ストリート|道路空間
レポート
実践者が語る!「ストリートデザイン・マネジメント」シンポジウムレポート後編
先進事例を解説したストリートデザインマネジメントシンポジウムの後半の様子をお伝えします!前編では、これまでの日本のストリートの歴史を俯瞰しつつ、課題やその解決策を議論する様子をお伝えしました。詳しくはぜひ前回記事を御覧ください。
後編で登壇したのは、東京大学准教授の村山顕人先生、東洋大学准教授を務める志摩憲寿先生、山口大学助教の宋俊煥先生、東京大学助教でありソトノバ編集長を務める泉山塁威先生、お茶の水女子大学の助教である小﨑美希先生という5名。クロストークには今シンポジウムのコーディネーターを務める東京大学特任研究員の中野卓さんが加わりました。
Contents
まちなかにウッドデッキ出現!低炭素まちづくり社会実験
まずは、村山さんから「ストリートから進める都市環境再生」というテーマでのプレゼンテーション。
名古屋都心部の2大拠点、名古屋駅地区と栄地区の間に伏見地区があります。村山さんは、伏見地区の錦二丁目で10年以上に渡ってまちづくりに関わってきました。今回は錦二丁目内の「長者町通り」というストリートで行われた社会実験の様子を報告しました。
錦二丁目では、2004年に地元のステークホルダーが集まりまちづくりを開始しました。2008年から3年かけてまちづくり構想を専門家の支援を受けて作成。これをもとに長者町通りの実践がはじまりました。
長者町通りは一方通行ですが、道路幅員が広いために逆走してしまう車が多く、車道を狭くし歩道を広げる整備も計画しました。これらのビジョンを叶えるために社会実験を実施します。
また、名古屋市が低炭素都市戦略を掲げていたこともあり、低炭素化も大きなテーマに掲げることを決定。低炭素地区まちづくりプロジェクトを立ち上げ、モデル地区の認定もうけました。
市民との合意形成は大きなチャレンジでした。危険走行をなくすことに着目して話を進めることで、誰もが共感できる意義を見出し社会実験の実施へとつなげることができました。
拡幅部分の清掃や地下の配管、何かあったときの損害賠償などといった責任をまちづくり協議会が持つことを決定したり、ウッドデッキの安全性を確かめるために車で乗り上げてみる、摩擦係数を図って雨の日の滑りにくさなどを確かめるなど、準備を重ねて障害を乗り越えたといいます。
実行にあたっては、専門家に指導をお願いしつつ、市民参加でウッドデッキを施工することに成功。今後は、パークレットを取り入れていくなどの新たな展開を模索しています。
以上、村山さんのプレゼンテーションでした。名古屋の2つの中心地をつなぐ重要な役割をもった錦二丁目で、確実にオープンスペースが変化している様子が伝わってきました。この変化の集積が、豊かな街並みを形成することが想像できて、ワクワクするプレゼンテーションでした!
ストリートの最先端はインドネシアにあった?!
