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ストリート|道路空間

パブリックスペースで未来を齧る!共創からはじまる名古屋・大曽根商店街エリアの挑戦

「地域課題の解決」と「事業創造」を組み合わせることで、地域の可能性を広げることを目指した地域特化型アクセラレーションプログラム「Poc upスクールNAGOYA」と、商店街の遊休スペースであるセットバック空間、どんぐりひろばなどのパブリックスペースを活用した社会実験イベント「ガジガジ・ウォーカブルシティ」が大曽根商店街エリア(名古屋市北区)で開催されました。(名古屋市主催)

この「ガジガジ・ウォーカブルシティ」には歩いていて楽しいまちを気軽に齧る、感じられるようにという意味があります。「5年後の地域の顔になる人材」を目指して起業家から学生、企業人まで多様な人たちが集まり地域課題を解決するために実施されたプログラムの様子をお届けします。

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参考URL(名古屋市報道資料)
令和6年4月24日発表 5年後の地域の未来を担う人材を目指して まちで挑戦しよう!
令和6年10月22日発表 実践学習型まちづくり講座Poc up スクール NAGOYA 社会実験を実施します!

All Photo by 藤田恭兵


課題は「担い手不足」「賑わい喪失」「空き家問題」の3つ

大曽根(おおぞね)商店街のある大曽根エリアは名古屋市北東部に位置し、JR、名鉄、地下鉄、ゆとりーとラインが集まる名古屋市の北の玄関口です。

駅周辺にはイオンモールなどの商業施設やオフィスが立ち並び、中規模な商業・業務拠点として機能しています。また、バンテリンドームナゴヤが近く、スポーツやエンターテインメントの拠点としても知られています。

駅から離れると閑静な住宅街が広がり、生活環境が整ったエリアとしても人気です。

交通利便性と多様な機能を併せ持つ大曽根は、名古屋市内の重要な中核エリアです。今でも、大曽根駅は乗降者数が名古屋市内で4位で、交通結節点としての駅ははそれなりに賑わいを見せてはいます。

しかし、その流れは駅から徒歩約2分(約200メートル)の大曽根商店街まで広がっていません。大曽根商店街エリアは、40年以上前にはアーケードを持ち多くの人が行き交う、賑わいのあるエリアでした。

また、大曽根商店街エリアは名古屋市内でもイベント数が多いことで有名です。ただイベントではたくさんの人が来てくれますが、平時は閑散とした街並みになってしまうのが問題となっています。

さらに、イベント数に対して運営側の人数が足りていないので、担い手となる運営メンバーは常にイベント運営に追われ、疲弊しています。また、エリア外の事業者もイベント時に大曽根商店街エリアに興味を持ち、この地で何かしたいと思っても、物件がなかったり、あっても高すぎて借りられない、という問題に直面します。

もちろん、シャッターが閉じている物件はたくさんあるので、空いているようにも見えるのですが、物件のオーナーが借り手を選ぶなどの諸事情でマッチングがうまくいかず、空き店舗の解消につながっていません。

4平時の大曽根商店街の様子

今回のイベントは、地域活性や賑わい創出などのほかにも、上記のような、地域ならでは課題を解決することを視野に入れ、実施されました。

5イベント当日の大曽根商店街の様子

1日限りのイベントと4ヶ月間のアクセラレーションプログラムの組み合わせでパブリックスペースを盛り上げ解放する。

今回、大曽根商店街エリアの課題解決し、持続発展可能な地域を目指して、7月から「Poc upスクールNAGOYA」と11月10日には「ガジガジ・ウォーカブルシティ」が開催されました。

Poc upスクールNAGOYAは、地域の課題と事業者のやりたいことを組み合わせることで持続可能なまちの発展を目指す地域特化型アクセラレーションプログラムです。今回は「ローカルツーリズム」「キャリア教育」「サードプレイス」「コンポスト」の4つのテーマをもとに地域の魅力発掘、賑わい創出、コミュニティ創出などを目指しました。

6家電楽器の演奏、青空麻雀、ニワトリと戯れる子どもが共存する

また、「ガジガジ・ウォーカブルシティ」は、これら4つのプロジェクトの実証実験の場として位置付けられています。

4つの大きなプロジェクトを中心に、約30個のプロジェクトを大曽根商店街で実施することで、商店街の課題可決×持続可能なまちの発展の新たな可能性を探る機会となりました。

7新たな体験(例えばコンポスト)との偶発的な出会いもデザインされている

使用した地域の特徴や制度

大曽根商店街エリアの大きな特徴は既存のセットバック空間を持っていることであり、今回のイベントは、そのセットバックの活用が中心に進められました。

後述しますが、約35年前に、地域を良くするために1.5mのセットバック空間を作ったからこそ、現在もパブリックスペースを活用する際には道路使用許可を取得する必要がなく、まちを自由自在に使うことが可能になっています。

また、今回は、セットバック空間だけでなく、道路の歩道部分も使用しましたが、セットバック空間が充分にあるからこそ、緊急車両の動線確保を容易に行うことができ、安心して贅沢にパブリックスペースを使用することができました。

8民地(セットバック空間)、歩道、車道と法律上の境界があるが、人のアクティビティに境界はない

さらには、名古屋市が行っているどんぐりひろばの制度もうまく活用することで子供たちが自由に遊べる環境を警察や役所などの許可なく、地域の方から許可をもらうだけで実施できたこともパブリックスペースの活用という観点では大きなポイントです。

どんぐりひろばとは、一般的な都市公園とは異なり、地域の幼児の健全育成を図る目的をもって児童福祉の立場で、地域の方々と名古屋市(子ども青少年局)が協同して設置しているものです。

9セットバック空間と同様にどんぐりひろばも地域の資源と捉え、プロジェクトの配置を検討した

なぜ大曽根商店街にはこのようなパブリックスペースが存在するのか?

