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リンク&プレイスによる街路ネットワーク手法とは|ソトノバTABLE#46レポート

昨今、国内を含め「居心地がよく歩きたくなるまちなか」形成に向けてウォーカブルな取り組みが注目されています。ソトノバでは「ウォーカブルシティ・国際シンポジウム2023」などウォーカブルな取り組みについて議論を重ねてきました。

人中心の「ウォーカブルシティ」の実現には、中心市街地の将来像として、ウォーカブルビジョンを策定する必要があります。この将来像を創造するには、中心市街地の中で自動車交通と人中心の空間を棲み分ける街路ネットワークの検討や構築が不可欠です。

その代表格であるリンク&プレイス理論については「ソトノバTABLE#39「リンク&プレイス」とウォーカブルストリート」でも議論しました。その後2年が経過し、国内でもその具体的な計画が出てきました。

ウォーカブルな都市の実現に向けた実践現場では、どのようにしてリンク&プレイス理論から街路ネットワークの実装を検討しているのでしょうか。

今回ソトノバTABLE#46では、三浦詩乃さん(ストリートライフ・メイカーズ)と大藪善久さん(SOCI)、松下佳広さん(国際開発コンサルタンツ)をゲストに迎え、国内の実践現場におけるリンク&プレイスによる街路ネットワーク形成手法について紹介してもらいました。

ソトノバからは、共同代表の泉山塁威さん(日本大学理工学部准教授、ソトノバ共同代表理事)、染矢嵩文さん(日本大学大学院(当時))が登壇しました。


コミュニティ主導のリンク&プレイスワークショップを実践する

最初に、三浦詩乃さんから、渋谷区神宮前の事例について話題提供がありました。

jinguerea神宮前エリアでは、日本らしい、コミュニティ主導のプレイス戦略を展開しています(三浦さんのスライドより引用)

リンク&プレイス理論は、先進事例であるロンドンでは、マスタープランレベルでの適用がなされていますが、三浦さんは、

日本では、まちづくり戦略からプレイスデザインといった地区スケールでの検討にニーズがあると感じる。

といいます。

たとえば、渋谷区神宮前では、日本式のコミュニティ主導のリンク&プレイスワークショップのプロトタイピングを行いました。

image2日本の特性に配慮した手法開発が必要(三浦さんのスライドより引用)

ロンドンと日本では、そもそもリンク&プレイス理論の利用シーンや現場ニーズが異なるので、日本向けにローカライズされた手法の開発が必要になるのではないかと考えています。

たとえば、都市再生整備計画から外れたエリアでも地区レベルの要望が出ることから、行政は計画がカバーする範囲を超えた検討が求められることがあります。日本で面的にプレイスを増やしていくには、エリアを超えた議論が必要になり、個々のリソースがある民間組織が担っていくことになるのではないかと考えています。

といいます。

image9日本のまちづくりの深化は、民間組織がまちづくりビジョンを描けるかにかかっている(三浦さんのスライドより引用)

三浦さんは、フロントランナーである民間組織がリンク&プレイスを用いてビジョンを描けるか、また、これを引き出すようなツールのあり方が必要ではないかと考えているようです。

ここで注意しなければならないことは、

民間組織がまちづくりを担うということは、最終的には彼らが行政提案を行うことになります。民間組織が、それぞれの利害関係者や自身の価値観だけでなく、他の主体の立場や状況も深く理解しながら考えて、まとめていかなければなりません。

という点だと強調しました。

渋谷区神宮前の事例では、リンク&プレイスマトリクスを活用したワークショップを実施し、参加者が段階的にリンク&プレイスと地域の実態を学びながら、ビジョンの検討を行いました。 

参加者のコミュニティと街路への「学び」を深めるワークショップデザイン

難易度が高く、まちにとって、将来に向け前向きなアウトプットを求められるこのワークショップですが、参加者にとっても学びを深められるようなワークショップデザインにしました。

と三浦さんは話します。

街路をリンクとプレイスの側面から評価・性格付けを行うリンク&プレイスマトリクスを用いてグループワークの方向性を決め、合わせて事例や整備のための優先項目や選択肢、、エリアの実態を学ぶことができる交通状況データなど、イメージやデータのガイドブックを織り交ぜ、ワークショップを行いました。

image3リンク&プレイスマトリクスによって方向性を定め、ヒートマップに落とし込むワークショップ手法は、参加者にとってわかりやすい(三浦さんのスライドより引用)

左のマトリクスのようにリンクとプレイス双方の機能を高めたいグループでは、街路の整備方法の一つのオプションとして、公共交通を優先して歩行者も快適に歩けるように、姫路市に代表されるトランジットモールの事例やその実現に向けて考慮しなければいけないデータが決まっていくことを示しています。 

