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ストリートから水辺、都市の音まで、最前線のソトの知見が11本! ソトノバTABLE#13「パブリックスペースプロジェクト・論文発表会」レポート(前編)
昨年に引き続き、ソトノバ主催の「パブリックスペースプロジェクト・論文発表会」を2017年3月4日に開催しました。
この日は全国から11組の報告者が参加。「アメリカのパブリックスペースとタクティカルアーバニズム」、「オープンストリートとオープンカフェ」、「パブリックスペースのファーニチャー」、「アクティビティリサーチ研究最前線」、「水辺とサウンドスケープと保育パーク」という5つのテーマに沿って、日々の研究や実践を発表しました。会場のダーウィンルーム(東京・下北沢)にはパブリックスペースに関心を持つ専門家や実務家、およそ35人が集まり、熱い議論を交わしました。
本記事では第1部〜第3部「アメリカのパブリックスペースとタクティカルアーバニズム」、「オープンストリートとオープンカフェ」、「パブリックスペースのファーニチャー」をご紹介します。
アメリカで起きている「タクティカルアーバニズム旋風」をどう日本に導入していく?
第1部: アメリカのパブリックスペースとタクティカルアーバニズム
第1部はソトノバ編集長・泉山とソトノバ・ラボ研究員の原の発表。9日間のアメリカ視察から帰国ほやほやの2人の、フレッシュな情報を紹介できました。
【サンフランシスコ・ニューヨーク視察報告ーParkletの仕組みとタクティカルアーバニズムとプレイスメイキングの差異とアプローチ】
発表者: 泉山塁威(明治大学助教/ソトノバ編集長)、原万琳(ソトノバ・ラボ)2017年2月21日〜3月2日の7泊9日でアメリカは、サンフランシスコとニューヨークを訪れた際の視察報告。サンフランシスコ市都市計画局、ゲール事務所サンフランシスコスタジオ、Project for Public Spaces (PPS)、Street Plans Collaborativeといった世界規模でパブリックスペースプロジェクトをリードする組織を訪問しました。インタビューを経て知ることのできた「プレイスメイキング」、「タクティカル・アーバニズム」、「アクションオリエンティッドプランニング」というパブリックスペースづくりの概念や手法、プロセスの違いを解説しました。
【タクティカルアーバニズムの概念整理 アメリカ視察から見えた日本版TU実現への課題】
発表者: 泉山塁威、荒井詩穂那、原万琳(ソトノバ・ラボ タクティカルアーバニズムラボ)2015年より取り組んでいる「タクティカルアーバニズム」についての研究成果を発表。タクティカル・アーバニズム・ラボでは「タクティカル・アーバニズムの概念を日本社会へ浸透させること」、「タクティカル・アーバニスト、タクティシャン(プレイヤー)を増やして行くこと」の2つをテーマに研究し、タクティカル・アーバニズムとパークレットに特化したウェブサイトを作成しています。
アメリカ視察の際にヒアリングした、世界のタクティカル・アーバニズムを牽引しているマイク・ライドンさんの話から、日米のゲリラ的タクティカルアーバニズムの課題について発表しました。今後は無料で手に入るタクティカル・アーバニズムマニュアルのウェブ配信を目標としています。
質疑応答では、法律とタクティカルアーバニズムに関わる質問に。法律を守るのはもちろんだが、広げていくためにより大切なのはパブリックスペースでのモラルのある行動ではないか、という考えも会場から出てきました。
ストリートをより魅力的にしたい!
