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交通局がここまでやる!?ニューヨーク市のストリート活用プログラムを紹介

歩行者が主役の空間に生まれ変わったニューヨークのストリート。この改革の実施に当たったのがニューヨーク市交通局(DOT)です。その代表的な手法が、以前ソトノバでレポートした「プラザ・プログラム」(前編後編)で、これによって70か所以上におよぶ街路の車道部分が広場に転換されました。

これだけでも非常にインパクトのある革新的な施策ですが、交通局のストリート改革はプラザ・プログラムにとどまりません。交通局はその他にも様々なストリート活用のためのプログラムを持っていて、それらを組み合わせたり使い分けたりしながら展開しています。交通局という組織でここまでやっているのかという、活発な取り組みに迫ります!

「カーフリー・アースデー」はストリートの祭典!

4月21日、アースデー。春の陽気がやってきたニューヨーク市内に圧巻の光景が出現しました。

マンハッタンのど真ん中を突き抜けるブロードウェイのタイムズスクエアとユニオンスクエアの間の30ブロック、約2.5kmにわたって、午前9時から午後3時まで車両通行を規制して、歩行者空間化しました。環境への配慮をテーマにした「カーフリー・アースデー」で、交通局が主導したものです。2016年に6ブロックを閉め切るところからはじまって、現在の規模まで拡大してきました。

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30ブロックを歩行者空間化したカーフリー・アースデー。ブロードウェイの車両通行止め区間を示したパネル。 Photo by Koichiro Tamura

もちろん、ただ車両通行止めにするだけではありません。沿道で様々なプログラムが組まれていて、つい、先へ先へと歩いてみたくなるコンテンツが満載です。
たとえば、タイムズスクエアの仮設ステージでのダンスパフォーマンス、路上でのライブ、ヨガやダンスのクラス、パブリックアートや仮設の遊び場の設置、フードベンダー出店、様々な市の組織や非営利団体のブースなど、実に盛りだくさんです。

2.5 kmにまたがるそれぞれのスポットは多くの人でにぎわい、路上にベンチが置かれた場所では人々が思い思いにくつろいでいました。ニューヨーク一番の目抜き通りが、見事に車のない、歩行者が楽しむ空間に転換される一日なのです。

実はこの日、歩行者空間化されたのはブロードウェイだけではありません。マンハッタンの北側とブルックリンの2か所でも同じようにカーフリー・アースデーが開催されたのです。

3年目の取り組みにしてかなりの規模に成長しているのは、多くの市民に受け入れられている証拠でしょう。

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路上でのダンスクラスに参加する人々。 Photo by Koichiro Tamura

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ありふれた植木鉢をカラフルなアートに。 Photo by Koichiro Tamura

さらに大規模な「サマー・ストリーツ」

そしてこれからの夏、もう一つの大規模なストリート活用イベントが開催されます。

「サマー・ストリーツ」と銘打たれたそのイベントはなんと、マンハッタンを縦横に10km以上、8月の土曜日3回にもわたって歩行者空間化してしまうのです!
このイベントでは夏らしいウォータースライダーや、子どもたちも楽しめるアドベンチャーをはじめ、多彩なアクティビティ、パフォーマンス、アートが出現します。これらは公募で提案が募られています。
非常に大規模なサマー・ストリートは、交通局主導のもと、多数の市の組織およびシティバンクをはじめとした民間企業との協力によって開催されています。

今年で11回目になるこのイベントは、健康的なライフスタイルや持続可能な交通をテーマにしたもので、南米コロンビア・ボゴタ市の週末自転車道シクロヴィアや、フランスのパリ・プラージュといった取り組みをモデルにしたものだそうです。逆に、ニューヨークのサマーストリートは、ロンドンのリージェント・ストリート・サマー・ストリート開催を誘発するなど、世界的な連鎖が起こっているのです。

夏にニューヨーク訪問を考えている方は、ぜひサマー・ストリーツを体験してみてはいかがでしょうか!

