レポート
プレイスメイキングの本質と最前線!Ethan Kentさんキーノート PWJ2021 #11
Placemaking Week JAPAN 2021では、セッション11 Special Keynote「プレイスメイキングの本質とフロンティア」において、世界のプレイスメイキングムーブメントをリードするPlacemakingXより代表のEthan Kent(イーサン・ケント)さんをお招きしました。たくさんのプロジェクトに関わってきたEthanさんが考えるプレイスメイキングの意義やこれからの課題について理解を深めるセッションとなりました。
当日の様子は、Twitterテキスト中継からご確認いただけます。
本記事では、「プレイスメイキングの本質とフロンティア」のイベントレポートを紹介します。
*Placemaking Week JAPAN 2021の情報は、こちらからご覧ください。
現代のプレイスの抱える問題点とその背景
Ethanさんのプレゼンテーションは、「プレイス・キャピタル(場所の資本)」の話題から始まりました。アクセスのしやすさや、快適さ、そしてコミュニティへの帰属意識などが含まれる「プレイス・キャピタル」。それは、地域のサスティナビリティを向上させるために最も有効な手段であるとEthanさんは考えます。なぜなら、プレイスキャピタルは、社会資本の基盤であるからです。プレイスキャピタルが構築されることで、人々の暮らしやコミュニティ、そしてその将来も豊かになります。
プレイスには、そのエリアにある様々な要素(芸術文化や地元の食材、そして地域経済など幅広い項目があります)を集約するパワーがあります。
しかし、このサイクルが必ずしもうまくいっていないということが現代の課題でもあります。世界の主要な都市について考えてみればわかりやすいのですが、効率や便利さを追求した結果、「プレイス」という考え方は軽視されています。その結果として、どの都市部でも同じような高層ビルや道路渋滞といった風景が確認されます。裏を返せば、あらゆるコミュニティはプレイスではなく、地域に根ざした「プレイス・キャピタル」が確立されていないただのスペース(空間)でしかないのです。
今後人々が本当に必要とする都市の将来像
では、なぜ「スペース」(空間)ではなく、「プレイス」(場)が必要なのでしょうか。プレイスメイキングを通じて人々にはどのような効果があるのか、Ethanさんのプレゼンテーションで紹介されたポイントのなかから、大きく2点についてまとめていきます。
地域に根ざしたローカルなプレイス
1点目は、過去の都市や成功例に学ぶだけではなく、「その地域に根ざしたプレイス」です。世界中のプレイスの事例について知ることができる現代だからこそ、そのフレームを真似することそれほど難しくありません。しかし、プレイスメイキングにおいて重要なのは、そのプロセスです。人々を巻き込んだり、その地域について理解を深めたり、プレイスを評価し改善していくプロセスを通じ、そのエリアに暮らす人々が求める本当の快適さや安心感を知ることができます。プレイスメイキングの過程を通じて、プレイスをつくると同時に実は、自分たち自身への理解も深めているのです。そうして出来上がった、地域に根ざしたローカルなプレイスは、人々に真の快適さや安心感を提供します。
そんなプレイスには人が自然と集まり、交流をします。これは、アメリカのミシガンの例です。
活動や交流を通し愛着が深まるプレイス
2点目は、「心から愛着の湧いてくるプレイス」です。これまでも、プレイスメイキングを通じてコミュニティへの愛着が強化される効果について述べてきました。しかし、これはいくつかあるうちの1つの効果なのではなく、かなり重要な要素なのです。Ethanさんはプレゼンテーションの中で
「私たちがパブリックスペースをつくりあげ、そのパブリックスペースは私たちをつくりあげます(We shape our public spaces thereafter our public spaces shape us)」
という一節を紹介しました。私たちがその場所を好きになるだけでなく、わたしたちの一部である、そんなプレイスを私たちは求めているのです。
実際に私たちが、そんなつながりの深いプレイスを求めていることがわかる最たる例が、コロナ禍におけるパブリックスペースの果たしている役割です。実際に人と会うということが以前よりも難しくなってしまった状況で、多くの人がつながりや賑わいを求め、道やパブリックスペースを利用する人は増えたのではないでしょうか。
エリアがリードしながら、パブリックスペースを効果的に利用するプロジェクトがコロナを機に世界各地で増えてきました。これは、マンハッタンの写真です。
PlacemakingXが目指すもの
これまで、現代の都市が抱える課題やプレイスメイキングの効果などについてみてきました。ここからは実際に、そのプレイスメイキングのムーブメントを引っ張っているPlacemakingXの活動について学んでいきましょう。Ethanさんが代表を勤めるPlacemakingXは、「プレイスメイキング」という言葉が意味するように、誰かに特定するのではなく皆が参加できるようなプレイスメイキングのプロジェクトの促進とネットワーク構築を目標としています。そのネットワーキングをもとに、より多くのリーダーが交流し、全体としてのプレイスメイキングのスピードアップも期待しています。
今もどんどん増えていくプレイスメイキングのネットワーク。世界中で「プレイス」が生まれていく様子がこのマップからも伝わってきますね!
