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コモンズでつながる賃貸コミュニティ「種音」

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東京都練馬区の閑静な住宅街に、商業スペースを併設した賃貸住宅「種音(たね)」があります。

ここでは、かつて屋敷林だった土地の記憶を受け継ぐグリーンスペースを共有することで、住民の交流が深まり、「なりわい」と「暮らし」が、現代の「コモンズ」のように交わる空間となっています。

今回はオーナーの上野達也さんに、この空間の成り立ちと魅力を伺いました。

Cover Photo by 株式会社ブルースタジオ


みどりや畑にアクセスしやすい町

2024年にオープンした「種音」は、畑が所々に残る東京都練馬区田柄にあります。

田柄は江戸時代から開墾が進んだ農村地帯でしたが、水に恵まれなかったため稲作には向かず、逆に水捌けが良いという特性を利用した畑作が中心になりました。そうして練馬大根に代表される都市農業が現在も続いています。上野家も、かつては漬物屋を営んでいたそうです。

そうした土の香りとみどりあふれる場所に「種」がまかれるように2024年、「種音」は誕生しました。

2上野さん(右)、ソトみど・佐藤留美(左)、ソトみど・山崎嵩拓(中央) Photo by ソトみど

コミュニティが芽生える家づくり

上野さんはアパレル関係の仕事を経て家業の不動産賃貸業に入り、相続を機に上野家が代々守ってきたお屋敷(母屋)とその周辺の土地を受け継ぎました。そして、探り始めたのが現在の「種音」の敷地も含まれる約400坪の遊休地の活用方法です。

大手ゼネコンやハウスメーカーに相談したところ、母屋を取り壊し、土地の一部を売却してマンションを建てるという提案を受けました。収益性を考えるとそれが定番の手法だったのです。しかし、

この土地ならではのコミュニティがつくれないか

と考えていた上野さんは、最終段階まで進んでいた設計プランを白紙に戻し、別の方法を模索することに。

そんなとき、上野さんのお屋敷から20分ほど歩いたご近所にある「青豆ハウス」という共同住宅の存在を知りました。居住スペースとともに菜園やアウトドアダイニングがある場に魅了された上野さんは、青豆ハウスオーナーの青木純さんを通じて神奈川県藤沢市の「鵠ノ杜舎(くげのもりしゃ)」や東京都武蔵野市の「hocco(ホッコ)」といった場にも足を運び、それらを手がけた株式会社ブルースタジオ一級建築士事務所と出会いました。

ブルースタジオは、建築を通じて暮らしのあり方や地域の魅力をデザインする建築設計事務所。「ここでなら」と感じた上野さんは、ブルースタジオとともに計画を始めました。

3入居者のみんなからは、親しみを込めて「タツ兄」と呼ばれている上野さん Photo by ソトみど

練馬のみどりと暮らしをつなげる

話し合いの過程で大切にしたのは、上野さんが代々受け継いだ土地にある、母屋やそれを取り囲む「屋敷林」と呼ばれる林をどのように残し、歴史を紡ぎながら新たな場を創出するかという点です。

屋敷林とは、武蔵野の土地を開墾した農家が暮らしのためにつくりあげた、自給自足には欠かせないシステムです。冬は冷たい風や土ぼこりから家屋を守り、夏は木陰をつくり、涼しい風を吹かせます。樹木は建築材や道具の材料、薪として活用し、落ち葉は畑の肥料にすることもできます。

古くは原野が広がっていた武蔵野の新田開発においては、通りに面して「屋敷」、その奥に「畑」、さらに奥に「屋敷林(雑木林)」が配置され、豊かな雑木林と畑の農村風景がありました。とりわけ大きな農家の象徴であった「長屋門」も備えていた上野家は、まさに「武蔵野の原風景」とも言える里山の景観を持ったお屋敷だったのです。

ブルースタジオは、こうした歴史を持つ土地の記憶を引き継いで、母屋やけやきの大木などを残し、グリーンスペースを大きく取った上で、商業利用ができる賃貸住宅を計画しました。建物はメゾネット型で全12戸+店舗、賃貸住宅は「なりわい住居」と「あきない住居」、住居専用の3つのタイプのお部屋が設けられています。
なりわい住居は一階にアトリエスペース(土間)があり、制作などの作業スペースとして自由に使えます。あきない住居は一階に店舗スペースが設けられ、飲食店や雑貨店など幅広い業種が入居できます。

それぞれ、用途は違えど、住民の暮らしと仕事が地続きになる設計です。それらの建物の間には広い通路が設けられ、みどりを多く配した敷地内では、春には花が咲き、秋には紅葉も見られます。こうして昔の風景の面影も残した「なりわい賃貸住宅『種音』」が誕生しました。

4「種音」の魅力的な風景をつくる母屋とグリーンスペース Photo by ソトみど

みどりの手入れで助け合う 

現在、「種音」には20代から40代以上まで幅広い世代の入居者が住んでおり、ファミリーや単身者などライフスタイルも様々。住人同士、飼い犬を通じて仲良くなったり、お土産のやりとりがあったり、体調不良の際にはお見舞いをしたりしながら、交流しているそうです。また、他の家の子どもの面倒を見合うような、今どきは珍しくなった親しいご近所づきあいもあるそうです。

さらに、グリーンスペースを維持するためには敷地内の芝刈り、落ち葉集め、堆肥づくり、花壇の手入れなどが必要になるため、住民も楽しみながらその手入れを手伝っているのだそう。

