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パブリックスペースを「人の居場所」に変えていく! J・ジェイコブズから脈々と続く「プレイスメイキング」(後編)

パブリックスペース活用のムーブメントとともに、日本でもその重要性が認識されはじめた「プレイスメイキング」。

前編では、1960年代アメリカの近代都市計画への問題意識を投げかけたJ・ジェイコブズ、都市の社交生活について説いたウィリアム・H・ホワイト等の都市論を源流としたPPS(Project for Public Space, NPO)によるプレイスメイキングの概念を紹介しました。それは、都市に暮らす人々自身がまちのパブリックスペースの可能性を見返し、地域コミュニティのための場としていく哲学であり手法であるというものでした。

後編では、PPSのミッションと具体の方法論についてです。

場所に焦点を当てると、全てのことを違うように行える。

Photo by Mayuko Mitani

Photo by Mayuko Mitani

不幸にも、20世紀の凝り固まった計画手順では、コミュニティの利害関係者たちが彼ら自身の住む場所について、そのアイデアと願いを表明する機会を持つことができないように制度がつくられています。

プレイスメイキングでは、プランナー・デザイナー・エンジニアそれぞれの職能・専門分野・課題のような狭い視野を飛び超え、幅広い価値を示すことによって、その堅苦しいプロセスの閉塞状態を乗り越えることができます。開発者とプランナーが草の根的な市民参加を喜んで受け入れる場合には、彼らが持っているたくさんの頭痛の種がなくなるということを、これまでの経験が示しています。

単体の要素だけを見るのではなく、場全体を見るプレイスメイキングの方法にならえば、交通に支配された道路/ほとんど使われない公園/孤立して賑わいの無い開発プロジェクトのような頻発している問題に対処でき、また完全に回避することもできるのです。

プレイスメイキングの鍵となる原則

PPSのプレイスメイキング・アプローチは、コミュニティ再生にむけた飛躍の足がかりになるでしょう。 40年の実践から明らかになったPPSのプレイスメイキング11の原則は、地域社会を以下のように支援するためのガイドラインを提供します。

(1)多様な意見を結合力のあるビジョンに統合すること
(2)ビジョンを計画と利用プログラムに翻訳すること
(3)計画の持続的な実行を確実にすること

共有したビジョンを、本当に現実性のあるすばらしい場所づくりの計画に変えるということは、小さなステップを踏むこと、偽りなく耳を傾けること、特有の文脈のなかで最もよい方策を知るための根気強さをみつけることを意味しています。

コミュニティの協力がプレイスメイキングのプロセスに不可欠であるように、同時に素晴らしい場所というものが成功したソーシャルネットワークを育成し、多様な利害関係者に利益を与え、彼ら自らが行動するイニシアチブをとるための方法を各々が理解するということが重要です。

11の原則に加えて、場所を改善するために開発したその他のツール(パワーオブ10のような)は、市民がコミュニティに大きな変化をもたらす手助けをします。その変化はしばしば、オリジナルのビジョンが想像していたものよりもさらに広がりのあるものです。

Image by PPS website このプレイス・ダイアグラムは、コミュニティが場所を評価することを手助けするために開発したPPSの一つのツールです。中心部の輪は、場所の重要で有用な特質を表しており、中間の輪は無形の性質を表しており、さらに外側の輪は測定可能なデータを表しています。

理論から実践へ:プレイスメイキングの国際的な運動への進展

プレイスメイキングは、PPSの仕事とミッションの心臓のようなものです。しかし、私たちの所有物として商標をつけるということはしません。

プレイスメイキングは、素晴らしい場所を創造することについて誠実なあらゆる人に属するものです。また同時に、強い「居場所の感覚(センス・オブ・プレイス)」は、それぞれの個人とあらゆる場所のコミュニティの物理的、社会的、感情的、そして生態的な健康に対してどれだけ影響を与えるものかを理解する全ての人に属するものです。

私たちは、プレイスメイキングが描いているコミュニティ主導、ボトムアップアプローチのために、守り続け、実践し続け、提唱を続ける責任を強く感じています。 成功するためには、このプロセスのすべての段階において大きなリーダーシップと行動力を必要とします。リーダーはすべての答えを持つ必要はなく、また持つべきではありません。これを認めることによって、実験とコラボレーションのための自由な余地を提供します。プレイスメイキングは大胆なプロセスを展開していくことを許容するのです。

