レポート
小さなアクションを実践せよ!|タクティカルアーバニズムサロン 後編 #TUJ2019 #3-2
2021年6月、日本初となるタクティカル・アーバニズム本『タクティカル・アーバニズム: 小さなアクションから都市を大きく変える』が刊行されました。
本書は、タクティカル・アーバニズム・ジャパンと一般社団法人ソトノバが主催した「Tactical Urbanism Japan 2019」の登壇者が中心となって執筆されています。
そこで今回、2019年に開催された「Tactical Urbanism Japan 2019」のレポートを一挙公開します!
レポートの内容を振り返りつつ『タクティカル・アーバニズム: 小さなアクションから都市を大きく変える』を読めば、個人と都市の関係についてより深い洞察を得られるはずです。ぜひ合わせてお読みください。
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タクティカル・アーバニズムサロン in Japan
「パブリックスペースの実践者が集まる夜」Powered by PechaKucha
2019年12月10日(火)19:00-22:00
(前編はこちら)
Contents
岩本唯史 ミズベリング・勝手にアーバニズム/水辺総研
後半戦トップバッターは、ミズベリングの岩本さん!筆者もミズベリングにはとても関心があるので、岩本さんのお話が聞けるのをとても楽しみにしておりました。
岩本さんからはスプロールが起こっており、空き家の多いまちである和歌山市での水辺を活かしたまちづくりプロジェクトについて語ってもらいました。
まず、水辺を活かしたまちを目指すため12のゴールを設定することからスタートしたそうです。それらのゴールにたどり着くためのプロジェクトとして、まちの駐車場を使って、「ワカリバ」という場所づくりをしました。
ワカリバは期間限定で市堀川沿いの水辺空間をまちづくりに活かすための社会実験として行われました。カフェやイベント、物販、展示など様々な使い方がなされていたそうです。
ワカリバの実験は事業者も、まちの人も喜ぶ場所となったと岩本さんは言います。
さらに、将来このまちに愛着を持って戻ってくるこどもたちがいるかもしれないと考え、こどもたちに川のことを教える大人たちが現われたということもあったそうです。
地域の人に愛される水辺のパブリックスペースのポテンシャルははかり知れません。
ワカリバについて語る岩本さんさらに岩本さんたちはまちづくりのための水辺のビジョンを誰に頼まれることもなく、勝手に作ってしまったといいます。しかも、市民バージョンと行政バージョンの2種類!
そんな勝手に作ったビジョンが和歌山市のまちづくりの一部に繋がっているというのは、まさにタクティカルアーバニズムの実践と言えるのではないでしょうか。
「勝手にアーバニズム」とタクティカルアーバニズムについて岩本さんは、まちで見かける誰かが勝手にやっている空間活用に「#勝手にアーバニズム」と勝手に名前を付けてしまったそうです。よりオフィシャルなミズベリングやタクティカルアーバニズムとは異なって、勝手度の高い取組みのことを指しています。しかし、いずれも市民が主体的に取り組むという点では共通しています。
アンソニーもこの勝手にアーバニズムを気に入ったようです。
勝手にアーバニズムは面白い。昔からそういうアクションはまちの中でたくさんあった。名前がついていなかっただけ。ただし、時代が進むとともに法律などの規制がそういったアクションを減らしてしまった。
マイクも勝手にアーバニズムにコメント。
勝手にやる場合と許可をもらってやる場合の両方があると思うが、どちらの方法でもニーズに答えていることが重要。
まちの人のニーズをしっかり捉え、それに答えるようなアクションを仕掛けていくことが重要だということですね。あくまでタクティカルアーバニズムも方法論であり、そこを見過ごしてはいけないという教訓を教えてもらいました。
太田浩史+伊藤香織 東京ピクニッククラブ
建築家の太田さんと都市の研究者である伊藤さんが主催する東京ピクニッククラブからのプレゼンです。
東京ピクニッククラブは2002年にピクニック生誕200年を記念して、色々なバックグラウンドを持つメンバーが都市の中で現代のピクニックの姿を提案していくグループです。
東京の公園面積は一人あたり5.2㎡に対して、ニューヨークは29.1㎡、ロンドンが26.9㎡。東京がいかにオープンスペースに乏しいかを示し、本来都市居住の不自由を補完するための社交であったピクニックをする権利「PICNIC RIGHT」という概念について説明がなされました。
東京ピクニッククラブがこれまで行ってきたいくつかのピクニックの様子をとても楽しそうに話されるお二人のコンビネーションも印象的で、自分たちが都市を楽しんで使っているという様子が伝わってきました。
