レポート
神田が生まれ変わる小さくて大きな一歩?!|マスタークラス+神田サロン #TUJ2019 #5
2021年6月、日本初となるタクティカル・アーバニズム本『タクティカル・アーバニズム: 小さなアクションから都市を大きく変える』が刊行されました。
本書は、タクティカル・アーバニズム・ジャパンと一般社団法人ソトノバが主催した「Tactical Urbanism Japan 2019」の登壇者が中心となって執筆されています。
そこで今回、2019年に開催された「Tactical Urbanism Japan 2019」のレポートを一挙公開します!
レポートの内容を振り返りつつ『タクティカル・アーバニズム: 小さなアクションから都市を大きく変える』を読めば、個人と都市の関係についてより深い洞察を得られるはずです。ぜひ合わせてお読みください。
- 都市を都市として機能させるための戦術|タクティカル・アーバニズム ウェビナー&オープントーク
- マイク・ライドン本邦初講義!|タクティカル・アーバニズム アカデミックサロン
- 日米のパブリックスペース実践者が集結!|タクティカルアーバニズムサロン 前編
- 小さなアクションを実践せよ!|タクティカルアーバニズムサロン 後編
- 小さなアクションから長期的変化につなげる——日本のパブリックスペースの現在地|タクティカル・アーバニズム国際シンポジウム
- 神田が生まれ変わる小さくて大きな一歩?!|マスタークラス+神田サロン
イントロ:開催の経緯や意図について
タクティカル・アーバニズム マスタークラス「タクティカル・アーバニズムの実践手法を学ぶ」
タクティカル・アーバニズム 神田サロン
2019年12月13日(金)
–
2019年12月9日から13日まで、一週間に渡ってタクティカルアーバニズムを語り尽くすイベントシリーズ「タクティカルアーバニズムジャパン2019」。
最終日となる13日は、神田という具体的な地区を対象として、マイク・ライドンさん、トニー・ガルシアさんのお2人からレクチャーを受けながら提案を検討する「マスタークラス」と、同日の夜にそれらの提案を地元関係者や行政に向けてプレゼンする「神田サロン」の2つのイベントが組み合わさった、盛りだくさんの1日です。
超実践的!マイク、トニーから直々にレクチャーを受けながら提案を考えるマスタークラス
3 x 3Lab. Futureにて開講したマスタークラスは、プログラムディレクターとして東京大学助教・ソトノバ共同代表の泉山塁威さん、Place Capital Lab・ソトノバメンバーの田村康一郎さんの2人が全体プログラムをコーディネート。
東京大学特任助教の近藤早映さんと、横浜国立大学助教・ソトノバメンバーの三浦詩乃さん、そして私がサポートディレクターとして、主にマイクやトニーのコミュニケーションをサポートしました。
アドバイザーには、神田に精通する東京大学講師の中島伸さんをお招きし、神田の歴史や現状、課題などをお話しいただいた。
マスタークラスには、12人が参加しました。主な参加者は建築家やコンサルタント、公務員としてまちづくりに携わる社会人や学生です。日本でタクティカルアーバニズムの演習を実施するのは初めてのこと。その場にいた誰もにとって貴重な経験であったことは言うまでもありません。
マイクさんもこのマスタークラスのことを特に楽しみにしており、朝タクシーの中で
今日はマスタークラスだね。ついに具体的な対象地にたいして提案するようなことができる
と意気込んでいました。そして、その意気込みは、レクチャーの内容にもしっかりと現れていました。
マスタークラス受講者にレクチャーするマイクさんとトニーさん日本に到着して以来これまで4回のレクチャーの機会に、すべて別々のスライドを用意してくれた2人でしたが、今日のレクチャーは圧倒的に今までのそれとは違う内容です。
より具体的かつ実践的な内容で、彼らがいかにして実務の中で都市と向き合い変化をもたらしてきたか、リアルに学ぶことができました。
実践を通して学ぶ!街歩きから提案作成へ
レクチャーとともにマスタークラスの流れを確認したあと、いよいよ実際のワークに入っていきます。
トニーさんと街歩きをするグループBまずは2つのチームに分かれて街歩き。提案する対象地をマイクさん、トニーさんとそれぞれ練り歩きます。参加者全員に別々のペルソナを割り当てて、参加者はそのペルソナの気持ちになって街を観察します。
ポイントごとに立ち止まって、グループ内で気づいたことを共有します。マイクさん、トニーさんの意見からは、日本人ではないからこその視点も垣間見えました。
お昼休憩中に、マイクさん、トニーさんらと昼食を待っていると
日本の通りは大きく2つに分けられるようだね。神田も、とても騒がしい大通りから一本中へ入ると、道が狭くてヒューマンスケールな空間が張り巡らされていて、すごくポテンシャルを感じる
など、東京を歩いての感想が次々に聞こえてきました。
