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ソトノバTABLE

都市とみどり 重なる領域と異なる視点|GCT×ソトノバTABLE#50 レポート

2024年、Green Connection TOKYO(以下、GCT)とソトノバが初めてコラボレーションし、新たなプロジェクト「ソトみど」が始動しました。

近年、都市のパブリックスペースや緑を活用する取り組みが活発になっており、まちづくりに関わるさまざまな立場の人々が、それぞれの方法でソトやみどりを活かした活動を展開しています。

「ソトみど」は、これらの活動の実践事例を発信・シェアし、新たな視点やアイデアを提供するための事例バンクです。

今回は、「ソトみど」のキックオフイベントとして、「ソトノバTABLE#50」が開催されました。登壇者は、GCTの佐藤留美さん、宮奈由貴子さん、ソトノバの泉山塁威さん、山崎嵩拓さん、秋元友里さん、そしてソーシャルグリーンデザイン協会・for Citiesの石川由佳子さんです。

この6名で、都市における「ソト」と「みどり」の関係や「ソトみど」の今後の展望について議論を交わしました。本記事では、その様子をレポートします。

01左:GCT佐藤さん、右:ソトノバ泉山さん

パブリックスペースのトレンド、ソトはどう使われている?

今回のソトノバTABLEでは、ソトノバから泉山さんが、その後GCTから佐藤さんが、それぞれの団体の説明を踏まえた話題提供を行いました。

泉山さんは、「ウォーカブルシティ」「健康とウェルネス」「DX」などのキーワードを挙げながら、世界各地のパブリックスペースのトレンドについて事例を紹介しました。

近年では社会情勢の変動により、都市環境に緑を取り入れたパブリックスペース「グリーンパブリックスペース」の動きが加速しています。特に、2015年のパリ協定を機に気候変動への対応が求められるようになり、新型コロナウイルス感染症の影響も相まって、屋外空間の価値が再発見評価される流れが生まれました。皆が大事だと思っていた「みどり」は、現在、より本腰を入れないといけないフェーズにいるのです。

02メルボルンの路地裏のストリートには、緑がたくさん植えられている(泉山さんのスライドより)

緑を取り入れたパブリックスペースの活用事例として、泉山さんはオーストラリア・メルボルンの「Green Your Laneway Project」を紹介しました。

メルボルン市は、2019年に「Climate and biodiversity emergency(気候と生物多様性の緊急事態)」を宣言し、公衆の健康を守り、経済を強化し、気候変動の緩和と適応を両立する都市を目指しています。

日本でも路地裏のストリートで沿道店舗がプランターを設置するような取り組みは見られますが、メルボルンではそうした”点”の取り組みにとどまらず、面としてに緑を取り入れることを都市戦略の一つとして位置付けているのです。

03メルボルン・レーンウェイにみるパブリックスペースのトレンドについて紹介(泉山さんのスライドより)

日本でも、オープンカフェやマーケットの開催、ベンチの設置などの「Activity」は多くみられるようになってきましたが、今日メルボルン・レーンウェイのトレンドである「Art」や「Green」のような、質の高い生きたみどりを取り入れた空間づくりはまだ発展途上であり、今後、日本でも新たなトレンドになるかもしれません。

民有地に依存する東京のみどりを失わないための取り組み

続いてGCTの佐藤さんから、東京都における緑の現状と今回のコラボに至る経緯を説明がありました。

都市には、公園や農地などさまざまなみどりが存在しています。東京には、農地や丘陵地、屋敷林などが残っており、他の海外先進都市と比べても、決してみどりが少ないわけではありません。

しかし、東京の緑地面積の7割は民有敷地に存在するため、民間資本による開発によって緑地の減少が懸念されているのです。

04「民地の緑がなくなると、東京の緑は危機的な状況になる」と話す佐藤さん(佐藤さんのスライドより)

そこでGCTでは、どうやってみどりを保護していくのかという現状維持的な活動だけでなく、新たなみどりの創出や、みどりの価値を向上させる取り組みを「みどりのブランディング事業」や「みどりのプラットフォーム事業」「みどりのインキュベーション事業」として位置付け、活動を進めています。

みどりのチカラをまちづくりに活かし、オープンスペースの魅力・価値を高めていくことで、人も生物もまちも元気になる未来を目指しています。

また、今回のコラボの経緯として、佐藤さんは

みどりを活かしたまちづくりはすでに各地で行われていますが、このムーブメントをさらに多様な分野の方と一緒に広げていきたい。

と話し、熱い思いを共有しました。

052021年Placemaking Japanの取組で佐藤さんと泉山さん、山崎さんが出会うこととなる(佐藤さんのスライドより)

自分たちの手で都市を使いこなす! SGD・石川さんの挑戦

そして今回は、コラボイベント第一弾のゲストスピーカーとして、ソーシャルグリーンデザイン協会(SGD)理事・for CIties 共同代表理事の石川由佳子さんを迎え、居心地の良いパブリックスペースを生み出すために必要な「みどり」とは何かについて、石川さんの活動紹介を踏まえながら話をしていただきました。