東京ピクニッククラブの活動について語る太田さんピクニックが、都市を交流の場として読み替える実践になるだろうと考え、都市の中で人と出会い、自然と文化を楽しむ権利「PICNIC RIGHT」はみんなの権利であり、そのために闘おうという力強いプレゼンも印象的でした。
Motherplane & Picnopolisプロジェクトについて語る伊藤さんマイクは自身もインスピレーションを受けた経験を交えつつコメントしました。
2000年代になって、こういったアクションが世界的に出てきて、自分もそういう光景にインスピレーションを受けてきた。近年では、世界中でパブリックスペースを使うということに関しての蓄積がなされてきている。特にこの東京ピクニッククラブでは、「食べる」ということとパブリックスペース活用を結び付けたのがポイントだ。
アンソニーも日本特有の文化を引き合いに出し、次のようにコメント。
ピクニックの文化を歴史的に遡って、アクションに繋げている点が素晴らしい。日本で言うと、花見の文化。人と人が出会い、繋がるという本質的な点に着眼している取組みだ。
1人1人が自分の周りの都市環境を把握し、何が出来るのか?、ピクニックはできるのか?とまず問いかけることが必要でしょう。もっとソトに出てみれば、面白い都市の使い方があるよと教えてくれたような実践例でした。
笠置秀紀+宮口明子 Shinjuku Street Seats、DOGENZAKA URBAN GARDEN/ミリメーター+(株)小さな都市計画
建築家ユニット ミリメータ+でもあり、(株)小さな都市計画という会社も主催しているお2人のプレゼンです。
お2人の娘さんはどんなところでも座って、一番座る場所に詳しいというお話からスタートしました。
実はかつて地べたリアンと呼ばれていた人々を調査したことがあり、その流れで道に間取りをプリントしたオブジェクトを敷くというプロジェクトを実践していたお2人。パーキングデイが2005年に始まったのを見たときに、世界でも同じようなことをやっている人がいるんだなと実感したといいます。
ミリメーターのお2人も東京ピクニッククラブのお2人同様、日本ではかなり前からパブリックスペースの実践者だったと言えるでしょう。
地べたリアンの調査について説明する笠置さん他にも社会実験として行われたShinjuku Street Sheatsプロジェクトでは、3年目の今年始めて寝られるような空間づくりができたといいます。新宿のソトで寝るというアクティビティを引き出せたこと、若い人が溜まれる空間を創り出せたことが良かったと笠置さんは語ります。
DOGENZAKA URBAN GARDENでは、渋谷の花壇に座る人がいると植栽が傷んでしまうという課題をクリアするために、花壇を1人1人が育てられるコンテナとして配置する実験を行ったそうです。コンテナユニットの一部には、メンテナンスキットを入れ、手入れなどを勝手に行えるように設えていたということです。
最後にURBANING_U 都市の学校という実践についての紹介です。雑居ビルの屋上でキャンプをしてみたり、まちをひたすら歩いてみたり、様々なフィールドワークを行うプロジェクトです。これは都市空間、公共空間に対するリテラシーを醸成し、内側から自己組織的に都市をつくりだすことを目的とした教育・研究活動だと言います。
都市を作る判断基準を再構築し、ひとりひとりが「勝手にやる」ことの可能性を模索するというミリメーターのお2人がパブリックスペース実践を行う背景が見えたような気がします。
Shinjuku Street Sheatsの様子アンソニーはやはり建築家としての視点からコメントをしています。
ファニチャーのデザインの良さが秀逸。日本でタクティカルアーバニズムを実践していくにあたって、材料の質やデザイン性の高さは非常に重要になってくるだろう。』
マイクはミリメーターの2人の観察力に言及しました。
都市において人々が何を必要としているのか、何を規制されてしまっているのかを鋭く観察している。世界中を見て回ってみても、ただ何の目的もなくその場所にいられる空間が不足しているのではないかと私も思ってきた。小さなこどもや高齢者の方がちょっと座れる場所がもっとパブリックスペースとしてあるべきなのではないか。
これまでの実践例と同様、やはり小さな実践でもそのファニチャーのデザインがとても魅力的で人を惹きつける力があるな感じました。些細なものでもそのデザイン性や使い心地というものが実は重要なポイントになるのだろうと改めて実感しました。
先ほどのコメントにもありましたが、都市で人々が何を必要としているのか、つまりニーズを鋭く観察し、応答するということをパブリックスペース実践では念頭におかなければならないということです。
藤井麗美 東京アーバンパーマカルチャー
日本の実践者の最後は、東京アーバンカルチャーの活動をなさっている藤井さんです。
