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都市を都市として機能させるための戦術|タクティカル・アーバニズム ウェビナー&オープントーク #TUJ2019 #1

2021年6月、日本初となるタクティカル・アーバニズム本『タクティカル・アーバニズム: 小さなアクションから都市を大きく変える』が刊行されました。

本書は、タクティカル・アーバニズム・ジャパンと一般社団法人ソトノバが主催した「Tactical Urbanism Japan 2019」の登壇者が中心となって執筆されています。

そこで今回、2019年に開催された「Tactical Urbanism Japan 2019」のレポートを一挙公開します!

レポートの内容を振り返りつつ『タクティカル・アーバニズム: 小さなアクションから都市を大きく変える』を読めば、個人と都市の関係についてより深い洞察を得られるはずです。ぜひ合わせてお読みください。

  1. 都市を都市として機能させるための戦術|タクティカル・アーバニズム ウェビナー&オープントーク
  2. マイク・ライドン本邦初講義!|タクティカル・アーバニズム アカデミックサロン(6/15公開)
  3. 日米のパブリックスペース実践者が集結!|タクティカルアーバニズムサロン(6/16公開)
  4. 小さなアクションから長期的変化につなげる——日本のパブリックスペースの現在地|タクティカル・アーバニズム国際シンポジウム(6/17公開)
  5. 神田が生まれ変わる小さくて大きな一歩?!|マスタークラス+神田サロン(6/17公開)

イントロ:開催の経緯や意図について

タクティカル・アーバニズム ウェビナー&オープントーク

2019年11月11日(月)19:00~21:00

タクティカル・アーバニズムは、「戦術的」に小さな行動の積み重ね大きな都市変化を促す概念とされています。小規模で短い期間の社会実験やアクションから始め、中長期的な変化やハード整備などの大きな変化や資本につなげることを目的としています。

タクティカル・アーバニズム・ジャパン(一般社団法人ソトノバ)は、タクティカル・アーバニズムを小さな市民活動をただのイベントで終わらせない、大きな変化に繋げるはじめの一歩にするための新しいアプローチ方法として日本社会へ伝えることを使命に掲げ、12月9日~13日の4日間、タクティカル・アーバニズム提唱者であるマイク・ライドン氏およびアンソニー・ガルシア氏を招聘した国際シンポジウムなど「タクティカル・アーバニズム・ジャパン2019」を開催します。より良い都市のビジョンを持って、具体的な都市のあり方を実現するための課題解決手法を知り、プレイヤーとして活動している人々が相互に学習し交流する機会を提供することを目的としています。

そこで、国際シンポジウム約1か月前にあたる11月11日、タクティカル・アーバニズムを「予習」するプレイベントとして「タクティカル・アーバニズム ウェビナー&オープントーク(Tactical Urbanism Japan 2019プログラム)」を開催。国土交通省道路局と都市局の職員と、公共空間である水辺をまちづくりに取り込むソーシャルデザインを推進する「ミズベリング・プロジェクト」のプロデューサーを招き、一堂に会して話し合う場を作りました。

それは、日本の都市デザインの担い手である国土交通省の職員が、部局を越えて、一般に開かれた場で語り合ったという「功績」だけではなく、ともすると「ゲリラ的」とも評される新しい公共空間活用のためのアプローチ手法について、管理者自身が理解を深めたとする、画期的ともいえるイベントでした。都市デザインの歴史を振り返った時には「アバンギャルドな一日」と語られるであろうエキサイティングな時間となりました。

本レポートでは、この「タクティカル・アーバニズム ウェビナー&オープントーク(Tactical Urbanism Japan 2019プログラム)」で話された概要とハイライトをご紹介します。

セッション1:タクティカル・アーバニズム提唱者マイク・ライドン氏によるウェビナー(ビデオレクチャー)

セッション1では、タクティカル・アーバニズムの提唱者であるマイク・ライドン氏によるビデオレクチャーを会場で放映。約30分間の内容で、タクティカル・アーバニズムの歴史とどのようにこのアイデアが実践されてきたかについて語られました。

20191111-183701オープントーク|マイク・ライドン(Mike Lydon)氏(タクティカル・アーバニズム提唱者/Street Plans Collaborative 共同代表)