続いて、志摩さんです。「生業・生活の場としてのストリート論」と題して、インドネシアのジョグジャカルタについてお話しいただきました。
ジョグジャカルタは、人口300万人ほどの街です。日本でいうと京都のような歴史ある町として知られており、志摩さんが事例として取り上げたのは、王宮から北に伸びるメインストリート「マリオボロ通り」。歴史深い中心市街地の核に、実に1200ほどの露店が並びます。
都市のアイデンティティとも言えるこのマリオボロ通り。近年はマネジメントを行うマリオボロ地区マネジメントユニット(以下、UPT)が行政内に設置され、ストリートのデザインガイドラインを作っています。
一方で露店事業者たちは、パグユバンとよばれる同業者組合を組織しており、その数はマリオボロ通り全体で24団体あるそう。パグユバンは1970年代ごろから存在していて、UPTが設置されるよりもかなり先に組織化された自治を行ってきました。
近年では、UPTが道路沿いに柵を作り、その中で露店を営むように指導するなどしています。そのせいもあり、少しさっぱりした印象になったと言いますが、よく見るとそのルールを超えて自分の与えられているエリアからはみ出して営業する「はみ出し出店」が存在すると言います。
どうやら近隣同士でネゴシエーションがあるらしく、自分が営業していないときは隣の露店に場所をかすなど、様々なやり取りが見られます。志摩さんはここにインフォーマルセクターvsフォーマルセクターという二項対立を超えた状態を見出しています。
このようなはみ出し出店によって、露店がない歯抜けの場所が埋められて、マリオボロ通りが迫力のある風景になっているといいます。志摩さんは、制度的なマネジメントや、屋台主のコミュニティが成立していることは必要不可欠ですが、このように大きなガバナンスと小さなオペレーションのバランスが取れていることが理想的であると主張しました。
私は、普段あまり聞くことができないインドネシアの都市についての話を聞けて、とても興奮しました。志摩さんの言うように、日本や他の先進国が追い求めている答えが、実は東南アジアにはたくさん眠っているのかもしれません!いつか調査に訪れたいと思いました。
ストリートの賑わいを日常的なものにするための極意?!
3番目の登壇者は、宋さんです。「ストリートから育む地域ガバナンス」というタイトルで、福岡天神地区のきらめき通りの事例と、東京丸の内の仲通りの事例を話しました。
天神地区は2010年に発足したエリアマネジメント団体「We Love天神協議会」がストリートマネジメントをしています。きらめき通りは地区内のストリートの1つで、ここでは主に春と秋に開催されるストリートパーティと簡易型ホコ天の2つを実施しています。
ストリートパーティは、歩道や公開空地等、車道以外のオープンスペースを使って開催されるイベントです。交通管理者である警察とは慎重な協議が必要なことや、実施する上でのコストが大きな課題になっているそうです。
簡易型ホコ天は、逆に警察からハロウィンパーティの対策としての要望があって実施することになったプロジェクトです。コストもかけずにストリートを魅力的な空間へと変えることができるため、歩行者天国を日常化するという未来も見えるといいます。
続いて、地権者が主体となってマネジメントを実施している、丸の内・仲通りでの社会実験の様子です。仲通りの活用は1960年頃からすでに始まっており、マルシェなども実施していたといいます。
現在、仲通りは「大丸有エリアマネジメント協会」がマネジメントをしており、毎日一定の時間帯で歩行者天国にする「アーバンテラス」はその代表的な活動です。テーブルやイスなどの設営はビルの管理会社に委託し、協会自体は仲通りに出店できる店舗数や種類のコントロールを含む、地域におけるオープンスペースの柔軟な利活用を促しています。
最後に、運営側の経済面も含めたマネジメント能力や利用者側の支出能力が高いほどより日常的な風景としてのストリートの活用が可能になると結論づけて、発表を終えました。
宋さんのプレゼンテーションは、オープンスペース利活用を日常化していくという近年多くのプレイヤーが課題にしている点に対する答えだったと思います。ストリートの賑わいをイベントではなく日常の風景にしていくための実践、考えていきたいです!
