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なぜ日本のまちはウォーカブルと思えないのか|ソトノバTABLE#47レポート後編

街路空間を「クルマ中心」から「ひと中心」へと再構築し、歩きやすく、居心地のよいまちなかをつくることを目指す「ウォーカブルシティ」。

2023年にはソトノバ・ラボ内に「ウォーカブルノバ|Places for Walkable CIty」を立ち上げ、日本でのウォーカブルシティのあり方や実践手法を議論、研究しています。

本記事は、「ウォーカブルを支える公共交通と日本の現状」と題して2024年4月17日に開催されたソトノバTABLE#47の様子をお届けする記事の第二弾です。榎本拓真さん(Local Knowledge Platform合同会社)、安樂駿作さん(Plat Fukuoka cycling/ソトノバ)、中野竜さん(ランディクト/ソトノバ副編集長)が、公共交通の視点から見える日本のウォーカブルの現状や課題などを議論しました。

後編では、榎本さんの話題提供とクロストークをお伝えします。

CoverPhoto by NAKANO Ryo

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ライフスタイルの変化とウォーカブル

続いて、今回のゲストである榎本さんから、ウォーカブルと公共交通を考える上での論点整理と事例紹介がありました。

榎本さんは、海外の各都市がひと中心のまちづくりへ向かったきっかけは「まちの環境改善」にあると説きます。

私たちにも馴染みの深いヤン・ゲールがかつて「すべての賑いの始まりは歩行である」といったことを引き合いに出して、都市が歩行者に優しい環境を目指す動機について解説しました。

202416_ソトノバtable47v02_ページ_02なぜまちはウォーカブルを目指すのか(榎本さんのスライドより転載)

あるアメリカのレポートでは、歩きやすいまちのほうが1人あたりGDPが高い傾向がある、それは歩きやすさの整ったまちに教育水準の高い人が集まるからではないか、という考察があるそうです。また、スペイン・ポンテベドラやバルセロナ、さらに世界で最も暮らしやすい都市という地位を確立したコペンハーゲンの都市再生のストーリーは、歩行者優先の都市政策から始まっているという事例の紹介がありました。

202416_ソトノバtable47v02_ページ_13ウォーカブル施策は欧米だけでなくアジアにも波及している(榎本さんのスライドより転載)

その他にもニューヨーク、パース、バンクーバー、パリなどの欧米豪各都市のみならず、ソウルでも街路に賑いを誘引することによって中心市街地を活性化しています。

世界ではウォーカブルと銘打たないものでも、結果的にウォーカブルを志向する都市が数多くあり、それは世界的な「自動車中心の都市から人間中心の都市への政策転換」という大きな流れの中にあると考えています。

一方で日本では、どういった目的でウォーカブルを進めるのか、また、どういう定義なのかということはきちんと議論しきれていません。目的や定義をはっきりさせ、そこに向かう方針を示したほうがいい、と思っています。

と、榎本さんは指摘します。

さらに、このクルマ中心からひと中心への政策転換には

  • 気候変動
  • well-being
  • 地域経済

の3つの要因があると説明します。

気候変動でいえば、自家用車削減によるカーボンニュートラルへの対応、well-beingの観点では、ストレス低減に向けた緑化など都市の再編、そして、地域経済循環のためには歩行者や自転車など、自動車以外の利用者を増やしてまちにお金を落としてもらい、地元資本の保護をしていく取り組みなどが挙げられます。これらのライフスタイルとウォーカブルなまちづくりは馴染みがよく、その結果、大きな政策転換が起こったのではないかと分析しています。

202416_ソトノバtable47v02_ページ_14世界の各都市がウォーカブルを目指す要因(榎本さんのスライドより転載)

ウォーカブルと公共交通政策を考える際の3つの論点

榎本さんは、ウォーカブルと公共交通政策を考える際の論点は3つに分かれるといいます。

論点1は政策目標。そもそも論として、「なぜウォーカブルなまちを目指さなければなないのか」を社会全体のスケールで考える必要があります。

論点2はアクセス。ウォーカブルなまちを都市スケールで考えた場合に、どのようにして自動車の空間を人間の空間に置き換えるのか。来街者を高効率にまちなかに輸送してくるにはどういう手法があるのか、フリンジパーキングのような流入抑制をどのように活用するのかなど、いわゆる典型的な公共交通政策を考えること。

論点3は空間設計。エリア、地区単位くらいのスケールにおいて、既存の道路空間をどのように再配分していくのかを考える必要があります。たとえば、歩行者、テラス、自転車やキックボードに空いた車線をどのように配分していくのか。また、高効率かつ効果的なカーブサイドマネジメントについても考える必要があると説明しました。

202416_ソトノバtable47v02_ページ_15ウォーカブルと公共交通政策を考える際の論点(榎本さんのスライドより転載)

中野さんが、冒頭に述べた「スケール感の混在」によるわかりにくさが、榎本さんの論点整理によってクリアになった気がしました。

さらに榎本さんは

ウォーカブルについては、交通政策との整合だけでなく、高齢化などによる移動制約問題への対処や、いわゆるフェミニストシティの視点も踏まえて考えなければなりません。一般に、女性のほうが複数の目的地を移動したり、その際に重い荷物を持ったりする傾向にあるなど、女性視点で都市を考え直すことも重要です。