都市デザイン変革を目的とした新たな手法・テクニックは、専門家や関係者だけでなく地域住民の誰もが、よりよい都市あるいは地域・ストリートへの可能性を理解し、参画できるべきものであるとし、ライドン氏が10年ほど前からインスピレーションを受けているという4つの市民プロジェクト「Park(ing) Day」(米国サンフランシスコ市)、「Seaside Florida」(同、フロリダ州)「Intersection Repair」(同、オレゴン州ポートランド)、「シクロヴィア」(コロンビア・ボゴタ)をピックアップし、紹介しました。

「Park(ing) Day」米国サンフランシスコ市:貴重な道路の空間が自動車の駐車スペースとして使われていることに対する抗議アクション。パーキングメーターへ料金を払い、一定の時間その駐車スペース(Parking)を公園(Park)として人が利用できる空間に変えるというもの。2005年にスタートし、毎年9月の第3金曜日に実施され、世界的なムーブメントして展開。現在では歩道に沿った常設的なパブリックスペース設置へとつながっています。

「Seaside Florida」:アメリカに「歩きやすい街」を取り戻すプロジェクト。1980年代半ばにスタート。週に一度開催されるポップアップ・マーケット・トゥデイでプロジェクトへの参加者や賛同者を呼び込んだ。地域のプレ活性化(pre-vitalizing)と表現される。

「Intersection Repair」米国オレゴン州ポートランド:市が住民に対し道路の交差点にペイントを施すことを許可し、「パブリックな広場」をつくった。20年以上続いており、地域の「Social Capital」となっている。

「シクロヴィア」コロンビア・ボゴタ:毎日曜日に街全体の約110㎞の道路が閉め切られ、自転車や歩行者などがパブリックスペースとして集まれる場(オープンストリート)としたもの。

ライドン氏はこれらをいずれも「典型的なタクティカル・アーバニズムの実例」と評し、表面だけを眺めると「他愛もない、ただ楽しそう、真剣でなく大きな展開も望めなさそう」に映るプロジェクトだが、実は低コストで小規模な地域に密着した、住民自身が実践しあるいは体験するプロジェクトであると説明しました。このようなプロジェクトこそが街の人々の考え方を変えうる、結果的に大きくて持続的な変化を生むもの、と明かします。

都市計画には、都市を都市として機能させるための戦術(tactics)が欠けている ——Jane Jacobs

ライドン氏はこのようにJane Jacobsの言葉を引用し、都市計画家や建築家は計画書の上での変化に必要な長期的な戦略やステップを考えるのは得意だが、実際にそれを運用して変化をもたらすための多くの人々の手を借りるための戦術が欠けている状況であることを指摘しました。

そして、自身が現在取り組んでいることについて「計画と設計の変革」と表現し、3つの新しい出版物「First Tracked  A Tactical Transit Study」「Asphalt Art」「Tactical Urbanism Materials and Design Guide Vol.2」が予定されていることを紹介しました。

20191111-195322オープントーク|マイク・ライドン(Mike Lydon)氏(タクティカル・アーバニズム提唱者/Street Plans Collaborative 共同代表)

時代がプロジェクト遂行のための新しいアプローチを切望していること、都市そして市民は素早いプロジェクト遂行のプロジェクトのための指針やガイドを求めている、と持論を展開したライデン氏。

脳は読んだことの10パーセント、聞いたことの20パーセントしか覚えていないが、実際に行ったことの90パーセントを覚えている ——Edgar Dale

と、再びEdgar Daleの言葉を引用し

変化を起こそうとしている地域では、住民自身が実際にアクションを起こすことで自分たちの力を信じられるようになる。それが長期的な変化を生むのだ

と言い、それこそがタクティカル・アーバニズムの力である、と結び、プレゼンテーションを終えました。

20191111-195143オープントーク|マイク・ライドン(Mike Lydon)氏(タクティカル・アーバニズム提唱者/Street Plans Collaborative 共同代表)

セッション2:オープントーク~日本の都市デザイン担い手たちの本音と理解

後半は、日本の都市デザインを計画し進めていく担い手たち3人がステージに登壇し、各自の職歴や現在手掛けている仕事などについて自己紹介し、前半(セッション1)のライデン氏のビデオレクチャーについて率直な感想などを話しました。