落ち葉掃きや芝刈りは大変だけど、みんなでやるとあっという間。終わった後、部屋でお茶を飲みながら雑談するのは楽しいですよ。僕ら夫婦はただここにいるだけですが、自然と入居者のみなさんが仲良くなっていることを嬉しく思いますし、驚いてもいます(上野さん)

5屋敷林のあった頃の記憶を残すケヤキの大木 Photo by ソトみど

このように、みどりをきっかけとして生まれる関係性について、ソトみどメンバーであり、東京都内の緑地保全にかかわるGreen Connection TOKYOの佐藤留美さんは次のように語りました。

グリーンスペースを大きくとったことで、みどりのお手入れをきっかけに交流が生まれ、コミュニティが盛り上がる。きっとランドスケープを設計された方も、それは意識されていたと思いますね

「種音」のコミュニティを生み出しているグリーンスペースは、かつての農村の人々の生活になくてはならないものだった屋敷林のあり方を、現代に蘇らせているようです。

まちの風景をつくる「なりわい住居・あきない住居」と「YORIMICHI MARKET」

「種音」のもう1つの特徴は、先にも触れたように、「住まい」と「仕事の場」が一体となった「なりわい住居」と「あきない住居」があることです。カフェやパン屋などが開かれ、入居者だけでなく近隣の人々も立ち寄るようになり、地域のつながりが深まっています。

6既存のみどりに囲まれるように建てられた住宅(メゾネット型で3タイプ・全12戸+店舗) Image by 株式会社ブルースタジオ

この背景には上野さんご夫妻が、もともと個人店が多く立ち並ぶ東京都渋谷区幡ヶ谷に住んでいた経験があります。個人店が軒を連ね、店主の顔が見えるまちの空気に親しんできたお二人は、練馬のこの地域でも、自分たちの手で個性豊かなお店と、人と人とがつながる風景をつくりたいと考えるようになりました。

上野さんも、妻の綾子さんとともに、種音の一角でカフェ「gak」を営んでいます。入居者は単なる住人ではなく、互いの営みを見守り合う仲間のような存在。入居者や近隣の住民も含めて、コーヒーや食事、時にはワインを囲みながら語らう時間が、この場所の日常の風景になっています。

また、「種音」では、お散歩やジョギングのついでに「寄り道」がてら遊びにきてもらえるような場がつくれればと「YORIMICHI MARKET」というイベントを開催しています。上野さんのご友人の素敵なお店や地元の人気店の味を楽しめるほか、種音の入居者も一緒になって企画を盛り上げています。

こうして重ねられる仲間との時間が、この土地に新しい「まち」の輪郭を少しずつ描いているようです。上野さんが思い描いていた「この土地ならではのコミュニティ」とは、建物を整えること以上に、同じ空気を共有できる仲間を少しずつ増やしていくことだったのかもしれません。

7種音で開催された「YORIMICHI MARKET」 Photo by ソトみど

現代のコモンズとしての機能

そんな「種音」を訪ねたソトみどの山崎嵩拓さん(東京大学・総括プロジェクト機構)は

武蔵野の雑木林は、江戸時代初期には入会地(いりあいち)として共同管理していた歴史がある

と語りました。

不特定多数の「みんな」のものでもなく、私のものという「私有」でもない。このように土地や資源を特定のコミュニティで維持管理する仕組みは「コモンズ」と呼ばれています。コモンズは、共有の資源や場所などを、適切なルールと人々の関係性によって持続可能に活かす働きがあります。日本の入会地や里山は、人々の持続的な営みがあってこそ維持されるコモンズの代表的な風景として、世界から注目を集めています。

「種音」の「なりわい+賃貸住宅」、そして共有のグリーンスペースは、現代に息づくコモンズのかたちと言えるでしょう。屋敷林の面影を残すみどりを住人たちがともに手入れし、落ち葉を掃き、花を植える。その積み重ねが、子どもたちが遊ぶ姿や、カフェで仲間と語らう時間をゆるやかに育てています。
みどりが暮らしのすぐそばにあることで、人は立ち止まり、顔を合わせ、自然に言葉を交わします。共有のみどりを囲む日常は、住人同士の関係を深めるだけでなく、店舗を訪れる人や近隣の住民にも開かれ、まちへと静かに広がっていきます。 賃貸住宅という身近な空間に共有のみどりがあること——そのことが、この場所を現代のコモンズへと育てているのです。

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上野ご夫妻とソトみど取材チーム Photo by ソトみど

 

    

【種音】

住所東京都練馬区田柄3-17-35
設計株式会社ブルースタジオ
ウェブサイトhttps://www.bluestudio.jp/rentsale/rs013692.html
インスタグラムhttps://www.instagram.com/tane_nerima/

    

【gak】

住所練馬区田柄3-17-35種音A棟④
営業時間11:00~16:00
定休日不定休(詳細はインスタグラムをご確認ください)
インスタグラムInstagram: https://www.instagram.com/gak_tagara/

ソトみどとは

ソトみどとは、「ソトとみどりのイイ関係」 をコンセプトに、いまあるみどりや新たにつくられるみどりをどうデザインし、どんなしくみで継続させるのか、その具体例や手法についてみんなでシェアしていくための事例バンクです。
今後みどりに関する活用事例や情報については、特設サイトより、まとめてご覧いただけます。
ぜひチェックしてみてください!
URL:https://sotonoba.place/tag/sotomido

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