レポート
海外と日本の視察ツアーから見るこれからのプレイスメイキング《Session1》レポート
2022年12月15日に、関内桜通りの泰生ビル1階、「オンデザインイッカイ」にて開催された、対面+オンラインのハイブリッド開催イベント「最新事例から解説!~海外と日本の視察ツアーから見るこれからのプレイスメイキング~」では、公共空間を活用したまちづくりが活発に行われる札幌市と、世界最大のプレイスメイキングの祭典・Placemaking Week Europeから、プレイスメイキングの最先端を紹介するとともに、国内外からゲストスピーカーを迎え、これからのプレイスメイキングについて徹底議論しました。
- 《Session 1》では、札幌市でプレイスメイキングの活動をしている林匡宏さん(札幌都⼼プレイスメイキング実⾏委員会 事務局長)をゲストに迎え、札幌市のプレイスメイキングについて聞いたのちに、4名の登壇者を交えたディスカッションを行いました。
- 《Session 2》では、海外ゲストとしてマルタ・ポピオエク:Marta Popiolek(Placemaking Europe)さんを招き、Placemaking Week Europe 2022の紹介や、これからのプレイスメイキングの日本への実装について話しました。
《Session 1》ディスカッション登壇者
泉山 塁威さん(一般社団法人ソトノバ共同代表理事/日本大学理工学部建築学科助教)
田村 康一郎さん(一般社団法人ソトノバ理事/クオルチーフディレクター/Placemaking Japan)
田邉 優里子さん(オンデザイン/Placemaking Japan)
荒井 詩穂那さん(一般社団法人ソトノバ理事/(株)首都圏総合計画研究所)
本記事では、「《Session 1》札幌プレイスメイキング事例研究 ~公共空間で創発を生むプラットフォームとプロセス~」を紹介します。
CoverPhoto by岩田耕平
Placemaking JAPANとは
はじめに田村さんから、Placemaking JAPANについて、説明がありました。
Placemaking JAPANは、プレイスメイキングについての情報やネットワークを広めるための、日本のプレイスメイキング普及活動プラットフォームです。
場のデザインや活用にとどまらず、地域のコミュニティとともに、パブリックスペースを再考し、改善する考え方およびプロセスを発信し、プレイスメイカーのつながりを築いていきます。
PlacemakingJAPANについて説明する田村さん(右側) photo by 岩田耕平これまでのPlacemaking JAPANの活動について
これまで、開催されたPlacemaking Week JAPAN 2021では、開催期間である2021年3月12日-17日のたった6日間の間に、全18回もの講演やワークショップを国内外のゲストを招いて開催しました。その中で、世界のプレイスメイカーがネットワーキングし、プレイスメイキングの思想や手法、コロナ期のパブリックスペースの可能性を語りました。
そして、このPlacemaking Week JAPAN 2021を経ての学びが、「プレイスメイカーの心得」としてまとめられました。
また、都市・地域に関わる行政/⺠間事業者・デベロッパー/まちづくりプレイヤーに「人の居場所をつくるヒント」を届ける8つのプログラム、「Placemaking Week JAPAN 2021 vol.2」を2021年12月2日-6日の4日間開催しました。
2022年2月17日には、「Placemaking Week 宇都宮 2022」を開催し、国内のプレイスメイカーを迎え、宇都宮を中心テーマに、全国の様々なプレイスメイキングを実践する中心市街地活性化に向けたオンラインイベントを展開しました。
宇都宮のイベントを説明している様子さらに、プレイスメイキングを実行するための手法についてもまとめており、UR都市機構との共同による研究と実践に基づいて「プレイス・ゲーム|プレイスメイキング・ガイド」を作成し、公開しました。実際に「プレイス・ゲーム|プレイスメイキング・ガイド」を活用できる人を増やすためのプレイスメイキングマスターコースの実施をしました。さらに2022年9月には続編となる「プレイス・ビジョン・ケースブック」を作成しました。
「プレイス・ゲーム|プレイスメイキング・ガイド」プレイスメイキングの参考記事はこちら
