レポート
プレイスメイカーに聞く!荒井詩穂那さん|地域の力を引き出すコーディネート力

ソトを居場所に、イイバショに!
ソトノバが掲げるこのコンセプトを体現するために欠かせないのが「プレイスメイキング」という概念および手法です。その実践者であるプレイスメイカーが、全国各地に魅力的な場を生み出していますが、そのあり方は実に多種多様。そこで、日本のプレイスメイキングの現在地を可視化しようと、先進的なプレイスメイカーを紹介する連載を重ねています。
今回は、Placemaking JAPANが公開しているプレイスメイカーの特集として、都市計画コンサルタントの首都圏総合計画研究所に所属しながら、ソトノバのプロジェクトや運営にも参画している共同代表理事の荒井詩穂那さんにお話を聞きました。
まちづくりの中でも特に、地域主体のまちづくりの支援をおこなう専門家である荒井さんが目指すのは、地域の人々が主役となる場所=プレイスづくりと、自走していくための仕組みづくり。「自分のことをプレイスメイカーだとあまり思っていない」と語りつつも、その姿勢と熱意はまさにプレイスメイカー。住民参加型の地域づくりプロジェクトを通じ、柔軟で地元目線のプレイスを作り上げるその姿勢に迫ります。

<プロフィール>
荒井詩穂那(あらいしほな)さん
(株)首都圏総合計画研究所 主任研究員
一般社団法人ソトノバ 共同代表理事
1989年神奈川県横浜市出身。学生時代は、近代における東京・大阪・横浜等の公園計画や都市計画的視点からの小広場計画の変遷等について研究。現在は、都市計画コンサルタントとして自治体の総合計画、地区のまちづくり計画等の策定業務や地域主体のまちづくり支援に従事する傍ら、「ソトノバ」ではエリアマネジメントやプレイスメイキング等のプロジェクトに関わる。横浜市まちづくりコーディネーター。「公園活用 パークキャラバン」(GOOD DESIGN AWARD 2016年)
【参考記事】「【ソトノバ・ピープル】「まちにどっぷり浸かって、活動していきたい」──都市計画コンサルタント 荒井詩穂那さん」
Cover Photo by Shihona ARAI
Contents
地域まちづくりのコーディネーターとしてのキャリア
ー 荒井さんのこれまでのキャリアについて教えてください。
仕事はずっと、地域まちづくりがメインです。都市計画や地区計画などのプランニングにも多く携わっています。
計画の大小に関係なく、ワークショップやヒアリングなどその方法は色々であっても、「まちのひと」から直接お話を聞く機会はできる限り持つようにしてきました。
地域の計画づくりという段階で、ワークショップなど住民の方から直接話を聞く機会には多く触れてきましたが、やはりその計画を実際にアクションにしていくところに個人的な興味がありました。計画づくりでも場づくりでも、地元の声を聞いて何かをつくるというのは、同じだと思うんです。
ー なるほど。ご自身のプレイスメイカーとしてのキャリアが始まったなと感じるプロジェクトはありますか?
正直、自分がプレイスメイカーだとあまり思っていないんです。
改めて振り返ると、自分が所属する(株)首都圏総合計画研究所(以下、首都研)で培った、仕事としてのまちとの関わり方の影響が大きいのかもしれません。
首都研は、半世紀前に設立されたまちづくりコンサルタント会社ですが、設立当初から住民参加のまちづくりを進めてきました。
そんな会社で、プランナー1年目からワークショップのファシリテーター業務を担当し、地域の声を聞くという姿勢の大切さを教えてもらったことが大きいと感じます。
地域に関わる上では、地域の声を積極的に聞くというやり方をしていたら、自然とプレイスメイキングのプロセスとフィットしたような感じです。
ー ご自身のこれまでの仕事のアプローチが、結果的にプレイスメイキングの手法と似ていたということですね。
そう、プレイスメイキングって手法なんですよね。だから最初からプレイスメイカーになろうと思って始めたわけじゃないです。
でも、そのプロセスは地域まちづくりと重なる部分も多く、ステークホルダーとコミュニケーションを取ったり、一緒にビジョンを作ったりするというプロセスは、自分の中では自然な流れでした。

