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オープンスペース|空地

市民参加型まちづくりの未来|DXの活用でワークショップに革新が起こる!

2023年6月、政府は「デジタル社会の実現に向けた重点計画」を閣議決定し、その中でも「まちづくりDX(デジタルトランスフォーメーション,Digital Transformation)により多様な分野における新たな価値の創出や社会的課題の解決を目指すこと」を提言しました。

さらに「メタバース」技術の活用が社会のトレンドとなり、DX・メタバース推進の一環としてXR(Extended Reality/Cross Reality)技術やVR(仮想現実,Virtual Reality)技術が注目されています。現在ではこれらを活用する自治体も増えています。

それでは、XR・VR技術の導入は、まちづくり・空間づくりにどのように役立っているのでしょうか。また、住民参加のまちづくり・空間づくりに役立っているのでしょうか。

本記事では東京都八王子市でのプロジェクト「PLATEAUとXRで実現する八王子市のまちづくりDX(以下、八王子プロジェクト)」の事業を担当した株式会社ホロラボの山田沙知さんへのインタビューとそれを応用した広島県広島市の相生通りの空間づくりの事例を紹介します。あわせて、まちづくり関係者でありVRSNS(VR空間で会話やジェスチャーでコミュニケーションを行うSNS)ユーザーでもある筆者がまちづくりDXを体験した感想、そして今後のXR技術とまちづくり・空間づくりの展望について考察していきます。

ソトノバ・スタジオ|ソトノバ・ライタークラス2023の卒業課題記事です)


そもそもXRとは?VRとは?

そもそも、「XRとは何か」「VRとは何か」という方に向け、はじめにこれらの関連技術の概要を紹介します。

いわゆるXR技術は下記の4つに分類することができます。

1_imageXR技術に関するダイアグラム Imaged by Shunsuke Yamamoto

XR(Extended Reality/Cross Reality)

XRは「VRやAR(拡張現実,Augmented Virtuality)、MR(複合現実,Mixed Reality)といった様々な仮想空間技術の総称」です。XRは特定の技術を指すものではなく、概念として認識するのが分かりやすいと思います。

VR(仮想現実,Virtual Reality)

VRは3DCGで造られた空間上の世界を体験する技術です。一般的にはHMD(ヘッドマウントディスプレイ)を装着して体験するのが主流です。体験の没入感は少なくなりますが、スマホやPCからでも体験することが可能です。

2_imageVR空間の見え方。現実の物体はなく全て3DCGで造られたもので構成される。 Photo by Shunsuke Yamamoto

AR(拡張現実,Augmented Virtuality)

ARは3DCGで作成したオブジェクトを現実空間に投影し体験する技術です。デバイスはスマホやAR専用のグラスを用います。現実空間に仮想のオブジェクトを置くことで「もしこの場所に○○があったら」ということを体験できることが特徴です。

3_imageAR空間での見え方。現実世界に制作したオブジェクトを投影することが出来る。 Photo by Shunsuke Yamamoto

MR(複合現実,Mixed Reality)

MRはVRとARを複合した技術を専用のHMDを用いて体験する技術です。専用のHMDが必要となるため活用のハードルは高いですが、先日、手軽にMRを体験できるHMDが発売され、その注目度が高まってきています。

それぞれの技術・名称の違いについてイメージは湧いたでしょうか。XRにVR・AR・MRが内包されており、また、MRにVR・ARが内包されています。

PLATEAUとXRで実現する八王子市のまちづくりDX

本事業は、実施事業者である株式会社ホロラボが、東京都立大学 饗庭伸研究室が協力の下、国交省が公開している3D都市モデルPLATEAU(プラトー)を用いて実施されました。

東京都八王子市の北野下水処理場・清掃工場跡地を実施対象地として、この跡地の活用方法についてXR技術を用いた市民参加型のまちづくりを行いました。

このプロジェクトでは「3D都市モデルとXRの『新しさ』『楽しさ』『わかりやすさ』を活用し、直感的で手ごたえのある市民参加型のまちづくり」を実現目標としていて、付箋や模造紙、模型図を利用するといった従来の地図とまちづくりワークショップからの転換を目指しています。