「PLACE GAMEガイド」とは!?パブリックスペース診断ツールの使い方解説 PWJ2021 #13
プレイスメイキングの本質と最前線!Ethan Kentさんキーノート PWJ2021 #11
Project for Public Spacesが提唱するプレイスメイキングの5つのステップ
パブリックスペースを「人の居場所」に変えていく! J・ジェイコブズから脈々と続く「プレイスメイキング」前編
パブリックスペースを「人の居場所」に変えていく! J・ジェイコブズから脈々と続く「プレイスメイキング」後編
《Session 1》札幌プレイスメイキング事例研究 ~公共空間で創発を生むプラットフォームとプロセス~
なぜ札幌のプレイスメイキングに注目するのか
Placemaking JAPANの活動報告に引き続き、Placemaking JAPANが札幌に注目した理由について話がありました。
札幌の都心では元々、「大通エリア」「駅前通エリア」「創成東エリア」それぞれのエリアを対象にしたまちづくりが活発で、札幌駅前通地下広場(チ・カ・ホ )や札幌市北3条広場(アカプラ)等の公共空間整備・活用とエリアマネジメントが進んでおり、そこで行われるイベント等においても注目されていました。なかでも、大通公園は札幌市の中心部に位置し、大通西1丁目から大通西12丁目までの長さ約1.5Km、面積約7.8haの特殊公園で、1年を通して絶えずイベントが開催されていました。
しかし、「札幌都心プレイスメイキング実行委員会」では、単にイベントを行うためのプロジェクトではなく、大通公園を日常的に使うことを目的とした札幌の大通公園を舞台に行われているプレイスメイキングの実証実験「都⼼まちづくりプラットフォーム公共的空間活⽤プロジェクト」を実施しました。
以上の理由から、今回、Placemaking JAPANでは、プレイスメイキングを実践しているまちとして、札幌に注目することになりました。
札幌の都心エリアの紹介の様子想いがつながるプロセスとは?札幌大通公園活用のプロセス|林匡宏さん
ここから、林匡宏さんから札幌のプレイスメイキングについての話題提供です。
林さんは、札幌都⼼プレイスメイキング実⾏委員会の事務局長として「都⼼まちづくりプラットフォーム公共的空間活⽤プロジェクト」を動かしています。
また、フリーランスではCommons funという屋号でまちづくりコーディネートをしていて、その場で将来ビジョンをイラスト化する手法を用いて、札幌を中心にビジョンづくりや社会実験のプロデュースをしています。
さらに、渋谷区の公園関係におけるプロジェクト担当の職員としての顔も持ち、エリアマネジメントコーディネーターの立場から渋谷区の街・エリア全体の価値向上に関わる業務を行っています。
このように林さんは、公園と人、行政と民間企業をつなげる一方、各地で都市や地域の将来ビジョンの計画・実践や、行政の方針づくりから民間の公募、評価なども行っています。
林匡宏さん photo by 岩田耕平2021年、大通公園の日常活用プロセスの1つとして、高校生50人、企業22社が協働した、都心の活力向上にむけた「都⼼まちづくりプラットフォーム公共的空間活⽤プロジェクト」が始まりました。
現在、林さんは、2021年7月当時の実行委員会メンバーに加え、大手デベロッパーを含む50社近くの企業1人ずつにヒアリングを行いながら、さらに大きなプロジェクトチームをつくろうとしています。
チームをつくる際に大切にしていることについて林さんは
ヒアリング対象の会社のメリットについての話はもちろん大切ですが、プロジェクトを聞いている担当者が楽しめないと続きません。
まちにどんなことができるか、どんな変化が生まれるのか、企業の中の一個人がプロジェクトの内容を目一杯楽しみ、それを会社に説明することで、その後のチームの活動が持続するかが決まります。
と話しました。
チームをつくる際のポイントについて話す林さん 資料提供:林匡宏さん高校生との連携プロセス 「まなびまくり社」の活動
高校生の探究学習を支援するための「まなびまくり社」の活動では、高校生がまちづくりを自分ごととして考え、地域のリサーチ・企画・実践まで行います。高校生が発揮する多様な主体を巻き込む力に、林さんはいつも驚いているそうです。