 山名清隆氏は

マイク・ライドンが35歳ということに衝撃を受けた。タクティカル・アーバニズムは、仕事ではなくて生き方である

と発言しました。その上で、国土交通省の道路局と都市局の職員が共に登壇し、さらにその関係職員が来場していることに触れ、「タクティカル・アーバニズム」が組織横断的に理解されることで

大変なことが起こる、都市の未来がここから始まっている

と興奮気味に期待感を表わしました。

20191111-202117山名清隆氏

現在、街路(street)空間の再構築・利活用の推進を担当している国土交通省都市局街路交通施設課主査の今佐和子氏。パリなどの海外事例に加え、国内の先進的な新しい街路空間の利活用事例を紹介し、これを全国に広げていくことを任務と考えている、と話しました。

行政自身のマインドを変えていこうとするアクション(マチミチ会議:全国街路空間再構築・利活用会議の開催)を実際に手掛けているほか、タイムズスクエアのオープン利用を担ったニューヨーク市交通局のサディクカーン氏の講演会の開催、女性の活躍やスタートアップの拡大など都市経済・社会の「多様性」 の促進や多様性の集積・交流を通じたイノベーションの創出など、付加価値を創出する「都市」のあり方について検討する「都市の多様性とイノベーションの創出に関する懇談会」、これからの時代のストリートの在り方を検討する「ストリートデザイン懇談会」などにも関わっているそうです。特に、これからのストリートデザインについては、2019年度内にそのガイドラインを示し公開する予定であると語り、ぜひ期待してほしいと呼び掛けました。

20191111-200524今佐和子氏

国土交通省道路局環境安全・防災課計画係長(当時)の市道彰氏は、「道路局が考えていること」をテーマにプレゼンテーション。現場での道路整備に長く従事してきたという市道氏は、最初に「都市局と道路局は決して仲が悪いわけではありません!」と発言し、会場を沸かせました。

現在は、道路空間を「賑わい空間」と捉えて、その利活用の実現のための課題を抽出し、地域の活性化や交通安全の向上を図る「人中心の道路空間」を目指すことを仕事としているそうです。来年度の道路関係予算概算要求概要を示しながら、社会の変化や地域の多様なニーズに応じて変わる道路空間に求められる機能を探り、地域の合意形成や道路協力団体などの管理主体と円滑な連携を図り、魅力を向上していきたい、と話しました。

また、2019年9月に「道路局中堅職員の提言」(pdf)として示された「道路政策ビジョン ~このみちの先につながり、幸せがある~」を紹介しました。インターネットでも一般公開されているこのビジョンでは、12の主要政策が掲げられています。その中から、「都市でも地方でも地域に愛着や誇りを持って持続的に暮らせる社会」という項目を取り上げ、まちの魅力を創る「行きたくなる、居たくなる」道路空間のサービスを「まちの『メインストリート』再生」といった政策で実現するアイデアについて詳しく説明しました。

20191111-201305市道彰氏

次にモデレーターの泉山氏から「道路空間の利活用への問題意識」について問い掛けが出されると、今氏は現在の日本では道路空間利活用における「社会実験」が、一括りにして捉えられている現状に触れ、ライドン氏たちが考案したプロセスのロードマップのようにアクションを細かな段階に分けて認識していくことが大事だ、と指摘しました。

市道氏は、個人的な意見として、道路空間利活用の変化に対し法律が着いていけていない現状に触れました。さらに、地域や利用者の求めるニーズや使われ方の変化に対応していく管理者や関係者の意識改革こそが必要、と提起しました。タクティカル・アーバニズムのような「小さいアクション」を行うことで現場やステークホールダー(管理者)の意識を変えていく有効性に期待を示しました。

泉山氏が再び登壇者へ「これからのパブリックスペースの可能性あるいは方向性」にいて問いを投げかけると、山名氏が回答。パブリックスペースの利活用について、行政や管理者が街の「お偉いさん」あるいは従来の町会などの組織の責任者(リーダー)に意向のお伺いを立てることについて、

めちゃくちゃ古い

とコメントしました。

20191111-200101泉山塁威氏

大切なのは、市民レベルの小さなコミュニティ間から

やった方がおもしろいという思いが沸き上がり、新しいこと、ユニークなことをどれだけ起こせるかだ。市民が中心にあって、管理者側がそこに巻き込まれていくことがあるべきこれからの形

と話しました。

泉山氏が「市民が中心であること」に賛同すると、山名氏は

市民のコミュニティが先に生まれている方が行政や管理者もコミットしやすいのでは?