昼食後は、街歩きを経て得た着想を一気に提案につなげていきます。使用したツールは、5Whysという「なぜ?」を重ねることで根本的な原因を発見するツールと、48 x 48 x 48という、短・中・長期的な提案をリニアに考えていくツール。
マスタークラス中間発表の様子こうしたツールがあることで、たとえまちづくりに精通していない人でも簡単にまちづくりに参加することができ、達成可能な提案を考えることができます。
このツールの特徴は、提案そのものよりも、提案に至るまでのプロセスをサポートしている点と、提案が実現するまでのプロセスをサポートしている点です。
提案が実現するまでのプロセスを議論しているときには、マイクさんの突破力をひしひしと感じます。
その提案を実現するために課題となっている点は何か?誰がやるのか?誰に支援して貰う必要がある?それはいつできる?など、次々に質問を受講生に対して投げかけ、より詳細に提案を実現するために超えるべき障壁とその解決策を議論するよう促していました。
濃密な時間はあっという間に過ぎていきます。2チームとも夜の神田サロンに向けて議論を加速させペンを地図上に走らせていきました。
神田サロン
発表前の作業の様子を見守る田村さんマスターサロン受講者による提案の作成は、会場をワテラスコモンホールに移したあとも、発表ギリギリまで続きました。
会場には、70名を超える人々が集まりました。地元の関係者や行政の方にもお越しいただいたことで、神田の未来について考えるきっかけにもなりました。
東京大学教授の小泉秀樹さんが開会の挨拶で会場を基調したあとは、いよいよ提案の発表です。
今日はグラフィックレコーダーの古谷栞さんにもお越しいただいた内神田のストリートが生まれ変わる48!グループAの発表
グループAは、東側の内神田エリアの提案。丸の内の仲通りの延長線上にある区道にフォーカスし、歩行者が路上だけでなく寄り道でき、かつ食事以外の目的でも滞在できる場所を作ることを大きな目標として提案を作りました。
グループAの発表の様子短期的に48時間でできることとして、店舗経営者や駐車場オーナーに協力をお願いして、一時的に駐車場を人が滞在できる場所にしてみることを提案。
中期的な48週間での提案は、地域内の複数の駐車場で同時に人の滞在場所を確保することで面的な広がりをもたせるというもの。新たにこの地域にお店を出したい新規参入者などにも入ってもらい、新たな組織を立ち上げてみてはどうかという提案も出ました。
最後に長期的な48ヶ月間でできる提案として、緑で溢れて親子が滞在できるような場所が沢山存在する絵を紹介しました。オフィスワーカーだけでなく、若い世代の住民も大きな街の原動力になる新たなイメージを示しました。
神田サロンのコーディネーターを務める中島伸さんこの提案を作成段階から見ていたマイクさんからは
仲通りにつなげようとするビジョンは良いと思うが、その開発が達成されるまでその利益を享受できないかと言ったら、そんなことはない。短期的なプロジェクトは、遠い未来の利益を具体的に想像させる力も持つ。短期的に実験しながら、地元の人々が見たい未来と見たくない未来を明確にすることが重要
とアドバイスしました。
また神田2丁目町会長の田端さんは
素晴らしい案だと思う。内神田全体のグランドデザインのイメージがあってもよいのではないか。今は将来に対するイメージがバラバラな気がする
とコメント。
千代田区職員代表として印泥さんは
フレームワークで短・中・長期という言葉をよく使うが、48という数字を使うことでより具体的に想像できる事がわかった。人道橋の建設の話題に触れるのであれば、大手町と神田の関係性を意識した話があると良いと思う
と提案しました。
神田の老舗酒屋の木村さんは
1階に店舗があるという話があったが、店舗が減ってきているというのが現状であり課題。1階店舗を魅力に感じてくれる方がたくさんいて、その魅力を伸ばしていくという方向になってくれれば嬉しい
と期待を寄せました。
日本橋川沿いを明るく楽しくするアイデア!グループBからの提案
続いては、グループBの発表です。グループBは、西側の神田錦町に対して提案しました。
首都高の下の川沿い空間を変えることをテーマとした案です。暗くて汚く、滞留できる場所もないし景色も退屈であるという現状から、照明と滞留をデザインする方向性になりました。
グループBの発表の様子まず48時間でできることの提案です。町内会から提灯をお借りし、イベント会社やまちづくり会社などに協力してもらって屋台やベンチを設置してイベントを開催することを提案。ふだん神田でお祭りを主催している町内会には、たまにはお客さんになってもらうのも良いのではないかとも提案しました。
48週間で実施するプロジェクトについては、道路を2車線ほど一時的に占用し、かつ橋の下をプロジェクションマッピングなどで照らすことで、滞在空間にすることを提案。大学研究室や、行政、警察などの協力が必要なほか、不動産オーナーや照明会社から資金的な支援を受けることを図るとのことです。