実際にPlacemakingXがどうやってそのような変化を生み出しているのか、Ethanさんは3つのポイントを紹介しました。1つ目は、「Adovocate」(意見を支持する)であり、システマティックな変化を支持していくことです。短期的な小さな規模の変化ではなく、継続的な持続可能な大きなフレームワークの変化を起こすことが欠かせません。また、2点目の「Amprify」(展開する)として、ストーリーを語りアイデアを広めていくことと、3点目の「Accelerate」(スピード感をもって取り組む)として、全体のスピードを上げていくことも欠かせません。
それらの3つをもとにしながら、スペースからプレイスを創りだすために、世界各地で活動しています。
プレイスレッドガバナンスとは
今日の「ガバナンス(統治・管理方法)」と言えば、部署がそれぞれの担当分野を割り当てられ役割を果たしていくというケースがほとんどです。プレイスメイキングや、そのプレイスの維持管理の過程でもそれは例外ではなく、それぞれの担当者が各自の任務を別々に果たすというケースが少なくありません。
しかし、プレイスメイキングが目指すガバナンス「プレイスレッドガバナンス」(Place-led governance)はそれとは異なるとEthanさんは強調します。プレイスレッドガバナンスは、部門の枠組みを超えて横断的に協力しながらプレイスメイキングやマネジメントを進めていくことを目指しています。そして、その包括的な協力体制により、それぞれの働きの効果も向上することを期待しています。さらに、そのガバナンスはプレイス主体となっていくことが求められています。
より詳しくみてみると、プレイスレッドガバナンスは、既存の型に当てはまることなく柔軟な考えからはじめるセルフガバナンスともいうことができます。これまでは、政府や民間といった決まった人が指揮を取ることが多くありました。しかし、そうではなく自然と人々が参加していく、それがセルフガバナンスです。また、それぞれの異なるセクターの人々が協力し合うマルチセクターという側面も求められます。この考え方はプレイスメイキングにおいて、コミュニティも含めた皆が同じ立場に立つステーホルダーであるという考え方にも通ずるものがあります。
そんなガバナンスの体系により、軋轢が生まれるかもしれません。しかし、そんなときにも議論を恐れずに、
「議論こそプレイスメイキングを高めていく」というように考えましょう
とEthanさんはいいます。自由な発想で皆が同じ立場で参加するプロセスだからこそ、その過程で多様な意見を交換し、それぞれが補完していくような形でプレイスをつくることができるというように考えることが重要です。
最後に
Ethanさんのキーノートからは、プレイスメイキングをめぐる課題や可能性、そして将来像など様々な角度から自身のプロジェクトを振り返ることができました。PlacemakingXをはじめ多くのプレイスメイカーたちが、世界でのプレイスメイキングムーブメントを盛り上げてきました。日本も例外ではありません。しかし、まだまだ他国に比べ日本ではプレイスメイキングムーブメントは大きくありません。Ethanさんも
「これからも継続して今回のようなネットワークを活かしたイベントへの参加や意見交換へ参加を通し、みんなで運動を盛り上げてていきましょう!」
と日本のプレイスメイカーへのメッセージを残しました。
最後は恒例の写真撮影!イベントへご参加された皆様、ありがとうございました!*Placemaking Week JAPAN 2021の情報は、こちらからご覧ください。
グラフィックレコーディング:千代田彩華
テキスト by 土橋美燈里(The University of Sheffield MSc Urban and Regional Planning)