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水と人の距離が近い! 水を愛する人が集まるオランダ・ライデンの水辺と人々の風景
オランダの首都、アムステルダムの南に位置する小都市ライデンは、街の歴史的中心部に88もの橋、総延長28kmを超える運河と水路があり、アムステルダムに次ぐ、最も水路の巡るオランダの都市です。
ライデンの運河の成り立ちは17世紀まで遡ります。外水路は市を守るために掘ったもので、水路の管理、輸送、開発のために、市を1本1本走っている内水路のグリッドを使っていました。その水域はライン川につながっており、内水路にも通っています。
そして現在も、観光用のボートもちろんのこと、土砂や木材などを運ぶ貨物船の行き交う、生活になくてはならないインフラとして息づいています。特に夏には、個人所有の遊船や水上スポーツ、子供達が泳ぐなど、市民にとっても身近な存在です。
そんなライデンには、水を愛する人が集まっています。オランダの水辺に憧れ、2017年より滞在中の筆者もその1人。著者は、日本でランドスケープデザインを学び、特に水辺に関心を持ったのをきっかけに、数ある水辺の中でもここ、オランダの水辺の風景にとても魅力を感じました。
今回は、この運河に囲まれた小都市ライデンを例に、水と人との距離感の近さをお伝えできるような水辺をご紹介したいと思います。
柵のない水面に向かって足をブラブラ
オランダの水辺と人々の近さは、日本ではあまり見かけることがないほどです。無粋な柵もなく、水路に向かって思い思いに腰掛ける様は、まるでベンチのよう。夏には人々が足を運河につけ、アイスを食べながら談笑している姿が街の風景になっています。オランダの中でも特にライデンは、何気ない普段の生活の中に当たり前のように水との接点がある都市の1つです。
運河沿いの9割を占める豊かな芝生
ライデンの街の中心部約1.72km2は、外水路に当たる総延長約5.5kmの運河に囲まれています。その運河沿いの両岸は、おおよそ90%以上が芝生に覆われています。中心部には8カ所の公園と植物園もあり、芝生は園内のメインスペース。それぞれが思い思いにのんびりと過ごせる空間になっています。
また、水際の歩道が芝生に沿うように敷かれており、人々が気軽に腰を下ろしやすいのもポイントです。緑地設計の際には、木陰をつくる樹木の位置や人の動線を意識することも、人が入る、生きた緑地空間をつくる重要な要素になります。
ボートを利用した注目スポット「水上カフェ」
運河沿いには、古いボートのベースや水際の歩道などを再利用し、水上にスペースを延長したカフェがあります。運河沿いに面しているだけのカフェも含め、水辺に近いカフェは人気。冬でもヒーターが使用され、少し?寒くともその雰囲気を楽しんでいる人々もいます。
カフェの人気には日当たりも重要。曇り空の多いオランダでは、太陽の光が出ていると人々が街にあふれるという傾向があります。著者は、カフェはまちづくりの1つとして、イベントとは違う日常生活の中のにぎわいの役割も担っている空間だと考えています。カフェを出店する際には、積極的に日当たりの良い物件に誘致し、優遇できる制度があれば良いなと思ってしまいます。
運河もステージに!
1年を通してライデンの運河上では、自治体や民間企業が主体となり、ボートを利用したイベントやパレードを実施しています。運河を舞台とすると、街全体が自由な客席のようになり、かつ生活道路をふさぐことがないので、比較的長い時間、多彩なイベントプログラムを組むことが可能なようです。運河のイベントは、ボートツアーを楽しみながらや、水際やカフェで座りながらのんびりと鑑賞できるのもメリットです。
こちらは、夜のボートツアーイベント。水際をステージとして、各ポイントで展開するパフォーマンスを、観客の方がボートで巡ります。普段は植物園や船着場の一部であるスペースをライトアップし活用しています。水辺が近いからこそ、ボートからの鑑賞は特等席です。
イベントは、自治体と民間企業の協力体制の上で、主に地元の民間企業が、パートナー・スポンサーとして共同で主催しています。市が2007年に設立したマーケティング担当の団体があり、そのウェブサイトにあるカレンダーでは、さまざまな主体によるイベントが一覧できます。
また、オランダで最も長い歴史を誇る総合大学であるライデン大学のオープンキャンパス時にも、大学内にとどまらず街の中心部全体を会場としてイベントを実施します。ライデンでは、街の中心部のコンパクトさや水路を活かし、街全体を1つのパブリックスペースとして捉え、協力体制を通してイベントを開催することで、市のプロモーションにもつなげています。
いかがでしたでしょうか?
著者は、日々の中で水辺に反射する太陽の光や夜の街灯を見たり、水の音や流れを感じたりするだけで、とても幸せな気持ちになります。このライデンに集まる多くの人々は著者のように、近距離の水辺との触れ合いを楽しみ、上手く付き合いながら日常生活を送っているようです。
物理的にも心理的にも水辺と人々との距離が近いことで、水辺、そして街全体のパブリックスペースにまでより豊かでさまざまな可能性をもたらしてくれているように思います。
All Photos by Yuko ASAUMI