Photo by Mayuko Mitani

Photo by Mayuko Mitani

言葉あそびではない「人のための場をつくること」

今日、「プレイスメイキング」という言葉は、市民や草の根のコミュニティ改善活動に取り組んでいる委員会組織だけでなく、この言葉を使うことでブランドとしての真正や品質をほのめかすプランナーやデベロッパーによって、多くの場面で使われています。たとえ彼らのプロジェクトが常にプレイスメイキングの約束に基づいていないとしてもです。しかし「プレイスメイキング」の言葉の使用は、真の公的な参加に根付いていないプロセスでは、その開発の潜在的な価値と評価を薄めてしまいます。

人のための場をつくることはビルを建て、広場をデザインし、または商業ゾーンを開発することと同じではありません。より多くのコミュニティがプレイスメイキングに従事し、より多くの専門家が彼らの仕事を「プレイスメイキング」と呼ぶようになってきたように、そのプロセスの意味と誠実さを維持することが重要なのです。

素晴らしいパブリックスペースは、物理的な性質だけで測られるものではありません。それはまた活力あるコミュニティの資源として人々を助けるものであり、いつも最終手段として働きをします。すべての年齢・能力・社会経済的な背景を持つ人々が、その場所に立ち入って楽しむだけでなく、彼らがその場所の独自性、創造、維持の重要な役割を果たすことができるそのとき、活動の中での本物のプレイスメイキングを目にすることになります。

プレイスメイキングは、物理的、社会的、生態学的、文化的、そして精神的な質が密接に絡み合っている場所に対する無数の方法に細心の注意を払っています。そして、私たちは、この同じ時代に生きる人々のためのビジョンの推進に取り組んできた、先見の明を持つプレイスメーカーのインスピレーションを受け続けることになります。プレイスメイキング・リーダーシップ協議会を通じて、PPSはプレイスの提唱者や実践者の幅広いネットワークを設立し、プレイスメイキングの成長にはずみをつける手助けを取り組みとして行っています。私たちは一連のフューチャー・オブ・プレイス会議もまた組成し、国連ハビタット、Ax:son Johnsonのようなパートナーと共に、国際的にプレイスメイキングの実践と効果を支援し、都市化とグローバルに発展する都市に焦点をあてています。

「プレイスメイキングはすべての人のもの」:そのメッセージとミッションはどんな個々人、または組織よりも大きなものです。その「根幹となる組織」として、PPSはプレイスメーカーやあらゆる場所の協力者とともにムーブメントを支援し、ネットワークを育て、私たちの経験や資源を共有することに身を捧げる存在であり続けます。

プレイスメイキングにあてはまること プレイスメイキングにあてはまらないこと
コミュニティ主導である トップダウンである
ビジョナリーである 保守的である
形態の前に機能がある デザイン主導である
適応力がある 全てを覆う解決策または応急処置
あらゆる人々を受け入れる 排他的である
創造する行き先に焦点をあてる 車中心である
特定の文脈である 一つの方法で全てに対応するもの
動的である 静的である
横断的な専門分野である 単一専門分野の主導である
変化する 表面的である
柔軟性がある 統制コントロールに依存する
協働的である 費用対効果分析である
社会的である プロジェクトに焦点をあてる

翻訳:著者
監修:渡和由(筑波大学 芸術系)

以上が訳文 ソース:What is Placemaling

そこに暮らし働くひとたちで、パブリックスペースを居心地のいい場に育てていこう!

本文で記したように、プレイスメイキングは単にパブリックスペースをつくり使ってみせるだけではなく、地域の人自身が主導して行うということに主眼を置いています。行政や地域に関係のない誰かが仕掛けた単発の取り組みではなく、地域コミュニティ自身がプレイスメイキングを行えるようになることが重要なのではないかと感じます。言い換えれば、それは新しいかたちで地域の自治を再生することといえるかもしれません。

それを支援する専門家であるプランナー、設計者などはそれぞれが、職能を持ち寄って協働することが重要となります。

「みんなの空間」であるパブリックスペースを、そこに暮らし働く人たち自身で使いこなしながら、居心地の良い場所に育てていきましょう! そこで起こる出来事のひとつひとつが、暮らしを豊かに彩る記憶(個人的な経験も含む)となって蓄積され、まちへの愛が育まれます。そうすれば、そのまちで暮らすことがますます楽しくなり、人とともに、愛されるまちが育つでしょう。この循環を生むことが、ひとつのポイントではないかと思います。

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