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「リンク&プレイス」とウォーカブルストリート|ソトノバTABLE#39 レポート

今回は、先日10月5日に開催されたソトノバTABLE#39「リンク&プレイス」とウォーカブルストリートについてのレポートをお届けします。2020年から国内ではウォーカブル(居心地が良く歩きたくなるまちなか)政策が進んできました。「ウォーカブル推進都市」や「まちなかウォーカブル推進区域」(滞在快適性等向上区域)の指定の数も増え、「ストリートデザインガイドライン -居心地が良く歩きたくなる街路づくりの参考書- 」や「居心地が良く歩きたくなるグランドレベルデザイン-事例から学ぶその要素とポイント-」などでは具体的な事例や考え方などが紹介されてきています。

しかしその一方で、海外の諸都市と比べ日本国内ではウォーカブルなストリートの発展に関して課題も少なくありません。ウォーカブルなシティを形成するために、それぞれがどのように都市機能を分担するのかを考える必要があります。「リンク&プレイス理論」は自動車交通と滞留空間の機能分担を構築することを目指しています。当日は「ウォーカブルシティにおける街路の機能と空間デザイン」という表題で、プレゼンターの西村亮彦先生(国士舘大学理工学部まちづくり学系講師)からお話ししていただいた後、参加者からの質疑応答を含めながらディスカッション形式で議論を深めました。

当日の様子はTwitterテキスト中継からもご確認いただけます。


「リンク&プレイス理論」とは?

はじめに西村先生から、理論の生みの親であるイギリスのPeter Jones氏の図表なども交えながら「リンク&プレイス理論は、リンクとプレイスの2つの機能を中心に街路をデザインしていくことを目指している」との基本理念について、お話しをしていただきました。

リンクとは、通行機能を指し、人やモノが目的地まで移動するまでを考えます。対して、プレイス機能とは、多様な活動を繰り広げその場所に滞在する場所としての機能を指します。

image8リンク&プレイス理論では、通行機能だけではなく滞在機能も併せて考えて街路をデザインすることを目指しています。

リンク&プレイス理論では、それらの「時間の節約」を目指す移動経路としての街路(リンク)と「時間の浪費」を目的とする街路(プレイス)を2軸にとったマトリックスをつくり、その機能を掛け合わせから生まれた異なる9つのタイプを元に空間をデザインしていきます。

image9このマトリクスを利用し、リンクとプレイスの2軸で空間を把握し9つのタイプに分類します。3レベルだけでなく、5段階などでマトリクスが作成される場合もあります。

メキシコやロンドンでの事例紹介の後に、姫路の大手前通りと札幌の北3条広場のケースを用いて、国内でのリンク&プレイス理論を実践し空間を再編する例を紹介していただきました。大手前通りでは以前、6車線が広がり自動車を中心に移動機能が非常に高い一方で、歩道が狭かったり活動する場が限られ滞留機能が低いという課題がありました。実際に2車線に減らしたあとは休憩施設が生まれたり歩道が広がったりしプレイス機能を高めることに成功しました。また車自体は減少したものの、トランジットモール化されることでバスやタクシー機能が強化されたためリンク機能は高く維持することが可能となりました。

image7大手前通りでは、リンク機能を高く維持したままプレイス機能を高めることに成功しました。

リンク&プレイス理論の教科書 Link & Place: A guide to Street Planning and Design

続いて、Peter Jones氏らが2007年に出版した「Link & Place: A guide to Street Planning and Design」というリンク&プレイス理論のバイブルとも言える著書について西村先生からの紹介がありました。本書は、街路の分類からはじまり、実際に空間デザインをする手順に沿ってその方法について述べられています。そこには、ストリートプランの作成や戦略的なネットワークの評価、エリアとしてのデザイン計画、パフォーマンスに着目した評価や事後評価などが含まれます。また、実際に企画の段階で市民参画をするための市民も巻き込んだデザイン検討についても本書では触れられています。

image2Peter Jones氏らが2007年に出版した「Link & Place: A guide to Street Planning and Design」

リンク&プレイス理論が生まれた背景

リンク&プレイス理論の手法に続いて、そもそもリンク&プレイス理論が生まれたその背景について3タイプの都市を用いて紹介していただきました。Peter Jones氏によると、都市は「自動車志向都市」「持続的モビリティ都市」「場所の都市」の3都市に分類することができます。そのなかでも時代を重ねるにつれて、「自動車志向都市」から「持続的モビリティ都市」に変化し、最終的に「場所の都市」となるプロセスに着目し、概念整理をしていくことで先進国を中心に2000年以降に、持続的モビリティ都市から場所の都市へ変化していくフェーズを多く迎えていることがわかりました。そこがリンク&プレイス理論が生まれた背景なのです。

image5先進国を中心に、時代とともに都市のタイプが自動車志向から持続モビリティ都市を経て、場所の都市へと変わっている傾向がみられることがわかりました。それによって、移動機能だけでなくプレイスとしての要素への関心が高まっていきました。

リンク&プレイス理論を実践に落とし込むことの難しさ

リンク&プレイス理論が生まれたことにより、これまでは交通機能や移動の効率などが重視されてきたものの、空間デザインの検討に際し、多様なアクターからなる分野横断のチームによる多面的な評価が可能となりました。西村先生は