大曽根地区総合整備の一つとして、大曽根土地区画整理事業による道路拡張を含む区画整理に合わせて、大規模なビルに建替えるのではなく、地区内にある既存の建物を全て一斉に取り壊し、建築協定で決めた三角屋根の3階建てで統一された建物を各店舗が一斉に新築しなおすという、珍しい形式で行われた市街地再開発事業がありました。そのおかげで美しい景観の街並みや活用可能な道路空間が存在しています。

再開発前の大曽根商店街にはアーケードがあり、人通りもたくさんありましたが、当時の商店主らが、商店街をさらに快適なものにしようという想いで開発が進められたのではないかと、私は考えています。しかし、一斉に解体し、景観のために階層を揃える、屋根を三角にする、道路から1.5mセットバックさせるといった決断を商店街内の土地所有者全員の合意をとるのは至難な取り組みだったのではないか、と想像します。きっと街のため、未来のために時間と労力をかけ実現に至ったのではないでしょうか。

実証実験の結果とこれから

11月10日にはいくつかの実証実験がありましたが、特筆すべき点をピックアップします。今回、「地域のサードプレイスづくり」を目指した芝チーム(大きな4プロジェクトの一つである、芝を活用してサードプレイスを作ろうと思っているチーム)は当日に実際に人工芝を公園空間に敷き、ARデバイス体験、家電で楽器の演奏といったクリエイターの表現の場となったり、地域の年配の方が家から麻雀セットを持ってきてくれて青空麻雀を開催したりするなどの事象が生まれました。

このような結果から、イベントの時だけでなく、公園に人工芝を常設することによって多様な人が交わる場になることを目指したいという声も聞かれました。

現在、彼らは人工芝の常設を目指し、都市再生推進法人の立ち上げに向けて動き出しています。また、セットバック空間の活用のおもしろさに気づいた商店街に住んでいる20代前半の若者が商店街内の全てのセットバック空間を活用したイベントの企画も目論んでいるようです。

また、芝チームのリーダーでもあり、大曽根商店街で家族が下駄屋を営んでいる安藤さんに話を聞いたところ

祖母・母がずっとがんばってきたこの地域で、自分でも何か力になれるんじゃないか?そんなことを想いながら参加したPoc upスクールNAGOYAで今回の芝のプロジェクトを立ち上げました。
結果としてたくさんの人が集まり、憩いの空間を商店街の中で作れたのではないかと感じています。
今回は社会実験を行っただけでしたが、この経験を活かして継続的に商店街を盛り上げられるような取組に昇華していきたいと考えています。

と話してくれました。

10社会実験で終わらせない、次のステップにすすむための反省会

35年の時を超え、想いは次の世代に繋がっていくのか?

35年前に大曽根の街をもっと良くしたい、未来のために何かしたい。そんな想いで生まれ変わった大曽根商店街は、まちの人の声を聞かずに開発を進めようとしている一部のデベロッパーや不動産会社によって、商店街の形が消えかけています。

空き家が増え、賑わいが減り、地域の担い手も減ってきた商店街ですが、まだ想いの火は消えていません。先達たちが積み上げてきたその想いを、パブリックスペースから紡ぎ広げ、また新しい世代に繋ごうとしている若者が確かに存在します。

商店街はまだ死んでいません。時を超え、時代が変わってもこの地域が好きでなんとかしたいと思っている人がいればパブリックスペースを中心に地域は栄え、元気になっていくことができる。そんな可能性を感じさせてくれるプログラムでした。

11実践学習型まちづくり講座Poc up スクール NAGOYA参加者の集合写真

イベント概要

実践学習型まちづくり講座Poc up スクール NAGOYA
期 間:2024年7月20日 [土] 〜 11月23日 [土]
会 場:大曽根エリア
プログラム:5年後の地域を担う人材を目指すアクセラレーションプログラム
 STEP1 構想を広げ、共創する力
 STEP2 アイデアを形にするモデル構築
 STEP3 PRの力-プレスリリース制作
 STEP4 行政連携・補助金/助成金の活用
 STEP5 地域に根付くデザインの力
主 催:名古屋市 住宅都市局都市計画部ウォーカブル・景観推進課
運 営:株式会社On-Co
ウェブサイト:Poc upスクールNAGOYA
ガジガジ・ウォーカブルシティ-歩いて楽しいクリエイティブな商店街-
期 間:2024年11月10日 [日]  11時から16時まで
会 場:大曽根本通商店街(オゾンアベニュー) 及び
大曽根商店街(オズモール)
プログラム:4つの社会実験
「Welcome back Oh!! ZONE」
「はじまりのコンポストアーキテクト」
「ジョブアド in Ozone」
「大曽根芝映スポット」
主 催:名古屋市 住宅都市局都市計画部ウォーカブル・景観推進課
運 営:株式会社On-Co
ウェブサイト:実践学習型まちづくりプログラム「Poc up スクール NAGOYA」
市民が企画した4つの社会実験が実現へ

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