と、プライベートな立場でもコミュニティ活動に関わっている今氏に問い掛けました。

今氏は、地域で主体的に動いているコミュニティに関心を持つ人々を呼び込むことの難しさを挙げ、特に、新しく住まう街では自分の関心のある活動がどこに存在するのかもわからず、自分自身で誰かを巻き込むコミュニティを生み出すことも難しい、と打ち明けました。

ここで山名氏は「タクティカル・アーバニズム」は言葉として長すぎるのではないか、と会場へ問い掛けました。例えば、パブリックスペースでの面白いことを企てることを「タクろうぜ!」と動詞として表現するなど、「ポップ(POP)」に見えることで浸透するのだと説きました。ネーミングセンスも含めて、ポップな切り口が、コミュニティなどで多くの人を呼び込み、ハードルを下げ、参加を促すうえで重要なのだそうです。

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交流会:イベントを終えて~パブリックスペースにコミットすることは人生を面白くすること(山名氏)

約1時間30分にわたるウェビナーとオープントーク後は、軽食を囲んだ交流会が行われました。約50人の参加者が各登壇者の周囲に集い、さまざまな質問や感想を投げ掛ける姿が見られました。

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今回のプレイベントのテーマであるタクティカル・アーバニズムという実践に対しては2つのスタンス、つまり「実践する人(プレーヤー)」「実践を後押しする人(プランナー)」が生じます。その意味で、登壇者の3人は「実践を後押しする側」としての発言を色濃く感じました。

実際に一住民としてコミュニティ活動に参加・実践し、運営に携わっていることをプレゼンテーションで明かした今氏にタクティカル・アーバニズムの「予習」を経て、プレイヤーとしての学びについて質問しました。

この問いには

私たちはできない病にとらわれているなと思った

と今氏。こう使ったら楽しいのに、というアイデアの乏しさを実感したと話され、12月の国際シンポジウムでマイク・ライドン氏からどんなことを教えてもらえるのかがとても楽しみ、と期待を示しました。

セッション2のオープニングトークの冒頭で、これからの日本における都市デザインの未来に大きな期待を示した山名氏は、

公共空間を面白がるエネルギーの高まりを感じた

と今回の感想を語りました。

パブリックスペースにコミットすることは人生を面白くすることであり、街がよくなる、社会がよくなるということよりも、自分自身の人生の時間がよくなるということが伝わったらいい

とも話していました。

プレイベントへ参加した方々の感想からは「市民による道路空間利活用へのニーズの高まりを管理主体である道路局職員や関係者が感じられた時間」だったことが伺えました。会場から「公共空間をよりよくするための横断的な部門を行政組織内に創設し、新しい行政の在り方に挑戦する環境づくり」という提案が見られたことが印象に残りました。中長期的な変化やハード整備などの大きな変化を見据え、小規模で短い期間の社会実験やアクションを「タクティカルに」積み重ねること。まさしく、都市を都市として機能させるための戦術(tactics)がいま、求められているのだと共有したイベントとなりました。

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(取材・構成:小林直子/公民連携ライター・ロコカタリスト)


当日のMike Lydon(マイク・ライドン)氏によるタクティカル・アーバニズムのビデオレクチャを有料で公開しています。ご興味のある方はぜひこちらからご覧ください。


開催概要

タクティカル・アーバニズム ウェビナー&オープントーク

プレゼンター(ビデオ)マイク・ライドン(Mike Lydon)氏
(タクティカル・アーバニズム提唱者/Street Plans Collaborative 共同代表)
パネリスト
*肩書はすべて当時
市道 彰氏(国土交通省道路局 環境安全・防災課)
今佐和子氏(国土交通省都市局 街路交通施設課)
山名清隆氏(スコップ/ミズベリングプロデューサー)
泉山塁威氏(東京大学先端科学技術研究センター助教/ソトノバ編集長)
日時2019年11月11日(月)19:00~21:00
会場THE CORE KITCHEN SPACE(東京都港区新橋4丁目1−1)(オンライン会場:Zoom webiner)
主催タクティカル・アーバニズム・ジャパン(一般社団法人ソトノバ)

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