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プラザ|広場

レポート

広場のコストをどう回収する? 「第2のフロー効果」と経済波及効果算出のススメ

曇天模様ながら、人が行き交い、また、滞留する風景。

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Photo by Toru HIJI

カラッと晴れているものの、人のいない風景。

この2枚の写真は、岩手県大船渡市の「キャッセン大船渡エリア」の津波復興拠点施設に併設されている広場(以下、「復興拠点広場」という)の写真です。冒頭の写真は7月7、8日に開催された食のイベント「三陸ぐるっと食堂」の開催時のもので、その下は翌7月9日月曜日午前中のものです。

これを見て、皆さんはどのように感じますか?

「1年のうちに数回しか活気のある風景をつくれないなら、無駄な投資をするべきではない」

「公共空間の管理者は、費用対効果を考え、できるだけ多く活用すべきだ」

「イベントの回数が多ければ良いというわけではない。質が大事だ」

「広場の性質について勘案すべきだ。憩いと安らぎを提供する場であるならば、人が多く滞在していれば良いというわけではない」

様々な意見がありそうです。とはいえ、復興拠点広場の整備には中心市街地の活性化に資する目的で、国民の納める税金を使っていますので、その対価としての価値の最大化を目指すバリュー・フォー・マネー(以下、VFM)を重視することに異存はないと思います。

そこでこのレポートでは、2枚の写真の対比に見る、地方都市大船渡市の公共空間の現状とあり方について、経済的な観点から考えたいと思います。

ちなみに筆者は、同エリアにおけるエリアマネジメントの推進主体の都市再生推進法人「株式会社キャッセン大船渡」のタウンマネージャーであり、上記イベントにも実行委員として参画しています。

大規模占用による活用はこれから

復興拠点広場は、「大船渡市防災観光交流センター」とともに、津波復興拠点事業で整備され、今年の4月28日に供用を開始しました。指定管理者制度により、大船渡市観光物産協会が管理を請け負っています。

まちびらき以降、大規模な占用による活用は今回の三陸ぐるっと食堂が初めてです。それ以外の日には、犬の散歩やご高齢者の休息など、日常的な使われ方をしています。

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044月28日、第3期まちびらきの様子 Photo by Motoko YAMAZAKI

イベント利用で生み出す「第2のフロー効果」

さて、復興拠点広場のVFMについて考える前提として、本項では、昨今の社会資本整備を取り巻く価値評価の論調と、東日本大震災後の視点について整理します。

はじめに、国土交通省の社会資本整備審議会計画部会の議論からもわかるとおり、社会資本のもたらす効果は以下の2つに大別されると考えられています。

(1)フロー効果:社会資本整備自体が生産活動を創出し、雇用を誘発して、所得増加による消費の拡大につながる効果
(2)ストック効果:社会資本により、安全安心の確保や生活の質の向上、環境対策など、期待される効果

社会資本整備に関して、1990年代後半より、いわゆる「選択と集中」が進められてきた中で、目の前の(1)よりも将来的な(2)を重視し、社会資本整備を「投資」と見る機運が、2015年ごろから高まっています。

一方、東日本大震災からの復興の過程でのハード整備には、少し異なる視点が必要だと筆者は考えます。

被災地の復興事業における初期費用の多くは国費によって賄われていますが、維持管理費は自治体の負担となります。いくら上記(2)が重要であっても、その効果を維持するために発生する負担は膨大で、東北沿岸各自治体の財政状況を鑑みれば、自治体予算以外の手段によって、維持管理費を調達するための検討が求められます。

そもそも国費で整備された施設です。初期費用も含めて、地域の人口や経済の規模に対して過剰投資に当たらないかを見極め、各施設の存在価値を定量的に評価し続ける必要があるでしょう。

そのような前提に基づいて、再度「公共空間はフローか? ストックか?」を考えると、下図の赤枠のとおり、(1)にも(2)にも当てはまらない、「第2のフロー効果」があるように思えます。
それは、社会資本自体を「生産活動の場として活用すること」から生まれる、雇用と消費の増大です。

つまり、公共空間をイベントや社会実験などに活用することで生み出す効果です。社会資本を維持していくためには、このような第2のフロー効果を認識しつつ、社会資本を活用することで、初期費用と維持管理費を回収することを検討すべきではないでしょうか。

社会資本のストック効果とフロー効果。国土交通省社会資本整備審議会計画部会の資料を元に筆者が追記 Figure by Toru HIJI

規定の利用料だけでは1年が600日でも回収できず

行政が自有公物を自ら管理する場合でも、民間に管理を委託する場合でも、維持管理費は行政の予算から捻出されることが一般的です。先に述べたとおり、復興拠点広場は指定管理者が管理する施設ですので、維持管理費は大船渡市が予算計上します。

そのような状況を踏まえ、ここでは第2のフロー効果を認識しつつ、社会資本を活用する一つのケーススタディとして、大船渡市の予算以外で復興拠点広場の初期費用と維持管理費を回収する手法を考えたいと思います。

手法としては、大まかに(A)支出経費を圧縮する、(B)規定の利用料収入を上げる、(C)新たな収入源を生み出す、という3つのアプローチが考えられます。

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復興拠点広場の写真 Photo by Toru HIJI

