ストリート|道路空間
レポート
日本ストリートの集大成!「ストリートデザイン・マネジメントシンポジウム」レポート前編
2016 年の ストリートデザイン・マネジメントミニシンポジウム から 3 年。ついに 2019 年 3 月に、書籍 『ストリートデザイン・マネジメント 公共空間を活用する制度・組織・プロセス』が出版されました。書籍は、国内で名を馳せるストリートの専門家 15 人による共著。今回は、 3 月 3 日に東京大学で開催された 4 時間にわたるシンポジウムの様子を前編、後編に分けてお伝えします!
前編は、第一部「ストリートを歩行者にひらく その課題と解法」に執筆した方々の中から、東京大学教授、柏の葉アーバンデザインセンター( UDCK )センター長の出口敦先生、横浜国立大学理事・副学長を務める中村文彦先生、横浜国立大学准教授である野原卓先生、 横浜国立大学助教でありソトノバライターでもある三浦詩乃さんの4 名が登壇し、プレゼンテーションとクロストークを展開しました。クロストークには、元警視庁交通部理事官であり今は交通運用研究所の代表を務める秋山尚夫さんにも加わっていただき、交通を管理する立場からみたストリートの過去と現在についてご意見をいただきました。
Contents
福岡の屋台から始まるストリートストーリー
シンポジウムは、出口敦さんから、「ストリートデザイン・マネジメントとは」というタイトルのお話から始まりました。
最初に全 8 章ある書籍の概要を説明したあとで、ストリートをデザインすることとは何か、そしてマネジメントすることとは何かを整理しました。
ストリートのデザイン対象は、現在 3 つに分類することができると言います。1 つ目は「空間のデザイン」で、ストリートの幅や段差などのしています。 2 つ目は「環境のデザイン」で、色彩や音響といった空間に存在する要素を対象としています。これら 2 つのデザイン多少に対する研究が古くから深められてきたのに対し、近年は 3 つ目の「場のデザイン」への関心が高まっています。場のデザインとは、ストリートを社会的な意味のあるデザイン対象として、その活用法を志向することを指します。場のデザインに特に注目しながら、ストリートのデザインを総合的に考えることが求められています。
出口さんのストリートに関する研究の原点は、福岡の屋台にあると言います。屋台には衛生法に基づく営業許可、道路交通法に基づく道路使用許可、道路法に基づく道路占用許可など、様々な法制度が関わって初めて成り立ちます。「ストリートは法律によって管理されている空間であり、これらの法制度を理解しなければ、ストリートを利活用していくことは難しい」ということを実感したそうです。
その中で見えてきたのが、ストリートデザインすることに加えて、その後に活用、管理する「マネジメント」の大切さです。従来であれば行政が整備し管理していたため、あまり意識することはなかったこの分野。しかし、近年民間がパブリックスペースを活用するようになってから、行政による管理の方針と噛み合っていないなどの問題が生じています。そのギャップを調整する役割として、この 10 年くらいの間に一気に広まったのがエリアマネジメント組織の存在。さらに出口さんがセンター長を務める UDCK をはじめとした UDC(アーバンデザインセンター) は、行政と協定を結んでデザインとマネジメントを一括して行う組織になっています。
エリアマネジメント組織や UDC のような調整組織にとって、管理と活用のバランスをいかに保つかは特に重要な論点です。プレゼンテーションの最後では、両者のバランスを保つために道路と街路を今一度区分すること、第 4 種道路の等級の決定方法の見直しをすることを提案としてまとめました。
交通計画の3つの視点を伝授!
続いては、中村文彦さんから「交通計画からみたストリートの歩行者へのひらき方」というタイトルでのお話。
まずは世界中の魅力的なストリートの写真を見せた後プレゼンテーションに入っていきます。交通計画のあり方として、複数の交通手段を選べること(マルチモーダル)と手段と手段のつながりが良いこと(インターモーダル)の 2 つの考え方があるといいます。 いずれにしても、それぞれの交通手段は魅力的であるべきだし、中でも「歩行」は最も重要、そして適切な情報提供と選択支援が必須であるべきだと主張しました。
ストリート、街路に対する人々の意識がどのように変化してきたのか。そしてどのように変化していくべきなのかを考える必要性がありそうです。そこで注目すべきはLink (リンク)とPlace(プレイス)というキーワード。リンクは他の目的地に向かうため移動、プレイスはその場に魅力や利便性を感じて利用する活動のこと。交通計画でもリンクのためだけではなく、プレイスにも配慮する動きがあるとのことです。
このような計画をするときに考えるべき視点は、大きく 3 つに整理できます。
1 つ目は管理という言葉の定義について。交通管理と道路管理は別物であり管轄も別であるものの、どちらにも「安全と円滑」というキーワードが出てきます。「何の安全と円滑なのか、何を軸にしてこれを確保するのかを考えることがとても難しいし、大事なこと」と中村さん。まちづくりの交通戦略と、交通管理や道路管理をどうつなげるかも同時に考えていきたいと話します。
