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小さなアクションから長期的変化につなげる——日本のパブリックスペースの現在地|タクティカル・アーバニズム国際シンポジウム #TUJ2019 #4

2021年6月、日本初となるタクティカル・アーバニズム本『タクティカル・アーバニズム: 小さなアクションから都市を大きく変える』が刊行されました。

本書は、タクティカル・アーバニズム・ジャパンと一般社団法人ソトノバが主催した「Tactical Urbanism Japan 2019」の登壇者が中心となって執筆されています。

そこで今回、2019年に開催された「Tactical Urbanism Japan 2019」のレポートを一挙公開します!

レポートの内容を振り返りつつ『タクティカル・アーバニズム: 小さなアクションから都市を大きく変える』を読めば、個人と都市の関係についてより深い洞察を得られるはずです。ぜひ合わせてお読みください。

  1. 都市を都市として機能させるための戦術|タクティカル・アーバニズム ウェビナー&オープントーク
  2. マイク・ライドン本邦初講義!|タクティカル・アーバニズム アカデミックサロン
  3. 日米のパブリックスペース実践者が集結!|タクティカルアーバニズムサロン 前編
  4. 小さなアクションを実践せよ!|タクティカルアーバニズムサロン 後編
  5. 小さなアクションから長期的変化につなげる——日本のパブリックスペースの現在地|タクティカル・アーバニズム国際シンポジウム
  6. 神田が生まれ変わる小さくて大きな一歩?!|マスタークラス+神田サロン(6/21公開)

イントロ:開催の経緯や意図について

タクティカル・アーバニズム国際シンポジウム 「小さなアクションから長期的変化につなげる」

2019年12月11日(水)16:00〜21:00

タクティカル・アーバニズム(以下、TU)国際シンポジウムでは、TUのキャッチフレーズでもある「長期的変化のための小さなアクション(Short term Action for Long term Change)」に焦点を当てた議論が展開されました。日本のパブリックスペースの活用の「実践の現在地」を踏まえ、これまでに行われてきた小さなアクションや社会実験の積み重ねをどのように政策や計画へ反映させ、空間整備、市民・行政への機運醸成など、長期的変化といった影響の生み出し方についての課題が浮き彫りになりました。

登壇者はTUの提唱者マイク・ライドン氏とアンソニー・ガルシア氏のほかに、日本のパブリックスペース活用や道路空間活用のキーパーソン8人(※)。開催時間は16時から21時の約5時間。ライドン氏とガルシア氏は初来日の疲れも見せず、約200人の来場者を前にライブ感溢れるプレゼンテーションとディスカッションを行い、その後の交流会でも積極的に参加者とのコミュニケーションを図りました。

オープニングセッション:国土交通省・道路政策を通じて実現する「新しい社会像と提案」

20191211-163656池田豊人氏(国土交通省道路局長・当時)

まず、オープニングセッションで登壇したのは、国土交通省道路局長(当時)の池田豊人氏。「道路はパブリックスペースの最たるもの。公共空間の25パーセントは道路であり、重い責任を感じている」と口火を切りました。「道路は車が通るところである」という「強烈な刷り込み」をいかにして歩行者に積極的に利用される「賑わいを目的とした空間」へと変えていくかを語りました。

セッションの最初に池田氏は、よく引用するという自らの格言「道路の祭りに外れ無し」を披露し、これまでの刷り込み(「道路には通常、人が立ち入れない」)を逆手に取った道路の活用が「意外性」や「非日常体験」による盛り上がりを生むとし、これを活かすことで、難易度の高い取り組みにあたっていける、と話しました。

池田氏は、道路空間の再編の具体的な取り組み案件として、大阪御堂筋を挙げました。4キロ50メートル幅の御堂筋を、すでに全国各地で見られるような「一日だけの歩行者天国」として開くのではなく、道路全体を常時歩行できる賑わい空間として活用する、新たな道路構造の仕様「歩行者モール型」のアイデアを紹介。これは、御堂筋の完成から100周年に当たるターゲットイヤー・2037年に車中心から人中心の「フルモール化」ストリートへ転換を図る「御堂筋将来ビジョン」です。

大阪御堂筋のこういった機運の背景にあるのは、「水都大阪」の成功体験である、と池田氏。かつての美しい水の都の姿を取り戻した大阪で、「川ができるなら道もできるのでは」という意識が芽生え広がったことを挙げました。

池田氏は、現在の道路法令上の制約についても説明しつつ、この将来ビジョンの実現は一足飛びではなく、2020年から段階的に取り組むと話し、TUのコンセプトとの共通性に言及しました。また、こういった道路再編への取り組みは全国でも動きが見られる、とも。

国交省では現在、こういった取り組みを後押しするために、2040年の日本社会を念頭にした道路政策を通じて実現を目指す社会像とその実現に向けた中長期的な政策の方向性を提案する準備をしていることを明かしました(「2040年、道路の景色が変わる~人々の幸せがつながる道路~」2020年6月25日発表)。

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池田氏はセッションの最後に、法律や政策が変わっても新しい取り組みにおける苦労はつきものであるからとし、「ポイントは、楽しく、めげないこと!」と結び、会場を前向きな空気で満たしました。

