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最前線のソト集結!白熱のソトノバ・アワード2019公開審査会の様子を大公開!前編
2019年度で3回目の開催となった、ソトノバ・アワード2019公開最終審査会。1年間で一番輝いたソトの使い方が決まります。
2019年12月から2020年1月にかけてソトの場(プロジェクト)を募集し、全10プロジェクトの応募がありました。そして、一次審査会(非公開)を経て、2020年2月13日、日本全国から実践者が会場に集まりました。ソトノバ審査員に加え、パブリックスペースに精通した専門家、前年度大賞受賞者をゲストに加えた審査員が参加し、公開最終審査会及び表彰式、賞状授与が行われました。その議論の様子をお伝えします!
前編では「プロジェクトデザイン部門」「実験のデザイン部門」の2部門のうち、1部問の発表・質疑からコーヒーブレイクまでの様子をお届けします。
「ソトノバ・アワード2019」の公募情報や結果は下記をご覧ください。
今回の公開最終審査会には、一次審査を通過した全10プロジェクトが、審査会に参加しました。
審査員は、ゲスト審査員に東京農業大学准教授の福岡孝則さん、株式会社まちづクリエイティブ代表取締役の寺井元一さん、さらにソトノバアワード2018大賞受賞者のモクタンカンの荒木源希さん、岡美里さんが参加しました。ソトノバ審査員は、一般社団法人ソトノバ共同代表理事の泉山塁威、石田祐也、小澤亮太、ソトノバ・コラムニストの三浦詩乃でした。
審査方法は、部門ごとに応募された事例の資料、発表と質疑応答を受けて、「共感」「独自性」「デザイン性」「アクティビティ」「持続性」の5つの審査基準をもとに審査員が審査しました。部門は、プロジェクトのプロセス全体を審査する「プロジェクトデザイン部門」、実験のクオリティという視点で審査する「実験のデザイン部門」の2つです。
また今回はSli.do(スライドゥ):質問投稿アプリ)を導入し会場からの質問も募集。
質疑応答では参加者の質問を確認できる質問投稿アプリを導入さらに法政大学 保井研究室の古谷栞さんがグラフィックレコーディングを担当しました。来場者一人一人が能動的に参加しプロジェクト審査会になりました。
グラフィックレコーディング中の古谷栞さん都市の顔をつくる5つのプロジェクト:「プロジェクトデザイン部門」
プロジェクトデザイン部門では、空間そのものの質や効果だけでなく、プロジェクトが生まれる経緯やマネジメントなど、プロジェクト全体について評価します。この部門の応募は「YATAI CAFE」「洗堰レトロカフェ」「新豊田駅周辺公共空間活用プロジェクト」「おとがワ!ンダーランド」「手賀沼ヌマベリングプロジェクト」の5事例です。
コーヒーで変える、住民と医療の新しい関係性「YATAI CAFE」
トップバッターを切ったのは、兵庫県豊岡市の病院で働く医師、守本陽一さん。医者や看護師などの医療従事者が、小さな屋台をひいてコーヒー等を振る舞いながらまちを練り歩くことで、医療サービスを病院外の様々な人にまで広げ、予防や生活支援ができるようにした取り組みの紹介です。
「YATAI CAFE」を紹介する守本さんコーヒーは月1〜2回程度で振る舞われ、住民は病院に行くよりもカジュアルで対等に医療従事者と会話ができるように。また、活動の珍しさから様々な人が集まり、たまり場になることで、マイノリティの居場所づくりにも貢献していきます。
さらに、医療者がまちに入って地域資源を見つけ、医療介護関係者との連携に展開するなど、医療者の視野の広がりが期待され、まちの中に小規模多機能な可動パブリックスペースがあることはとても意義があります。
住民と医療の関係性が変わり、新たな地域包括ケアとして生まれたこのプロジェクトの独自性の高さは評価のポイントになったのではないでしょうか。