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2017年のサマー・ストリーツで車両規制をしいたパーク・アベニュー。 Photo by New York City Department of Transportation

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サマー・ストリーツではウォータースライダーも出現! Photo by New York City Department of Transportation

一時的にストリートを歩行者空間化する「ウィークエンド・ウォーク」

ストリートを歩行者空間化する仕掛けは、年に数回の大規模イベントだけではありません。

数ブロック規模での歩行者空間化は、「ウィークエンド・ウォーク」という枠組みを使って市内およそ60か所、ソトづかいのシーズンである4月から12月の間に120日以上行われているのです。

これは商業エリアで、主にローカル・ビジネスの振興とストリート空間の活用をねらったもので、コミュニティ組織の申請ベースで開催されます。

ウィークエンド・ウォークを利用することで、恒常的に歩行者空間化できないストリートでも、週末限定で自由に使うことが可能になります。

また、プラザ・プログラムで新たにプラザ化を進める前に、一時的なウィークエンド・ウォークを開催して、実験的に効果を見せる・測るという組み合わせ方をする場合もあり、ユニークかつタクティカルな使い方となっています。

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チャイナタウンで開催されたウィークエンド・ウォーク。遊び場やステージ、屋台が出現。 Photo by New York City Department of Transportation

日常を彩るパブリックアート・プログラム

交通局がアートを担当するチーム(DOT Art)を置いて、様々なプログラムを展開しているのも、注目できるポイントです。

DOT Artのプログラムの対象となるのは、ストリートに設置されるアート作品で、恒久的なものではなく、展示期間が最長11か月までとなります。

アーティスト、コミュニティ団体、非営利団体が申請することができ、応募資格やDOT Artからの支援額などによって4つのプログラムがあります。ニューヨーク市は条例で、建設予算の1%をアートに割り当てているのです。

DOT Artは応募作品を美観上や構造上のふさわしさなどから審査し、適切なものには設置許可を出し、応募者とプロジェクトチームを組んで計画を立てます。作品の制作と管理は応募者の責任となります。

このようなプログラムがあることで、多くのアーティストができ、恒久的な設置が難しい作品も展示できるため、ストリートを新鮮な驚きと楽しさにあふれた空間にしているのです。

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地球上最後のシロサイ3頭をモチーフに、野生生物保護をテーマにしたプラザ上のアート作品。展示中にそのうち1頭が死去するというニュースが。 Photo by New York City Department of Transportation

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パネルを交換して展示内容を変えられるようにしているアート・ディスプレイ・ケース。 Photo by Koichiro Tamura

質の高いファニチャー・デザインと「ストリート・シーツ」

ニューヨークのストリートを歩くと、スタイリッシュで統一された、デザイン性の高いファニチャーを目にします。

これらのデザインは国際コンペによって選ばれたものです。その上で、たとえばベンチの手すりをより高齢者に使いやすいものにするなど、実際の使われ方を見ながらカスタマイズも行われています。

ベンチの設置は、市民の要望と優先する設置基準にもとづいて決められます。すでに市内1800か所以上に設置されているベンチは、マップ上で見ることもできるのです。

ストリート上でくつろげる場所をつくるために、「ストリート・シーツ」というプログラムもあります。

これは基本的には車道部分に座席を設ける形態をとっていて、いわゆるパークレットと呼ばれるものと共通していますただし、ガイドラインに沿った上で様々なデザインが可能となっており、ニューヨーク市のストリート・シーツには歩道部分に設置されたものも一部存在します。
ストリート・シーツは3月から12月までの期間限定で、これまで17か所に設置されているようです。周辺のビジネス団体ないし非営利団体からの申請ベースになります。より普及しているプラザに比べると目にする機会は少ないですが、プラザとして完全に閉め切れないような場所に向いているといえるでしょう。

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マンハッタン・ダウンタウンにあるストリート・シーツ。カフェの目の前にあり、コーヒーを飲む人たちが。 Photo by Koichiro Tamura


ストリート・シーツの利用状況をおさめたタイムラプス。思い思いの使い方でにぎわっている様子が見てとれます。

他にも、交通局が力を入れている特徴的なファニチャーがあります。

まちを歩きやすくするWalkNYCプログラムでは、行き先を見つけるための案内地図を設置しています。

統一感があって見つけやすいシルバーのボードには、大小異なる縮尺の地図が、進行方向が上にくるように配置され、分かりやすくなるよう工夫されています。

また、主要なバス停ではリアルタイムの運行表示も組み込まれています。

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WalkNYCプログラムで設置された案内スタンド。 Photo by Koichiro Tamura

アクセスしやすい自転車レーンとシェアバイク

人々のソトづかいを活発にするための交通局の施策として、自転車利用の振興もはずせません。

現在、ニューヨーク市は北米最大規模になる1600kmをこえる自転車レーンを誇っており、自転車利用者も増加しています。

自転車レーンの拡大とともに、自転車シェアサービスであるシティ・バイクも投入され、自転車利用の促進に一役買っています。その名のとおりシティ・バンクがメインスポンサーで、実際の運営はMotivate社が行っています。税金を投入しない官民連携モデルです。