まずは、東京アーバンパーマカルチャーの活動について説明してくださいました。東京アーバンパーマカルチャーは、ソーヤー海さんという方が新しい未来をつくるため、共感した仲間たちと始めたムーブメントのことだそうです。
そもそもパーマカルチャーとは、どんなものでしょう。
パーマカルチャーとは、パーマネント(永続性)と農業(アグリカルチャー)、そして文化(カルチャー)を組み合わせた言葉で、永続可能な農業をもとに永続可能な文化、即ち、人と自然が共に豊かになるような関係を築いていくためのデザイン手法
(Permaculture Center JapanのHPより抜粋)
その考え方を用いて、東京においても物を送り合ったり、人と人が助け合うことで消費社会とは別の社会のあり方を目指しています。
その舞台となるのがパブリックスペースであり、東京アーバンパーマカルチャーの実践者は自宅をオープンな場として開放してみたり、より身近なところから実践するというのです。
海外でのパーマカルチャー実践について語る藤井さんパーマカルチャーの実践において重要なことはYes、Why not?からなんでもスタートしてみることだと言います。それはタクティカルアーバニズムとも共通している点であり、何か小さいアクションを起こす際にはもっとも大切な意識だと思います。
東京アーバンパーマカルチャーは「ギフトエコノミー」を提唱しており、いすみにおけるgreenz.jpの活動についても触れていました。
暮らせば暮らすほど豊かになる、参加と協働のための「エコシステム」の実現を目指す。そのためには、まず自分の暮らしの中でパブリックスペースを使った実践をしているということです。
一方で、藤井さんは大きな目標として政策へのアプローチを行っているそうです。実際に、鎌倉市では藤井さんの働きかけによって行政を交えた市民対話を実施することができたと言います。
小さな身近なアクションから大きな目標に繋げているのは、まさにタクティカルアーバニズムといえるのではないでしょうか。
アンソニーは市民活動についてコメントしました。
日本人は市民活動や政策へのアプローチが苦手がとよく言われる。しかし、今日の話を聞くとそんなことはないと思う。こういった取組みは大胆にやっていい事。素晴らしいプロジェクトだ。
マイクは場づくりに言及しました。
非常に美しい場をつくっていたのが印象的。自分の生活から少しずつ美しい空間をつくっていくというのはとてもパワフルな取組み。一旦、美しいものができれば行政も反対できなくなっていく。分かち合いの社会の1つの実践例として非常に価値のあるものだ。
2人のコメントからも分かるように、こういった市民活動はとてもパワフルであり、価値のあるものです。日本では海外に比べるとこういったアクションは少ないと思います。とにかく「やってみよう」という意識から始めることは、なにかアクションを起こす上でやはり重要なポイントなのでしょう。
以上で、9組の日本の実践者のプレゼンは終了となります。
最後は、マイク自身がタクティカルアーバニズムとその実践についてプレゼンしてくれました。その内容について紹介していきたいと思います。
マイク・ライドン|Mike LYDON(Street Plans Collaborative共同代表)
タクティカルアーバニズムについての解説マイクによると、タクティカルアーバニズムを実践するためには次の5つのメソッドがあるといいます。
⒈Instigate(駆り立てる)
2.Engage(巻き込む)
3.Test(実験)
4.Implement(手段)
5.Scale(スケール)
それぞれどういったものなのか実践例を交えながら、段階ごとに解説してくださいました。
Instigate(駆り立てる)
駐車場の活用プロジェクトの実践では、プロジェクトを始めた時には予算を払ってくれるデベロッパーも行政もいない状況だったそうです。誰も注目していない状況です。
そこで想像力を働かせて、駐車場の空間をうまく使える方法を探り、さらに30のパートナーを集めることに成功し、プロジェクトが動いていったといいます。
プロジェクトが進み、魅力的な空間へと変化していった結果、行政や周辺のコミュニティから望まれるプロジェクトと育ったそうです。つまり、長期的に、継続的に行われていくことになったということです。
プロジェクトを動かしていく中で様々な人々や組織をInstigateすることができた点がポイントですね。
Engage(巻き込む)
まず先に人々の意見を聞き、こういったプロジェクトをつくりたいという中身を明らかにして、関わってくれる人を巻き込んでいくことが重要だということです。
道路における実践では、最も投資がなされてきていなかったエリアを選び、地域の人々にどういった空間にして欲しいかをまずヒアリングしたといいます。
その後、それらをマスタープランへと反映していくというプロセスを踏んだそうです。