2 つ目の交通計画の視点は、歩行者空間化することで生じるインパクトの整理について。インパクトには、短期的なものと長期的なものがあると言います。短期的なインパクトは、 歩行者や自動車利用者にとってのプラスの変化とマイナスの変化を見定めることで整理することができます。長期的インパクトは、歩行行動や滞在行動、沿道建物の用途、自動車利用パタンの変化などを観察することで整理できます。
3 つ目は、実現可能性について。財源、制度、技術、合意形成という 4 つの切り口から実現可能性を判断しますが、ここでは特に制度、合意形成について少し深掘り。制度については、1点目に出てきた「安全と円滑」について議論する必要があります。合意形成は、なるべく早めに交通管理者と道路管理者を巻き込んでいくことが重要であり、 VR などの技術や社会実験などがツールとして有効です。
特に3点目については、様々な別の分野の人が集まると、同じことを話しているつもりでも違う理解をしている可能性があります。中村さんは、共通の理解を生むためには、言葉や用語の整理が大事だと主張しました。また、関連主体についても、たとえば、「行政」とまとめてしまいがちですが、行政の中でも様々な課があり、役割や姿勢は課によって違うなど、丁寧に関係者の役割を認識することが大事だと話し、プレゼンを終えました。
移動を前提とした空間でできること
3 番目の発表者は、横浜国立大学准教授の野原卓さんです。「まちなかにおけるストリートデザイン・マネジメント」と題して、近年移動(交通)のあり方が変わる中で、ストリートをいう公共空間をどのように捉えるべきなのかということについて考えます。
ストリートを考えるキーワードの1点目は、「移動空間である」という大前提です。 2 点目は「まちとの接点」。 3 点目は「公共空間である」ということ。 4 点目は「縮減時代を迎えている」ということ。
1 つずつ見ていきます。
「移動空間である」
「移動」(動き+方向)の場であるストリート。滞留する場ではなく移動する場だという前提で考えることが大切です。歴史の流れの中でストリートは、歩車分離から歩行者専用化に繋がり、さらに共存化の流れが生まれ、現在のマネジメントへと発展してきました。流動と滞留が 1 つの空間の中で起きるのがストリートマネジメントの特徴といえるでしょう。書籍で紹介されている松山市の花園町通りでは、移動の中に滞留が共存するような空間のデザインをしています。
「ストリートはまちとの接点である」
ストリートは街と人が出会う場所、また、私空間と公共空間が接する場所だと解釈できます。だから一体的なデザインには、個人や民間と公共との間で会話の必要性が生まれ、これをきっかけに個人と行政がひとつになって、みちからまちも考えることが可能となり、より広い範囲でのまちづくりが展開されるようになります。例えば、横浜の日本大通りでは、大きなガバナンスと小さなオペレーションを組み合わさっています。
「公共空間である」
都市とは都(公共空間)と市(市空間)。お互いに空間を補完し合うことで成り立った生活空間です。つまり都市内の公共空間では、民間が手の行き届かないところに対処する場づくりが大切であり、例えば 1960 年代ごろに作られた遊戯道路は、不足する遊び場を道路を使って補う多機能的で柔軟な活用法だったと言えます。
「縮減時代を迎えている」
マネジメントに関わる主体がいないという問題はどこにおいても起きていますし向き合っていかなければいけません。横浜市の場合、まちの中心・関内で、たまたま 4 つのストリートで別々の利活用実験が行われていた日がありました(‘関内外オープン’)。活動が連携して一つの方向に足並みをそろえていくことがとても大事です。資源が限られている中で、力を集積するための多機能化や不確実な未来に対応できる柔軟性やレジリエンスがストリートに求められています。データを共有したり、また SNS などを利用し、関わりをかき集めるような工夫もまちづくりの流れを作る上で重要です。
最後に、マネジメントの①隙間を埋めること、②関与の枠を広げること、③大きな役割と丁寧な役割の調整、④個性をかき集めた多機能化を推進すること、⑤居心地の良さや快適性の向上を目指したスマートストリートを目指すこと、といった課題を示唆し、野原さんはプレゼンを締めくくりました。
日本のストリートのムーブメントとプレイスの関係
第一部最後の発表は、三浦さんによる「ストリートに関する施策と制度の国際比較」です。これまでの 3 人のプレゼンターが挙げたキーワードが、なぜどのように生まれてきたのかを国際的な視点からまとめました。
まずは、先進国事例を中心にストリート政策と制度の国際的潮流について整理します。近年のストリートデザイン・マネジメントの流れは Livable city(住みやすい都市) や SDGs (Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標 )といった目標に大きく関わっています。ストリート施策は、これらの目標を手軽に、効果的に、そして公平に達成できる手段として注目されています。
Livable City や SDGs といった目標を掲げて取り組まれている事例を紹介します。まずはイギリス・ロンドンのHealthy Streets for London という事例。メンタルヘルスも考慮した保健衛生という観点から街路空間に再投資している事業です。続いてバルセロナの住宅地内の通過交通を排除しようとする事例について。もともと歩行者優先だった場所を、活発な市民活動を最優先にした計画へと進化させた施策です。住環境だけでなく生態系の改善も図っています。