真剣に話を聞く審査員の様子(右から岡美里さん、荒木源希さん、三浦詩乃さん、小澤亮太さん)河川利用でまちと人の思い出づくり「洗堰レトロカフェ」
続いては、「洗堰レトロカフェ」の佐々木和之さんによる発表。土木遺産を活用し、市民に愛着を持ってもらう取り組みです。洗堰(あらいぜき/滋賀県大津市南郷)は琵琶湖から流れ出る瀬田川の水位を調整する場所で、土木遺産としての利活用が求められていました。
しかし、ここは普段立ち入り禁止。住民と地域のつなぎ役として「河川レンジャー」がワークショップや説明会の開催、さらにオープンカフェイベントを始め、月一回開催の定着や河川エリアへ拡大するなど、地道にステップを踏みます。
「洗堰レトロカフェ」のプロセスを発表する様子そして、2013年の河川法改正の「河川協力団体制度」を使って、2016年から個人から団体として継続的な活動が可能になると、大道芸やコンサートなど、オープンカフェイベントの利用の幅が広がります。その結果、まちの人々は思い出づくりに河川区域を活用することができるようになり、水辺への意識が変わってゆきました。
今後は、立ち入り禁止になっている先にエリアを広げてゆくことが目標です。川は場所によって管理者が違う為、利活用のハードルは高いですが、使える仕組みを取りながら順次対応してゆく事が大事!と宣言し笑顔で発表を終えました。
「洗堰レトロカフェ」佐々木さん身の丈に合ったハーフメイドのプロセス「新豊田駅周辺公共空間活用プロジェクト」
プロジェクト3つ目は、豊田市都市整備課の西岡雄志さん。「新とよパーク」(愛知県豊田市若宮町)ができた経緯について発表しました。
新とよパーク(別名=新豊田駅東口駅前広場)は、市による中心市街地の広場を活用する実証「あそべるとよたプロジェクト」の1つです。それまで活用されていなかった広場を、ストリート・スポーツ等の目的性の高い利用を誘導する広場として位置付け、2年に渡って計画を行いました。
「新とよパーク」ハーフメイドのプロセスの紹介ここでは市民主体の運営をデザインする為、多様な趣味を持つプレイヤーで組織を結成し、ニーズを抽出し実証実験を行いながら、利用ルールや運営方法を検討しました。段階的に手を加えながら使ってゆく自由度の高い整備はハーフメイドの考え方が取り入れられています。
BBQやスケートボード等「この広場だからできること」を定めていき、利用者の自治による持続可能な運営を目指しました。広場づくりから、やりたいことを実現できる都市を目指しています。
新とよパークの使い方の自由と責任は表裏一体とプレゼン僕らがつくりたい乙川の未来「おとがワ!ンダーランド」
続いては、愛知県岡崎市のプロジェクトで、おとがワ!活用実行委員会の岩ヶ谷充さんによる発表。
パブリックスペースとは何か、僕らがつくりたい未来の乙川(おとがわ)とは何かを問い続け、4年間の気づきと小さな日常の発見を伝えます。パネルに敷き詰められた写真が、活動の内容と量を物語ります。
乙川の日常の風景を伝える、岩ヶ谷充さん岡崎市の中心を流れる乙川は、桜祭りや花火大会などは多くの人で賑わいますが、その他の時期は閑散としていたことが課題でした。そこで河川空間での営業や利用しやすい空間の整備、民間事業者への河川敷の開放などから川まちづくりに取り組み、2020年現在では毎週末何かのイベントが行われる状況になりました。
さらに、賑わいだけを目的にするのではなく、小さな日常に目を向けることが大事だと気づきます。
稚鮎の捕獲放流によって流域全体を考え、ヒメボタルの生息確認によって自然環境の維持を目的とした河川活動を目指し、さらに森林間伐現場の見学から岡崎市の地形特性から森の現状や木を知り・使うこと、下流部のまちの意識を変えることを考えるようになりました。
日常で生み出される全ての行いがまちの風景になる、そんな場所にしたいと強くメッセージを発信しました。
議論を視覚化するグラフィックレコーディング都市と自然をつなぐ「手賀沼ヌマベリングプロジェクト」