また、高校生だけではできない役回りの部分は、実行委員会メンバーが高校生の活動できる土台を築いて、高校生にバトンタッチしています。
「まなびまくり社」の活動について説明する林さん 資料提供:林匡宏さん情熱がネガティブをぶっとばすことを話す林さん 資料提供:林匡宏さん林さん:
若者の「巻き込む力」と、それに共感し、協働・共創していく企業やプレイヤーの掛け算が重要だと感じています。そのためには、学生、行政、まち、それぞれが持っているアイディアやビジョンの伝わり方がフラットである必要があります。
「伝える」やり方ではなく「伝わる」やり方で人を巻き込みながら、長期的なまちづくりのプロセスを、高校生やまちの人と一緒に、ワクワクと情熱を持って日々考えています。
巻き込むコツは「結果報告」を工夫すること!札幌プレイスメイキングのプロセス
林さんは札幌のプレイスメイキングのプロセスにおいて、対話をしながらアクションをしていく重要性について話をしました。
「やってみた」過程・結果を実際に他のプレイヤーや市民に見せることで、活動イメージがつき、興味はあったけど自分が参加できるか不安だった人や、何気なく参加した人が、プレイヤーとして関わるきっかけにつながります。
プレイスメイキングのプロセスについて話す林さん(左から、林さん、荒井さん、泉山さん)photo by 岩田耕平また、地域のプロジェクト実践における結果・プロセスの伝え方にもポイントがありました。
それは、報告の仕方を行政や企業、教育機関などの主体によって変えるということです。
例えば1つのマルシェにおいて、行政はプロジェクトの人数カウントが気になるかもしれないし、参加者の自己変容や成長が結果として気になっている主体もあるかもしれません。
報告の仕方を主体によって変えることで、主体によって目指すもののイメージがプレイスメイキングと重なり、多様なプレイヤーを巻き込むことができます。
林さんの話を聞いて、荒井さんは
まちが変わることによって感じるメリットは人によって違うと思います。その中で、何を結果として見せるのか、個人的にアプローチを仕掛けていくことがプレイスメイキングにおけるヒントだと感じました。
と話をしました。
実験における結果・プロセスの伝え方のポイントについてコメントする荒井さん photo by 岩田耕平Placemaking JAPAN と語る!札幌プレイスメイキングの最新状況
その後は泉山さん、田村さん、田邉さん、荒井さんによる質疑と参加者から質問に答える形でクロストークが行われました。
ー(荒井さん) エリアマネジメントをする側として、常に新しい人が入ってくる環境づくりのコツ・新しい人を巻き込むコツはありますか?
林さん:
社会実験をしていくこと自体がつながる場をつくることに通じると思います。社会実験を通して人の顔が見え、そこで出会ったヒト・企業がつながっていきます。自分を表現する場、見せる場が、新しい出会いの場につながります。
札幌におけるプレイヤーつながり方についてコメントする泉山さん(右側)photo by 岩田耕平泉山さん:
ウォーカブルやコンパクトシティ等、中心部の人口密度が高いまちは、イノベーションや人材が集まりやすいです。そんな札幌の素地もありつつ、長い間、林さんが培ってきた札幌のつながりが、今の札幌のプレイスメイキングだと感じます。
ー(参加者)プレイスメイキングを進めていくにあたり、「まちに変化を求めない」人をうまく巻き込む方法はありますか?
札幌の人のつながりについて話す林さん(左から、田邉さん、田村さん、林さん、荒井さん、泉山さん)林さん:
最初から、ネガティブな意見がくることも想定して、対策をしています。
そこでは、行政とプレイヤーが連携しているということがポイントとなり、市民の立場に立ってまちづくりの方向性を決めていく行政と私たちが最終目的の方向性を一致させることによって、次のアクションにつながります。
このように、札幌のまちの札幌プレイスメイキングのプロセスや、札幌の最新状況について話してくれた林さん。実際に会場でイベントの様子を聞いていた筆者は、札幌の中心部には、イノベーションや人材が集まる環境や、ハード整備的なポテンシャルはあるものの、プレイスメイキングをしていくためのプレイヤーの集め方や巻き込み方、さらにそのポテンシャルを活かす方法、プレイスメイキングを普及させるためのアクションや結果の見せ方等、学べる点が多くあると感じました。
Session 2に続きます。