これらの 2 都市が参考にしていたのが、ニューヨークのプラザ・プログラムです。 10 年前から続けられているプログラムで、ストリート上の広場と移動図書館や、食事の提供などのプログラムを組み合わせ、多様な人種の近隣住民が空間を共にします。これらの事例に共通しているのが、民間組織と行政のパートナーシップにより実現しているという点。つまり、いかに行政が管理しているストリートに民間を巻き込むかということが、カギになるのです。
日本のストリートをデザイン・マネジメントする上で、日本のストリート上の「プレイス」について時代の流れを改めて振り返ってみました。 50 − 60 年代、都市化とモータリゼーションが発達した頃、プレイスを求める人々は地域住民中心でした。 70 − 90 年代のビル開発が盛んだった頃、ソトからの来街者が中心になります。 2000 年代に入ると、大都市と地方都市とで状況がわかれ、前者はマンション開発が多発し、来街者と新住民が中心になったのに対し、後者のストリートでは空洞化が進み、来街者の高齢化を考慮する必要があります。
このような現状において、日本のストリートはどのように変わっていけばよいのでしょうか。三浦さんは、高齢化により一息つけるようなプレイスの存在はますます重要になってくると言います。こういった空間を提供するためには、住民や行政にメインストリートでプレイスの意義を体験してもらうとともに、交通としても問題がないことを示す実験が必要です。そして、つくられた質の高いプレイスの維持には、多様な民間の担い手が求められていきます。
秋山さんに教わる!ストリートの過去と現在そして未来
登壇した 4 名に秋山さんを加えてのクロストークです。まずは、交通管理者側としての意見を秋山さんから。
前回のオリンピックの前は、自動車に依存した社会になることを疑わなかったため、幹線道の交通をいかにうまく流すかという議論が中心だったそうです。そこへ、環境悪化の話が持ち上がり、やはり歩行者のことを考えなければ行けないんじゃないかという雰囲気が生まれました。その象徴的な事例になったのが銀座の歩行者天国で、 70 年代の遊戯道路もその流れをくんでいると言います。秋山さんは、交通管理者として拠り所を持って歩行者天国などの取り組みをサポートしてきたと語ります。そのうえで
「拠り所への考え方は管理者等により違うんじゃないか。」
「最もわかりやすいのは一般の人にとってどれくらい影響があるのかで、影響の程度を指標化するなど一般人にわかりやすい判断器要素が求められる」
と話しました。
野原さんからは秋山さんへ質問が。
野原さん「リンク・アンド・プレイス論(中村さん、三浦さんのプレゼン参照)にあったように、ストリートを移動とプレイス両方の目から考える必要があることがキーだと思う。異なる管理者、計画者がどのように両者のバランスを揃えられるか。テンポラリーに実現することはできるようになってきたが、恒常的に協力体制を取ることは可能なのか」
これに対して、秋山さんは用語をそろえること、プランニングの時点で一つのチームとして用語を共有し同じビジョンを描けるかどうかが大事だと明言しました。一方で、将来ビジョンが明確でないまま相談に行くと、理解してもらえないことが多く許可が降りなかったりするということ。
次の話題は、管理者と計画者の協働の機会が多いのが実証実験や社会実験について。
出口さんは、九州最大の繁華街で複合的な社会実験を実施したエピソードを語ります。福岡県警には、 1 回では理解してもらえずだったと言います。
出口さん「日本では交通管理者が警察。行くと、実験はなぜここじゃなければならないのかという話になる。どう説明できるのでしょう。
秋山さん「対象地でやることによる影響をどれだけ把握しているか、どういう対策を用意しているかが大事。銀座の歩行者天国も、警察側でまず考えるべくは緊急車両をどうやって入れるか、消防はどうすべきかということで、優先順位が異なる」
「長い目で見ると、警察も慣れてくるんじゃないか。利活用が当たり前になってくるまでもう少しなのでは。」
と前向きな意見も。
中村さんからは
「社会実験が増えていき、警察も慣れていいくと思うが、何のための実験で、終わった後どうするのかという話が出てくる。この先いろんな実験が増えていく時、どんなことに注意すればよいのか」
秋山さん「社会実験の推進体制、長期的なプランなどの精度についてしっかりと見ていく必要がある。長期的なゴールをいかに見据えているか、社会実験の仕組みも考える必要がありそう。」
また、クロストークの最後に秋山さんから、
「自転車を歩道にのせたのは昭和 46 年だったと言います。自転車は交通弱者であるという判断をした当時と現在では、大きく自転車に対する考え方も変わっていると思う。ぜひ自転車の扱い方なども考えてほしい」
と、多様化する交通手段に対する価値観への対応について問題提起をいただき前半が終了しました。
非常に濃度の高いシンポジウム第一部、いかがだったでしょうか?
管理する立場と活用する立場、リンクとプレイスのような、二項対立をいかにバランスをとるかということが議論の中心だったように思います。この二項対立を超えた未来をデザインしていけたら良いなと思いました。
後編では実践的な先進事例を軸にした、プレゼンテーションの様子をお伝えします!