ソト事例

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ストリート|道路空間

往来の多様性を取り戻す。三軒茶屋まちづくりにみる茶沢通りのウォーカビリティの未来

近年、多くの都市で「ウォーカブルなまちづくり」をめざした様々な活動が行われています。東京都世田谷区三軒茶屋でも三軒茶屋交差点やそこから延びる主要道路を中心に、公民学が連携しながら魅力あるウォーカブルなまちづくりへの転換が進められています。今回、三軒茶屋の一住民であるはりこさんが、その活動の一部である「三軒茶屋駅周辺まちづくり会議」および「社会実験」に一市民として参加してきました。そこから見えた、茶沢通りの抱えるウォーカビリティの課題、およびそれらを 公民学が一体となってどのように考え、ウォーカブルなまちづくりを実践しているのかについてレポートします。

Cover Photo by 世田谷区役所世田谷総合支所街づくり課

ソトノバ・スタジオ|ソトノバ・ライタークラス2023の卒業課題記事です)


茶沢通りって?

三軒茶屋は東京都世田谷区の東側に位置し、東急田園都市線で渋谷から5分とアクセスが良く、若者からシニアまで幅広い年齢層に人気のあるまちです。

この辺りは江戸時代中期に、参拝客の道中の休み処として栄え、三軒の茶屋を中心に賑わいをみせていたことから三軒茶屋と呼ばれるようになりました。茶沢通りはその主要な通りのひとつで、当時より人々の往来が盛んで、とても栄えていました。現在は三軒茶屋と下北沢を結ぶ道路として、茶屋に代わって多くの飲食店や感度の高いお店が建ち並び、人々を魅了し続けています。

道が狭い!車が多い!自転車が多い!

しかし、三軒茶屋と下北沢を結び、環七通り(東京環状七号線)と並行に走る茶沢通りはまちの発展とともに車両中心の通りとなってしまいました。もともと幅員や歩道が狭いこともあって、実際に歩いてみると、歩行者にとって非常に「歩きにくい」通りであると感じます。

試しに平日夕方、三軒茶屋交差点からとある飲み屋さんへ向かうために茶沢通りを歩くことをシミュレートしてみましょう。車道は自動車により埋め尽くされており、また横断歩道も限られているため、通りの向かい側に行くのも一苦労です。歩道は狭く、人がどうにかすれ違えるほどの幅で、自転車の駐輪などがあるとそれも難しくなります。

また、通りにはバス停が点在しているため、会社帰りの乗客の列がさらに歩行を妨げています。挙げ句には、そうした中を自転車が歩道車道かまわず縦横無尽に駆け回っており、歩行者にとっては危険な通りでさえあり、裏を返せば、自転車にとっても非常に走りにくい通りであるといえます。

IMG_1751平日午後の茶沢通りの様子。車両の交通量の多さや駐輪などにより歩くスペースが制限されています Photo by halico

日曜日は歩行者天国に

このような安全性に直結する状況と課題を受けて、区役所や地元商店街は様々な施策を講じてきました。その一つが、「日曜日と祝日の歩行者天国化」です。

昭和40年代後半、まちの発展のために茶沢通りの商店街で歩行者天国の実現化の声が上がり、3000人を超える地域住民の署名を集め、嘆願を行いました。その結果、昭和46年より世田谷区内で第1号となる歩行者天国が実現したのです。

歩行者天国の実施日は日曜日と祝日の午後1時から午後5時までで、この時間帯は茶沢通りから下北沢方面へ向かって太子堂商店街の辺りまで自動車が通行禁止となります。また、路線バスの運行も休止となります。これにより、日曜日と祝日は自動車の往来がなく歩行者中心の通りとなり、人々は様々なお店にゆったりと快適にアクセスできるようになります。

しかし自転車は通行できるため、歩行者・自転車の利用車線の混在が問題となります。また、茶沢通りには公園やベンチといった休憩施設がなく、せっかくの歩行者天国にかかわらず、人々の滞留性が担保できない問題は残ります。

三茶まちづくりプロジェクトにみる全世代ウォーカブルの通りを目指して

こうした状況を打開するため、世田谷区は中長期的なまちづくりプロジェクトに取り組んでいおり、それらは「三軒茶屋駅周辺まちづくり基本方針」としてまとめられています。

プロジェクトは大きく3つの課題(公共的な空間や動線の不足、老朽建築物の存在、商業地域と住居地域の不調和)に対する取り組みとなっていて、街道の交差点にあった三軒の茶屋に始まる街の歴史を想起し、「三茶Crossing」と名付けられたビジョンのもとで、バリアフリーで接続された歩行空間の創出、パブリックスペースの設立などを展開していくものです。