社会実験はイベントではない!社会実験が超えるべき課題
続いて、泉山さんから「ストリートの実験的活用とアクティビティ評価手法」と題したプレゼンテーションです。
冒頭で、近年日本の各地で数え切れないほどの社会実験が実施されているものの、単なるイベント化してしまっているケースが増えていきていることを問題提起しました。その問題の多くは社会実験に入る前の準備段階が不足しているからではないかと主張。
PDCAサイクルで見てみても、計画(Plan)のフェーズでやることが圧倒的に多いことがわかります。一度にすべてのことを実験するのは難しいので、計画で描いた理想像を実現できるよう少しずつ段階的にできることを増やしていくことが大切と、自身の社会実験進化論を唱えました
プレイスメイキングやタクティカルアーバニズム、アクションオリエンテッドプランニングというような概念が広まりつつありますが、これらに共通しているのが、実験を繰り返しながら長期的に改善していくという姿勢です。
こういった様々な手法がある中で、何から始めるのか、どんなビジョンを持っているのかなどの違いにより最適な手法が異なるため、考え方と手法をしっかりと見極めることが重要です。
最後に、いくつかのアクティビティの評価手法を様々な事例を混ぜながら紹介。よく評価として使われるのが、「集客◯万人」という指標ですが、パブリックライフの測り方としてはそれだけでは不十分です。訪れた人の滞在時間を測ることが重要であり、また評価基準は何を得たいかなどの目的や仮説をもとにしてプロジェクトごとに自己設定することが大切であるとしました。
私は泉山さん主催の活動に参加することが多いのですが、今回は普段以上に完成されたプレゼンテーションで、研究会の完成度の高さやストリートへの想いが感じられました。近年スピード感のある都市デザイン手法が目立ってきているからこそ、急ぎすぎず綿密な戦略を立てることを意識したいものです。
ストリートを評価する夢のチャートが完成!
最後の発表者は小﨑さんです。「ストリート快適性の評価」というお題でプレゼンテーションしました。小﨑さんの専門は建築環境工学であり、今回のストリートデザインマネジメントの研究会の中では貴重な存在です。ご自身も、この研究会の中に建築環境工学の専門家として関わる意味を模索しながらの研究だったといいます。
小﨑さんは、たくさんのストリートの事例がある中で、これらを横断的に評価できるストリート評価チャートを作成しました。
この評価チャートの最大の特徴は、1点満点ルールというもの。これは、各カテゴリ、たとえば「緑の多さ」、「空の見え」、「明るさ」などの「環境」というカテゴリ内にある性能項目の合計が1になるように点数をつけるルールです。このルールはすべてのカテゴリ、階層に適応されます。
この評価チャートは様々な場面で利用可能です。たとえばストリートデザインマネジメントで考慮すべき点を知りたいと思った際には、既存の評価項目をもとに地域性や季節感なども考慮しさまざまな項目を増減させることで、そのストリートのウィークポイントやポテンシャルの把握などが可能となります。
また、あるストリートの総合評価が知りたい場合には、複数人でストリートの様々な箇所から評価を実施し得点を算出。同じ項目で調査した別のストリートと比較することで相対的にストリートの評価が可能となります。整備前後で評価することで、整備の効果を測定することも可能です。
最後に、この評価チャートが室内空間でも応用可能であることを報告。今後も使用可能性を広げていくとのことです。
以上、小﨑さんの発表でした。ここではとても表現できないほど、詳細なリサーチと実験の結果として評価チャートが作られているようでした。その複雑なプロセスの末に完成した、非常にシンプルでわかりやすいな評価チャート、ぜひ使ってみたいです!
横断的に交わされるストリートの課題とこれから
村山さん、志摩さん、宋さん、泉山さん、小﨑さんに、コーディネーターを務める中野さんが加わってクロストークが始まりました。
現場から見える課題
1つ目の議題は「ストリートデザインマネジメントの現場から見える課題」現場に関わる中で、感じられた課題を率直に話してもらいました。
村山さんは
「地権者や一般の利用者に響く共通目標を作るのが難しかった。さらに共通の目標を作ることを意識しすぎると、本来みんなで共有したい課題や達成したい目標とずれてしまったり忘れ去られてしまったりすることもあります」
と打ち明けました。
泉山さんは
「ストリートのマネジメントにおいて、どのようなベクトルに向かっていくのかを示すことが非常に重要で、たとえば経済効果などを示せないと商業関係者はついてきてくれない。そういう専門的な視点を持ったビジョンを描ける人(ストリート戦略家)が今必要とされています」