また、本事業を実施するにあたってホロラボはtorinome(トライノーム)というデジタルツイン基盤システムを開発しました。

デジタルツイン基盤システムとは、空間や仕組み、プロセスなどのデジタルモデルを作成し、それにリアルタイムでデータを反映させるシステムです。主に現実で起きる出来事や状態をリアルタイムでシミュレーションや分析するために使用されます。

torinomeは、torinomeとデータ連携をするアプリケーションを導入することによって、現実世界でのAR体験だけでなく、街歩きで取得したデータをtorinome上に簡単に配置できるようになります。この結果、現地調査で得られた様々な情報を、その後のワークショップにおいて簡単に活用することができるようになりました。

4_image対象エリアの3D都市モデル Imaged by 国土交通省PLATEAU

今回のまちづくりワークショップは「知る」「見る」「学ぶ」「考える」の4段階で行われました。「学ぶ」に関してはtorinomeを理解するために少し特別な部分になりますが、「知る」「見る」「考える」の各段階において、従来の一般的なまちづくりワークショップに加えてXR技術を取り入れたことが、本事業の最大の特徴であるといえるでしょう。

5_imageまちづくりワークショップの流れ Imaged by HoloLab Inc.

XR技術を用いた市民参加型まちづくりから見えたもの

今回、ホロラボにおいて八王子プロジェクトを担当している山田沙知さんに話を聞くことができました。山田さんからの事業の説明を聞いて、XR技術の活用したからこそ実現することができた2つの特徴が浮かび上がってきました。

6_image実際のプロジェクトの様子を映しながら説明をするホロラボの山田さん Photo by Shunsuke Yamamoto

1.従来の市民参加型まちづくりの方法を覆す情報量

従来の市民参加型まちづくり(ワークショップ等)では、ある参加者がイメージしているものをほかの参加者に上手に共有できないケースや参加者層の偏り、限られた情報(配布された資料等)で行わなければならないといった課題を抱えていました。

7_image従来の市民参加型のまちづくりの課題 Imaged by HoloLab Inc.

今回の八王子プロジェクトでは、XR技術の導入によってこれらの課題のほとんどをクリアすることができました。参加者のイメージの共有の場面では、国土交通省や都道府県等が公開しているオープンデータソースの活用や、XR現地見学で印象に残った場所を写真やコメントを付けて位置情報と共にtorinomeに記録することで、参加者が個々に思い描いているイメージではなく、具体的な場所やコメントを共有することができました。

8_image従来の現地見学とXR技術を用いた現地見学の比較 Imaged by HoloLab Inc.

従来の現地見学では、参加者全員の感じた情報をその場で集計して当日中に共有することは困難です。XR技術を活用すれば、今まで難しかったオンタイムでの情報共有も可能になります。

加えて、参加者からは

これまで体験したことがない技術だからついつい多くの写真を撮ってしまった。楽しかった。

とのコメントもあったようですし、多くの若年層が興味を持って参加したことからも、従来のまちづくりワークショップにありがちなある種の「お堅い感じ」もXR技術の導入である程度解決することができました。

9_imageXR機器を用いた現地視察の様子。初めての体験に驚いている参加者 Imaged by HoloLab Inc.

技術的には、torinomeにオープンデータソースを使用したことで、参加者に多くの情報を整理して提示することができました。

一方で、山田さんは

参加者に対して『どこまで情報を提供するかという情報提供者側の情報の取捨選択に課題がある。

との感想を述べていました、オープンデータを活用する上で、必要となる情報とは何かを絞り込むことは確かに難しく、従来の限られた資料から変化し良くなったと同時に課題があるなと筆者も感じました。

2.全員が同じイメージを即座に共有出来る 

これまでのまちづくりでは「イラストなど表現技術の有無によって」自分の想いを的確に表現することができなかったり、主催者側が模型をつくって参加者に提示するまで時間や手間がかかったり、といった課題がありました。

今回、XR機器(専用のHMDやipad)で同じ情報を共有したり、モデルデータが組み込まれた紙からXR機器越しにモデルを呼び起こすことが出来るARマーカーでまちを表現したりすることで、それらの課題を解決しました。

10_image実際に用いられたARマーカー Photo by Shunsuke Yamamoto

XR機器をワークショップに取り入れることによって、各々の参加者が浮かべているイメージを立体的にかつ同じ画面を見ることができ、同一の情報を同時に共有できる点がよかったと山田さんは語っていました。

これまで筆者は「ARではなく、VRゴーグルを用いたVR空間の方が没入感があり、リアルな体験ができるので参加者のイメージが鮮明になるのではないか」ということを、普段からVRSNSを利用しているユーザーとして考えていました。

11_imageARを用いたまちづくりワークショップ Imaged by HoloLab Inc.

