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ソトみど、はじめます。 —「ソト」と「みどり」のイイ関係を考える!—
ソトノバ×GCT、なぜコラボするのか?
魅力的なソトにはみどりが欠かせない、という認識が、特にコロナ禍以降、じわじわと浸透しています。人のにぎわいを生むパブリックスペースにみどりが大きな役割を果たす事例が増えているほか、生活者の実感としても、リモートワーク中に近所の公園やみどり豊かな場所を意識的に利用するようになったという声がよく聞かれるようになりました。
ただ一口にみどりと言っても、公園や緑地、街路樹や植栽など多くの人が思い浮かべる、いわゆるみどりだけではなく、商業施設や飲食店を彩るみどり、民家の庭や生垣のみどり、都市農地のみどりなど、その形態や規模はさまざまです。
みどりが持つ機能も、美しい景観をつくる、心身の健康に繋がる、生きものの多様性を育む、気候変動や防災に役立つ、コミュニティを活性化させる、新鮮な食べ物を提供する、経済価値を生み出す、教育・福祉の場として活用される、地域の文化やアートの拠点となる、クリーンエネルギーを創出する——など多岐にわたります。
こうしたソトとみどりの関係を考えていくには、都市計画、造園、建築、土木、ランドスケープ、まちづくり、生態学、ライフスタイル、都市農業、官と民など、各業界の縦割り構造を取り払い、包括して俯瞰する視点が必要です。そこで、みどりのチカラ=グリーンインフラを活用した東京のまちづくりを通じて、さまざまな社会課題の解決を目指すNPO法人Green Connection TOKYO(以下、GCT)とソトノバが、初めてコラボレーションするプロジェクトがスタートします。
6月に行われた座談会では、GCTから代表理事の佐藤留美さんと事務局の宮奈由貴子さん、ソトノバから共同代表理事の泉山塁威さんとディレクターの秋元友里さん、そしてGCTのアドバイザーとソトノバ・パートナーを務める「その他」領域のスペシャリスト山崎嵩拓さんに参加いただき、ソトノバ×GCTがコラボする意義や、今後手を携えて出来ること、広がる可能性について大いに語り合いました。
【参加者紹介】
◎佐藤留美:NPO法人Green Connection TOKYO 代表理事、NPO法人NPO birth事務局長
◎宮奈由貴子:NPO法人Green Connection TOKYOコミュニティプランナー、NPO法人NPO birthコーディネーター
◎泉山塁威:都市戦術家、プレイスメイカー、日本大学理工学部建築学科准教授、一般社団法人ソトノバ共同代表理事、一般社団法人エリアマネジメント・ラボ共同代表理事
◎山崎嵩拓:東京大学総括プロジェクト機構特任講師、ソトノバ・パートナー
◎秋元友里:一般社団法人ソトノバ ディレクター、日本大学理工学部客員研究員、山十四造園庭師
※本記事は「ソトみど」の記事です。詳しくは特設サイトをご覧ください。
Contents
みどりとまちづくりの接点を広げたい
まず、GCT佐藤さんから今回のコラボの経緯についてお話を伺いました。
(GCT・佐藤さん)GCTは、ニューヨークのProject for Public Spaces(PPS)が始めた公園緑地の国際会議「Great Parks, Great Cities」*1が掲げるような、まちづくりにみどりを活かす流れを作りたいと活動しています。
どんどん減っていく東京のみどりを食い止めたいと思う一方で、コロナもあって公園やみどりに対する意識や需要は上がってきました。
ソトノバさんの活動と私たちの活動がうまく繋がることで、さらに大きな輪が広がったり、新たなイノベーションが開けるんじゃないかなと。
東京のみどりの7割は民有緑地で、農地や屋敷林は急速に姿を消しています。みどりの持つ力を活かしながらコミュニティの場を作っていくなど、いろんなコラボが生まれたらいいなと思いますね。何よりもソトノバさんのことが大好きなので(笑)、一緒に何かできたらとずっと思っていました。
*1現在は「Greater, Greener, 開催都市名」の名称で、City Parks Allianceが主催
居心地のいい「ソト」にみどりは欠かせない
続いて、ソトノバ泉山さんから、近年のパブリックスペースの動向について伺います。
(ソトノバ・泉山さん)道路、公園、水辺などソトのパブリックスペースの中でも、都市部では飲食や商業など「にぎわい」的なものが注目されがちです。
でも、コロナが身近なみどりやパブリックスペースに目を向けるよい機会となり、空間をつくる際にも、みどりの質を上げる取り組みが増えている印象があります。
人の居心地を良くしたり、環境を良くするには、自然やみどりは欠かせなくなっている。先日視察したオーストラリアのメルボルンでは、お店や市民が自らみどりを増やす取り組みや促進するプロジェクトが生まれていました。東京を訪れる海外の方は一様に「東京にはみどりが少ない」と口を揃えます。世界的にもまちにみどりを増やそうとする動きは加速していますし、PPSが提唱するプレイスメイキングに共鳴する我々としても、GCTさんとは同じ方向を向いていると思います。
関連記事:緑と癒しのオアシス。メルボルンの路地緑化実験「Green Your Laneway Project」
それぞれが考える「ソト」と「みどり」とは?
