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ストリート|道路空間

2040に向けて!3つの工夫を仕掛ける社会実験「OPEN NUMAZU」

あなたのまちは、将来どんな景色になっているでしょうか。

自治体の計画資料を読めば、きっと目指すビジョンが書いてあるでしょう。しかし、どこに何が建ち、どのように暮らしているのか想像つかないというのが、実感なのではないでしょうか。

そんな中、静岡県沼津市では2040年に予定されている沼津駅周辺の鉄道高架化を見据え、市の姿を考えていくために「あったらいいな」と思える日常の風景や居心地の良い空間づくりを検証する社会実験「OPEN NUMAZU」を行っています。

2023年7月より半年間にわたって実施される本実験は、ソトノバにおいても、「ウォーカブルシティ・国際シンポジウム2023」や「ソトノバTABLE#46」で紹介してきました。

筆者は参加した国際シンポジウムでOPEN NUMAZUに興味を持ち、実際に現地を訪れました。本記事では、この社会実験に関心がある学生という立場からその様子や、筆者が特に気になった住民を巻き込むための3つの工夫、そもそもなぜ社会実験をおこなおうとしているのかをご紹介します。

All Photos by Masato SAEGUSA


沼津仲見世商店街の「日常」

沼津市は静岡県東部に位置するまちです。沼津市の人口は2023年3月末時点で約19万人、その6割が沼津駅3km圏内に住んでいます。今回の社会実験の舞台となる「沼津仲見世商店街」は、沼津駅南側にある商店街です。駅に隣接しており、南北に250mにわたってアーケード商店街が続きます。

02_open_numazu上下左右、見るとこたくさん仲見世商店街

舗装に注目すると、各店舗の前に白線を引くかの如く、白いタイルが敷かれており、この線まではお店の物を出して良いというルールになっているそうです。そのため売り物を置くお店、飲食用の椅子を設置するお店など、店舗によってその利用法は異なっていました。また道路中央部では商店街の決めたルールに従ってバーゲンも実施していました。近年では、人気アニメにも登場したことで、アニメの聖地にもなっています。

そんな商店街で、OPEN NUMAZUは「公共空間を広く活用し、人の気持ちもまちに開くことで、ヒト中心でにぎわいに溢れるまちなかの日常風景を創出」を目的として開催されています。

工夫1! ただのイベントで終わらせない!半年間続く芝生空間

商店街を歩いてみると、目に入るのは芝生空間と素敵なファニチャー(椅子やテーブル)です。広さ約1.8m×6.0m程度の人工芝の上に、紺色のテープやロゴが入った椅子やテーブルなどが置かれています。

03_open_numazu台形をモチーフとした机や椅子、バリケード!

使われている様子を観察していると、会話をしている人が多く、座っていた人に偶然通りかかった人が話しかけるといった様子も見られました。また、何をやっているのだろう、と取り組みに興味を持つ人もおり、ファニチャーに貼られた広告を読む人や運営者から説明を聞く人もいました。

この一連の取り組みでポイントとなるのは、この空間が7月から12月までの半年間続く点です。元々の社会実験の構想として、月に1度の実験を計6回にわたって行うことが検討されていました。しかし、それではただのイベントで終わってしまうと考えた運営事務局が、地域、警察、行政と協議を重ね、半年間にわたり常設的につくられる空間を設置することで、人がまちなかで過ごす風景を日常化させていこうとしたそうです。

工夫2! 音楽に映画!6回変わるテーマとOPEN NUMAZU Weekend

また、この社会実験では常設的に行われている実験(OPEN NUMAZU)に加えて、単発的に日にちを区切って行われる実験(OPEN NUMAZU Weekend)もあります。

期間限定で行われるOPEN NUMAZU Weekendは、各月の第3週(12月のみ第2週)に実施しており、毎月のテーマに沿った空間がつくられます。

例えば7月は「ミュージック」をテーマに、ストリートピアノやDJが場を盛り上げました。今回筆者が訪れた9月においても、ストリートピアノが置かれ、次々に演奏者が現れては演奏し、椅子に座って聴く人や通行途中に足を止めて聴く人など、とても盛況な様子でした。

商店街が天井のある構造(アーケード)だったこともあり、ピアノの音は離れた場所でもよく聞こえ、心地よい雰囲気を作っていました。

04_open_numazu美しい音色が聞こえる楽しい空間

筆者が訪れた9月は「シネマ」をテーマにしており、ショートフィルムやアニメーション作品の上映会を行っており、上映時間になると人がやって来て、思い思いに鑑賞をしていました。

上映会場は空き店舗を活用しており、OPEN NUMAZUの取り組みに賛同してくれた地域住民が貸してくれたものだそうです。

05_open_numazu改装中のため配管むき出しの劇場

こうした様子から筆者は、地域の方の協力も得ながら進める良い取り組みだと感じた一方で、なぜまちなかで映画を見るということが自然と行われ、人がやってくるのだろうと感じました。

