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レポート
衰退した卸売問屋街を再生! まちと人が共に育つマーケット「STOREHOUSE」
広島県福山市、駅から車を20分走らせ、住宅地から道を一本挟むと急に雰囲気が変わる場所があります。整然と整備された区画、やや大きなブロック割りがされたそのエリアの名称は「卸町(おろしまち)」。その名の通り、卸売団地のある工業エリアです。
かつて繊維卸業が盛んだった昭和50年代に誕生した卸町ですが、時代の流れと共にシャッターが降りた建物が増えていきました。
しかし最近、福山市出身の筆者は友人たちからこんな声を聞きます。
「ねえねえ、卸町って知っとる? あそこ、最近めっちゃいいんよ〜これからもっと盛り上がったらええのになぁ」
誰も歩いていなかった卸問屋街が、2万人もの人が集まる場所に様変わり!
閑散としているはずの卸町に、若者やファミリーが一斉に集い、音楽や笑い声が響きます。
その日は「STOREHOUSE」。約5年前から、卸倉庫街の再生をめざして始められたマーケットです。
「STOREHOUSE」とは、「倉庫、知識などの宝庫」という意味。 卸町に様々なコンテンツが集まり、卸町にある倉庫のような建物をこれから各分野のプロフェッショナルとシェアしてまちを育てたい、そんな想いが込められています。
STOREHOUSEの全貌がわかるムービーもありますのでぜひご覧ください!
卸町を福山の新しい商業エリアとして再生したい
STOREHOUSE代表の藤田直史さん(STOREHOUSE 代表/ALGORHYTHM)、上田昇辰さん(STOREHOUSE デザイン担当/カメレオンワークス)に話を伺いました。
ことの始まりは7年前。藤田さんは福山市内で家具屋を営んでおり、家具の展示販売ができる大きなスペースを探していた2010年に卸町に行き当たりました。
建物などを見て一目でピンときましたが、当時、卸町には小売店舗は入居しておらず、卸町を管理する繊維組合からすぐに了承を得ることはできませんでした。何度も足を運び、説得を重ねてようやく卸町にある元倉庫の建物に入居することができたそうです。
店舗を構える時、藤田さんは繊維組合にある宣言をしました。
「ひとつ小売店が入れば、まちは変わる。3年で物事を変えてみせます」
質の高い小売店の集積で、新たな客層を呼び込む
藤田さんが目をつけたのは、福山卸センターの敷地内にあった、柱と屋根だけのシェルター空間。以前は土日に朝市を行なっていたそうですが、卸町の認知度を上げ、これまで卸町に足を運ぶことのなかった人達が訪れるようなマーケットをやろうと考えました。
アメリカなどではこのようなシェルターでのマーケットを見かけることもありますが、日本では珍しいかも?!
ポイントはデザイン力と商品の質の高さ。感度が高い若者たちの集う場に
STOREHOUSEは年に3回、2日間に渡って開催しています。
マーケットイベントは飲食店舗がメインになりがちですが、STOREHOUSEの特徴は、質の高い小売店舗の出店に力を入れていること。
また、PRのための出店だけはなく、売上をきちんと上げてもらうことにもこだわっています。出店者によっては、1日何10万円も売り上げる店舗もあるそうです。
デザイン性の高さもSTOREHOUSEの特徴です。マーケットの空間デザインにも高い基準を設けており、各店舗ごとに自らの売り場を一から演出します。出店者自身がオリジナルの什器を作ってSTOREHOUSEに臨むほど。
そのデザイン性の高さが魅力となり、福山周辺の感度の高い若者が集う場になっているという点でも、これまでの福山にはなかった場を創り出しているといえます。
運営には家具の専門家、デザイナー、映像クリエイターなど様々な分野のプロフェッショナルが関わっており、オリジナルタブロイドやポスターの制作などPRにも力を入れています。
そのため、会場にはおしゃれに敏感な若者が多く、小さな子どものいる家族連れや、20代・30代の若者グループ、カップルなども目立ちます。
出店者同士が切磋琢磨し、まちも企業も人も育つ
STOREHOUSEの質を上げているのは、運営側の努力だけではなく、回を増すごとにレベルアップしている出店者の力があるからだと藤田さんは言います。
2日間の仮設イベントではあるけれど、店のビジュアルをきちんとつくりこめないとメインの場所には出られません。見栄えの悪い構えの店があったら、いまやそれに対して他の出店者からクレームがくる位です。
そうしている間に出店者の質が高まり、STOREHOUSEのために新商品を開発してくるほどになりました。 出店者には売上を上げて帰ってもらいたい。だから売上も集計して発表するようにしています。自然と出店者同士が、あいつには負けないと競い合うようになりました。
その効果を裏付けるように、以前出店したカレー屋はその後急に繁盛するようになり、店を拡大移転をすることになったそうです。
また、STOREHOUSEをきっかけに卸町を知った店が、実店舗を卸町に移転してくるということも起きました。
一年目は20店舗集まる程度だった出店者は、今では50店舗以上が応募してくるようになり、出店者説明会も満員。近隣の地域だけではなく、県外からも出店にきます。
STOREHOUSEによって人・企業・まちが育ち、それぞれに活躍の場を広げています!
毎回異なる開催テーマを参加者と一緒につくりあげる
STOREHOUSEでは毎回異なる開催テーマを設定し、そのテーマに沿ってコンテンツやデザインをアレンジしています。
次のテーマは何だろう?と、毎回ワクワクした気持ちになりますね!
新たなテーマに挑戦する2017年の春
そして来たる4月22日(土)、23日(日)には第13回STOREHOUSEが開催されます!
テーマは「ストアハウチュと蚤の市」。 子ども達が中心になって販売するマルシェと、国内外の逸品がフリーマーケット形式で販売されます。
プロフェッショナルの集うSTOREHOUSEならではの品々が見つかるかも!?
「まちの新しいメディアになりたい」
藤田さんや上田さんは、「STOREHOUSE」をただのイベントで終わらせるつもりはありません。STOREHOUSEの次なる展望は?と聞いてみました。
STOREHOUSEというイベント自体はの運営は若手にどんどん担っていってもらおうと思っています。STOREHOUSEをきっかけに、 卸町にも8店舗ほど若い人たちの店が入りました。 もっと発信していって、メディアとしての役割を果たすリアルな場をつくりたいですね。
次なる世代の育成、STOREHOUSEの継続性についてに加え、卸町でのイベントに留まらないこれからの地域づくりのビジョンも語ってくれました。
(藤田)ストアハウス自体をブランド化して、備後にとどまらず瀬戸内のデザインが集まる、デザインの祭典のようなことができたら面白いですね。
福山はもともと製造業のまち。優れた技術を持ったOEMメーカーとデザインを結びつけてみるのも面白い。 備後エリアだからこそできることをやっていきたいですね。
(上田)備後に様々なデザイナーが集まるデザインディストリクトをつくりたいですね。シリコンバレーのクリエイター版ができたら面白いなと思っています。
地方で感度の高い若者が集まる場をつくりだし、作り手と使い手が一緒に地域の産業を盛り上げていく。そんな手本のような場をつくりだしているSTOREHOUSEから、ますます目が離せません。
今週末の4月22日(土)、23日(日)はぜひSTOREHOUSEに足を運んでみてください!!