地域防災をテーマに取り組むプレイスメイキング
ー 現在取り組んでいる「シブヤホンマチプレイスメイキング」は、地域の防災がテーマになっていますが、「地域防災」と「プレイスメイキング」はどういった関係性なのでしょうか。
やっぱり防災って取り組むのが難しいし、日常的に何かやるってなると、いろんな人を巻き込むにはハードルが高いですよね。関心の入り口が狭いというか。
それを「プレイスメイキング」という言葉を使って、「日常的なつながりが「いざ」という時に役立つ」という位置づけにしたのがこの渋谷本町のプロジェクトです。
渋谷区では、2021年に「本町地区防災都市づくりグランドデザイン」をつくり、その計画と並行して、地域住民がまちに出て日常的なつながりをつくることに取り組んでいました。
その立ち上げ期にソトノバは関わっていないのですが、2022年からソトノバに声がかかり、私も関わるようになりました。

ー 2024年8月にシブヤホンマチプレイスメイキングでは「プレイスビジョン」を策定しましたが、そのプロセスの中で、「プレイスメイキング検討部会」と「プレイス・ミーティング」を立ち上げられたそうですね。どのようなねらいがあったのでしょうか。
2022年に渋谷本町のプロジェクトにソトノバが関わり始めた時、私たちは地元住民がプロジェクトを主導する形にするべきだと考えました。そこで、プレイスメイキング検討部会を立ち上げ、まずは地域の人たちが一堂に介してプレイスメイキングについて考えたり、話し合える場をつくりました。

プレイスメイキングの対象となる場所探しは、地域の人たちと一緒におこないました。
一口に本町地区と括れど範囲が広く、地形や最寄駅が異なるなど、場所により生活圏が異なることから、親しみあるオープンスペースは人によりそれぞれであることがわかりました。
そこで地区ごとにチーム(プレイス・ミーティング)を立ち上げ、その場に関係するプレイヤーや関心のある住民等で話し合いを進めていくことにしました。各チームでまとめた場所ごとのプランはビジョンの一部として組み込まれています。堅い行政計画ではなく、地元目線で書かれた柔軟なものです。
同時に、参加の入り口を増やすための工夫もしました。
プレイス・ミーティングだけでなく、活動に興味を持った人が自由に参加できるようにして、誰もがプレイスに関わる機会を持てるようにしています。
みんながやらないと動かない仕組みですが、だからこそ、地元の人たちが主体的に関わることができるようになっています。

ー 地元の方たちが主体的にビジョンをつくっていく中で、印象的なエピソードなどがあれば教えてください。
今回は、1年間かけてビジョンづくりを進めたのですが、それぞれチームにより実際のビジョンづくりのプロセスも異なっていたことが、とても印象的でした。
公園をプレイスと定めたとあるチームは、その公園自体、訪れたことのあるメンバーが少なかったため、まず現状を把握しようと現地でインタビューすることから始めました。
一方で、商店街沿道の空地を対象にしたチームは、商店街で日頃からイベントなどを企画・実施するメンバーが集まっていたので、早速使ってみることにしました。プランつくる前に、とりあえずやってみないと!って、すぐに行動を起こしました。
さらに別のチームでは、若いメンバーを中心に、自分たちのネットワークを使ってアーティストが何か表現できる場にしたい、アートとカルチャーを発信するような場所になったらいいなと、話し合いをしていました。
その結果、場所の立地やメンバーの個性によって、カラーの違う計画ができたのが印象的で、面白かったですね。

ー そんな三者三様で進んだビジョンづくりを、プロジェクトとしてとりまとめる上で意識した、大切にしたポイントはありますか。
プロジェクト全体のコーディネートとして意識したことは、あくまで主役は地域ということですね。そして、自発的に動ける仕組みをつくることです。
このビジョンは、行政計画のような硬直した対応を避け、地元目線で構成しています。さらに、目的や概要だけでなく、行動のステップや目指す未来のシーンを明確にすることで、地元が関わりやすく、自発的に動ける形を意識しました。
地域主導の挑戦とその課題
ー 渋谷本町のプロジェクト、地域主導でうまく前に進んでいる印象を受けましたが、丁寧に活動支援されていることがポイントになっているように感じます。
うまくいっていることばかりじゃなくて。笑
どこのチームでも共通の課題は仲間集めですね。
スタートするときは、どうすれば仲間が集まるだろう?とか、どうすれば活動を続けていけるか?みたいに考えがちですけれど、私は、そのチームや活動がずっと同じメンバー、カタチである必要もないと思っています。
仲間集めが議論の中心になってしまうと、それがだんだん義務のようになって、本来、プレイスメイキングで目指すゴールが見えなくなってしまうのではないかなと。
それよりも、誰かが活動しているのを見て自分もやってみようと思い立ち、他の場所で新しい活動が生まれていく。その連鎖で、まちなかでポコポコと小さくてもたくさんの活動がある方が、生きたまちになるのではないかなと思っています。
最初の一歩が、一番ハードルが高いんですけど、一度参加してみたら「これなら自分でもできるかも」とか「ここなら関わってみよう」と思ってもらえるようなきっかけづくりが一番重要かもしれません。
いかに最初の一歩を踏み出してもらえるかが重要なので、例えば、公園のリニューアル案を提案しよう!とか分かりやすいゴールを提供して、モチベーションにしてもらうのも一つの方法だと思っています。

