ソト事例

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オープンスペース|空地

ソト事例

小さな森をみんなで育てる。アーバンシェアフォレスト「Comoris(コモリス)」

2024年5月から9月末まで、東京都渋谷区代々木上原(元代々木町)の商店街に、ちょっと不思議なみどりのスペースが出現しました。小田急線の線路からもほど近く、走行中の電車内からもチラリと目に入るその小さな空間は、都市に新たな森をつくるアーバンシェアフォレスト「Comoris(コモリス)」のコンセプトモデルとして運営されていた場所です。コンセプトに賛同するメンバーが都市の空き地をシェアしながら、みんなで小さな森を育てていくこのプロジェクト。約半年間の実証実験期間を経て、現在は本格的なサービス提供に向けて準備が進められています。代々木上原の初期Comorisは現在すぐ近くの場所に移転していますが、その引っ越し前にソトみどメンバーで現地を訪ねました。


都市の空き地に森をつくる

出迎えてくださったのは、Comoris主催メンバーの南部隆一さん。グラフィックデザインやブランディングを本職とする南部さんは、数年前からデザインのアプローチで自然環境に対してできることはないかと模索していたといいます。そこで志を同じくする仲間と立ち上げたのが、自然と都市生活の間に心地よい循環をつくるためのデザインラボ「ACTANT FOREST」。山梨県北杜市に13,000㎡の森を購入し、広大な森そのものを「ラボ」として、植樹や自然環境についての学びを深めていきました。その経験値を都市にインストールする試みがComorisです。

image13Comorisの南部隆一さん

ビルや住宅地の隙間にある空き地が、いつの間にか駐車場になっている光景は、都市では日常的に見られます。空いている土地があるならみんなで「森」をつくれるのではないか、という発想は、これまでになかった新しい視点です。ここでいう「森」とは、都市に暮らしながら日常的に自然と触れ合い、微生物も含めた生きものの多様性を感じられる場所としての「森」。まずはごく身近な、ささやかなスケールから実践していくという理念が、「小さな森(コモリ)」を複数形にしたネーミングに端的に表れています。

image8戸建てとアパートの間に出現したワンルームほどの面積の森

森づくりで育まれるコミュニティ

Comorisとは具体的にどのような仕組みなのか、代々木上原の初期モデルを例に見てみます。

まずは、代々木上原の空き地をACTANT FORESTと、まちづくりデザインスタジオ・株式会社NEWPARKが共同で借り上げ(初期モデル地は期間限定)、公募によって集まった15名ほどのシェアメンバーによるメンバーシップ制で運営されていました。

大きなポイントは、メンバーが会費を支払って緑地育成に取り組んでいることです。メンバーには運営の意思決定にも関われる権限を付与したNFT(非代替性トークン:所有権付きデジタルデータ)が発行され、主体的に参加する活動を通して、各自が考えるサステナブルなライフスタイルを実践しています。

育てる植物はできるだけその地域に根ざした植生を意識して植え、水やりはメンバーが当番制で行い、ここで育てたハーブなどは料理に使って、みんなで食べたり、飲んだり、語らったり。グラノーラをメインにした朝食会は予約が埋まるほどの人気で、メンバーの発案による活動やイベントも数多く生まれました。

都会では距離が離れるばかりの「暮らし」と「自然」、そして「人と人」がシームレスに溶け合う場に心地よさを感じ、そこに価値を見出すという共通認識がメンバー間で醸成され、森づくりを通して新たなコミュニティが育まれる場所となったのです。

image7奥に足を踏み入れると藁が敷き詰められ、居心地のよい空間が広がる

地域にも開かれたセミパブリックな共有地

一方で、Comorisはセミパブリックであることを意識した空間でもあり、シェアメンバーではない地域の人々も、曜日限定の公開日に自由に利用できるようにしています。ご近所さん同士でワインを飲んでいる光景が見られたり、スーパーで購入する代わりにComorisで摘んだ大葉をおにぎりにして持ってきてくれる人がいたり。

