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DXツールによって広がるまちづくりの可能性|ソトノバTABLE#48レポート

コロナ禍を経て普及したオンライン会議や生成系AIの登場によって、デジタル技術は以前よりもずっと身近なものとなっています。それはまちの将来像を検討する際にも例外ではありません。

最近では、3Dのデジタル都市モデルを活用したまちづくりのワークショップなども実施されているほどです。

また、デジタル技術を活用することで膨大な数のデータを収集、分析することが可能になり、個人の主観に基づかない定量的かつ客観的な評価ができるようになってきました。

今回のソトノバTABLE#48「ウォーカブルシティを実現するDXツールの最新事例」では、パネリストに石田祐也さん(合同会社ishau代表/一般社団法人ソトノバ共同代表理事/一般社団法人ストリートライフ・メイカーズ理事)、前田旭陽さん(清水建設/ソトノバ)、コーディネーターに泉山塁威さん(日本大学准教授/ソトノバ創設者・共同代表理事)が登壇しました。

東京駅前八重洲通りでの事例などを基に、社会実験にデジタル技術を導入することで、何がわかり、どのような可能性があるのか議論しました。

Cover Photo by Masato SAEGUSA


DXツールで生まれる小さなサイクル

最初に前田さんから話題提供がありました。

前田さんは、学生時代に「Park(ing)day2019渋谷宮益坂」への参加や岡崎市康生通りの社会実験への視察した経験から、社会実験は日本全国で実施されている一方で、実験終了後も、使われる空間として残るかどうかは、クリアしなければならないいろいろな課題があると感じています。

前田さんはこの理由を、プレイスメイキングの考え方に基づいて考察しました。使われる空間をつくるには、短期的な実験を実施した後に、結果の評価とその評価を踏まえて再び短期的な実験をするというサイクルを築くことが必要とされています。

しかし、結果を評価するためのデータを集めるうえで、従来のアンケート調査を主体とした方法では、データを集められる期間や量、内容に限りがあります。

そこで、このような状況を打開するにあたり、デジタル技術を活用したデータの収集と、定量的な評価が役に立つのではないかと考えたそうです。

02_sotonoba_table48小さなサイクルを回していくことで、空間が少しずつ需要にあったものへと進化 (前田さんのスライドより転載)

3台のAIカメラによるパークレットの効果測定

次に、石田さんから、東京駅前八重洲通りで実施された社会実験でのデジタル技術を活用した事例について、話題提供がありました。

東京駅前八重洲通りは、バスターミナル東京八重洲の開業により、交通環境が変化しています。中央区や地元団体である東京駅前地区まちづくり推進協議会はこれを好機と捉え、八重洲地域の回遊性を向上や周辺エリアである日本橋や京橋とのつながりを強化するべく、2023年10月に社会実験「YAESU st. PARKLET」を実施しました。

本社会実験では、パークレット設置の効果を調査する手法として、アンケート調査に加えて、AIカメラを用いた歩行者流量と滞在の調査が実施されました。

03_sotonoba_table48人の頭で人数や滞在時間を判断するため、AIカメラは高さ4mほどの位置に設置 Photo by 茂田耕太郎

合計3台のAIカメラがパークレットの両端に設置され、画角は歩道を向いているもの、パークレットの中を向いているもの、パークレットの中と歩道両方を向くものとそれぞれ計測する対象が異なっています。

それぞれのカメラで歩行者の人数や滞在時間などを計測し、顔などのプライバシーに関わる情報が消された状態となったデータが、事業者のもとに提供されます。

AIカメラの設置はパークレットを設置する少し前から始まり、設置する以前と以後で、交通や歩行者交通量に変化が生じたのかを比較できるようにしました。

約1ヶ月の調査の結果、パークレットの設置期間には、歩行者数が増加したことがデータから示されました。またパークレットの利用者数も、実験期間後半になるにつれて、増加傾向にあったことが分かりました。

調査は滞在時間に関しても実施され、1分以上同じ場所に留まっている状態の人をカウントするという評価基準を設けました。その結果、パークレットの利用者の多くは、5分ほどパークレットの内部で過ごし、次の場所に行くことが分かりました。