と指適しました。

実際のまちはどうなっているのか

このような現状や論点整理を踏まえ、榎本さんはいくつかの事例を示しました。

榎本さんたちのグループが福岡・天神地区で実施した調査によれば、「来街手段別の年間平均消費金額」「来街手段別の年間平均滞在時間」はいずれも、鉄道、徒歩・自転車での来街者は、自動車での来街者より消費金額が高く、滞在時間も長いことがわかったそうです。また、「フリンジパーキングの利用に伴う行動の変化」調査でも「滞在時間増加」「立ち寄る店舗が増えた」という行動変容が認められたとのことでした。

202416_ソトノバtable47v02_ページ_17天神地区における公共交通政策の転換と人々の行動変容(榎本さんのスライドより転載)

また、ドナルド・アップルヤードの著した「Livable Streets」における交流機会と交通量の図は、安樂さんの示した「まちの物理的な分断を解消することは、まちづくりと交通政策を一体的に考えるポイント」にも符合するものでした。

202416_ソトノバtable47v02_ページ_18「Livable Streets」における交流機会と交通量の図。交通量が少ないほど「我がまち感」が得られる(榎本さんのスライドより転載)

現在、歩行者優先の道路空間が増えてきているトレンドに加え、榎本さんはさらに、ICT技術の進化で様々な革新的な乗り物や移動サービスが増えてくると予想しています。実際に海外の都市では新たなモビリティの扱いに苦慮しており、日本でもそうなったときのために

近い将来、道路上を大小様々なサイズの乗り物が、それぞれ異なった速さで走ることになり、歩道空間が占用されていくなかで、これをどうやってまちの中に実装していくのか、空間の配分ルールなどをきちんと議論すべきだろうと思っています。

このことを踏まえ、天神地区では、商業施設が多い立地を活かし、街全体をデパートのような環境にして回遊してもらうことを考えているそうです。まちの魅力を高めるために公共空間や街路空間を適切に改変し、歩きやすい環境づくりを目標にしているそうです。このため、福岡市を東西に走る大動脈である天神明治通りでは、街路と沿道建物の低層部をセットで考え、街路デザインを行ったそうです。

この「歩いて楽しいまち」実現の鍵となるのは、やはり、沿道建物の低層部と公共空間の活用です。それを実現するために、市役所とともに天神交通戦略を策定して、公共交通にアクセス確保を目指しているとのことでした。

202416_ソトノバtable47v02_ページ_31ウォーカブルと公共交通政策を考える際の論点(榎本さんのスライドより転載)

クロストークとまとめ

ここからは、登壇者3人によるクロストークとなりました。

中野さん:
福岡の特殊事情として、地場の交通事業者がわりと頑張っている印象がありますが、役所との連携はうまくいっているのでしょうか?

榎本さん:
過去にはいろいろありましたが、人口が減ってくることによって、赤字路線に対して政策的に補助投入してもらわないと地域交通が守れなくなってきたり、事業者側がBRTやLRTを復活させたいという想いがあったりするので、利害が一致するところをきっかけに頑張って協議を始めました。

ウォーターフロントの開発が進まないのは交通アクセスのせいだといわれていた時代もあったのですが、「卵が先か鶏が先か」みたいな話はやめて、交通改善をして将来的に需要が出てきたら、BRTからLRTに置き換えられるシナリオも残した上で交通環境をつくっていきましょうという合意が10年くらい前にできました。

中野さん:
福岡を事例とした他都市へ汎用性についてはどうお考えになりますか?

安樂さん:
交通量に着目するとわかりやすいと思います。交通量によって回遊性が阻害されてしまう、交通量に反比例して沿道コミュニケーションが減少してしまう、という点について研究していくと、自分たちのまちが目指すべき方向性が見えてくるのではないでしょうか。

榎本さん:
福岡はまだ恵まれていることは十分に理解していますが、BRTやフリンジパーキングの導入は、短期間でできたわけではありません。10年くらい実証実験を続けてきました。

ですから、実証から実装に至るプロセスは、アプローチの仕方として参考にしていただける部分はあるのかなと思います。

最後に榎本さんから、これからの福岡での活動について決意が述べられました。

榎本さん:
今回は福岡のことをいろいろお話しましたが、短い時間では、そこに至る苦労やできなかったことを共有するのはなかなか難しい。札幌や姫路など様々な都市と関わりを持たせてもらう中で、福岡も勉強しなければならないことはたくさんあると思っています。

シンガポールでは、日本のエリマネみたいな民間発の取り組みは一切ないそうです。シンガポール人の知人から、「なんで民間事業者がお金ももらわずにそんなことをするんだ?全然わからない」というようなことをいわれましたが、そんな単純にうまくできないと思っているので、福岡はこれからもいろんなことやろうと思ってます。

わたしはこのソトノバTABLEで、視点が広がった気がしました。

ウォーカブルシティは、単に歩きやすい環境をつくるだけでなく、交通政策を含む周辺課題に応える取り組みでなければならないと感じました。これからは、街路のアクティビティだけではなく、その場所を利用するひとやその場所の未来も考えたいと思いました。

この原稿を執筆している最中に、登壇者である安樂さんのnoteが公開されました。今回のソトノバTABLEに触れながら、より深く考察した内容になっていますので、多面的な課題整理ができると思います。こちらもぜひご覧ください。

文責:ソトノバ編集部

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