すぐ隣に住む男の子は、代々木公園で捕まえたカエルを放して、自分の庭のように楽しんでいたそうです。そのカエルがボウフラを食べてくれるなど、期せずして隣の男の子が生きものネットワークを体現する存在になっていました。そうした思いがけない交流や広がりが、このユニークなスペースが持つ潜在能力であり、みどりの力でもあります。

地域にも開かれた共有地(コモンズ)として、人間も、ペットも、昆虫も、鳥も、微生物も、多様な生きものたちが、分け隔てなく集う場所が実現しています。

image14メンバーによりデザインされたベンチと大きなテーブル

循環を意識したアイディアの数々

Comorisではこうしたシステムとしての工夫のほか、「もの」レベルでもさまざまなアイディアを実験・実装しています。よく見るプレートの代わりに「Comoris」のロゴなどを入れたスマートなスチール製のサインデザインは、防虫・防腐や環境再生効果がある焼き加工を施した木製の焼杭(やきぐい)にすっぽりと被せてあります。移動させるのも、杭を抜いて挿し直すだけなので手軽です。オフグリッドのコンパクトなソーラーパネルボックスは、Wi-Fiも稼働できるバッテリーを備えたComorisのパワーステーション。トイレはないものの、手洗い程度はできるようにと雨水タンクも設置しています。

image7焼き杭にかぶせたスチール製のサイン

ペットとの共生も大事なファクターとの考えから、散歩途中に犬の糞を入れて容器を手回しできる「うんちコンポスト」などのペットステーションも備えています。このコンポストは、ホームセンターなどでペール缶を用意し、パーツは3Dプリンターで出力すれば誰でもつくれる仕様になっているスグレものです。

より「ラボ」的な試みとしては、企業パートナーとして参加した金沢の白磁陶器メーカー・株式会社ニッコーが廃棄されるボーンチャイナをリサイクルして開発したリン酸肥料を、環境負荷が低く、環境再生にもつながる塗料として活用できないかという実験も行っています。

image5ペットフレンドリーなうんちコンポストとおしっこポール

「モバイルフォレスト」から「まちの森」へ

スーパーのカゴをプランターとして利用しているのも面白い光景で、これはカゴを重ねて圧縮することで落ち葉の分解も進みやすくなるという狙いから採用したとのこと。シェアメンバーは各自で好きな植物を育てていますが、前述したように地域本来の植生を尊重することが基本です。

image6スーパーのかごを積み重ねてつくられたプランターからは実生やハーブ類が

どこまでを「地域」とみなすかという問題もありますが、限られたスペースに多摩川流域の植生を再現したビオトープのミニプランターもつくられており、その地域の本来あるべき自然の姿とはどういうものか、私たちがどんな場所に暮らしているのかを、俯瞰して感じられる仕掛けになっています。

image3多摩川流域の植生を再現したビオトープのミニプランター

植物に関しては、Comoris初期モデルが当初から期間限定だったために、ある程度成長した苗木を植える、多くは移動させやすいプランターで育てる、といった方法が採られていました。初期モデル地から徒歩数分の場所に新たな空き地を借り、引っ越し後は植物も地植えを中心にして育てることができそうです。

暫定的な「モバイルフォレスト」から、まちと自然、人と暮らしをつなぐ「まちの森」へ。メンバー間で情報を共有するデジタルコミュニケーションツールも活用しながら、こうしたシステムとアイテムを1つのデザインキットと捉え、フランチャイズのように都市の空き地でComorisを増やしていくことを目標としています。見据えているのは、やがてその点と点が線となり、都市の中に「100年の森」のネットワークがパッチワーク的に広がっていく未来です。

原風景は多摩ニュータウンの里山

もともと登山やトレイルランニングなど、自然環境の中で行うアクティビティに親しんでいた南部さんにとって、サステナビリティからかけ離れたデザイン業界に対するアンチテーゼとして、ACTANT FORESTやComorisの発想が生まれたのが出発点でした。ゴールとして設定したのは、都市の生活と行動様式を変えることだといいます。

