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ストリート|道路空間

交通環境の転換点│東京駅八重洲通りの社会実験YAESU st. PARKLET

日本各地で、車中心から人中心のまちへと変えるために様々な社会実験が行われています。人々の行動を観察し、データを取り、それらを基に仮説検証や分析を繰り返しながら、まちの再編へと繋げようとする動きが増えています。

中でも東京駅前の八重洲通りは、日本最大級の「あるモノ」が開業したことで、今後は周辺の交通環境が大きく変化することが予想されています。そのような中、2023年10月に「YAESU st. PARKLET」は、八重洲地域における交通環境のポジティブな転換点となるべく実施されました。

今回の記事では、八重洲地域の交通環境がなぜ変化しているのかを踏まえながら、「YAESU st. PARKLET」を現地で見て感じた魅力をお伝えします。

Cover Photo by 茂田耕太郎


日本でも少しずつ増える取り組み、パークレットとは…?

パークレットとは、歩行環境の改善や、地域との交流、地域経済の活性化などを目的として、路肩や停車帯に滞留空間を生み出す取り組みです。道路上に歩道と接続するようなデッキをつくり、そこにテーブルや椅子、プランターなどを設置するものが多いようです。

基礎工事を伴わない仮設構造物であるため、移動や撤去がしやすいことが特徴となっています。このことにより、常設の構造物に比べて、低コストであり、短期間で設置できるところが魅力です。また、このような特徴は「社会実験」にはうってつけであり、仮設構造物で実証実験を行い、効果検証した上で本設に移行するプロセスに適しています。

パークレットが生まれたのは比較的新しく、2005年にサンフランシスコのデザイン事務所に勤めていた2人が、メーター制の縦列駐車帯に人工芝や机を置いたのが始まりとされています。

日本で移動可能なユニット式のデッキとファニチャー類を道路空間に最初に設置したのは、2016年の神戸の社会実験「KOBEパークレット」で、その後静岡市名古屋市などでも、社会実験という期間限定で、パークレットの設置が行われてきました。

近年では横浜や神戸、大阪など常設化するものも徐々に現れてきました。その設置には産官学民などの様々な団体が連携している場合が多く、民間主体の海外とは少し異なるのが特徴です。

IMG_8578「KOBEパークレットの取り組み」がグッドデザイン賞を受賞 Photo by NAKANO Ryo

ビジネス街に似合うシックで素敵な八重洲のパークレット

「YAESU st. PARKLET」は片側3車線道路のうち1車線を一部解放し、パークレットを設置する社会実験です。地元の団体である一般社団法人「東京駅前地区まちづくり推進協議会」が設置主体となって、中央区などと共に東京駅八重洲口から徒歩3分の場所に、広さ約15m×4.5mほどの空間がつくられました。

グレーを基調とした木材のデッキが、車道と歩道をまたがって設置されており、内部には椅子やテーブルが配置されていました。

このほかDJブースや、和傘や火鉢をモチーフにしたファニチャーが設置されていました。植栽は大型のプランターなどに植えられたものや、元々あった街路樹をそのまま活かしたものがありました。

周囲が高層ビルであることや、開催時期が季節が秋から冬への変わり目で、既存の歩道上の植栽が生い茂っていなかったこともあり、パークレットの中の緑は目に留まりやすく、リラックスすることもできました。

筆者が訪れた際には、既に何人かの利用者がおり、椅子に座ってお菓子を食べる人やパソコンで作業する人、スマホをいじる人など、色々な過ごし方が見られました。これまで八重洲通りを訪れる回数が少なかった筆者も、ビルが立ち並ぶまちの中に、このような空間があったら、また訪れたいなと思ったほどです。

03好きな場所に座って、各々自由に過ごす姿が見られた Photo by Masato SAEGUSA

なぜ今、八重洲通りで社会実験が行われたのか?

「YAESU st. PARKLET」が実施された背景には、東京駅の周辺がこれまで抱えていたある課題と、その解決策として生まれたある施設の開業が関係しています。

2011年に都市再生特別措置法が改正され、国際競争力を強化する上で特に重要な地域として「特定都市再生緊急整備地域」が設定されました。そして八重洲地域は、この緊急整備地域に指定されまた。