リンク&プレイスマトリクスによる街路の位置付けを明確にすることで、ビジョンの方向性を明確化し、参照するイメージやデータが絞られることで参加者の負担も軽減されているようです。

ワークショップの効果と課題

三浦さんは、ワークショップ後の参加者の発言から、

  • プレイスに関する議論の誘発ができたこと
  • ワークショップの学びの実感に関しては、地域まちづくりの経験が深いほど発言量が多くなる傾向にあった。表参道のような大通りに関しては満遍なく意見が得られた。
  • 細街路では参加者の情報量に差があり、街路によって意見に偏りが見られた。経験が深い人からの話で学び取れることもあるが、今後は、まちあるきをしっかり行うなど、情報量のバランスが取れるような措置をとる必要がある。

という効果と課題が得られたと分析しています。

また、神宮前エリアでは、リンク&プレイスマトリクスと実際の街路空間の相関関係を表すヒートマップを作成したうえでワークショップを実施し、ワークショップ参加者は、日本の街路の幅員の状況、ネットワークとしての構成状況を踏まえ、ヒートマップの見直しや改良を行いました。

この過程で歩行者インフラの検討に関するデータの不十分さを実感したと三浦さんは振り返り、歩行者通行量や滞在状況といったリアルタイムの状況がわからないことなどが課題として見えてきたそうです。

地区レベルのリンク&プレイスの導入にはコミュニティがデータを作成・記録・保有しなければいけないという課題があります。三浦さんは、この課題に対しては、AI画像解析などによりコストを抑えながらデータを取得していこうと進めているようです。

リンク&プレイス理論を用いたアーバンデザイン手法

次に、大藪善久さんから、沼津市と千葉市での事例についての話題提供がありました。

沼津市では地区全体の戦略づくりのため、街路の面的な役割分担としてリンク&プレイス理論を用いているそうです。

一方で、千葉市では道路単体のウォーカブル化のため、移動と滞留を同時に考えていくことや、渋谷区神宮前エリアの事例に同じく住民参加のワークショップを交えた検討にリンク&プレイス理論を用いているそうです。このように

スケールの異なる事例ごとにリンク&プレイス理論の使い方や役割に違いがある。

と大藪さんはいいます。

image7スケールや目的によってリンク&プレイスを使い分ける手法(大藪さんのスライドより引用)

範囲内の全てのまちづくりの基盤となるような戦略である、沼津中心市街地まちづくり戦略が作成されています。

現在、沼津駅周辺では連続立体交差事業が動いており、合わせて区画整理事業によって中心市街地全体を変えていこうとする状況にあります。

沼津での連続立体交差事業は2040年を目標年度として取り組んでおり、この長い計画の中で短期・中期・長期に分割してステップを踏んで検討を行うためにリンク&プレイス理論を用いてるそうです。

特に中期は街の構造が大きく変わるタイミングに当たるため、取り組みの解像度をあげる必要があります。そのために、中心市街地のまちづくりを実現する手順や施策、狙う効果を描き共有するようなまちづくりシナリオというロードマップを作成し、まちなか全体で共有したり、まちづくりシナリオを動かしていくためのアクションプランとして、まちづくり戦略を基にした中期における再編整備計画(行政計画)やガイドライン(民間向け)を作成したりしているそうです。

ここで重要なのはスケール感であると大藪さんは語ります。

沼津中心市街地まちづくり戦略の範囲は600m四方の範囲となっており、この限定的な範囲設定がリンク&プレイスやまちづくりの解像度を上げる要因となりました。

まちづくりビジョンに対して、リンク&プレイスを用いて地区全体の街路ネットワークの将来像を描くことで、官と民の取り組みや役割が明確になり、アクションプラン及びガイドラインへ昇華させることができました。

image8社会実験による検証サイクルにリンク&プレイスを挿入することにより、より機敏な検証システムを確立する(大藪さんのスライドより引用)

2022年春からOPEN NUMAZUという社会実験が行われていますが、これはまちの将来的なビジョンをアジャイルに実現するための検証システムの役割を担っており、ビジョンを市民に見せながら進める取り組みと位置づけられています。

点から線、線から面を繋ぐためのリンク&プレイス

元々、中心市街地のまちづくり戦略の範囲が600m四方であることや、外周道路や商店街、シンボルロード、そしてエリア内を人中心の道路というようにリンク&プレイスとは別に街路の性格付けがなされていたことが沼津での特徴であると語ります。