「ここでのポイントは、都市の形態は自動車志向都市から持続的モビリティ都市、そして場所の都市へと変化していきますが、いずれの場合もリンクとプレイスの両機能はトレードオフで考えるのではなく、相互に独立した形で評価・検討することができるという点です。」

とおっしゃっていました。

評価の方法についてリンク機能は量的な、プレイス機能は質的な評価の視点が基本となりますが、場所や時間・季節などによって変化する街路の役割をどのように計測するのかに関してはまだまだ課題があるようです。共通の尺度で計測できる適切な指標の設定や、街路や土地の性格によって変動する閾値の設定に説得力を持たせる必要があります。また、西村先生は、両機能のバランス・空間配分のレイアウトを左右する要素として、土地利用の性格や交通モードの優先順位、また物理的な空間の余裕などといったエレメントを挙げられていました。その街路空間の現状や期待する将来像を把握する際にはさまざまな要素について考える必要があることがわかりました。

イギリスの街路デザインから学ぶポイント

次に西村先生から、どのようにしてイギリスでリンク&プレイス理論がストリートデザインのガイドラインや技術資料に取り込まれていったのか、ご紹介がありました。イギリスでは1977年にDesign Bulletin 32という街路のデザインに関する指針が、また1992年に日本でいう道路構造令に相当するDMRB(Design Manual for Roads and Bridges)ができました。その後、先ほどリンク&プレイス理論が生まれた背景でも述べた通り2000年あたりにプレイスについての議論がイギリス国内でも広まっていく中で、プレイス重視の街路デザインとDB32・DMRB等の基準類の生合成が課題とされました。

従来、道路のデザインについて交通のあんぜん・流動が主な議論の対象だったのに対し、リンク&プレイスへの関心が高まることによってプレイス機能も意識した街路のデザインが検討され始めることになりました。DB32に代わる街路デザインとDMRBのつなぎ役として2007年に発行されたManual for Streets (MfS1)や2010年に発行されたManual for Streets 2がその例です。MfS1では、LPマトリクスについての紹介やプレイス機能についての説明が、MfS2では5×5のマトリクスや道路デザインをタイプで考えるタイポロジーの考え方が紹介されています。

各国で展開される「リンク&プレイス理論

その後、イギリスではじまったリンク&プレイス理論はイギリス国内を越えて、世界各国へと広がっていきました。

南オーストラリア州で2012年に策定されたデザインガイド”Streets for People”は、実際にPeter Jones氏も関わりながら作成されました。LPマトリクスを利用しながら、街路のセグメント単位でリンク機能とプレイス機能を評価し、空間デザインを検討する手法を解説しています。また、各種機能を測定するための数値化された指標や、LPマトリクスのマスごとに望ましい移動スピードや適応可能な幅員構成などの要素についても細かく取り決めています。

image6メキシコの事例では、街路空間を構成するエレメントを色分けし、マトリクスと照らし合わせながらどのように空間にあるべきかを図でわかりやすく整理しています。

リンク&プレイスの今後の発展

最後に西村先生から、リンク&プレイスのメリットや課題点についてまとめがありました。リンク&プレイスのメリットとしては、そのわかりやすさ・パラダイムシフトへの貢献・単路の幅員再構成への有効性の3点が挙げられました。対して、今後さらにリンク&プレイス理論が実務で実践されるためには、「機能配分を空間配分に置き換えていいのか?」「空間配分を幅員・面積比率で捉えていいのか?」「説得力のある機能の評価/計測」などの問いへのアプローチが必須であると述べられていました。

image4ブエノス・アイレスのコリエンテス通りでは、スライド左下の写真のように昼時間は車道として利用されている道路空間を夜にはスライド右上のように歩行者専用空間にするといった柔軟なマネジメントがされています。

機能配分と空間配分を同時に2軸で考えることは可能ではあるものの、近年は人と車が同じ空間にいるシェアードスペースの考えや実践例が広がったり、空間の利用方法も時間や季節などによってフレキシブルになったりしています。その中で、西村先生は柔軟な空間の使い方とリンク&プレイス理論をどのように両立させて考えていくかが今後のポイントであると指摘しておられました。

image3最後に西村先生と泉山さんで記念撮影!

終わりに

今回のイベントを通じて、リンク&プレイス理論の背景やその手順だけでなく今後の展開のための問題提起など新たな発見をたくさん知ることができました。今回のイベント前に筆者は、歩きやすさや居心地よさを考える際に、どうしても交通網や道路幅員と対立させてプレイス機能の高め方について検討していました。そのため、西村先生がおっしゃられていたリンクとプレイスがトレードオフの関係ではなく、それぞれが独立しているとおっしゃっていた点に関しては目から鱗でした。

ウォーカブルの議論は進んできているものの、リンク&プレイス理論についてはまだまだ国内では浸透しておらず日本独自の取り組み方についても今後さらに検討が必要である印象を受けました。また終盤に泉山先生が指摘していた「プレイスメイキング(点)とリンク&プレイス(線)をどちらも考える必要がある」というポイントを押さえながら、面的な空間編成についてより高いレベルでのディスカッションが進んでいくことを期待したいと思います。

グラフィックレコーダー:千代田彩華(オンデザイン)

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