と問題提起。
宋さんは
「行政と商店街では考え方やスピード感がぜんぜん違う。商店街は今までの経験や価値観などを何より重視する傾向がある。理論上の数字だけでは動けない人たちとどう協働していくかが課題だと感じている」
と、宇部市での自身の取り組みを混えてお話しました。
東南アジアストリートマネジメントの現状と課題の共有を求められると志摩さんは
「東南アジアだから課題が違うということはない。しかし、マリオボロ通りの場合は先に地域ガバナンスが形成されており、日本がたどり着きたい状態に一番近いとも言えます。東南アジアから学ぶべきことは多いのではないかと思います」
とコメントしました。
クオリティオブストリートライフとは
2つ目の議題は「クオリティオブストリートライフについて」です。 賑わいや交通量だけがストリートを図る指標ではなく、そこで過ごす人々の時間の質に焦点を当てるべきだという考え方が重要性を高めているように見えるという中野さんからの話題提供がありました。
これに対して泉山さんは
「AIなどの技術とアナログをどうミックスし質を測るかが現在の課題です。また、大学が関われない、予算も人材も不足しているような場所で詳細な調査を行うことは現実的ではありません。そのような場所で実践するための解決策が必要ですね」
と話しました。
いろいろなストリートを横断的に評価できるチャートを作成した小﨑さんは
「私が作成したものは環境評価に関するチャートであり、一方で泉山さんのような評価は計画学的な評価になるので評価軸が違ってくる。ある程度項目を限定することで横断的な評価が可能になると思う。」
と評価軸の設定の重要性について言及。
「例えば商業施設は現在トイレの美化に注力している。直接売上につながらなくてもトイレをきれいにすることで施設全体の印象が向上することがわかってきている。屋外の環境的側面も同様に、前提として整えるべき基本の水準を高めるという意味で強化していければ良いかもしれない。」
と続けました。
これからのストリート像はどうあるべきか
最後の議題は「これからのストリート像はどうあるべきか」という将来への問いかけです。登壇者から一言ずつもらいました。
小﨑さんは
「運営側や地権者側だけでなく、ユーザーの観点から評価した時に、より良いストリートとなるべきだと思います。」
と話しました。
宋さんは
「大都市はストリートを中心とした都市計画において、全体を群として公共空間と民地の関係性をつなげながら考える必要があると思う。地方は、イベント時しか人が集まらないという現状がある。この先イベント的に終わらせないためにどうするかを考えたいです。」
と語りました。
泉山さんは
「海外に比べ不動産価値などに目が行きがちだが、もう少し文化的な価値に目を向けても良いんじゃないかと思います。また、日本ではまだストリートに無関心な人が多いので、ストリートに関わりたいという気持ちをいかに醸成するかが大事だと思います。」
と締めました。
志摩さんは
「日本は課題先進国なので、他の国に応用できそうなヒントはたくさんあります。また、グローバル化が進んでいるなかで、観光をきっかけとした他者からの目線を大事にするべきかもしれません。」
と伝えました。
村山さんは
「リビングルームとしてのストリート。狭い室内空間を補完する空間としてのストリートへ。もっと自由なストリートにするべき。そのための一役を担うべきはマネジメント組織だと思う。」
と言い残しました。
最後に中野さんはどう進めるかということに関して課題、解決方法が出たと思う。ストリートは多種多様であることがわかったが、人を中心に考えてストリートをデザインしマネジメントすることの重要性を改めて実感することができましたと第二部をまとめました。
シンポジウムの最後は、ストリートデザイン・マネジメントのウェブサイトの紹介。
これからは、データベース機能を備えたウェブサイト(5月本格オープン)を中心に、提言や情報発信といった活動の幅を広げていきます。
いかがでしたでしょうか。
日本のストリート研究の集大成がこのシンポジウムに詰まっていたと思います。時間が許すのであれば、ひとりひとりのプレゼンテーションを60分くらいとって聞けたら良いなと思いながら聞いていました。
3年前にミニシンポジウムで共有された内容から様々な発展があったように、またこうして数年後にストリートの最前線を議論する場が設けられた時、どれくらい議論が発展しているのか、そしてどれくらいストリートが豊かになっているのか、今から楽しみです。