茶沢通りもこれらの計画の主要エリアに設定されており、近年、 公民学の連携のもとで様々なまちづくりプロジェクトが進められています。

市民主体のまちづくりを。三軒茶屋駅周辺まちづくり会議に参加してみた

三軒茶屋駅周辺まちづくり会議」は世田谷区により2019年からこれまでに複数回開催され、行政、市民、専門家がワークショップを通じて市民主体のまちづくりを行っていくことを目的としています。

筆者は2023年2月4日に開催された第6回まちづくり会議に参加しました。この回のテーマは「みんなで考えるウォーカブルな三茶のまちづくり」で、国士舘大学理工学部の西村亮彦研究室の主導の下、市民主体のワークショップが行われました。

まず初めに、参加者は6-7人のグループに振り分けられ、筆者のグループには三軒茶屋商店街の組合の理事長や、三軒茶屋在住の80歳の元気なおばあちゃんなど、非常に個性豊かな方々が集まりました。挨拶がてらにお話をしていると、皆さん三軒茶屋がとても好きで、これからの三軒茶屋についてとても関心をもち、自分たちも何らかの形で関わりたいという強い矜持のある人たちでした。

前半は西村さんによる基調講演でした。「ウォーカブルなまちとはなにか」「どのように実現していけるのか」について、海外の事例や、過去に実際に三軒茶屋で実施してきた社会実験の事例を中心として講演されました。特に「自分たちで自分たちの場所をつくっていくことに意味がある」「始まりは小さくてもいいが、大きな夢をみんなで描いて共有していくこと」「やりっぱなしではなくきちんと効果を測ること」など、まちづくりの理念を強調され、市民主体の、1回限りでないまちづくりというスタンスを参加者全員が共有できる機会となりました。

image-3参加者らは熱心に西村さんの講演に耳を傾けていました Photo by 世田谷区役所世田谷総合支所街づくり課

後半は、グループ主体のワークショップが行われました。まず、グループごとに割り振られた三軒茶屋駅周辺の各エリアを1時間ほど歩きます。そこで見つけた数カ所の場所について「ウォーカブルだと思う点・そう思わない点」「改善点やより良くするためのアイデア」「そのためにすぐできるアクション」を抽出、議論し、最終的に各グループが成果を発表するという構成でした。

image-4グループワークの様子。参加者たちは気になったスポットで足を止め、ウォーカビリティについて議論します Photo by 世田谷区役所世田谷総合支所街づくり課

筆者らのグループは太子堂中央街および鳥山川緑道という、主に茶沢通りの側道にあたる部分を歩き、数カ所のスポットを議論しました。皆で議論しながら歩いていると、メインストリートである茶沢通りとのつながりの悪さや、歩行者優先でないスポットの多さなど、ウォーカビリティを阻害する様々な課題が浮き彫りになりました。

具体的には、ある側道から茶沢通りに入る場所に自動車が進入できない柵があるのですが、それが歩行者のウォーカビリティまでをも阻害し、茶沢通りへの人々のシームレスな流入が困難になっているという本末転倒な状況になっていました。これは普段ひとりで歩いているだけでは(多少の不便さを感じつつも)なかなか気づけないことではないかと思い、グループワークの重要性を感じた瞬間でした。

image-5まち歩きから帰ると、各グループで意見をまとめ、発表の準備をします Photo by 世田谷区役所世田谷総合支所街づくり課

市民が見たまちづくり会議の意義と課題

このまちづくり会議の重要なテーマは、西村さんの講演にあったように「市民主体のまちづくり」です。実際に三軒茶屋の住民である参加者たちは、三軒茶屋の様々な場所や通りを自分たちで改めて見直し、気づき、未来へとつながる議論を行うことができました。

これは、普段自分たちがそこに住み、実際に生活しているからこそ、実践的な議論につながったのだと思います。そして、一連のワークショップを通じて筆者が特に印象に残ったことは、行政がこうした目的のためにファシリテーターとしてよく機能していたということです。グループ内でうまく意見がまとまらないときも、帯同していた区の職員が的確にそれらを言語化して発表に結びつけてくれたのが印象的で、行政が単なる進行役にとどまらず、住民とともによりよいまちづくりを進めていくのだという気概を感じました。

image-6各グループの発表の様子。ウォーカビリティを向上させるためのたくさんのユニークで新鮮なアイデアが披露されました Photo by 世田谷区役所世田谷総合支所街づくり課

課題としては、参加者に若者が少ないことが気になりました。研究室の学生を除けば、参加者の印象としては子育てが一段落した世代以上が多く、このワークショップでは、三軒茶屋を利用することの多い20代、30代のまちの見方や意見をくみ取ることが難しいと感じました。

