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プレイスメイカーに聞く!田村康一郎さん|誰でもプレイスをつくれる世界に向けて

ソトを居場所に、イイバショに!

ソトノバが掲げるこのコンセプトを体現するために欠かせないのが「プレイスメイキング」という概念および手法です。その実践者であるプレイスメイカーが、全国各地に魅力的な場を生み出していますが、そのあり方は実に多種多様。そこで、日本のプレイスメイキングの現在地を可視化しようと、先進的なプレイスメイカーを紹介する連載を重ねています。


今回は、Placemaking JAPANが公開しているプレイスメイカーの特集としてプレイスメイキングという概念が日本に普及する前からプレイスメイキングに着目し、日本国内外を問わず、小規模公園の活用やプレイスメイキングの実践を行っている田村康一郎さんにお話を聞きました。

国や行政を相手に仕事をする専門家の立場から、父親として地域の公園を盛り上げる実践者の立場まで、公私ともに幅広く活動する田村さんからプレイスメイキングの魅力について語っていただきました。

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Photo by Yuki Iwamune

<プロフィール>
田村康一郎(たむらこういちろう)さん
一般社団法人ソトノバ 共同代表理事
株式会社クオル チーフディレクター
Placemaking JAPAN プレイスメイカー
Placemaking X アジア地域ネットワークリーダー
公園にいこーえん

1984年宮崎県生まれ。東京大学工学部社会基盤学科、同大学院国際協力学専攻を卒業後、コンサルタントとして開発途上国における交通・都市計画の策定や技術協力に従事。
2017年ニューヨークのPratt Institute(プラット・インスティテュート)大学院に留学。Project for Public Spacesからもプレイスメイキングの手法と本質を学びつつ、研究・実践。

現在は、一般社団法人ソトノバの共同代表を務め、エリアマネジメントのコンサルタントとしても活動し、住まいのある奈良県生駒市で小規模公園活用の実践などを行い、公私ともにパブリックスペースを盛り上げる活動をしている。

Cover Photo by Koichiro Tamura


会社を辞め、プレイスメイキングを学びにNYに留学

ー 田村さんがプレイスメイキングを知ったきっかけは何ですか?

大学院を出てすぐはコンサルタント会社に就職し、開発途上国における交通・都市計画の策定や技術協力に従事しました。

アフリカ、アジア、中東と20カ国以上でプロジェクトを遂行するなか、大きな計画を策定しても実現しなかったり、現地のまちの人や生活への効果があまり実感できなかったりと、仕事を続ける中でモヤモヤが生まれていました。

そんな中で留学を考えていた時に、2015年に立ち上がったばかりのソトノバで、プレイスメイキングやタクティカル・アーバニズムに触れるようになり、影響を受けました。

ー ソトノバがきっかけだったんですね。当時、日本でプレイスメイキングが有名になり始めたタイミングだったのでしょうか?

ちょうどそのころから、日本でもプレイスメイキングへの注目が高まり始めていたタイミングでしたが、認知度は今より低い状態でした。

市民の小さなアクションから都市や生活を変える可能性を秘めたプレイスメイキングを深く学びたいと想い、会社を辞め、2017年にニューヨークのPratt Institute(プラット・インスティテュート)大学院に留学しました。

Pratt Institute大学院は、世界で初めてプレイスメイキングの修士課程を設けた大学院でした。

大学院には様々な国籍の人々が集い、プレイスメイキングの先駆者であるProject for Public Spacesをはじめ、多くの実践者から学ぶことができました。

また、大学院の座学だけではなく、ブルックリンのまちのとあるBID(ビジネス改善地区)と一緒に、新しく広場化した道路でアートマーケットの立ち上げを手伝うなど、実践に関わることもできました。

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ニューヨーク留学時代に関わったストリートマーケット Photo by Koichiro Tamura

プレイスメイキングの魅力

ー 田村さんが考えるプレイスメイキングの魅力とは、一言で何でしょうか?