最後に48ヶ月間で実施する長期ビジョンとして、定常的なライティングが設けられている生まれ変わった川沿い空間の様子をプレゼンしました。
グループBを担当していたトニーさんからは
道路の横断歩道を新たにデザインする提案もあったはずだがプレゼンし忘れてしまったようだ。また、提灯を使った発想など、ローカルなコンテクストに合わせてタクティカルアーバニズムの手法を活かせたことは素晴らしいと思う
と感想を伝えました。
地元関係者や行政職員の皆さん国交省の武藤さんは
ライティングと滞在という2つのフォーカスを明確に示していた点が良かった。今まさに車から人にという流れがあるので、道路空間を積極的に使った提案は良いと思う
とポジティブな反応を示しました。
千代田区職員代表として神原さんは
具体的な提案で良かったと思う。交通の結節点として、大手町との繋がりも考えられていて良いと思う。これからの計画づくりに参考にしたいと思う
と話しました。
都市局の大倉さんは
明日の街を見せることの大事さや、みんなのための空間を作ることの重要性を実感した。みなさんの空間をみなさんで管理していく仕組みができれば良いなと思う。私もビューロクラティックアーバニズムと揶揄されないように頑張っていきたい
とコメント。
最後に再びマイクを向けられた田端さんは
提灯は実は雨に弱く貸しづらいという現実もある。千代田区全体を見ると、3万8千人しか夜間人口がいないのに対昼間人口は120万人もいるので非常に複雑。土日と平日、昼と夜でぜんぜん違う空間になってしまうことは、ある意味大きな千代田区の特徴と言えると思う
と新たな観点を加えました。
ミニレクチャーするマイクさんとトニーさんその後は、マイク、トニーのミニレクチャー。簡単なタクティカルアーバニズムの説明に加えて、この一週間の間に見てきた日本について思うこと、そして神田のコンテクストにあった、世界の参考事例などをお話しいただきました。
最後に、月曜日、火曜日そして今日と、この1週間に渡ってマイクさんとトニーさんを見てきた小泉さんが「準備に時間をかけてはいけない」こと、「ロングタームの変化を最初から考える」こと、「マイナスに思えるものが資源になりうる」こと、「プランナーが意見を聞きに行くアウトリーチを重んじる」ことがタクティカルアーバニズムの特徴であり、大切なポイントであるということを総括としてまとめ、神田サロンが終了しました。
タクティカルアーバニズムジャパン2019最後のグループフォト総括
グループフォトの後は、おなじみPerch.さんのケータリングで懇親会です。マイクさん、トニーさん、そして泉山さんから、この1週間の総括もお話いただきました。
1週間に渡って様々な角度からタクティカルアーバニズムを見つめてきました。イベントの参加者はもちろん、私達主催者もとても多くの学びがありました。
これをきっかけとして日本の都市デザインの常識が変わり、将来マイクさんとトニーさんが日本に帰ってきたときにその変化を実感してもらえるよう、頑張りたいと感じました。
(取材・構成:矢野拓洋/一般社団法人ソトノバ・パートナー)
開催概要
タクティカル・アーバニズム マスタークラス
タクティカル・アーバニズムの実践手法を学ぶ
講師 | マイク・ライドン/Mike LYDON アンソニー・ガルシア/Anthony GARCIA |
プログラムディレクター | 泉山塁威(東京大学助教/ソトノバ) 田村康一郎(Place Capital Lab./ソトノバ) |
サポートディレクター | 矢野拓洋(首都大学東京特任研究員/IFAS/ソトノバ) 近藤早映(東京大学特任助教) 三浦詩乃(横浜国立大学助教/ソトノバ) |
アドバイザー | 中島伸(東京都市大学講師) |
日時 | 2019年12月13日(金)10:00-21:00 |
会場 | 3 × 3 Lab. Future(東京都千代田区大手町1-1-2 大手門タワー・JXビル1F) |
主催 | タクティカル・アーバニズム・ジャパン(一般社団法人ソトノバ) |
タクティカル・アーバニズム 神田サロン
発表者 | マスタークラス受講者(一般) |
ミニレクチャ | Mike Lydon(マイク・ライドン)氏(タクティカル・アーバニズム提唱者・著者/Street Plans Collaborative 共同代表) Anthony Garcia(アンソニー・ガルシア)氏(タクティカル・アーバニズム著者/Street Plans Collaborative 共同代表) |
コーディネータ | 小泉秀樹(東京大学教授) 中島伸(東京都市大学講師) 泉山塁威(東京大学助教/ソトノバ) |
グラフィックレコーディング | 古谷栞(法政大学現代福祉学部) |
日時 | 2019年12月13日(金)18:30-21:00 |
会場 | ワテラスコモンホール(東京都千代田区神田淡路町2丁目101番地) |
主催 | タクティカル・アーバニズム・ジャパン(一般社団法人ソトノバ) |
共催 | 東京大学まちづくり研究室 |
後援 | 千代田区 |