第2部: オープンストリートとオープンカフェ
この回ではオープンストリートとオープンカフェの道路の有効的な使い方について、ヌーブの石田裕也さんとソトノバ・ラボから佐藤春樹が発表しました。
【まちづくり手法としてのオープンストリートー2016 International Open Streets Summit参加報告を兼ねてー】
発表者: 石田裕也(一級建築士事務所ヌーブ)アメリカ大陸を中心に広まっているオープンストリート。車道を閉鎖し、自転車や歩行者の為の空間をつくり出すイベントです。発表者の石田さんは、オープンストリートがもたらす可能性や発信都市別の7つのモデルタイプ、オープンストリート期間中の路上のアクティビティの種類について紹介しました。
コミュニティ改革や依存インフラのネットワーク化などソフト・ハード面でのインパクトに加え、特に北米では健康や公衆衛生といった観点でも注目を集めるイベントで、保険会社や健康系NPOがスポンサーとして参加しているそうです。
【オープンカフェガイドラインの構築を目指して〜道路空間のオープンカフェにおける空間構成と運営の考察〜】
発表者: 佐藤春樹、木村陽一、泉山塁威(ソトノバ・ラボ パブリックスペースツールラボ)海外のオープンカフェの研究から、現在まだ日本の公道にはないオープンカフェの日本版システムの導入を目標に取り組むソトノバ・ラボのパブリックスペースツールラボの発表です。
アメリカ・バージニア州・リッチモンド市のオープンカフェガイドラインを読み解き、日本の社会実験で適応が多い独立型や、海外に多い地先型を含む6つのオープンカフェ類型とそのメリット・デメリットを解説。日本版ガイドライン作成に向けての成果と今後の課題を発表しました。
道の使い方をキーワードに発表を終えた両者には、行政との関わり方に質疑がフォーカス。日頃からアクティビストとして活動する会場の方々からは、「まわりに不快感を与えないかどうかが1つのラインではないか」という意見が出てきました。
またオープンストリートでは既にガイドラインがウェブ上で公開されていることや、オープンカフェでも日本版ガイドライン作成を考えていることから、アイデアを広げていくためのガイドラインの重要性が伺えました。
つくり手の声を発信
第3部: パブリックスペースのファーニチャー
【カブワケ・モバイルができるまで】
発表者: 森田紘圭(大日本コンサルタント株式会社)、名畑恵(まちの緑側育み隊)愛知県名古屋市にて3年に1度開催される都市型国際芸術祭「あいちトリエンナーレ(通称あいトリ)」。2016年のあいトリのプロジェクト「ルル学校」の企画である「カブワケ・モバイル」の取り組みの紹介です。
舗装された道路の上での都市の生活の中に「都市の裂け目」と呼ばれる、わずかに大地のむき出しとなった空間に着目し、そんな都市の裂け目を探し出す、また自らつくり出す活動です。
カブワケ・モバイルはイベント期間中に使用した可動式のベンチ、テーブル、パラソルを含む憩える空間セット。発表者の森田さんは、モバイルを作成・使用した際の課題や実験結果を報告しました。またとても印象的なカブワケという名前の”カブ”とは、カブ=株・機会・発見ということで、イベントでは実際に植物の株を配ったり、作成したカートでワークショップを開催したそうです。
【PUBLIC PING-PONG TABLE MIRROR(パブリックスペース卓球台)ーパブリックスペースにおけるアクティビティ誘発アイテムの制作と課題ー】
発表者:小切山孝治、小澤亮太、今野聖平、佐渡綾華、佐藤春樹、原万琳(ソトノバ・ラボ パブリックスペースツールラボ)2016年12月〜2017年1月にかけて制作した卓球台の企画の経緯、作成プロセスと今後の課題を紹介しました。
現在、東京・丸の内の仲通りに週末のみ設置される卓球台は、エリアマネジメント組織・NPO法人大丸有エリアマネジメント協会(リガーレ)、株式会社フロントヤードと共にエコむすび基金を活用したもの。丸の内のパブリックスペースに冬でも楽しめるアクティビティをつくろう、というコンセプトの下、始まりました。
DIYで設計や材料の調達など、納品までの制作に関わる全てのプロセスをソトノバのパブリックスペースツールラボが担い、完成しました。卓球台をテーブルとして応用する上でのテーブルとしての安定性など、初めてのパブリックスペースツール制作から見えた課題を共有しました。
2人の発表が終わり、実際にパブリックスペースのツールやファーニチャーを創作した両者には、「収納はどうするの?」というアクティビストからの質問が。
カブワケモバイルは、設計段階から収納を考慮して、1つのカートに収まるようにコンパクトに設計しています。ソトノバ・ラボの卓球台は、仲通りの他のアーバンテラスのファーニチャーを収納する倉庫に一緒に保管しています。
アクティビティを通した課題を共有
まちなかでアクションを起こすことを実践・研究する各グループの発表には共通して、法律やモラルの線引きの話や、オンラインのガイドラインを発行すること、実際にやってみてわかったアクティビストとしての課題、ファーニチャーがどのように一般市民から使われるかなどが話題に上がりました。
違う分野のプロジェクトの発表を聞いていく過程でいくつかの共通項を発見できたことは、今後もパブリックスペースのプロジェクトに取り組んでいく参加者にとって、1つの収穫となったのではないでしょうか。
ソトノバTABLE#13「パブリックスペースプロジェクト・論文発表会」
日時:2017年3月4日(土)14:00-20:00
会場:好奇心の森「ダーウィンルーム DARWIN ROOM」(東京都世田谷区代沢町5-31-8)
主催:ソトノバ|sotonoba.place
運営:一般社団法人パブリック・プレイス・パートナーズ
All photos by Tomoyuqui HIGUCHI