しかし、山田さんの話を聞いてみると、まちづくりワークショップにおいてXR技術が求められるのはHMDゴーグルをかぶり、VRで一人称視点での見る「個人でリアルに近い体験をすること」ではなく、一つの画面を複数人で共有しながら見ることができるARの「全員で体験を共有する」ことが重要であることに気づきました。

12_imageまちづくりワークショップで出来た成果を1/20スケールで確認する様子。iPad越しに参加者が同じ情報を共有している。 Imaged by HoloLab Inc.

3.まちづくりDXから空間づくりDXへ

2023年11月には広島市の紙屋町・八丁堀エリアの相生通りを対象に、 将来のトランジットパーク化に向けてのワークショップが行われました。八王子ではまち(敷地)スケールでしたが、このワークショップでは道路空間のスケールで行われました。

八王子プロジェクトとワークショップの内容については異なる点はありますが、使用したXR技術は同様のものになります。

13_image八王子プロジェクト同様にtorinomeでまちと空間を確認する様子 Imaged by HoloLab Inc.

現在の相生通りは6車線に広島電鉄が走っている状態であり、歩行空間としての賑わいは少ない状態です。そこで地元のエリアマネジメント団体であるカミハチキテルがトランジットモール化を進めており、構想では道路を廃し、広島電鉄のみを残すこととしています。しかし、道路を全車線廃するのは現実的ではなく、実現化できる道路空間づくりに向けての社会実験を行っています。

そこで今回のワークショップではパースで議論していたものをXR技術で実際にどの程度のスケールになるかを体験するものとなりました。

今回のXRワークショップでは道路を1車線もしくは2車線を廃し、歩行空間にした場合を提示しました。また、歩行者空間ならではの空間の使用例を提示し、XR技術を体験してもらいました。

14_imageXR技術によって1車線を廃して歩行空間を拡幅したイメージ Imaged by HoloLab Inc.

XR技術を用いて、現地の視察とワークショップを行った結果、「道路を1車線分歩行者空間にするだけでここまで歩行者空間が広くなるんだ」「2車線は広すぎる」といった意見などが出たそうです。また市として「歩行者空間が増えることでたまり場が出来て歩きにくい」「構想が現実的ではない」という意見が出てきていることに対し、エリアマネジメント団体並びに市民の声として現実的な構想・提言をまとめることができるという方向に向かっていけるという結果が得られたとのことでした。

XR技術を用いたまちづくり・空間づくりは今後どうなっていく?

本記事では八王子プロジェクトのまちづくりと相生通りの道路空間づくりをXR技術でワークショップを行った事例を紹介してきました。

2つのワークショップから以下の2つのことがXR技術の導入でみえてきたと思います。

  1. 紙ベースの図面上でのワークショップに比べて、実際に空間に落とし込んだ情報を「見る」ことによって参加者の空間認識がより現実的になり、ワークショップの結果もより具体化することができた。
  2. 行政やコンサルタントが持つ専門的な知識をXR技術によって「見える化」することによって、専門性のない参加者でも共通の具体的なイメージを持つことができた。

これは表などで表されている数値をグラフ等にして見えやすくする・わかりやすくするのと同じ構造だと思われます。VRでは仮想空間内の情報だけとなるところを、仮想空間と現実空間をミックスするXR技術を用いたことによって実現したものだと思います。

さいごに

今回、記事の執筆にあたり、筆者もXR技術を実際に体験してきました。

体験を通して「これからのまちづくりワークショップは変わるぞ」という強い印象を受けました。単に情報量が多くなることや新規性があるだけではなく、その場でイメージを立体的に共有できたり、オブジェクトの移動がすぐ行えることで前述したとおり、主催者・参加者ともに共通の認識を瞬時に持つことができるようになると感じました。

15_image体験をしながら今後どのようにまちづくりとXR技術がどのように展開していくか妄想する筆者  Photo by Shunsuke Yamamoto

今回、山田さんとのお話でとても印象に残った言葉は

これまで行われてきたXR技術の導入は導入を目的としている。VRやXRはあくまで手段であり、目的ではない。

この言葉に筆者も強く共感するとともにXR技術が市民の参加を促すことで、適切な手段でまちづくり・空間づくりに繋がと確信しました。

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