ソトとみどりの当事者として 今回のプロジェクトに関わるメンバーにはそれぞれのバックグラウンドがあり、ソトとみどりに対して各々が抱く想いもさまざまです。
「東京近郊で農家(元農家)の家に生まれた」という共通項を持つ宮奈さんと秋元さんにとって、ソトとみどりの関係はまさに当事者問題です。
東京都小平市の元農家出身で、実家の雑木林を残したいという想いをきっかけに、まちづくりコーディネーターとしての経歴を活かし、佐藤さんが事務局長を務めるNPObirthに転職した宮奈さん。
元農家の私たち世代がせっかくあるみどりを残したくても、固定資産税や相続税等の課題が複雑で、みどりを活かしたライフスタイルに踏み出したくても、経済的な自立を含めたモデルに出会えずモヤモヤしている。発信力のあるソトノバさんとコラボすることで、当事者だからできるみどりのあるライフスタイルの提案やビジネスモデルを届けられたら
と期待を込めます。
「その他」や「間(あいだ)」の大切さ
人と自然の関わりについて研究する山崎嵩拓さんは、ランドスケープ計画を専門分野としていますが、自身の領域について「見落とされがちだが重要なテーマ」として語りました。
都市には土地利用、交通、防災など大事なテーマが多くある一方で、体育館裏のような意図して作られていない空間が社会的な機能を持っていたり、損なっていたりする。「他の専門で縦割りにすると漏れてしまうけど大事なテーマ」という意味で、「その他」の研究をしていると思っています。
建築、都市計画、土木、造園などのカテゴライズに囚われず「できるだけ間にいたい」と語る山崎さんのような知見と視線が、さまざまな分野を繋いで眺めていく必要があるソトとみどりの関係性を考える上では重要です。
都市の魅力は総合性。「みどり側からのまちづくり」と「まちづくり側からのみどり」の双方の領域性は理解しつつ、既存のテーマからは抜け落ちるけれど大事なところを拾っていく「地」の意識を育てていけたら。
と語ります。
山崎さんの話に登場した「その他の領域」は佐藤さんも注目するポイントで、
みどりと農と暮らしを総合的に表す緑・農・住がこれからのキーワードになっていくと思います。それぞれの専門性を融合させながら、その「間」や「その他」を考えていくことが重要で、新しい業界が生まれていくようになるといいですよね。
と未来を見据えます。
みどりの価値を引き出す
泉山さんが最近視察した事例として挙げたのは、群馬県前橋市の馬場川通りを再整備したプロジェクト。
暗渠から流れていた利根川の用水路に親水空間として、馬場川の蓋を外して木製デッキを歩道と一体化させ、水とみどりの遊歩道公園に生まれ変わりました。公民連携で整えられたパブリックスペースながら、資金面では民間主体で進められた点が大きな特徴です。
泉山さんは
まちづくりとみどりがうまくマッチングできると民間が投資する、という好例だと思いました。我々のコラボでも仲間を集めながらいい事例を作っていけたら面白いのでは。
と将来の可能性が広がります。
今、Z世代は特に環境意識が強いと言われていますし、メルボルンで見たように、これからは「みどりがある店」と「みどりがない店」があったらみどりがある店が選ばれるようになると思う。商業的価値を生む可能性があるみどりがストリートやパブリックスペースにも広がっていったら。
佐藤さんは
公園の活用やみどりを繋げることがまちの価値を高める事例は公園業界でも進んでいます。
と語り、その裏付けとなる研究とリンクさせられると理想的です、と付け加えました。
山崎さんによれば
みどりが人間の心身の健康、ウェルビーイングに良い影響を与えるという研究はこれまでも世界各地で行われています。みどりのない広場が都市の中心にあるヨーロッパでも、ここ10年ほどで伝統的な硬い素材の広場がみどりのある空間にコンバートされている。その背景には気候変動や環境問題はもちろん、「人が心地よさを感じる公共空間にはみどりがある方がいい」という認識が醸成されていて、みどりがある魅力的なパブリックスペースを作る動きは加速していく流れにあると思います。
仮設的な都市のみどり
都市農地は日本ならではの特徴であり、「都市の中にあるみどりは重要なワードではないか」と語る秋元さんは、
日本では農業やみどりが身近すぎて意識されてこなかったのではと思っていましたが、世界の流れを受けて日本も変わってきている気がします
と話します。