このように、沼津ではリンク性、プレイス性が明確であることから、街路空間のリンク&プレイスマトリクス化を行う際に街路の幅員や役割分担からリンク性については定性的に決定することができました。しかし、まちなか全般においてはプレイス性のある街路はない状態となっていることが課題として見えたといいます。この現状分析から、都市インフラの再配分を行い、まちづくりが目指す方向を定めています。ここで重要なことは、現状をいかに正確に把握するかに加え、まちづくりのビッグビジョン、まちのあるべき姿に繋がるように方向性を定めることである、といいます。

リンク&プレイスを用いた合意形成

次に、千葉市の事例では、千葉公園の再整備が行われることに合わせて、千葉駅から公園へ繋がる千葉公園通りのアプローチ空間としての役割を強化し、ウォーカブルな空間とすることを目的に2020年から取り組みがすすめられています。大藪さんは2022年から事業に参画しており、そのときには既にちこほこや、千葉公園南門マルシェといった、住民らによる公共空間利活用が行われていました。このようなイベント的な取り組みがある中で、いかにして日常の豊かさに繋げるのかがテーマとなっていたといいます。

image6住民らによる公共空間活用は、単なるイベントから日常の豊かさへと進化する(大藪さんのスライドより引用)

そこで、まち歩きワークショップや、方向性の議論を行うワークショップを通じ、リンク&プレイスを用いることで移動と滞留を同時に検討し、シェアドストリートを目指すことで合意形成を行ったといいます。

image4リンク&プレイスという新たな武器を手に入れた住民ワークショップ(大藪さんのスライドより引用)

生活道路に関しては、アクセス交通と日常的な滞留を同時に共存しなければならない中で、これまでは二項対立的な考え方で共存できていない状況にあったものの、リンク&プレイスを用いて同時に検討することで、住民の視点を含めた合意形成が可能となったと語ります。

そして、表参道での事例と同様に、リンク性及びプレイス性をカードにして、リンク&プレイスマトリクスの検討をワークショップを通じて行いました。

image5とっつきにくいリンク&プレイス理論をわかりやすくする工夫を行った(大藪さんのスライドより引用)

その後、基本的な操作として速度規制や公園通りらしい道路の導入、夜間の安全性と雰囲気づくりのための照明などのストリートデザイン的な検討を行っています。

以上のように実践現場では、リンク&プレイスが

  • 現状把握・分析(ツールとしての使用)
  • ビジョン・施策
  • 官民連携・合意形成

に対して有用なツールとなっています。

また、リンク&プレイスを用いる上での課題として

  • 範囲が広域な場合のリンク&プレイスマップの作り方(リンク&プレイスの分類、データ入手、閾値の設定)
  • リンク&プレイスはあくまでも手法であるため、それだけではビジョンになり得ず、目指すべきビジョンをどのように組み立て、関連を持たせるのか
  • 広域での官民連携のあり方や、合意形成手法

が挙げられ、今後検討が必要となっているようです。

広域でのリンク&プレイスの適用

続いて、松下佳広さんから、宇都宮市での事例として「宇都宮市(仮称)都心部まちづくりプラン」について話題提供がありました。

宇都宮市では、JR宇都宮駅を中心にネットワーク型コンパクトシティの形成を推進しており、2023年8月26日にはJR宇都宮駅東口側にLRT(宇都宮ライトレール)が開業しました。都心部まちづくりプランでは、今後、西口側にもLRTを導入することを見据え、LRTのためではなく、LRTを契機とした都心部の利便性や快適性をより高めるための取り組みが進められています。

本プランの位置づけは

まちなかの空間の理想的な姿を描くだけではなく、LRTの導入に伴って今後活発化する都心部への民間投資に対して、市として具体的な交渉をしつつ、お互いに良いまちをつくっていくための手段

と松下さんは考えています。

そのため、これまでの行政計画とは異なり、

  • 都市空間に対して投資をしていくベクトルを行政と民間で合致させる
  • 行政側は、広い中心市街地の中で民間開発に支援すべき場所の選択と集中を明らかにすることが必要
  • 場所に応じた街路の性格付け及び優先順位の明確化が求められることから、LPの考え方を用いることが重要

となります。

このことから、宇都宮市は、特定の街路ではなく、中心市街地の街路全体を面的に性格付けしていく必要があると考え、

  • 街路の性格付け、対象路線の抽出
  • リンク&プレイスマトリクスと評価基準の設定
  • リンク&プレイスマトリクスを用いた路線別の評価
  • 街路の性格のグルーピング

により街路の優先順位を定めて、街路の性格に応じた施策の検討を行ったそうです。

街路の性格付けや対象路線の抽出の際には、自動車交通・公共交通・自転車・地域性(愛称がついている路線・地域密着など)・歩行者という5つの評価指標を用いました。

image10まちづくりプランの中でリンク&プレイスが果たす役割と場面を明確にして活用する(松下さんのスライドより引用)