具体的には、6つのの小さなプロジェクトを週末3回にわたって進めた結果、交通事故に遭いにくくなり、歩行者のための空間を増やすことに成功したということです。
小さなアクションの積み重ねから、大きな目標を達成するためにまず地域の人々を巻き込んで取り組むことの重要性が指摘されました。
Test(実験)
3つ目は、Testです。様々なアイデアやコンセプトを長期的に実施するにあたって、テストすることは非常に重要。道路の再建計画の間に、道路に美しいペイントを施す実験をした事例を紹介してくださいました。
テストはそれぞれ様々な尺度を持って、測定されるべきです。1つ1つのプロジェクトによって、何を測るのかは異なってきます。このプロジェクトでは、結果としてスピードを出す車が減少するという指標から道路が安全になったということを示すことができたそうです。
Implement(手段)
マスタープラン策定の手法にも様々あるけれど、タクティカルアーバニズムの手法にも色々あるといいます。
クライアントと一緒に、どのような手法をとるかを議論します。
ある実践では、道路をより歩行者や自転車にやさしい空間にしようという目的のもと、自転車のためのマスタープランや歩行者のためのマスタープランが描かれていました。しかし、マスタープランは議会を通り、予算がつけられる必要があります。
そこでQuick Buildの手法を用いると、簡単に素早く小さなアクションを実践することができ、マスタープランが議会を通るまでの間に実験することができたそうです。
つまり次の投資が決定する前に実践し、そのフィードバックが得られたということになります。
この手法はとても有意義なものです。
Scale(スケール)
最後はScaleです。重要な点はプロジェクトで関わってきた人が得たスキルを色々な他の場所で発揮できるように成長することだといいます。つまり、プロジェクトの規模に関わらず、色々なスケールを横断して、そのスキルやノウハウが継承、継続されることが重要だということです。
一回限りのプロジェクトに留まらず、継続的に続いていくプロジェクトになるには行政などがそのためのガイドブックのような物を作成するべきだとマイクは言います。
以上の5つのメソッドを意識して、タクティカルアーバニズムに取り組む必要があるようです。マイク、アンソニー両氏のこれまでの数多くの実践から得てきたメソッドなので、とても説得力のあるプレゼンでした。
最後にマイクから、1つの引用が紹介されました。
脳は読んだものの10%、聞いたものは20%、実際に行ったもの・シミュレーションしたものは90%を覚えることができる。
とにかく実践してみるということの重要性が示されたのだと思います。取り組みたいプロジェクトがあれば、まず地域の人や周辺の人などの協力を仰ぎ、イイね!と賛同してくれる人を巻き込んで、小さなアクションをしっかりと練られた手段を用いて、実験し、そのフィードバックを得て、スケールをうまく横断しながら、長期的なプロジェクトに繋げていく。これがマイクから我々に提示されたタクティカルアーバニズム実践のエッセンスでしょう。
自身の取組みについて語るマイク最後はMC山名さんから締めのお言葉を頂きました。終始会場を楽しませてくれた素晴らしい進行で、10組のプレゼンを上手くまとめて下さいました。
時には変人だと言われることが多いという、日本のパブリックスペースの実践者たちが行っていることが米国と同じく当たり前のように行われるようになると良いなと、明るい未来のビジョンについて語っていただきました!
ゲストスピーカーの皆さん、運営の皆様、素晴らしい会にしていただきありがとうございました!
MC山名さんの会場の笑いを誘う締めのコメント 参加者・スピーカー全員で集合写真(取材・構成:松本大知/ソトノバライター)
開催概要テーブル
日時 | 2019年12月10日(火)19:00-22:00 |
会場 | 渋谷キャスト スペース (東京都渋谷区渋谷1-23-21 渋谷キャスト G階) |
主な登壇者 | マイク・ライドン|Mike LYDON(Street Plans Collaborative共同代表) 太田浩史+伊藤香織 東京ピクニッククラブ 岩本唯史 ミズベリング・勝手にアーバニズム/水辺総研 唐品知浩 ねぶくろシネマ/パッチワークス 苅谷智大 石巻 COMMON-SHIP橋通り/街づくりまんぼう 笠置秀紀+宮口明子 Shinjuku Street Seats、DOGENZAKA URABAN GARDEN/ミリメーター+(株)小さな都市計画 藤井麗美 東京アーバンパーマカルチャー 松井明洋 COMMUNE・K5マイクロデベロップメント/メディアサーフコミュニケーションズ 榊原進 定禅寺通エリアプロジェクト/都市デザインワークス 安藤哲也 PUBLIC LIFE KASHIWA/柏アーバンデザインセンター(UDC2) |
主催 | タクティカル・アーバニズム・ジャパン(一般社団法人ソトノバ) |