾラシンサカエマチの活動を情報提供する澤井さん(Photo by 西村隆登)

実証実験の場としての自社駐車場活用とその拡張

2022年10月に実施した「マチゾラマルシェ」を皮切りに、2023年以降は新栄町という多様な属性の人々が交差する地域特性をふまえ、マチゾラ横丁(平日夜/働く人)、マチゾラマルシェ(休日昼/暮らす人)、マチゾラビューイング(平日夜/企画に関心のある人)と企画ごとにターゲットを設定した取り組みで、仮説をもった検証を継続的に実施しています。

2025年8月8日金曜日の夜。この日は新栄町駅エリアで働くサラリーマン層をターゲットとした、気軽に立ち寄れる「マチゾラ横丁」を開催。日中の暑さを避けつつ、涼しい時間にゆったり軽食やお酒を楽しめる空間として場がつくられていました。

011名古屋の新たなナイトタイムエコノミーを生む空間へ。芝生に置かれた什器の周りに人が集まり、会話を楽しんでいる。(Photo by 西村隆登)

出店者や来場者、近隣住民といった異なる立場の人たちとの関わりが生まれ、緩やかなコミュニティの芽が育ち始めている一方で、企画を重ねてきた中で見えた課題もあります。駐車場にはトイレ等の長時間滞留するための設備がないことや、企画開催のために毎回社用車の移動が発生するなど、日常的な居場所としての活用にはハードルが残ります。

こうしたハードルを解消するため、この場所以外で実施するとどんなマチゾラシンサカエマチになるか、という仮説にもつながることから、実証実験の次の展開を期待させる課題とも言えるでしょう。

012この日は自社駐車場から範囲を拡張し、歩道部分を含めた活用にトライ。小さなチャレンジを重ねている。(Photo by 西村隆登)

おわりに

筆者はかつて総合建設コンサルタント会社に勤めており、その経験から「マチゾラシンサカエマチ」の動きには以前から関心を寄せていました。加えて、新栄町駅近くのシェアハウスに暮らし、その運営元である「新栄のわ」の一員として、出店者としても関わったことがあります。今回の取材では、元同業者としての視点と、地域の一住民かつ企画参加者としての視点、その両面から話を伺うことができました。

お話を通じて特に印象的だったのは、単にイベントを運営すること以上に、「地域との接点をどう築くか」「会社の未来を見据え、時流を捉えながら新たな仕事をつくり出す」という視点の掛け算が、お二人の言葉の端々に込められていたことです。

多様な人が交差する名古屋の都心・新栄町で、建設コンサルタント会社がまず自らの敷地を地域にひらいていく。その姿勢そのものが、都市における“空(あき)”を“空(そら)”へと読み換える大きな一歩であり、マチゾラシンサカエマチの挑戦が、次なる「空」を描く起点になる—そう確信した取材となりました。

この取り組みの肝は、同様のストックを持つ企業や団体への再現可能性にあると思います。エリアリノベーションのきっかけづくりやエリアマネジメントの方法論として、この新栄町の事例がお手本となり、「まずは自分たちから」のマインドセットと前述のサイクルが広がれば、名古屋、ひいては全国で各地の“空(あき)”から新しい場が生まれていくでしょう。

筆者としても、その広がりを見届けるとともに、自らも活動に関わりながら新栄町の空間活用に取り組んでいきたいと思います。

013登壇後の澤井さん(左)と森定さん(右)(Photo by 西村隆登)
取材・スポンサー協力日本工営都市空間株式会社 澤井 遼さん、森定 麻友さん
取材場所日本工営都市空間株式会社
資料提供日本工営都市空間株式会社、マチゾラシンサカエマチ
公式インスタグラム@machizora_shinsakae

Cover Photo by NKUrban

アバター画像
この記事を書いた人 西村 隆登
ソトノバ・ライター/ソトノバユースクラブ/1997年広島県呉市出身/名古屋在住/豊橋技術科学大学大学院修了後、建設コンサルタントを経て現在は港まちづくり協議会&ONE RIVERのダブルワーク/愛知と広島の二拠点生活を目指す/第二回・第五回リノベーションスクール@呉参加/ソトノバライタークラス2021の受講をきっかけに執筆の面白さに出会う

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