レポート
プレイスメイカーに聞く!大塚剛さん|中目黒で人がつながる場をつくる

ソトを居場所に、イイバショに!
ソトノバが掲げるこのコンセプトを体現するために欠かせないのが「プレイスメイキング」という概念および手法です。その実践者であるプレイスメイカーが、全国各地に魅力的な場を生み出していますが、そのあり方は実に多種多様。そこで、日本のプレイスメイキングの現在地を可視化しようと、先進的なプレイスメイカーを紹介する連載を重ねています。
今回は、Placemaking JAPANが公開しているプレイスメイカーの特集として、東京・目黒区の中目黒でデザイン会社を経営しながら、中目黒のエリアマネジメントをはじめとした様々なプロデュースを行う大塚剛さんにお話を聞きました。
筆者は、2024年に中目黒で大塚さんと一緒に仕事しながら、プレイスメイキングの実践の様子を見てきました。その実践の場にはいろいろな方々が集まり、多種多様な活動とともに地域密着のイノベーションが起きています。
そんな大塚さんの中目黒での活動や実践における心がけに迫ります。
<プロフィール>
大塚剛(おおつかたけし)さん
日本デザイン株式会社 代表取締役
2006年に日本デザイン株式会社を設立。webや紙、映像など表現的なデザインから商品開発、店舗設計、ブランディングなど様々な思いをデザイン。
Cover Photo by 日本デザイン株式会社
デザイナーがプレイスメイキングを考えるきっかけ
ー デザイナーである大塚さんが、プレイスメイキングをはじめとしたまちづくりに関わるようになったきっかけを教えてください。
グラフィックデザイン、ホームページデザイン、事業プロデュースなど、多岐にわたるデザインの仕事を生業にしています。
15年ほど前に中目黒にオフィスを構えてしばらく経ち、行きつけの飲み屋で、中目黒駅前のアトラスタワー周辺を盛り上げるイベントを企画してほしいという相談がありました。ちょうど「中目黒のまちで何かしたい」という想いもあったため、中目黒のお店がキッチンカーで出店したり新鮮な野菜が買えたりする「中目黒村マルシェ」というマルシェイベントを開催しました。何回か開催するうちに、もっとみんなが楽しめて、もっと中目黒らしいイベントができないかと考えて「ナカメキノ」という無料の映画祭を開催しました。今はいろいろなところで映画を上映するイベントが開催されていますが、当時はなかなかチャレンジングな取り組みだったので、苦労した記憶があります。結果とてもいい風景をつくることができました。
ナカメキノでは、目黒川の船入場跡地(現在のフナイリバ・ヒロバ)を活用して、オープンスペースの上映会やトークショーを実施しました。この企画が、初めてこういったプレイスメイキングに関わるようになったきっかけだと思います。
もともとDJやオーガナイザーをやっていたので、「人が集う場づくり」には興味があったんだと思います。今は、その場づくりがクラブからパブリックスペースやまちに変わっただけだと思っています。
ー ナカメキノの取り組み自体は、行政や地元との連携はありましたか?
ナカメキノの取り組み自体は、大きな連携はなく、民間単独の企画でした。ただ、実施するにあたり、地元の町会長に相談し、パブリックスペースが使用できるように行政との調整をお願いしました。その流れで、今の活動につながる中目黒エリアのまちづくり担当の方を紹介してもらいました。
ー なるほど。大塚さんの現在の活動を拝見していると、様々な取り組みを通じて町会や区との連携が見られますね。
そうですね。町会や区とは、連携というより「つながり」という表現がしっくりきます。町会長はナカメキノがきっかけで、中目黒エリアのまちづくり担当の方は、イベント利用の申請時に町会長からご紹介いただいたのがきっかけですし、ちょうどその時に、担当の方からエリアマネジメントの原型となる「なかめスタイル」のデザインコンペへの参加をお声がけいただくなど、自然な形でつながりが生まれました。
ー エリアマネジメントの原型とのことでしたが、「なかめスタイル」とはどのような取り組みですか?
「なかめスタイル」とは、中目黒に関わる人たちが、それぞれの立場を超えて交流を深めていくことで、魅力的なまちづくりを目指す合言葉です。
しかし、コンペで提示されていた内容が、従来の町会や商店街からの一方向の考え方での発信だったので、自分は提案の中で、この考え方を取っ払い、いろいろな人たちが中目黒のまちで起きていることを自分事にするためのきっかけづくりにとどめ、まちづくりへの参画ハードルをぐっと下げることを提案しました。
その提案が区の課題感とも合致し、提案が受け入れられ、改めて仕事として中目黒のまちに本格的に関わるようになりました。