そんな南部さんの原風景は、生まれ育った多摩ニュータウンの里山にありました。

まさにジブリ映画『平成狸合戦ぽんぽこ』の世界そのままに、山、雑木林、畑、水田、谷戸、草むら、原っぱなどが広がる里山で遊び回る子ども時代を過ごした南部さんは、やがて区画整理が進んで「宅地」「公園」「図書館」などエリアが分断され、風景も生態系も崩されていく様子を、複雑な想いで見つめていました。いつしか、まち全体が高齢化した「オールドタウン」とも呼ばれるようになってしまった原風景の生態系を取り戻したいという想いが、根底にはあるといいます。

そうした想いから、南部さんは貴重な植生が残る里山として知られる多摩ニュータウンの一角に父親が借りている週末農園の畑を継ぐ予定で、家族で通い始めたそうです。

南部さんだけではなく、Comorisで共に活動するメンバーたちは、それぞれの想いやストーリーを抱えているのでしょう。だからこそ、遊び心もあり非常に洗練されたスタイルでありながら、Comorisには単なるファッションや一過性のムーブメントとは一線を画す、ぶれない骨格や信念が感じられます。

Comorisの本格展開

約半年間にわたるコンセプトモデルの実証実験で確かな手応えをつかみ、代々木上原のComorisは、新たに借り受けたすぐ近くの空き地に引っ越してセカンドステージへと移行します。この動きは各所に波及し、2025年4月中には都内で新たなComorisが始動することが決定しました。

本格的な事業開始にあたり、2024年10月には自立分散型の組織運営に適した法人としてComoris DAO合同会社を設立。再開発エリア、企業用地、公園、公共施設、空き地、空き家など、場所のタイプによってそれぞれ適したパートナーシップを築いていくことを目指しています。

また、過去には〈「都市の森」をひらく探究講座〉と題した講座を開催し、シェアメンバーが学びを深める場を提供したほか、先に挙げた「植栽や空間設計のキット化」も今後さらに開発を進めていく予定です。

●詳しくはこちらをご覧ください!
都市で森を育てる仲間募集|Comoris代々木上原

image12次の引っ越し先は地域に拠点を置くアパレルメーカーが所有する土地

デザインとみどりの力の掛け算

都会の空き地を基点に、デザインとみどりの力を掛け合わせ、「ご近所の森をみんなで楽しみながら育てる」というユニークなコンセプトを軽やかに実現しているComorisのあり方に、ソトみどメンバーも大いに刺激を受けました。

住民と行政が協働で緑地育成などに取り組むケースは数多くありますが、NPO法人Green Connection TOKYO(以下、GCT)の佐藤留美さんは、「アートやデザインの力でみどりやまちはもっと面白くなるはず」と期待を込め、Comorisの「小さな自由さ」や「アメーバ的な広がり」に無限大の可能性を感じると語ります。Comorisの仕組みと、行政などにおける取り組みを互いに補い合うことができれば、さらに柔軟かつ多彩なパートナーシップを構築していくことができそうです。

南部さんと同じく多摩ニュータウンに住んでいたことのあるGCT宮奈由貴子さんは、炸裂する「多摩ニュータウン愛」で南部さんと意気投合。南部さんの想いに共鳴する点も多い一方で、都市だけではなく、都市近郊の空き地や遊休地も暫定活用する方法を共に考えたいと提案します。

ソトノバ・ディレクターで庭師でもある秋元友里さん(取材時)は、代々木上原のComoris移転場所を見学し、立地や日照などの要素から、苔庭のような坪庭にしても美しいのではないかと見立てます。

それぞれの専門分野の集合知で、Comorisとソトみども緩やかに連携しながら、都市のみどり、郊外のみどり、里山のみどりなど、さまざまなフェーズにおけるみどりのあり方を共に探っていくことができそうです。

image9ソトみどメンバーと

取材・文 市川安紀
Photo by Green Connection TOKYO

ソトみどとは

ソトみどとは、「ソトとみどりのイイ関係」 をコンセプトに、いまあるみどりや新たにつくられるみどりをどうデザインし、どんなしくみで継続させるのか、その具体例や手法についてみんなでシェアしていくための事例バンクです。
今後みどりに関する活用事例や情報については、特設サイトより、まとめてご覧いただけます。
ぜひチェックしてみてください!
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