ー プロジェクトとしては、今後どういった展開を目指していますか。
まちなかに小さな、そして、たくさんの活動を生み出すためにも、今、活動しているチームはどんどんまちに出て自走していくことが大切ですし、それを見た誰かが何かを始めたいと思った時に、まちとしてバックアップしてあげられる仕組みを整えておくことが大切かなと思ってます。
プロジェクト全体の今後としての分かりやすいゴールというのは、正直なところ、現在のこのプロジェクトにはありません。
場所によってやりたいこともスピード感もバラバラで、最終的なアウトプットも見た目の成果が出てくる場所もあれば、そうでない場所もあります。
大事なのは、もともとの「グランドデザイン」に書かれている「つながり」がちゃんとできているかどうかであって、時間軸を設定したことによって誰もついてこなくなるのでは意味がないですからね。
新たなプレイスの展開と支援
ー 各プレイスの自走化は、地域として理想的なゴールですね。具体的に考えていることはありますか。
支援を1つの場所につき例えば3年間くらいおこない、その間に運営のあり方を確立して手を離していければなと考えています。
そしてまた新たな場所で、初動の支援をし、また手を離していく。これを繰り返して最終的に渋谷本町全体でプレイスメイキングが全域に広がる状態を目指しています。その場をつくるのは地元の人たちであり、私たちは、彼らが主体的にプレイスメイキングをおこなうための支援を整えようとしています。
そのためには、地域主体のエリマネ組織みたいなものを作って、既存組織が受け皿になる方向で進めようと思っています。プレイスメイキングの中間支援組織のようなものを作って、新しいメンバーにプレイスメイキングの作法を教えたり、活動資金を支援したりするんです。
例えば、実際のアクションを踏まえ、公園の改善提案を住民が区に対して提案できるようなハブのような組織が必要だと思っています。その体制づくりも提案しているところです。
ワクワクを追求するプレイスメイキング
ー 個人としての、今後の展望を教えていただきたいです。
自分の拠点を持ちたいですね。自分の街で、自分がプレイスメイキングをやる側になりたいです。笑
ー プレイスメイカーになりたい人、興味を持っている人に向けてメッセージをお願いします。
偉そうなことは言えないので、私の理念の話をします。
プレイスメイキングって、難しいことじゃないんですよ。いかにワクワクするか、そこが一番大事な原点で、忘れちゃいけないところだと思っています。
「何をしなきゃいけないの?」って難しく捉えがちですが、そうではなくて、自分がワクワクすること、自分が「こんな場所があればいいな」とか「住みたいな」って思えること、それが大事なんです。ワクワクとか楽しさを追求すると、やりたいことや、やるべきことがおのずと見えてくると思います。
お話を聞いて
落ち着いた口調で、しかしその言葉には、荒井さんの地域に対するたくさんの情熱がこもっていました。
地元の方たちの目線に立ちながら、ワクワクする楽しさを追求しながら、ビジョンづくりや地域との対話に取り組まれる一方で、プレイスの自走化のための仕組みづくりや資金巡りといった、堅実的な視点でも地域をみているそのまなざしの冷静さに、地域づくりの専門家としての奥深さを感じました。
自分ではあまりプレイスメイカーだと思っていないと終始口にされていた荒井さんですが、地域に対する熱意やその姿勢は、地域づくりのコーディネーターとしての役割を超え、地域の力を引き出しプレイスを活性化するプレイスメイカーと言っても過言ではないのではないでしょうか。
話し手:荒井詩穂那さん
聞き手・執筆:板東ゆかり(ソトノバ編集部)
資料提供:荒井詩穂那さん、渋谷区、ソトノバ
インタビューは、2025年2月10日、御茶ノ水axleにて実施
本記事は、官民連携まちなか再生推進事業(普及啓発事業)のPlacemaking JAPANの活動・支援により公開します。