キーノートスピーチ: Lessons For Tokyo Tacticians

次にTUの提唱者であり、Street Plans Collaborative 共同代表マイク・ライドン氏とアンソニー・ガルシア氏が登壇。彼ら自身の生の言葉を同時通訳で聴講できるという貴重な機会に、会場に集まった国内のパブリックスペース活用の実践者やTU読者の期待が高まりました。

ライドン氏はこのスピーチの冒頭で、「TUがどのように開発プロジェクトに適用され、どのように有用であるかということ、その効果を伝えることで会場の方々が期待感をさらに膨らませていただける機会になったらうれしい」と挨拶。この場でTUのコンセプトやエッセンスを学び、最終的には東京あるいは日本ならではの事情を加味したアップデート版の誕生を望む、と話しました。

20191211-164227ライドン氏が示した、このスピーチで会場が得られることを目指す「3つのゴール」

開発プロジェクトの進め方において、最も大切なのは「都市計画の専門家ではない人たちへまちづくりへの実体験を与えること」である、と話すライドン氏。ここでガルシア氏も、米国の例を挙げながら1950年代からの大型プロジェクトの融通の利かなさが公共空間の価値を減らしてきたことを説明し、設計や計画の調整や変革を許さない過去の進め方が現在、大きく変わろうとしていると明かしました。

例えば、デジタルデバイスの買い替えスパンが短期化していることに加え、ユーザーはOSの頻繁なアップデートを受け入れている現在、「世界は頻繁な変化を受け入れる態勢ができている」と表現し、一方で都市計画はその状況に適応しきれていなかったことを指摘しました。

この解決策としてTUがある、とガルシア氏。机上で設計する専門家ではない、そこで普通に暮らす人々が、都市を使う上でのさまざまな提案や希望・要望を仮設の材料を使いながら実体験し、そのプロジェクトに関与していく。その成果を臨機応変にデザインへ反映させていく。つまり、TUは「コミュニティにおいて、低コストの短期的アクションを積み重ね、長期的な変化をもたらす起爆剤的なアプローチ」であると解説しました。

ここで「ただし、TUはゲリラ的に行われるものではなく、戦術的に(Tactical)に行われるものだ」とライドン氏は強調しました。TUによって実務につなげること、そのインフラを実際に使う人々が主体的に関与するようになることが重要であり、自分が生活するまちづくりへの情熱(Passion)を持ってもらうことの重要性を語りました。

まちづくりに関与するための情熱(Passion)の呼び起こし方・広げ方について、ガルシア氏は米国のウエストパームビーチの例を挙げて説明しました。駅から高校までの道のりに横断歩道を架けるという同プロジェクトでは、その横断歩道を実際に利用する高校の生徒たちの関与を促しました。結果的に、彼らは約1万5000ドルという低コストで、道路にさまざまな図柄のペイントを施し、街における「提唱者」となりました。このような「特別な技能を持たずとも誰でもできる」作業を用意することで、ごく普通の高校生の中に街に対する愛着やシティプライドを呼び起こし、まちづくりへの情熱を生みました。

ライドン氏たちは、ニューヨークのタイムズスクエアの在り方の大きな変革を見て、仕事の拠点をマイアミからNYCへ移転することを決めたそうです。世界有数の交通量の激しい交差点であったタイムズクスエアが、ベンチが置かれ、人々が寝そべってくつろぐ姿を目にするなんてとても想像できなかった、とライドン氏。しかし、実はタイムズクスエアには1969年から、このような構想があったのだそうです。地域や住民からの合意を得られずに長らく止まっていた計画を動かしたのは、ここ5年ほどで行った、長期的変化のための小さなアクション(Short term Action for Long term Change)の積み重ねでした。まさしく、TU的アプローチによって、そのインフラを使う人々自身が変化後の環境を実体験することで主体的に関与するようになることを促したのです。

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ここでライドン氏は、今回の訪日中に訪れた世界的にもよく知られる渋谷の交差点について「タイムズスクエアのような変化は渋谷でも起こせる、楽しみだ」と発破をかけました。また、池田氏の話に出た大阪御堂筋の将来ビジョンについても、「2037年を待たずに、今すぐにやってみましょうよ」と呼び掛けました。小さくテストしてデータを分析する。その中で一番良い結果に小さく投資してまたテストしてみるという繰り返しは「OSソフトのバージョンアップと同じなのです」と強調しました。

image5Street Plans Collaborativeが開発したプロジェクトの推進チャート。段階的なアプローチを経て、長期的な変化を生み出す。

TUがツールとして開発した「プロジェクトの推進チャート」を投影し、「Demonstration-Pilot-Interview- Longterm/Captal」というアプローチ方法で、恒久的でありながらフレキシビリティを残せるのだ、と説明しました。フロリダ州のマイアミ、ノースカロライナ州アッシュビル、ハワイ州ホノルル、バーモント州バーリントンなどの実践例を挙げて、TUの共創型のアプローチを具体的に説明しました。

