ワールド・トレンド|海外
緑と癒しのオアシス。メルボルンの路地緑化実験「Green Your Laneway Project」
オーストラリア・メルボルンにある裏路地・Lanewayをご存知ですか。まちの魅力のひとつでもあるLaneway(小道、路地)では、アーティストがグラフィックアートを制作していたり、オープンカフェで寛ぐ人で賑わっていたり、ユニークな雑貨店や隠れ家的なバーが並んでいたりと、大通りでは出会えないような豊かな時間が流れています。
シティ・オブ・メルボルンはLanewayでの多様な活動を支援するだけでなく、Green Your Laneway Projectとして、緑化を促進する社会実験も行ってきました。
本記事では、メルボルン市の市民協働プロジェクトプラットフォームであるPARTICIPATE MELBOURNEと、2023年に公表されたGreen Your Laneway Projectレポートを参考に、社会実験の概要とその可能性について考えていきます。
Cover Photo 実際に緑化されたGuildford Lane
Photo by PARTICIPATE MELBOURNE
メルボルンのまちとLaneway
メルボルンは歴史的な街並みと様々な公共政策から、「世界で最も住みやすい都市」としても評価されています。
今でこそ「美しいまち」のイメージが強いメルボルンですが、1980年代頃までは急激な都市化に伴い、治安や交通をはじめとした多くの社会問題に直面していました。この状況を受け行政は1990年以降、計画的なまちづくりに力を入れ、公共空間の整備をはじめ、人々が歩きやすい・滞在しやすい仕掛けをつくってきました。現在ではまちづくりにビッグデータを中心としたさまざまなデータを収集、活用するなど、最先端の取り組みも行っています。
そんなメルボルン中心街でまちの個性を醸成し続けているのが、Lanewayと呼ばれる裏路地です。1800年代に馬や荷車の車道として使われていたこの空間は、1990年以降のまちの変化に伴い、特別な場となっていきました。
変化を続けるミューラルアートが目を引くLaneway 出典:Mesium華やかに賑わっていく大通りとは異なり、心地よく親しみやすい規模の路地空間は、人々の心を惹きつけ、表現や集いの場となり、今日も変化し続けています。行政もまちにおけるLanewayの大切な役割を認識しており、活用方法・保護方法共に様々な取り組みを行っています。
いくつかのLanewayはオープンカフェで寛ぐ人で賑わう 出典:City of MerbourneGreen Your Laneway Projectとは
シティ・オブ・メルボルンは、コミュニティを深めより楽しいまちをつくるために、2015年に路地の緑化に着目したGreen Your Laneway Projectを立ち上げました。中心部に400以上の道路があるメルボルンにとって、路地緑化の影響は計り知れません。
メルボルン中心街にある4つの緑化されたLaneway 出典:Green Your Laneway Project Evaluation2023また、行政主導のプロジェクトとして総額2,249,700豪ドル(約2億2550万円)が使われており、そのうちの87%が工事などのハード面に使われています。
Guildford Laneにおける路地緑化のイメージ図 出典:Green Your Laneway Project Evaluation2023プロジェクトがもたらしたもの
2017年に誕生した4つの緑化されたLaneway。実際に使われ時を重ねた結果、まちにはどんな影響があったのでしょうか。
今回のプロジェクトは、社会・環境・経済・技術・行政の5つカテゴリーにおけるその影響を評価基準としており、そこから得られた知見を下記のようにまとめています。
- 様々なメリットの提供
路地緑化はアンケートより経済・健康・福祉の面でのメリットを提供している。 - 場所にあった植栽の選択
その場にあった植物を選ぶことが長期的な路地緑化に繋がる。 - 各路地の特徴を捉えた計画
永続的な路地緑化を実現する方法に正解はなく、各路地にハード・ソフト両面の特徴があることを考慮して計画を考えることが重要である。 - 地域コミュニティの促進
路地緑化によって所有の意識や責任感が生まれ地域コミュニティが団結する。 - プロジェクト終了後の活動継続
プロジェクトとしての動きが終了した後もコミュニティによって緑の拡大が続けられた - 緑化の欲求
90%以上の住民や来訪者はより多くの緑を求めている。 - 意思決定への参加意欲
地元住民や企業から意思決定により参加したかったという反応があった。 - コミュニティチャンピオンの存在
路地緑化の長期的な成功には、プロジェクトの中心になるような「コミュニティチャンピオン」の存在が必要である。 - 民間リソースの有効活用
行政が責任や所有の所在を明らかにしたうえで共同出資の仕組みを持つことは、企業やビルオーナーがメンテナンスをするような民間リソースを有効活用した永続的な緑化に繋がる。 - 路地緑化に対する効果と期待
低コスト・コミュニティ主導型の路地緑化は、よりコストのかかっているアプローチと同等の効果が期待できる。
路地緑化の可能性
得られた知見を基に、今回のプロジェクトでは路地緑化の3つのモデルを提案しています。
- コミュニティ主導型
ー路地などの公共空間の緑化を行政のサポート付きで地域コミュニティが管理していく方法 - 企業主導型
ー公共空間に面しているビル内の敷地などの私有地の緑化を行政との共同出資などでオーナーが管理していく方法 - 行政主導型
ー他のプロジェクトや都市開発と連携するかたちで行政が主導となり進めてい方法
報告書では、コミュニティの活性化とメンテナンスのしやすさから①②がより長期的に続くものだとしたうえで、教育プログラムや適切な情報共有などのソフト面のフォローの重要さについても述べています。
緑化された路地のイメージ図 出典:City of Merbourneまとめ
今回のGreen Your Laneway Projectでは路地緑化の実装がされ、その中長期的な影響が観察されていました。まちの魅力のひとつでもあるLanewayは、人々の活動の場であるだけでなく、緑による癒しとその管理プロセスにあるコミュニティの醸成の場にもなっていきそうです。そして、行政主導のプロジェクトが単発で終わらず長期的なものに繋がっていることも印象的です。
Coromandel Placeの壁面緑化 出典:City of Merbourneテキスト:木村希