データから得られたこの結果について石田さんは

計画時からパークレットが銀座や京橋、日本橋などの周りのまちへのハブになることを想定していました。つまり、少し休憩する場所として利用してもらうことを想定していたため、想定通りの良い結果が出たと思います。

と話しました。

可視化されたことで分かったある利用層から人気

前田さん、石田さんからの話題提供を終えたところで、泉山さんを交えたクロストークに移りました。前田さんからは、石田さんに

AIカメラによって取得されたデータから、今後の設計に活きそうなことはありましたか

という質問が挙がりました。

石田さんは、

今回得られたデータを解析した結果、パークレットに設置された電源の付いたカウンター席が、観光客によく利用されていたことがわかりました。

と回答しています。

その理由として、パークレットが東京駅やバスターミナルから徒歩5分圏内に設置されたことで、大きな荷物を持った観光客が、スマートフォンを充電しながら、地図を見て、次の行き先を決めるケースが多かったそうです。

04_sotonoba_table48カウンター席の電源からスマートフォンを充電する様子(ソトノバコミュニティでの視察会にて) Photo by 茂田耕太郎

この結果を踏まえて、前田さんは

電源があることで、滞在と新しい目的地を発見する行動が生まれやすく、電源の存在がエリアの回遊ネットワークを強化することに繋がるのではないか。

と話しました。

このように、AIカメラによって得られたデータからは利用者層も可視化できるため、設計やビジョンの策定などにも繋がる可能性を秘めているようでした。

デジタル技術は全てを補完するツールなのか

社会実験でのAIカメラの有効性が明らかになってきた一方で、AIカメラをはじめとするデジタル技術が、全ての調査を補完することは難しいようです。

石田さんによると、アンケート調査員を派遣して実施する従来のアクティビティ調査では、滞在行動として、挨拶をするなどの5秒前後の短時間でのアクティビティも計測するそうです。

しかし、既存のAIカメラは、このような細かなアクティビティを計測することが難しいため、今回の社会実験では、細かなアクティビティのデータまでは取得しなかったそうです。

この点については前田さんからも

短時間のアクティビティに加えて、現状のAIカメラは、飲食や会話、休憩などを詳細なアクティビティを高精度に判定できるものは少ないのが現状です。

と話しました。

このような技術面での課題を踏まえて、石田さんは

今回の社会実験ではできませんでしたが、アクティビティ調査とAIカメラの調査の重ね合わせながら進めていくことは、社会実験における可能性としてありえるでしょう。

とも語っています。

また、話題は前田さんの修士論文にも移りました。前田さんは学生時代に、動画や画像から笑顔や悲し気な表情などを識別できるソフトを用いて、表情が公共空間の滞在にどのような影響を与えるのかを研究しました。

05_sotonoba_table48前田さんが使用したソフトは感情や性別、年齢の識別が可能 (前田さんのスライドより転載)

このような研究に対して、石田さんからは

今回の社会実験では利用人数や滞在時間を基に、電源付きのカウンター席が人気があったとしていますが、仕事をする人やスマートフォンを操作している人が多く、利用者が幸せや心地よさを感じながら使っていたのかは、分からない部分がありました。

そこで利用される時間やエリアの分かる従来のAIカメラに加えて、笑顔などを識別するソフトを利用することで、長い時間利用されていながら笑顔も多い空間、長い時間利用されているが笑顔の少ない空間などのクロス集計に繋がると面白いと思います。

と話しました。

クロス集計イメージ - シート1 (1)クロス集計のイメージ(筆者作成)

この話に対して前田さんは、表情識別ソフトの物理的な制限や表情・感情という定性的なものを扱うがゆえの課題を上げました。

まず物理的な制限として、表情識別ソフトは、人の表情や顔の向きによって感情を識別しますが、適切に判定させるためには、カメラを正面に設置しなくてはならないそうです。

特に表情の解析では目じりの角度や口角の上がり、下がりで笑顔などを判定し、数値化するため、顔の正面にカメラを設置することが必須とされています。そのため、公共空間において、カメラを顔の正面に設置することは物理的にも、プライバシーの面でも難しくあります。