プロジェクトデザイン部門最後の発表は、東京大学都市デザイン研究室の松本大知さん。
「皆さんは普段から自然に触れていますか?」
との投げかけからスタートします。
プロジェクトは、
「欧米では自然欠乏症候群の子供が増えていることに警鐘が鳴らされているのに対し、日本は都市づくりにおいて都市と自然をどう接続するかの視点が決定的に欠けている」
という問題意識から2016年、手賀沼フィッシングセンターを拠点にプロジェクトが始まりました。
「手賀沼ヌマベリングプロジェクト」プレゼンの様子元々は漁場を失った漁協への補償として建てられたレジャー施設でしたが、水質汚染や担い手不足、2011年の東日本大震災の放射能の影響で厳しい状況でした。そこでエリア一体の事業者と柏市との連携で「アグリ協議会」(手賀沼アグリビジネスパーク事業推進協議会)が組織され、手賀沼の南東部の活性化を模索。その改修デザインを東京大学都市デザイン研究室が担当し、2020年で4年目になるそうです。
整備は段階的に行われ、今では地域の人が頻繁に訪れ、沼辺への入り口としての役割を持ち始めています。
5つの目標達成のために持続可能性が求められ、現在は東大からアグリ協議会へ主導を移行させている段階。今後の仕組みづくりが気になる展開です。
真剣に発表を聞く、ゲスト審査員(右から福岡孝則さん、寺井元一さん、岡美里さん)❶本物の自然のあるライフスタイルの入り口づくり
❷遊びと学びを通じた体験価値を提供するチームづくり
❸目指したいヌマベの姿
❹多様な市民活動団体への新しい世代が参加すること
❺漁協という生業集団を取り込んだ新しい水辺マネジメントの実現
緊張の走る、質疑応答タイムでのやりとり
発表者たちは残された時間でプロジェクトへの熱い想いを語ります。
YATAI CAFEは、地域医療を行う医者が,病院から街に出て,路上でカフェを振る舞いながら,医療診断や地域医療の入り口の役割を担う活動に,審査員の共感を多く集めます。
洗堰レトロカフェは、河川利用についてのハードルの高さは感じられたものの、継続することへの重要性が求められ今後の活動に期待が高まりました。
新とよパークは、ハーフメイドというプロセスを用いながら、地域の人が公園でのスケートボード利用に寛容な社会の形成やスケートボードができるという目的性が、まちに価値を与えたことを示し、審査員を納得させていました。
おとがワ!ンダーランドは、地域を超えまち全体として乙川を捉えることができ、乙川での生活を発展させていったという活動の視野の広さが示され、日々の蓄積によるアクティビティの豊かさや共感のポイントを抑えたようです。
手賀沼ヌマベリングプロジェクトは、大学が抜けた後も維持し続けてゆくために、未来を見据えたマスタープランの作成や沼辺マネジメント団体の組織化を検討していることを強調し、今後も注目です。
審査員が気になった点を質問していきます(左から、泉山塁威さん、石田祐也さん、小澤亮太さん) 回答する発表者のみなさんホッと一息コーヒーブレイク!
さて、質疑応答が終わると参加者はコーヒーブレイクへと移ります。今年も会場には、ZASSO COFFEEさんが出店しコーヒーなどのドリンクを提供してくださいました!
ZASSO COFFEEさんのコーヒー屋台 いれたてのコーヒーを片手に参加者と審査員の交流が生まれ、会場は一気に和やかにこれまで、前半の部門A 「プロジェクトのデザイン」部門の発表・質疑応答を見てきました。
プロジェクトのデザインでは、まちの課題を広い視点で見つめ、多様な主体が関わって新たな都市の価値を生み出すことで少しずつ解決に向かってゆく様子が伺えました。議論の様子からもハイレベルな内容で、接戦が予想されます。
後編では、実験のデザインのほか、結果発表、パーティの様子をお届けします。実験のデザイン部門のプロジェクトからも目が離せません!
All photo by Takahisa Yamashita