私が思うプレイスメイキングの魅力は、「専門知識がなくても、身の回りの小さなアクションで、誰でもプレイスをつくれること」です。

プレイスメイキングの側面として、しっかりしたデザインや社会実験、空間整備もありますが、本質的にはその裏側にある丁寧な合意形成やプロセスデザイン、コミュニティの醸成が最も重要だと考えています。

プレイスメイキングを用いた大きなプロジェクトも必要なことですが、たとえ大きな投資や専門知識がなくても、誰もが小さなアクションでプレイスをつくれることに、大きな魅力があると考えています。

私が関わったトルコの事例と、奈良県生駒市の事例から、その魅力をご紹介します。

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いかに創造性を引き立てて実現につなげるかが、田村さんがこだわるポイント Photo by ソトノバ

事例①トルコ|国境を越え、参加型でつくり上げるパブリックスペース

ー トルコではどのような活動をしましたか?

国連開発計画(UNDP)という国連機関からソトノバに問い合わせがきたことをきっかけに、地中海に浮かぶギョクチェアダ島を舞台にプロジェクトがスタートしました。

緑地を活用して住民のオーナーシップを育みながら、地域活動の拠点となるパブリックスペースをつくりたい、という内容でした。

当時は2020年だったのでコロナ禍の真っ只中で、現地に渡航することなくオンラインによって現地と協力しながらプロジェクトの進行を行いました。

そんなチャレンジングな状況の中、ソトノバのチームとして、現地の子どもたちが外出制限の中で楽しみながらプレイスメイキングのワークショップができるようなシートをつくりました。

トルコ側のファシリテーターや地元の学校の先生を介して、出てきた評価や意見をもとに方向性を抽出することができ、空間やプログラムの提案につなげました。

ー このプロジェクトで重要なポイントは何ですか?

このプロジェクトに限ったことではないのですが、出てきた意見を文字通りプランに反映するのではなく、意見の根幹にある想いを汲み取って、それを実現できるような提案をしたことです。

ワークショップで出てきた意見をそのまま反映させるのは数からして難しいし、実現不可能な内容があったり、矛盾したりするような内容になってしまいます。

なので、意見の根幹にある「どういう過ごし方をしたいのか」という言葉になっていない思考を抽出し、いろいろな意見をくれた人たちが「そうそう、こういうのを求めていたんだ!」と思えるように「編集」していくのが腕の見せ所でした。

単に意見を混ぜ合わせるのではなく、ちゃんと場所の特徴や使う人をイメージしながら、プランをつくりました。

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コロナ禍にオンラインで実施したワークショップ Photo by 国連開発計画(UNDP)

ー 実際にはどんな拠点ができ上がりましたか?

私たちの提案を参考にしながら、地域の職人と子どもたちがミニライブラリーと緑地の中の遊び場を参加型DIYでつくり上げました。

ソトノバのチームが提案をしてから、現地でものの数か月のうちに形になって、多くの人が楽しそうに過ごしている写真が届き、予想以上の展開につながってうれしい驚きでした。

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地域の職人がつくるミニライブラリー Photo by 国連開発計画(UNDP)

この場所の活用についてソトノバのチームで提案したように、地域の様々な職業(芸術家、教師、音楽家、ヨガ講師など)の方々が連携し合い、将来像を話し合あったり、ワークショップを開催したりと、地域住民による自主的な運営が始まっています。

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子どもたちの発想でつくられる遊び場 Photo by 国連開発計画(UNDP)

多くの人の声を丁寧に読み解いて、その場所にふさわしい形に落とし込めれば、簡単で時間も費用もあまりかからないやり方でも、いいプレイスにつながります。

プロジェクト実施後もまだ現地を訪れることはできていないのですが、国や文化圏を超えるプレイスメイキングの普遍的な力を感じました。

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緑の中でのヨガ Photo by 国連開発計画(UNDP)

事例②奈良県生駒市|遊びからつくり上げるプレイス

ー 奈良県生駒市ではどのような活動をしていますか?

私は妻の実家がある奈良県生駒市と東京の二拠点に住んでいます。

留学後に生駒市に居を構えたのですが、最初は郊外住宅地の公園で幼い息子を遊ばせるにも、がらんとして寂しい想いを感じていました。

そんな中、同じ悩みを抱える地域の仲間との出会いをきっかけに、月に1回公園で集まって遊ぶ企画「公園にいこーえん」がスタートしました。

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公園にいこーえん Photo by Koichiro Tamura

ー 楽しそうですね!どんな企画をしていますか?