その当時、八重洲地域では、高速乗合バスや空港連絡バスなどの発着する停留所が東京駅前の交通広場内では足りず、周辺の道路上に散在していました。

041日に1000台を超えるバスが、かつては様々な場所にあるバス停に到着していた 【出典】国土地理院 基盤地図情報 道路縁データを加工して作成

その結果、バスの路上駐車が渋滞を生んだり、他のバスや鉄道への乗り換えが不便であったり、歩道が乗降者の列で混雑したりしていました。

こうした状況から、2014年に東京駅周辺の3つの再開発準備組合および中央区は、 UR都市機構に対してバスターミナル整備などに関する協力要請を行いました。2015年にはURが事務局となって、国や中央区やバス会社、警視庁、URなどからなる委員会の設置なども行い、バスターミナルの建設が都市計画決定されました。

このようにして整備が進んでいるのが、「バスターミナル東京八重洲」です。2022年には八重洲二丁目北地区に「東京ミッドタウン八重洲」が開業し、バスターミナルの第1期エリアが開業しました。

05第1期エリアに開業した「バスターミナル東京八重洲」 Photo by Masato SAEGUSA

今後、2025年度には第2期エリア、2028年度に第3期エリアが開業する予定となっており、これら3つのエリアが開業することで、総床面積は約21,000㎡、乗降場はバスタ新宿を超える20個となるバスターミナルが全体開業します。

このバスターミナルによって、八重洲通りは交通環境が大きく変化していくことでしょう。まず、路上駐車していたバスは姿を消し、歩道からも乗降客の列がなくなります。元々多かった歩行者の数は、バスターミナルの開業によってさらに増えることが予想されています。

そのため中央区や地元のまちづくり協議会は、八重洲地区において、回遊性を向上させるとともに、その周辺エリアである日本橋や京橋とのつながりや、活性化を図ることが重要であると捉えています。

「YAESU st. PARKLET」はこうした背景を基に、八重洲通りに滞留空間をつくり、にぎわいや回遊性を高めることを目指して実施されました。

長いしたくなる椅子の配置、立ち寄りたくなるテーブル

歩行者数の増加が見込まれることを踏まえると、確かに八重洲通りにおける歩行者空間をより良くしていく必要があるように感じました。

筆者は、八重洲口から八重洲通りを1kmほど歩きましたが、座って過ごせるような場所はほとんど見かけませんでした。1階がガラス張りの建物も多いですが、少なくとも筆者は中を眺めるわけでもなく、ふらふらと進むだけです。

そのため、今回の「YAESU st. PARKLET」のような空間が現れると、確かに少し立ち寄って休憩をしたり、何か他のことをして時間を過ごしたりしたくなるのではないかと思いました。

06グレーの色が周囲と合い、歩道を歩いていると、自然に現れる「YAESU st. PARKLET」。隣にはキッチンカーも来ていた。 Photo by Masato SAEGUSA

またいざパークレットのなかに入ってみると、利用者が長居したくなる工夫も感じました。例えば、椅子が様々な方向に設置されていたため、自然と空間の仕切りがあるように感じられ、1つのパークレットの中にたくさんの小さな空間があるように思いました。

そして、その小さな空間に椅子が2つや3つあるため、家族や友達と来た人がそこで過ごしたり、一人で来ても隣に荷物を置いて、ゆったりと過ごすことができる空間になっていました。

07椅子の向きが異なることで、車道を向く人もいれば、歩道を向く人もおり、自然と仕切りがあるように感じられ、長時間滞在したくなる空間 Photo by Masato SAEGUSA

テーブルもまた、人を滞在させるために一役買っていたように思います。座っても、立っても使えるようデザインされたテーブルは、歩道の縁石処理でできた段差をうまく利用していていました。どの方向からでも快適に過ごすことができるこのような工夫は、パークレットと歩道の垣根をなくしたように感じました。

08パークレット内部だけでなく、歩道側からも活動が生まれるテーブル Photo by 茂田耕太郎

八重洲通りの今後に想いを寄せて

東京駅前八重洲通りは特定都市再生緊急整備地域の指定から始まり、巨大なバスターミナルの開業を経て交通環境が変化し、歩行者数の増加が見込まれています。また多数の公共交通があり、駅と駅の間が近く、簡単に他のエリアへと移動ができてしまう東京駅周辺だからこそ、なおさら歩いて移動する人は多いことでしょう。

そのような地域だからこそ、現在の滞留できる場所の少ない八重洲通りから、休んだり、待ち合わせをしたりできる空間へと変わり、日本橋や京橋といった他の地域に道を歩いて移動しやすくなる空間が形成される必要があると感じました。

「YAESU st. PARKLET」は終了してしまいましたが、今回得られた知見を基に、東京駅前八重洲通りがどのように変わっていくのか楽しみにしていきたいです。

09夕方になり、暖かみのある光が周囲を照らす「YAESU st. PARKLET」 Photo by Masato SAEGUSA

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