今後は、若者をも含めた魅力ある会議が行われれば、全世代ウォーカブルを目指した、より深みのあるまちづくりの議論が可能になると思われます。

社会実験で探る道路の滞留空間化と歩行性

2023年3月19日、5月21日、7月23日に、実現ができる範囲で社会実験(SANCHA STREET TERRACE)が実施されました。筆者は仕事の関係で5月の社会実験にしか参加できなかったのですが、社会実験時の茶沢通りおよびその周辺の様子について報告します。

今回の社会実験では、茶沢通りが課題とする「滞留空間の設置」と「安全で良好な歩行空間の設置」に重きが置かれました。

滞留空間の設置については、茶沢通りの車道を利用して、来訪者の休憩スペースとして人工芝やイスなどを設置し、一時的に滞留性を向上させていました。

西村研究室は段ボールなど身近にあるものを使用し、低コストで設営・輸送の簡便性に長けた家具を製作することを得意としています。これらは今回のような短期的な社会実験では非常に有効であると思われました。人々は芝生に座ったり寝そべったり、またイスやテーブルを利用して通り沿いのお店で購入した食べ物やお酒などを楽しむ風景が多く見受けられました。

5月の社会実験ではそれらを発展させ、自由に楽しめる絵本や遊び道具を設置することで、こどもを連れた家族連れにも長時間楽しめる空間ができあがりました。

三軒茶屋社会実験ぼかし2社会実験の様子。芝生に腰をおろし,大人もこどもも安全で自由な時間を過ごしています Photo by 世田谷区役所世田谷総合支所街づくり課

また、安全で良好な歩行空間を設置するため、駐輪スペース・自転車走行レーンを独立して設置させ、放置自転車の抑制や自転車の安全な走行が試みられました。芝生の間をぬって敷かれた走行レーンであるため、自転車を手押ししながら歩く人々も多く見られ、歩行者にとって安全な空間が確保されていました。期間中、西村研究室の学生が歩行者や自転車の往来について記録し、西村さんが講演で述べていた「まちづくり実験の効果測定」を行っていました。

2023年8月時点で、効果測定の結果等は公表されていませんが、これらの結果をもとに、歩行者にとっても自転車にとっても安全で快適な空間づくりに役立てられることでしょう。

パブリックスペースの創出:三軒茶屋ふれあい広場の可能性

5月、7月の社会実験では、茶沢通りに面した三軒茶屋ふれあい広場というスペースで「三茶ハヴァグッドマーケット」が同時開催されていました。三軒茶屋ふれあい広場は、世田谷区役所太子堂出張所の向かいにある体育館ほどの広さの屋根付きのフリースペースで、普段は殺風景な場所なのですが、週末にはフリーマーケットなど、三軒茶屋の人々の交流を目的とした様々なイベントが開催されています。

三茶ハヴァグッドマーケットは、世田谷区内外から店舗が集結し、世田谷や地域の個性あふれる商品が集まり交わるマーケットで、今回で5回目の開催となります。

いつもたくさんの人で賑わいますが、今回は茶沢通りの芝生エリアへの連続したアクセスが可能となっているため、来訪者は地産のビールやワイン、カレーなどを買って、通りの芝生やイスにこしかけて楽しむことができ、普段よりもこどもを連れた家族連れの姿が多く、幅広い世代による賑わいをみせていました。ウォーカブルな通りを目指す茶沢通りにとって、滞留空間を向上させるパブリックスペースとして大きな可能性を示しています。

image-8三茶ハヴァグッドマーケットの様子。入口は茶沢通りに面しており、購入したワインや食事を通りの芝生で楽しむ人たちもたくさんいました Photo by halico

茶沢通りの目指すウォーカブルな空間とは?

ウォーカブルとは一般的に「街路空間を車中心から人中心に再編し、居心地がよく歩きたくなるまちなかづくりを目指す取り組みや考え方」などと定義されます。

かつて茶屋を中心にたくさんの人々やものが交差し、栄えてきた三軒茶屋や茶沢通りだからこそ、ウォーカブルな空間づくりは、通りに人々の往来の多様性を取り戻し、新旧さまざまな価値観や文化の交流・発展に大きく寄与するものであると考えます。

少しずつ形になってきているその空間には、おとなもこどもも安心して歩き、楽しみ、安らげる風景があり、今回の会議と社会実験への参加を通じて、三軒茶屋の掲げる「全世代ウォーカブルの通り」が完全に実現するのはそう遠くない未来であることを確信しました。

ここでは住民たちが、一般論にとどまらない、自分たちにとってのウォーカブルな空間を考えながら、ファシリテーターとしての行政、そして指導役の専門家たちとともにつくり上げていく、まさに「みんなで考えるまちづくり」が実践されている場所なのです。

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