そこでその理由について調べてみると、沼津市では今回の社会実験以前からまちなかで映画を見る風土があったためだと分かりました。

きっかけは沼津市が主催している「リノベーションスクール@沼津」に参加した地元住民の方が、まちなかで映画を見るイベントが始めたことがきっかけです。

2017年から始まったこの映画鑑賞イベントは断続的に開かれ、2023年8月27日には、みちくさを食うように映画を見ることを目指して「みちくさ映画祭」として大々的に開催されました。そしてこの映画祭で、地元住民を中心とした審査員から、「観客賞」を受賞した作品などがOPEN NUMAZUで上映されていたのです。

この他、Weekendならではの取り組みとして、イベント出店が挙げられます。当日は市内外問わず、OPEN NUMAZUの取り組みに賛同した事業者が、飲料や軽食、雑貨などを売っていました。

お客さんや、出店スペース前のベンチに座る人の様子を観察してみると、飲み物を片手におしゃべりをする人やスマホを見ながら休む人など、それぞれの過ごし方をしており、暖かみのあるいい雰囲気でした。

07_open_numazu地域の人と関われる出店空間

工夫3! 地域の人にスポットを当てたタブロイド紙

このように地域の文化を取り込み、人を巻き込みながら行っているOPEN NUMAZUですが、それをさらに加速させる仕組みもあります。それはOPEN NUMAZU運営事務局が発行しているタブロイド紙です。

OPEN NUMAZUにあわせて毎月発行されているタブロイド紙は、社会実験の内容そのもの以上に、地域住民や事業者に焦点を当てた記事が多く載っています。

発行元であるOPEN NUMAZU運営事務局は

社会実験は地域住民が当事者になる意識が重要。タブロイド紙の中で地域事業者にスポットライトを当てることで、地元の人たちと会話が生まれたり、社会実験を自分ごととして捉えてもらうきっかけとしたい。

と語っていました。

08_open_numazu地域にどんな人がいるのか分かるタブロイド紙

筆者自身は最初にこのフリーペーパーを読んだときには、なぜ社会実験が主題に置かれていないのだろうと疑問に思いました。しかしお話を聞くことで、地域で活躍する住民の存在を知ることができたり、そこから転じて活躍する人同士が繋がる可能性があると知り、非常に印象的に感じました。

こうした活動の中から、まちを動かすキーマンを見つけたり、あるいは新たなプレイヤーが生まれるのではないかと考えると、普段何気なく目を通す広報誌の持つ効果に驚きました。

そもそもなぜ社会実験をやっているのか?

沼津市では東西に走る東海道本線によって南北の行き来がしづらく、両地区の繋がりの薄いという課題がありました。加えて、南北を結ぶ2本の地下道は、見通しの悪いカーブになっているため渋滞を起こしやすく、その上、地下道であるために降雨時にたびたび冠水事故を起こしてきました。

09_open_numazu渋滞も冠水も誘発しやすいカーブのついたアンダーパス

沼津市では、このようなインフラ上の課題解決に向けて、2040年に鉄道を高架化することを目指しています。また、中心市街地のスポンジ化やカーボンニュートラルなどの社会情勢への対応が必要であることも踏まえ、沼津駅周辺を都市の機能を集約させた、車中心からヒト中心のまちづくりへと転換しようとしているのです。

こうした大きな構想の基に、計画策定や人の移動を追った定量的な調査(プローブパーソン調査)を実施し、沼津市が行う「沼津市公共空間再編整備計画」と、民間と沼津市が行う「沼津市都市空間デザインガイドライン」を定めました。また街路や公共空間の再編計画では、リンク&プレイス理論に基づき計画を推進しています。

そのような長期的な計画があるなかで、短期的な小さな取り組みとして、2023年7月14日から12月下旬までの約半年間、OPEN NUMAZUは実施されました。まちなかの未来の姿をつくり、日常化することを目的として行われ、沼津駅前の仲見世商店街を中心としたエリアで長期間に渡る公共空間活用に取り組んでいます。

OPEN NUMAZU運営事務局の鈴木智博さんは、そんなOPEN NUMAZUに対する想いとして

駅周辺に日常的にくつろげる場所を設けると共に、何か面白いことが起きる期待感を高めることで、用事がなくてもふらっと駅周辺に立ち寄ってみよう!という意識を市民の中に醸成していきたい。

と語っていました。

前途有望!「OPEN NUMAZU」の3つの工夫と沼津のこれから

10_open_numazu9月のWeekendが終わりセンチメンタル漂うOPEN NUMAZU

OPEN NUMAZU 2023の取り組みは12月には終わってしまいます。しかし
工夫1 半年間にわたり公共的に利用できる空間を設置することで、一過性のイベントではなく、人がまちなかで過ごす風景を日常化することへと結びつける。
工夫2 単発的に行われるOPEN NUMAZU Weekendを実施し、毎月のテーマに沿った空間がつくられている。
工夫3 地域の人にスポットを当てたタブロイド紙を発行し、地域事業者にスポットライトを当てる。
といった取り組みは、これからの沼津に大きな影響を与えるでしょう。

10月下旬からはパークレットが置かれるなど新たな取り組みも始まり、2025年まで実施予定だそうです。OPEN NUMAZUがこれから何をなそうとしているのか、沼津市の未来がどんな姿になりそうなのか、訪れ、感じてください。

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