実際にGCTや、佐藤さんと宮奈さんが携わるみどりの中間支援組織NPO birthには、行政、企業、市民団体から、みどりの活かし方やみどりの事業についての相談が、ここ1、2年で激増しているとのことからも、関心の高まりが見て取れます。
関心が高まっていると同時に、「その他」を担う人材が足りていません
と佐藤さんは指摘します。
縦割り行政で分断されている日本の現状を踏まえて、
日本だと公園は土木や道路関係と繋がっていて「ハード面」で捉えられていますが、欧米の公園は「パーク&レクリエーション」で、社会教育やコミュニティの醸成と繋がっています。みどりは福祉、教育、防災、文化とさまざまな分野を繋げていけるものなので、その「見える化」を促進したり、研究者の皆さんと繋がることで、「みどりでコミュニティ促進が可能になる」という意識変容を促せるように発信していきたい。
と熱を込めます。
一方で、みどりを考える際にハードルとなるのは、
みどりは管理が必要な「コスト」として捉えられている
と泉山さんが指摘する点です。そして、
公園や街路樹のように常設的なみどりには剪定や手入れが必要ですが、僕がメルボルンで魅力を感じたみどりは仮設的で、お店の人や住人が自分で用意するみどりでした。道路の一部をパブリックスペースとして利用するサンフランシスコのパークレットでも、カフェオーナーのパークレットにはみどりがあった。「管理」ではなく自分の庭を「育てる」ような感覚がもっと身近に広まると、「みどり=管理」という固定観念が減っていくのでは?
とも語ります。
「仮設的なみどり」という見方に宮奈さんも頷き、
商店街のコンテナ花壇に一年草が植えられているような、「花いっぱい運動」的な景色は昔からありました。でも若い世代はそれにあまり魅力を感じていないと思います。移動できるコンテナにグラスを植えてお洒落な空間を作れるキットのようなものがもっと成り立っていくといいですよね。
と提案しました。
「ソト」×「みどり」のいい関係を考える ─ 題して「ソトみど」!
実体験としての都市のみどりの現状から、欧米や日本における都市のみどりのトレンド、都市のみどりと「その他」の領域の関連についてなど、縦横無尽に話題が広がった座談会の最終目的地は、このコラボにネーミングすること。
ネーミングも大切(左:ネーミング決定までのブレスト 右:都市のみどりにおける「緑・農・住」の関係図)都市のみどりにおける「緑・農・住」の関係性を図に描きながら、今は分断されているそれぞれの分野が繋がり、互いの専門性にリスペクトを持ちつつ統合していくのがこれからの「都市のみどり」ではないか、という佐藤さんの見解に一同の意見も一致します。
「ソトとみどりのイイ関係を扱いたい」(宮奈さん)
「みどりにはコミュニティを醸成していく力があると伝えられたら」(佐藤さん)
「みどりのある場所=“グリーンプレイス”、ソトのみどり=“ソトグリ”?」(泉山さん)
「誰かの手が入っているという意味で“ing”のイメージがある」(山崎さん)
などさまざまなキーワードが飛び交う中、全員の照準が合ったのは、宮奈さんが提案したシンプルかつ、ソトノバとのコラボ感も込められた「ソトみど」でした。
「響きがかわいい」
「カタカナとひらがなのミックスに意味が広がる」
「音階みたい(笑)」
と盛り上がる中、
外に出れば緑があるのは普通のことなのに、あえてソトのみどりと言うところが都市的だなと。
という秋元さんの新鮮な視点に、「それだけ今は都市にみどりがないということですよね」とさらに議論が深まります。
「ソトとみどりのいい関係」をあらゆる角度から考え、さまざまなシーンでの事例を発信していく「ソトみど」。
ソトノバ×GCTのコラボから生まれたプロジェクトが、いよいよ始動します。
文・構成:市川安紀
特設サイトオープン!
ソトノバWebサイトに、新しいカテゴリ「ソトみど」ができました。
ソトみどとは、” ソトとみどりのイイ関係” をコンセプトに、いまあるみどりや新たにつくられるみどりをどうデザインし、どんなしくみで継続させるのか、その具体例や手法についてみんなでシェアしていくための事例バンクです。
今後みどりに関する活用事例や情報については、特設サイトより、まとめてご覧いただけます。
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URL:https://sotonoba.place/tag/sotomido