石川さんは、

まちづくりは行政や企業だけのものではなく、都市に暮らす一人ひとりが、まちを豊かにする担い手になれる。

と語り、「自分たちの手で、都市を使いこなす」ことをモットーに都市と人との距離を縮める活動に取り組んでいます。

また、神田にコミュニティ拠点「watage」を立ち上げ、今回のイベントはこのwatageで開催されました。

06ゲストスピーカー、SGD石川さん

・「一般社団法人for Cities(2019年設立):都市を体験し、学び、デザインするスタジオ。現在、65カ国のメンバーが参加し、「Urbanist School」や「Urbanist Camp」などのプログラムを展開。

一般社団法人Social Green Design協会(2021年から参加):環境や生態系の視点から都市の未来を考えるプロジェクト

07今回のイベントの会場となった「watage」

石川さんは、SGDで発行した書籍の話やベトナムでの経験について紹介しました。

都市は人間・経済中心であり、人とみどりの間には分断を感じる。

と石川さんは語ります。

SGDでは、「ただあるだけじゃない、みどりづくりのこれから」を創造していくことをミッションに、人とみどりがより近くにあり、活用できる場をつくることを大切にしています。

08「Social Green Design Magazine」(2024年発行)で、SGDの活動を多角的に紹介している(石川さんのスライドより)

そして、石川さんは「More than Human」脱・人間中心のまちづくりの事例として、ベトナム・メコンデルタ沿いのカントーというまちを紹介しました。

カントーは人口約160万人の都市で、世界でも人口増加が著しい地域のひとつです。ここでは、川と緑を活かした建築や生活スタイルが根付いており、人々が自然と調和しながら日常を過ごしている様子が印象的でした。

と石川さんは話しました。

特に興味深いのは、この地域では毎年9月頃に洪水が発生するにもかかわらず、それを「大地への栄養供給」と捉える文化がある点です。住民たちは洪水を脅威と考えるのではなく、自然のサイクルの一部として受け入れ、平然と生活を続けていることに驚かされたと語りました。

09壁や天井がなく、構造だけで成立するカフェ。石川さんは、こうした自然に寛容な場所が多いと語る(石川さんのスライドより)

ベトナムは、屋外に対して、とても寛容な文化を持っている。

と石川さんは話します。都市の中でみどりや自然と共存するあり方について、日本とは異なる視点から学ぶことができる貴重な経験だったようです。

「ソトみど」は、都市とみどりの重なる領域

続いて、スピーカーの3名とソトノバの山崎さん、秋元さん、GCTの宮奈さんを加えた6名で、オープントークが行われました。

今回、司会進行を務める山崎さんは、ソトノバとGCTの両方に所属しています。まずは、オープントークの導入として「ソトみど」の概要を説明しました。

10分野領域の図「ソトみどみとり図」(山崎さんのスライドより)

山崎さん:

都市とみどりは、どちらの分野も閉ざされた領域ではなく、広がりをもっています。そして、都市は環境やコミュニティの課題の解決を目指す視点、みどりはそのチカラを引き出すことを目指す視点をもち、自ずと両分野の「重なる領域」が存在します。

この「重なる領域」を「ソトみど」と呼んでみたとき、それぞれの視点で実践される取り組みがより具体化されると考えます。

さらに、分野にとらわれない視点や、あるいは、都市もみどりも接近しきれていない「空白の領域」を見出すこともでき、ソトとみどりに関する議論が活発になると考えています。

いろんな切り口があるからこそ、いろんな関わり方がある。

山崎さんからのイントロダクションを踏まえ、「重なる領域」や「空白の領域」について、それぞれが意見を交わしました。

泉山さん:

都市では「車から人へ」の流れとともに、人間中心のまちづくりにシフトしつつあります。。

しかし「みどり系」の人の中には、人よりも生物や緑を大事にしている人もいて、視点の違いに気づきました。

一方で、都市でも、環境問題の重要性が増す中で、自然との共存には分野を超えた取り組みが不可欠です。対話を通じて理解を深め、課題を乗り越えることが求められます。

佐藤さん:

仙台から上京した際、まちなかに畑や林があることに驚きました。

開拓をして、畑や林を仕立て、豊かな自然ができ、生き物が多様になっててきた歴史を振り返ると、都市化が進む中でどのようにみどりを残し、どのように価値を伝えるかが重要です。

東京は少し手を加えるだけで自然が戻る力を持っているので、みどりのムーブメントをもっと広げて活動をしていきたいと考えています。

11オープントークの様子

石川さん:

私は幼少期をドイツの自然に囲まれて過ごしました。そこでは、市民が森や緑を大切にし、みどりに従事する人々へのリスペクトを持つことがごく自然な価値観として根付いていました。一方で、日本の都市に暮らすなかで、そうした環境から自分が遠ざかっていることに気づかされました。

図の「③自然発生(編集部註:記事中の「分野領域の図「ソトみどみとり図」」参照)」なポジションにいる私から見ると、まちづくりには本来さまざまな専門性が関わるべきなのに、実際には特定の視点に偏っている場面も少なくないと感じます。