中でも、自動車交通、公共交通、自転車、歩行者についてはリンク&プレイスマトリクスを用いて、評価基準を設定しました。さらに、リンク性の評価目安については車線数や幹線路線、自転車及び歩行者の共存性、歩道幅員といった、計画や資料から判断が可能な基準としています。プレイス性については、滞留空間や活動、沿道利用、資源・景観といった、定性的に評価が可能な基準としているようです。

image1指標を明確化することによって定性評価が可能になった(松下さんのスライドより引用)

これらのような方法、基準を用いることで、定量的な調査を最小限に抑え、広域でのリンク&プレイスの検討の負担を軽減したそうです。

松下さんは、この分析から見えてきた宇都宮市の課題として、

  • 4つの交通モード別に評価項目を設定したが、自動車のリンクレベルが低い場合でも、バス路線や自転車交通ルートになっている路線は、見かけのリンクレベルが高くなり、自動車のリンクレベルも高いという誤った印象を与えてしまうこと
  • リンク機能に歩行者の評価項目を設定したところ、歩行者のリンクレベルが高い街路では、プレイスレベルも高くなり、共線性のような関係となってしまうため、どちらの機能として扱うか
  • 宇都宮市では、駐車・荷捌きをリンク&プレイスの中でどのように扱うのか

を上げました。

クロストーク

最後に泉山塁威さんと染矢嵩文さんを交えたクロストークを行いました。

染矢さん:
リンク&プレイスマトリクスの扱いについて、ストリートデザインガイドラインには5×5セルで記載されていますが、紹介された事例では3×3セルを使用しているのには何か理由があるのでしょうか?

三浦さん:
スケール感や、元々の街路のリンク機能の性格付けの具合によって扱いが変わるのだと思います。日本の街路に多く見られるような、幹線道路があってそのほかが細街路のような状況下だと、5に分類すること自体が難しい。ただ、プレイス機能では5に分類できるようなこともある。5×5や3×3の基準はなく、取り組みの中で、街の特性から試行錯誤し、適切なマトリクスを用いています。

松下さん:
三浦さんのいうように、宇都宮では試行錯誤しながら決まっていきました。5×5も検討しましたが、宇都宮市とのディスカッションを通じて3×3にすることに決まっていきました。また、エリアや人口の規模で決まるというよりも、評価の粒度の荒さや丁寧さによって決まっていきます。

大藪さん:
絶対的、普遍的な評価を行う場合と、範囲内での相対的な評価を行う場合でマトリクスが変わるのでしょう。5×5で評価が偏る場合だと、マトリクスによる可視化ができない場合があります。現場に合わせて選べることがリンク&プレイスの強みでもあります。

このように、地域に合わせた応用性がリンク&プレイスの特徴であり、取り組みを行う中で試行錯誤するべき点のようです。

染矢さん:
道路には連続性がありますが、評価する道路の区間をどのように分割しているのでしょうか?

大藪さん:
表参道では、基本的な交差点間で評価しましたが、ストリート単位でも、店舗前のプレイス性は高いというように評価が異なる空間を含んでしまいます。そのため、路肩部分の有効活用、いわゆるカーブサイドマネジメントによる沿道の評価を行うことで、解像度が上がると考えています。また、どのようにしていきたいのかという意志、WILLが重要一番大切な点でしょう。

松下さん:
宇都宮市では、大藪さんの例示と同様に、第一にどのようにしていきたいのかで区間を分けました。また、あくまで現況を見た範囲で切り分けられる部分では、通りの名称、幅員構成、沿道の土地利用の変化で分けています。

三浦さん:
現状得られるデータからは、そこまで細かい区分はできていない状況にあります。そのため、画像解析などで、定量的なデータを得ていく必要があるでしょう。

泉山さん:
交差点がベースではあるが、長いストリートの場合に、データや現状からどこで区分するかが変わってくるということでしょうね。

おわりに

ソトノバTABLE#46に参加して、実践現場ではリンク&プレイスを用いる上で、地域特性などの現状把握だけでなく、これからどのようにしていきたいのかという、まちや街路の将来像を掲げることが重要であると学びました。

また、実践現場でも試行錯誤しながら用いているとのことで、評価基準や評価項目の設定など、事例ごとで異なる点が見られましたが、リンク&プレイスを用いたワークショップや、リンク&プレイスマトリクスの変則性など、リンク&プレイス理論の応用性の高さが魅力であり、強みだと感じました。

その一方で、広域でのリンク&プレイスの適用については、どのようにしてデータを得るのか、街路の抽出を行うのかなどの課題があるとのことから、今後も実践現場でのリンク&プレイスの適用について議論が必要であると感じました。

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