「公園にいこーえん」は、毎月第2日曜日の午前中に開催しています。

春は引っ越しが多いので余ったダンボールを持ち寄って自由に遊んだり、夏は竹の端材で流しそうめんや水遊びをしたり、秋は落ち葉を集めて落ち葉プールにしたりすることもありました。

ただ、ポイントは場所と時間を決めておくことで、何はなくとも子どもたちが集まれば自然といろいろな遊びが湧きおこります。

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焚火や工作をすることも Photo by Koichiro Tamura

ー この活動で重要なポイントはなんですか?

大切にしていることは、運営者で場をつくりすぎないで、身の回りの物を使って手軽に負担なく続けることです。

「公園にいこーえん」はイベントではないので、参加者同士の自由さを尊重しています。したがって、私は専門家の立場ではなく、あくまでも個人の趣味として家族と参加しています。

また、活動を続けている中で協力やコラボしてくれる方が現れてきました。

遊び道具や企画を持ち込んだりと、小さな住宅地の中で世代を超えたつながりや、おもしろいことをやってみるノリが生まれています。   

気が付けば、2019年に活動を始めて5年以上が経過しました。

特に活動を大きくしたりだとか、公園を改修したりとかいうことにつながるわけではないささやかな活動ですが、今ではこの場所が、地域住民にとって想い入れのある場所(=プレイス)となっています。

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各自いろいろな好きなことをしながらも、場を共有している風景が田村さんのお気に入り Photo by Koichiro Tamura

最後に

ー 最後に読者の方にメッセージをお願いします。

誰もがちょっとしたことでパブリックスペースを居心地よくしていけるのが、プレイスメイキングの魅力です。

自分自身もプロジェクトとしてプレイスメイキングに携わるだけでなく、まちに住む一個人としてパブリックスペースを楽しむことを大事にしてきました。

そんな想いから、暮らしの延長で始めた活動が「公園にいこーえん」でした。いまでは私のライフワークの1つとなっています。

プレイスメイキングを提唱したフレッド・ケントという方の「プレイスメイキングは、即興のストリートミュージックだ」という言葉があります。

この言葉のように、もっと世の中の人が遊びのような気持ちで身の回りの小さな活動を始めることで、プレイスメイキングの可能性や面白さ、手ごたえが広がっていってほしいと願っています。

プレイスメイキングをやってみようという人たちや団体をサポートできるよう、Placemaking JAPANとしてガイドの発行やトレーニングの開催、国内外のネットワーキング、書籍『プレイスメイキング・ハンドブック』の発行などにも取り組んでいます。

ぜひ、ソトノバとPlacemaking JAPANのページからチェックしてお役立てください!

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積極的に日本と海外のプレイスメイキングをつなぐことにも取り組む田村さん(Placemaking Week Europeにて) Photo by Placemaking JAPAN

お話を聞いて

記事には盛り込めませんでしたが、田村さんはこんな話もしてくれました。

プレイスメイキングを仕掛ける側の大切な心得は「即興が生まれやすくなる環境(ハードとソフト)を整えること」です。

プレイスメイキングは専門家でなくても実践できるという本記事でしたが、実は参加する地域住民一人ひとりは「何かの専門家」です。そのスキルが発揮できる場や機会を整えることが、仕掛ける側にとって重要で、それがプレイスを生む秘訣なんですね。

プレイスメイキングと聞くと、ワークショップや社会実験、ビジョン作成など手法の話が注目されがちですが、本当に大切なのは「考え方」であることに気づかされたお話でした。


話し手:田村康一郎さん
聞き手・執筆:岩宗勇希(ソトノバ)
資料提供:田村康一郎さん、国連開発計画(UNDP)、ソトノバ
インタビューは、2025年1月23日に東京都千代田区御茶ノ水にて実施しました。

本記事は、官民連携まちなか再生推進事業(普及啓発事業)のPlacemaking JAPANの活動・支援により公開します。

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