だからこそ、共通言語を持ち、フラットに議論できる場、すなわち分野を超えて対話できるプラットフォームの存在が重要だと思います。

領域を横断してものごとを言語化し、明確な評価軸を持つことが、これからの都市には求められるのではないでしょうか。

秋元さん:

私が育った環境では、周りにみどりがあるのが当たり前でしたが、都市にみどりを持続的に取り入れる難しさを、今回のイベントを通して感じました。

いろんな切り口があるからこそ、いろんな入り込み方がある。共通言語の不足や認識の違いがそれぞれの専門分野を分断し、話がかみ合わなかったり、課題が顕在化しにくくなることもあると感じます。

宮奈さん:

私は、「落ち葉や霜柱を踏めない場所には住めない!」と思うくらい、みどりはとても身近なものです。東京の緑地は7割が民有地にあり、私たちの世代が「この緑を残そう」という強い意志を持たないとすぐに失われてしまいます。

人々のみどりの価値観や考え方は、生まれ育った環境や原体験の影響が大きいので、学校の中の手が回っていない状況にある花壇や緑地で、もっと子供たちの原体験や自然体験を提供するために、いろんな角度から専門家が関われると良いなと思っています。

12「楽しみながら、無理なく続けられる仕組みについて発信していきたい」と話すGCT宮奈さん

無意識に求めるみどり、小さな自然をみつける「アンテナ」を持つ重要さ

佐藤さん:

みどりへの入口は、身の回りにたくさんあると思います。

都市の中にも、小さな自然が潜んでいて、そうした自然に気づくための「アンテナ」こそ、自分の見ている世界を広げるきっかけになるのではないでしょうか。

1970年代に出版された品田穣先生の『都市の自然史:人間と自然のかかわり合い』(中公新書)では、都市化が進んでも人々は無意識に自然との触れ合いを求める、と指摘されています。

石川さんがfor Citiesの活動の一つである「Urbanist Camp」の中で実践している「Re-Wilding(再野生化)」にも同じような考えを感じます。私たちは自然の一部であり、その繋がりを都会で感じることが本能的に必要だと改めて感じました。

石川さん:

先日、埼玉県の高校で授業を行った際、生徒たちが自然や生き物に対して多様な視点や、時にはロマンティックな感性を持っていることを知りました。

ある高校生が、「将来守りたい風景」として挙げたのは「登下校でみる畑の中の一輪のひまわり」でした。その花から、いつも小さな癒しをもらっているのだそうです。

私は、高校生たちが持っているこうした感性を、大人になっても忘れずにいられるよう自然を守っていくことが大事だと再認識しました。

ベトナムでは、土地の神様を祀る小さな祠が街中にあります。日常的に土地や自然への敬意が     表現されていますが、現代の日本ではそういった自然または自然の時間軸に対する感性が薄れていると感じます。

しかし、高校生との交流から、自然を求める本能的な感覚は、誰もが共通して持っている感覚であることを改めて感じました。

13「自然を求める本能的な感覚は、誰もが共通して持っている感覚」と話す、SGD石川さん

「ソトみど」をこんな場にしたい!

最後に、「ソトみど」の将来像について、期待や目標を一言ずついただきました。

泉山さん:

みどりの価値を投資として前向きに捉えることが重要だと感じました。評価基準の設定や行政との連携、積極的な活用が必要です。国内の多くの事例を参考にしながら、みどりの価値をどう高めるかを考えていきたいです。

秋元さん:

都市部にも、農家にルーツを持つ方々は多いと思います。宅地化や農地減少の現状をリアルに伝えることが大切で、現在直面している課題を解決するための情報提供が必要だと考えています。

宮奈さん:

みんなが楽しみながら、無理なく続けられる仕組みについて発信していきたいです。みんなが知りたい資金調達から、ちょっと素敵な看板データをみんなで共有できたりしていくと、もっと素敵なみどりの空間が増えていくと思います。

佐藤さん:

生態系を回復させる「エコロジカルマネージャー」や、都市環境教育に携わる「アーバンレンジャー」、みどりとまちづくりをつなぐ「パークコーディネーター」など専門のスタッフが、普及と教育を通じて価値を高めることが重要です。また、「ソーシャルワーカー」が福祉の視点からみどりを活用する動きもあり、みどりの力を引き出す人々が流れを作ることが大切だと考えます。

石川さん:

みどりは境界を越える重要なテーマであり、みどりの従事者が社会的価値を見出されるようなムードづくりや、みどりの価値の普及がこれからの活動のカギになると思います。

14イベントおわりの写真

「ソトみど」の活動は、記事として「ソトみど」タブから確認できます。イベントで取り上げられなかった質問は、後日記事として公開予定ですので、ぜひご覧ください!

(表記なき限り)Photos by Kotaro Shigeta

ソトみどとは

ソトみどとは、「ソトとみどりのイイ関係」をコンセプトに、いまあるみどりや新たにつくられるみどりをどうデザインし、どんなしくみで継続させるのか、その具体例や手法についてみんなでシェアしていくための事例バンクです。
今後みどりに関する活用事例や情報については、特設サイトより、まとめてご覧いただけます。
ぜひチェックしてみてください!
URL:https://sotonoba.place/tag/sotomido

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