サービス開始は2013年でそう古くはないのですが、市内には750か所もの自転車ドックが設置されています。

市民の足として普及しているほか、観光客にも重宝されています。シェアバイクでニューヨークのパブリックスペースをまわってみると、よりまちを身近に感じられるのではないでしょうか。

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シティ・バイクのドック。スマートフォンアプリを入れれば、解錠や空き状況の確認をスムーズに行えます。 Photo by Koichiro Tamura

記事前半で紹介したカーフリー・アースデーでは、シティ・バイクの利用を無料化してさらなる普及をはかるというプログラムの連携もみられました。

施策実現までのプロセスも見逃せない

ニューヨーク市交通局の非常に活発な取り組みは、公式フォトアルバムでも様子を見ることができます。こんなにアクティブにストリートを使えるのかと、見てワクワクしてくるのではないでしょうか?

もちろん、それぞれのストリートには様々な主体が関わっているので、必ずしも施策の実施がスムーズにいくわけではありませんし、協力が不可欠になってきます。
一見大胆に見えるストリートの改革ですが、交通局は対象となるコミュニティとの対話のプロセスを重要視しています。

たとえば新しいプラザ空間への転換や自転車レーンの導入をおこなうとき、交通局は地元のコミュニティ・ボードの会合で繰り返し説明をし、ボードメンバーの合意を確認する必要があります。コミュニティ・ボードとは、日本の自治会・町内会より明確な行政上の位置づけと権限をもった地区ごとの組織です。

対話のプロセスは、交通局の職員にとってもときにフラストレーションがたまるものだそうです。

プラザや自転車レーン導入に対して反対する住民もいますし、議論の結果として反対派が勝るということもありえます。

仮にその結果として施策が実施されない場合でも、「コミュニティの中で議論を尽くすことには意味がある」と、ある交通局職員は言います。

また、具体的なプログラムを議論する前にも、交通局は人々の意見をすくいとる努力をしています。
ストリート・アンバサダーと呼ばれる職員がいて、まちをめぐって常時市民の声を聞く体制をつくっているのです。

このような草の根で目に見えにくいプロセスも踏まえているからこそ、大胆なプログラムが市民に受け入れられ、拡大していってるのかもしれません。

なぜここまでやれるのか?

それでは最後に、なぜニューヨーク市交通局はここまでの取り組みができるのか、考察してみましょう。

まず、市全体としての政策目標がはっきりしていることです。2007年に前市長が策定したPlaNYCをきっかけに、市の面積の27%をしめるストリートを公共空間として考え、歩行者目線で活用する動きが加速しました。
現政権は交通安全や地域間・市民間の公平性などに重点を置いていますが、そのビジョン実現のためにこそ、歩行者のための空間を大事にしなければならないという発想があります。

次に、交通局の守備範囲の広さがあります。道路のハード面だけでなく、複数の交通手段を横断的に見ています。市内の人々の移動について包括的にカバーできるため、単発的なプログラムではなく、市のビジョン実現のために効果的なプログラムを組み合わせて展開することができると考えられます。

3つ目は、民間との連携と創意の活用です。プログラムによっては外部のパートナーと協力することによって、大きな効果を得ることができます。また、ストリートを変えたいという意思がある地域団体のニーズをくみとり、役割分担しながら実施できるような仕組みをつくっています。

4つ目には、サマー・ストリーツの例で見たように、他都市から学んで、よいものを新しい形にして取り入れるという姿勢があります。

最後は、段階的・一時的な実施や、丹念な合意形成プロセスで市民の後押しを得るというやり方をとっていることです。目に見えるインパクトを示すことと、目に見えにくいプロセスをしっかりやること。この両方が積み重なっていることが、大きな変化の原動力になっているのではないでしょうか。

ストリートをよりよくするために、ニューヨーク市交通局のプログラムは拡大を続けています。今後も新しい取り組みが出てきそうなので、ぜひチェックしてみてください!

おまけ:ストリートの使い方を振り返ってみると…


100年以上前のニューヨークのストリートをおさめたビデオが残っています。

車が普及する前の、歩行者がストリートの主役だった時代の映像です。

車社会を経て、ふたたび歩行者のためのストリートづくりが見直されているニューヨークですが、さらに未来のことを考えると、たとえば自動運転の実用化がストリートのスペース利用にどういった影響を与えるかという議論も起こってきています。

これから先の100年間でニューヨークの歩行者のためのストリートというDNAは、はたしてどのような形を見せているのでしょう。

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