また、表情を扱うため、複数人での会話や飲食などの活動は、口角が上がりやすい傾向があり、笑顔が増えやすくなります。一方で、1人での活動は顔が下を向きやすく、口角も下がる傾向にあります。

このような話を聞いて筆者は、ソフトによって得られた解析結果と、実際の利用者の感じる快適性が100%合致することは難しいようだと思いました。さらに、AIカメラをはじめとするデジタル技術は、あらゆる調査を完全に補完することは難しいため、既存のアクティビティ調査とデジタル技術をいかに適切に組み合わせて利用するかが重要なのだと感じました。

質疑応答:都市計画とITにおける関係性拡大への期待

今回のソトノバTABLE#48は、DXがテーマの中心にあるため、会場からはIT関連の質問やその可能性を探る質問が出ました。

来場者からの質問:
IT企業が関わることで、ウォーカブルの実現可能性が広がるのではないかと思っています。期待しているアプローチはありますか?

この質問に対して、石田さんからは2021年にローマで実施されたスマートシティに関する実証実験の話を例に回答しました。

石田さん:

ローマ市では、自動車やその渋滞が起こす大気汚染の改善を目的として、路上コインパーキングにおいて、どこに空きがあるかをAIカメラが検知し、駐車場を探す人に空き駐車場の場所を知らせる試みを検証しました。

このような取り組みは、駐車場の適正化、駐車台数の適正化などの部分で、将来的には都市計画に繋がるのではないかと考えられるのではないかと思います。

と、IT企業が関わることで広がる可能性について触れました。

またローマの実証実験の話題に関連して、泉山さんは、2017年にサンフランシスコのヤンゲール事務所を訪れた際に、データアナリストが在籍していたという話をしました。

この話からは、都市計画分野においても、統計学を武器とするデータアナリストの存在感が高まっていることが窺い知ることができます。

泉山さん:
ウォーカブルを考えていく上では、エリアやネットワークなどの広い視点からも考えていく必要があるのではないかと考えています。このようなエリアやネットワークの視点で見たDXの可能性について考えていることはありますか。

と、街区や地域などのエリアレベルでの視点とDXに関する質問が挙がりました。

こちらの質問に対して石田さん、前田さんはそれぞれ

石田さん:

今回のパークレットの実験自体が、歩行者ネットワークの強化からきていることもあり、八重洲通りや周辺の通りがどのような位置づけなのかは把握したいです。この際に人の動きをリアルタイムかつ、定量的に大量のデータで取得できれば、都市計画における通りの位置づけをする上での判断材料として使えるのではないかと思います。

前田さん:

最近では複数拠点でカメラを設置し、顔にタグ付けをすることで、歩行記録を取るものがあり、ネットワークの検討などに有効な手法ではないかと思います。

と所見を述べました。

加えて、この話に関連して泉山さんからはメルボルン市の取り組みが紹介されました。

泉山さん:
メルボルン市では、街路灯にセンサーを取り付けて人流を計測する試み「Pedestrian Counting System」を実施しています。このように、都市インフラとセンシングを紐づけていくことで人流を容易に計測することができれば、まちの可能性が広がるのではないかと思います。

とまとめました。

closingphoto これからのまちづくりに欠かせないDXについて、さまざまな視点からその可能性を探った3名の登壇者。

終わりに

わたしは、AIカメラやセンサーなどのデジタル技術が活用されるようになったことで、これまで関わりの少なかったIT分野との関わりや、合意形成する上での客観的かつ定量的な材料が揃うようになってきたことを学びました。

一方で、デジタル技術が全てを補完するツールではなく、既存のアンケート調査などを併用しながら、まちの姿を考えていくことが大事だと分かりました。

デジタル技術から得られる定量的かつ膨大なデータの活用と、アンケート調査による定性的なデータを適切に組み合わせることで、より多くの人たちが自分たちのまちに関わる機会が増え、データに基づく議論が展開されていくことになるでしょう。

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