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レポート
ストリートデザイン・マネジメントとは何か? 「ストリートデザイン・マネジメント」研究会公開ミニシンポジウム・レポート
先日3月15日(火)、東京大学本郷キャンパスにて「ストリートデザイン・マネジメント」研究会公開ミニシンポジウムが開催されました。
会場は満員御礼!ストリート、公共空間への関心の高さがうかがえます。
リーダーの東京大学大学院・出口敦先生の下、都市計画学、土木計画学、建築学各分野の研究者と実務者、総勢11名のプレゼンター(ちなみに筆者も入っています)が登壇し、自身の「ストリートデザイン」とそのマネジメント論について語る大変ボリュームのある内容でした。
セッションⅠ 『ストリート空間とデザイン』
セッションⅠは、筆者のボスでもある横浜国立大学大学院・中村文彦先生による「公共交通を軸としたストリート研究の最新動向」の発表を皮切りにはじまりました。
街を象徴するトランジットモールを持つ南米都市のバスレーンと歩行者の関係(クリチバ市:線-沿道、ボコタ市:点-広場、メデジン市:線-本線)、それにより歩行者が大切にされる街となっている様子をご紹介いただきました。
トランジットモールはゴールではなく、あくまでWalkable town(歩きやすいまち)を実現するための1つの選択肢であること、日本での公共交通のあり方はもっと柔軟に考えていかねばならないと伝えてくださいました。
引き続き、山口大学・宋俊煥先生からは、ソウル市・延世路(えんせいろ)のトランジットモール化について、日本との制度と計画行政のアプローチの違い、合意形成や交通動線変更の実現にいたるプロセス、整備効果について大変丁寧に解説いただきました。
来街者属性の変化、完成した空間の利活用などに対応する体制づくりが今後の課題とのことでした。
次の東京大学大学院・村山顕人先生による発表から、ストリートの利活用に焦点を当てた発表が続きます。
ソトノバでも注目している、「Tactical Urbanism(戦略的都市づくり)」について、サンフランシスコ市Public Parklet、名古屋市錦二丁目の取組みを中心にご説明いただきました。
ストリートのマネジメントは、一般的に長期のサイクルで捉えられますが、それをうまくまわす上でも「まずはやってみる」短期的なアクションから始めることが非常に重要な鍵だとする、Tactical Urbanismの概念に他のメンバーも共感されていました。
東洋大学・志摩憲寿先生によるインドネシア・ジョグジャカルタ市マリオボロストリートの事例調査、九州大学大学院・趙世晨先生による福岡市の屋台の実態報告は、まさにアジア都市が、元来Tacticalアクションがなされてきた先進地では、と考えさせられるものでした。ストリートを占用利用する運営体制がフォーマル化される過程、そしてその影響が空間にどう表れているか紹介くださいました。
セッションの最後は、僭越ながら私のメインストリートマネジメントに関する発表でまとめさせていただきました。
戦後、道路関連法制度上で「街路」、「広場」の概念があいまいになっていく中、メインストリートで「広場」を創出する挑戦が各地でなされてきました。その代表事例の旭川市平和通の取組みについて話しました。
さらに2000年代にようやくストリート上の広場創出を実現したニューヨーク市の制度研究の結果と合わせて、「街路(ストリート)」の概念を法制度上で位置付け直すこと、その上で、市町村レベルで法制度を弾力的に地域化し運用することについて推進すべきと、問題提起させていただきました。
セッションⅡ『ストリートのマネジメントと組織』
次なるセッションでも、まずは「広場」をテーマに、日本設計・廣瀬さんにご報告いただきました。先に述べたように、「広場化」にはハードルがある中、札幌市北3条広場(アカプラ)では廃道せずに広場空間が実現した経緯、植栽升や設備への細やかな配慮、その結果実現している盛んな利活用の様子についてご紹介されました。
さらに、お茶の水女子大学・小﨑美希先生からは、建築環境工学・環境心理学の方法論を適用すれば、そうした利活用がもっと快適に、地域らしさを活かしながら実現できるのではという観点から、ストリート環境評価手法に関する研究の経過報告をいただきました。
セッション後半は、国内地方都市でのマネジメントと担い手の実態にフォーカスしていきました。新潟工科大学・長聡子先生は新潟県上越市高田の雁木空間を地域の「コモンズ」として捉え、分析されています。雁木は連続性を保って初めて意味があるものだと住民に意識させるような市独自ルールの重要性、城下町高田の脈々と続く歴史を反映した住民組織の活動実態について解説いただきました。
そして、震災復興の過程にありつつも、深刻な縮退化を迎えている南相馬市小高地区の現況についてレポートいただき、その中でのストリート像を訴えてくださったのは、東京大学大学院・窪田亜矢先生です。宿泊が未だ規制されている中で、地域の活動を受け止める場となり、絆をつないでいくストリートの底力を感じました。
最後に、地方都市をフィールドに数々のストリートデザインの実践を行ってこられた、横浜国立大学大学院・野原卓先生より、「沿道・街路一体型のストリートマネジメント」について発表いただきました。ストリートに「都市の構造」、「使いこなし」、「多主体の関わり」を編み込むには、どのような具体的プロセスが踏まれているのか、喜多方や横浜での取組みによる知見を会場と共有してもらいました。
ストリートの7つの視点と4つのアウトプット
プレゼンの後、会場も交えた議論を経て、今回導かれた「ストリートの7つの視点」と、今後導いていく「4つのアウトプット」とは…
【ストリートの7つの視点】 |
1.交通ネットワークとしてのストリート |
2.居住環境としてのストリート、QOS(Quality of Street)評価へ |
3.景観・まちなみとしてのストリート |
4.法制度として定義されたストリートとローカルルール |
5.活性化の方法実践としてのストリート |
6.暮らしの場としてストリート |
7.地域再生の象徴としてのストリート |
【4つのアウトプット】 |
1.マネジメントのプロセス |
2.QOSの評価方法 |
3.制度上の「ストリート」、「広場」概念の定義 |
4.アジアのアーバニズムを体現するストリート空間 |
研究会は今後、これらを軸に2016年度も活動を続けていきます!
all photos by Rahif Maddah