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ミューラルが彩るニューヨークの日常|アートを超えた役割とは?(後編:プロセスの力)

現在、ニューヨークのまちなかでよくみられるミューラル(壁面の所有者・管理者の承諾のもと描かれたペイントアート)。前編では、ミューラルとして描かれているイメージそのものが果たす役割について紹介しました。

後編では、1989年から30年近くにわたってニューヨーク市を中心にパブリックアートプロジェクトを手掛けているCITYartsという非営利団体の事例とインタビューをもとに、ミューラル制作のプロセスとその役割について紹介します。

役割その3 場への愛着をはぐくむ制作プロセスへの参加

多くの組織的なミューラルプロジェクトは、アーティストだけによって描かれているわけではありません。ミューラルが描かれる地区のコミュニティ、特に子どもや若者を巻き込んでつくりあげるプロジェクトが数多く実施されています。

CITYartsのプロジェクトは、対象地域の学校などと協力して行われます。何をミューラルのモチーフにするのか、担当アーティストが学校の生徒らとのワークショップを通じて決めるのです。そして、数か月にわたってコミュニティからの参加やボランティアの協力を得て、ミューラルが描きあげられていきます。CITYartsはアーティストをコミュニティにつなげたり、物件オーナーや行政・スポンサーとの調整、資機材やボランティアの確保をしたりすることで、プロジェクトを実現させていきます。アーティストは監修役として全体のデザインと仕上げを行い、ペイントを行うのは子どもたちやボランティアです。

2017年にハーレム地区で行われた5階建ての壁をペイントするプロジェクトでは、150人の地域の子どもたちが制作に参加したといいます。このプロジェクトを通じて見られた変化を、CITYarts代表のツィピ・ベン=ハイムさんはこう語ります。

ミューラルが描かれる前はごみが散らかっている場所だったのですが、プロジェクトを行うことで周辺住民や制作にかかわった子どもたちがごみを拾うようになりました。ミューラル制作によって、自分たちの居場所であるという感覚(Sense of Place)と、リスペクトが生まれたのです。
また、ミューラルがあることで、安全で楽しい場所だと感じることができます。パブリックアートが生活の質を高める効果をニューヨーク市は知っているのです。

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CITYartsによるハーレム地区の“Following in the Footsteps of Alexander Hamilton”制作風景。公園横の5階建てアパートの壁面に足場を組んで描いた大規模なものです。

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CITYartsによる“Story Vine”制作風景。学生ボランティアが公園の壁にペイントしました。

多くのプロジェクトの依頼がCITYartsに寄せられていますが、ツィピさん自身もポテンシャルのある壁探しにいそしんでいるといいます。汚れている壁だけれど、周りに遊んでいる子どもたちがいることが、インパクトが生まれやすい場所の条件だと教えてくれました。

役割その4 交流の創出と連鎖

大勢で描かれるミューラル制作の場に参加することで、新しいコミュニケーションが生まれます。筆者自身がCITYartsが実施するプロジェクトにボランティアとして参加した際、公園に遊びにきた子どもやママがペイントに飛入り参加したり、通りすがりの近所の住民たちがプロジェクトに対して「ありがとう」と言ったりするのを目にしました。ミューラル制作が、垣根なく気持ちのよい交流を生むきっかけになったのです。

ツィピさんも、ミューラル制作をして直接感謝が返ってくることが、参加する子どもらやボランティアにとって大きな意味を持つと語ります。社会的な意義や充足を感じることができるのです。こうして生まれたミューラルは、完成後にもコミュニティの集いの場となるといいます。

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ミューラル制作中にふらりと立ち寄った近所のおじさんが、色づかいやプロジェクトのアイディアについて、スタッフや参加者と語り始めました。右から2人目がCITYarts代表のツィピさん。

ミューラル制作への参加者同士での交流も活発になります。名だたる大企業が社会貢献活動でCITYartsのプロジェクトにボランティアを派遣していますが、ツィピさんによると、そのような企業は共同のアート制作作業を通して社員の中で新しいネットワークが生まれることに意義を見出しているということです。ミューラル制作によって活発なコミュニケーションが生まれることが、スポンサーを呼び込む際のアピールとなっているのです。

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地元市議もミューラル制作に参加。近所の子どもらと同じ目線で作業しました。

役割その5 アートを通した青少年育成

ミューラルを通して青少年がアートに触れ、コミュニティやクリエイティブプロセスについて学び、健全な成長を遂げることを、CITYartsはミッションとしています。青少年の育成を重視するのは、前編で紹介したGroundswellも同様です。

描いたミューラルを日々目にすることで、子ども・若者らは誇りを感じることができ、道を外れないよう初心を思い出すことができると、ツィピさんは言います。

CITYartsは世界中の子どもたちがアートを通して平和のためにつながるPieces for Peaceというプロジェクトを78カ国で展開しており、ツィピさんはぜひ日本でのプロジェクトも実施したいと希望を語ります。

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完成した“Following in the Footsteps of Alexander Hamilton”。コミュニティのエネルギーを高くまで伸びる鮮やかな緑の木で表現しています。

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完成した“Story Vine”(一部)

CITYartsは公園局など市の組織と協力してプロジェクトを行っていますが、アートの振興・教育になかなか予算が回らない中で、CITYartsはそのギャップを埋める役割を担っているといいます。市長らの理解のもと、協力関係が築かれてきました。

ミューラルの背景にぜひ注目を!

多くのミューラルがあふれるニューヨークのストリート、そこには多くのコミュニティの物語が詰まっています。だからこそ、非常に多くのミューラルが街に受け入れられているのでしょう。映像や旅行でミューラルを見かける際には、ぜひその背景に想像をめぐらせてみてください。プロジェクトとして描かれたミューラルにはクレジットが入っているので、そこに注目してみるのがミューラルをより味わうコツです!

今回ご紹介した通り、ミューラルは多様な役割を持っています。日本ではまだ一般的ではないかもしれませんが、ミューラルの果たすこれらの役割を考えると、日本でももっと取り入れると良い文化といえるのではないのではしょうか。

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クレジットを見れば、ミューラルとコミュニティのことをより知ることができます。ぜひチェックしてみてください!

All photos by Koichiro Tamura

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