復興拠点広場の面積は1600m2なので、整備費を1m2あたり2万円と仮定すると、初期費用は3200万円程度と推計されます。(※筆者は当該広場の整備費を把握していませんので、あくまで推計です。)

復興拠点広場の耐用年数を20年(国税庁規定の緑化施設の耐用年数)とした場合、減価償却を勘案せずに均等割すると、1年あたり160万円を回収しなくてはなりません。併せて、3200万円で整備した広場の年間維持管理費は、(A)を踏まえて可能な限り圧縮したとしても、初期費用の1%程度は発生すると考えられますので、32万円程度です。

つまり、初期費用と維持管理費を利用によって完全に賄おうとすると、合計で年間192万円を捻出する必要があるといえます。

この復興拠点広場で設定されている規定の利用料は、全面を単一事業者に貸す場合でも1時間あたり400円であるため、1日8時間貸し出しても利用料は3200円です。ということは、年間で600日貸し出さないと完全回収には至らないという計算になり、(B)の手法には限界があります。

そのため、(C)の新規事業を創出し、「収入をつくり出す」視点が求められます。例えば、指定管理者自らがイベントを主催して、利用料ではなく出店を募り出店料を徴収するのも一つの収入です。

空間の価値を生かした新たな事業が創出されれば、インフラ整備の初期「費用」は初期「投資」へと変わります。このような民間の経営感覚を、行政や指定管理者が持てるかが重要と考えます。

地域に多大な経済効果も

前項では第2のフロー効果のうち、「生産活動の創出」について論じました。先に示した図の通り、第2のフロー効果にも、「生産活動の創出」→「地域経済への波及効果(雇用誘発→消費拡大)」という流れがあると考えます。

そこで、ここでは、前項の(C)を継承し、復興拠点広場を活用した事業(イベント)を実施した場合の経済波及効果について推計します。

前提1:適正な来場者数の設定

はじめに、復興拠点広場の適正な来場者数を設定します。

設定においては、「パーソナル・スペース」の考え方を援用します。パーソナル・スペースとは、コミュニケーションをとる相手が自分に近付くことを許せる、自分の周囲の空間(心理的な縄張り)を意味します。

ここでは、不特定多数の参加するイベントや催事の際に来場者がある程度の群衆性を感じながらも、心理的なストレスを感じずに滞在できる条件を、アメリカの文化人類学者エドワード・ホールの区分に従い、「社会距離(1.2m〜3.5m)」の範囲と考えます。

面積1600m2の復興拠点広場内であれば、1時間あたり、42人〜356人存在する状況が適正となります。そこでここでは、イベントの単位時間当たりの来場者を、上限の356人とした場合の経済波及効果を推計します。

前提2:イベントの条件設定

次に、イベントの諸元の条件を下記のように設定します。なお、来場者属性や消費額などについては、今回の「三陸ぐるっと食堂」の際に、来場した方(60名)へのヒアリング結果を踏まえています。

  • 内容は不特定多数が来場するフード・フェスティバルとする
  • 単位時間あたりの来場者数を356人とし、8時間の開催で合計2848人が来場
  • 来場者の居住地は市内:55%、近隣市町:30%、遠方:15%
  • 主催者・運営は全て市内の人員とする
  • 飲食ブースにおける一人当たりの消費額を1500円とする
  • イベント終了後も周辺の飲食店を利用する割合を10%、平均金額を3500円とする
  • 周辺店舗で土産物を購入する人の割合を5%、平均購入額を1500円とする
  • 域内の宿泊客(後泊)を3%とする
  • 計算には平成23年度岩手県産業連関表を基礎として、復興拠点広場の立地特性を変数として加えた数式を利用する

入力

イベントの消費総額は以下の通り推計できます。

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フード・フェスティバルの消費行動と入力変数 Figure by Toru HIJI

経済波及効果(算出結果)

岩手県産業連関表をベースとして、「中心市街地の中央に位置する」、「公共交通機関の結節点である」、「周辺には商業・業務施設が集積している」といった立地特性を変数に加えた数式に、消費額を入力した結果は下記のとおりです。

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フード・フェスティバルの経済波及効果の推計結果 Figure by Toru HIJI

以上のように、このフードフェスティバルの生産誘発額は、推計で924万3000円となりました。

「中心市街地の中央に位置する」、「公共交通機関の結節点である」、「周辺には商業・業務施設が集積している」といった立地特性から、イベント時に復興拠点広場が生み出す地域内での経済波及効果は非常に大きく、これはVFMの価値判断基準として無視できません。

第2のフロー効果を検証する意味でも、イベント自体と会場となるパブリック・スペースの価値を可視化するという意味でも、開催後にこのような検証をおこなうことはとても重要です。

気分転換でベンチに座って本を読みながら創造性を高めたり、2人仲良く芝生に寝転んで、愛を深めたりといったような、日常利用の余地を残しつつ、初期投資と維持管理費を回収していくことは簡単ではありません。

快適で楽しい空間の種類と数が限られる地方都市だからこそ、エリアマネジメント主体や公共施設の管理者には、第2のフロー効果とストック効果の両方を意識しながら、公共空間を活用していくことが求められていると考えます。

Cover photo by Toru HIJI

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