民間主導の活動起点となるフナイリバ運営へ
ー 現在、フナイリバ・ヒロバの日常的な運営・活用が見られています。どのような流れで実現に至っているのか教えてください。
「なかめスタイル」を通じた取り組みを行っていた際に、行政からの援助に頼った持続性には限界があると感じ、行政から援助を受けるのではなく、連携しながら収益構造をつくる必要があると考えました。その検討の中で、区有施設の利活用を目黒区に提案したところ、目黒区としても公民連携に着手していきたいという意向もあり、今に至っています。タイミングが良かったと思います。
ー 驚きました。行政側から公民連携手法を検討するスキームは多く知っていますが、民間側からスキームを提案することは全国的にも稀だと思います。実現にあたって苦労した点などありましたか?
非常に大変でした。フナイリバは、河川区域に位置します。そのため、区や町会はもちろん、フナイリバの土地所有者の東京都とも協議を要しました。
また、使われていなかったこの場所を使用するために、いろいろな反対意見もありました。そのときに、1つの大きな方向性を共有することを目的に将来のイメージの絵を書きました。これによって将来像が見えて、少しずつ仲間が増えて、実行に移すことができたと思います。

今では、NAM(一般社団法人中目黒駅周辺地区エリアマネジメント)として、ヒロバを指定管理で請けつつ、コワーキングスペースとして活用しているタテモノ(旧「川の資料館」)は施設賃料を区に支払っています。ヒロバでは、貸出による収益事業の1つとして、キッチンカーを日常的に出店してもらう取り組みを継続的に実施しています。目黒区としても、賃貸収益があることで、歳出削減につながっています。

目黒川沿いがより豊かになる空間を試行中
ー フナイリバの活動以外に中目黒で取り組まれていることはありますか?
プレイスメイキング1つとして考えられる活動としては、2022年、2024年に目黒川沿いの区道を活用した実証実験「目黒川道プロジェクト」を区と協力して実施しました。
目黒川は、桜の名所として有名な場所ですが、普段は散歩を楽しむ地域住民も多く、居心地よく、愛着のある場所の1つと捉えられています。
文京区初音町で以前、まちのおじいちゃんとおばあちゃんが夕方になるとカラーコーンをゲリラ的に置いて、子どもたちのために道路を遊べる場所にしているのを目にしました。その風景が非常に印象的で、道路ってこんな使い方ができるのかと驚きました。
個人的に、中目黒には公園や広場が少ないと思っています。その時に、目黒川沿いをオープンスペースとして活用して、河川敷のようにピクニックできるような空間になると、もっと豊かに、楽しくなるのかなと妄想しています。
ただし、道路は本来遊ぶ場所ではないため、歩行者優先化した場合に日常的な活用ができるのか、イベント利用が可能なのかなど、実証実験を通して考えています。

人と人をつなぐことが、私のプレイスメイキング
ー 最後に、大塚さんにとっての中目黒でのまちづくりやプレイスメイキングの想いを教えてください。
中目黒をもっとおもしろくしていきたいというのと、生まれや育ちは違う場所だけど、ここを「地元」と言いたいと思っています。
中目黒での仕事を通して、まちづくりを担っている行政と民間の動きや考え方、仕組みが大きく乖離していることを感じました。もちろん行政のまちへの想いは強く、その想いが自分により伝わるからこそ、歯痒さを感じています。この状況をうまくつなぎ合わせることができればいいなと考えています。
例えば、フナイリバでのキッチンカーの貸し出しひとつにしても、間にNAMのような母体が入ることで、借りる側にとっての手続きが大幅に削減されます。それによって、まちでの活動に対するハードルがぐっと下がると思います。
こういうことの積み重ねが、結果的にプレイスメイキングにつながっているのかもしれません。
また、今後は、行政と民間をつなぐだけではなく、中目黒にいる人と人をプロデュースとともにつなぎ合わせられるといいなと思っています。その活動がまちやパブリックスペースに現れてくれると嬉しいなと思っています。
お話を聞いて
大塚さんのお話を聞いていて、空間づくりの話よりも、具体的な人物名が多く登場していたことが印象的でした。それは、大塚さんが中目黒に住む方や関わる方、一人ひとりと向き合いながら、実践してきた証と感じました。
筆者も携わった2024年の目黒川沿い区道の実証実験では、子どもたちも参加できるパン食い競争や、ランチや談笑を楽しむことができる空間がつくられていました。この実証実験を通して、町会、パン屋さん、大学生などがいろいろな形で運営に関わっていました。振り返ると、参加する地元の人たちが運営側の人と談笑・交流している風景があり、「自然と人と人がつながっていっていたんだ」と、感じることができました。
また、プランを夢物語にせず、経済的な持続性も同時に思考するスタンスは、全国のプレイスメイカーにとっても参考となると感じました。

話し手:大塚剛さん
聞き手・執筆:小原拓磨(ソトノバ編集部)
資料提供:日本デザイン株式会社、一般社団法人中目黒駅周辺地区エリアマネジメント、大塚剛さん
インタビューは、2025年2月19日、フナイリバにて実施
本記事は、官民連携まちなか再生推進事業(普及啓発事業)のPlacemaking JAPANの活動・支援により公開します。