両氏は最後に、「Lessons For Tokyo Tacticians」(東京の戦略家たちへのレッスン)と題した4つのポイントを画面に投影し、来日から48時間で東京の街を巡り得られた教訓について披露しました。

ガルシア氏が最初に強調したのは「パブリックスペースの活用プロジェクトを始めることは誰にでもできるのだ」ということでした。よりよい場所を作り、課題を解決するためには第一歩を踏み出すしかなく、たどり着く姿やディテールが見えなかったとしても、進みながらやる、風穴を開けるのだ、と話しました。そして、都市の課題は他の場所でも共通する場合が多いので、一か所で始めればやがて全国さまざまな場所へ広がっていきます。

そして、最も重要なこととして「始めたらやり続けること」を挙げました。その鍵は、「キャパシティーと資源を育成すること」。10人の人々が実践し、それをまた近隣へ広げて、そのプロジェクトを広げていくことがサステナビリティであり、命を吹き込むことである、と力強く話し、スピーチを締めくくりました。

20191211-174224Lessons For Tokyo Tacticians

オープントーク:社会実験から次のステップへー日本の事例紹介とディスカッション

後半は、日本のパブリックスペースの先進的な活用実例を各登壇者が発表した後、会場からの質問等を踏まえたディスカッションを行うという構成でスタートしました。

20191211-180233坂本彩氏(三井不動産日本橋街づくり推進部/(一社)日本橋室町エリアマネジメント事務局) 20191211-181629忽那裕樹氏(E-DESIGN) 20191211-182521村上豪英氏(リバブルシティイニシアティブ) 20191211-183407津島秀郎氏(神戸市都市局都心再整備本部担当部長) 20191211-184529-2林将宏氏(国土交通省道路局環境安全·防災課課長補佐)

キーワードは「自分事化」と「エモーション(感性)の共有」

各地の事例紹介の中で、共通して出されたキーワードは「自分事化」でした。

三井不動産日本橋街づくり推進部で日本橋室町エリアマネジメント事務局の坂本氏は、エリアマネジメントの仕事について、担当物件のアセットを高めるのではなく、エリアの価値を高める仕事であり、まちの要所要所でデベロッパーが小さな活動と連携し、街の中に「自分事化」の意識を広めていくことで主体性を高めることが重要である、と話しました。

公共空間は本来、誰のものでもなく、皆の立場がフラットになる場所。行政あるいは地元との関係性の構築が進めば「自分たちでなんでもやってやろう」というマインドが街に生まれ、自走する仕組みづくりに段階が進み、公共空間で収益を上げようと主体的に考えるようになり、これがサステナビリティである、と説明しました。

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リバブルシティイニシアティブの村上豪英氏も、社会実験を通じて参加者が感性・気持ちを共有しなければいけない、といい、共に次の一歩を共に踏み出すことで傍観者だった人が共に主役となることが大事、と話しました。公共空間は楽しむだけでなく、自分たち自身がそこを作っていくという市民を増やす。そのこと自体が成果であり、つまり、皆が「自分事」にして当たっていくことが重要との見解が示されました。

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日本の実践事例を聞いて、ライドン氏は改めてTUがマスタープランを実現するためにあることを強調しました。そして、マスタープランから逆算して、長期的な視点に対する調整を与えるツールであると話し、関連する住民に対しては、クレームが出ないよう事前に住宅地へ出向いてヒアリングすること、対面で説明することが重要と話します。参画するメンバーの「自分のなかのエモーション」に耳を傾けることが成功の鍵であり、そのことによって街に対するプライドを持っている人がかかわる器プラットフォームを用意することが大事なのだそうです。

また、対話の場は「意見を言い合うだけではなく、体験をする場にする」と話し、村上氏の見解と重なりました。ライドン氏は、感性の共有を阻害してしまった過去の失敗例として、ボランタリーの人々を都市計画推進側が管理している・取り込んでいるように見せてしまったケースを挙げました。

水都大阪を推進した忽那氏も、プロジェクトにおける効果的な計測は「もてなし(主催者)側に自分がなったと思えるかどうか」というファクターであると発言。もてなす側つまり主体的に関わった人々が集まって行われるとクレームがないそうです。

公共空間の活用は、ゲリラ的ではなく地域で合意を得ていることが重要とも話し、これはTUのコンセプトと同じです。小さい人数で初めてだんだん大きくしていく様を見せることともいい、さらに「文化的な施策のKPIを参加者が共有すること、文化的・創造的活動の実践ができているかどうかの指針が重要であると思っているそうです。

まとめ:Tactical Urbanism Japan 2019 AGENDA

最後に、ソトノバは両氏が来日中の3日間に参加した各講座と、本日の5時間のシンポジウムの話のなかから浮き上がった「今の日本がTUを行う上でのAGENDA(課題)」を示しました。

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(取材・構成:小林直子/公民連携ライター・ロコカタリスト)


開催概要

タクティカル・アーバニズム国際シンポジウム
「小さなアクションから長期的変化につなげる」

オープニングセッション池田豊人氏(国土交通省道路局長)×泉山塁威×西田司
キーノートスピーチMike Lydon(マイク・ライドン)氏(タクティカル・アーバニズム提唱者・著者/Street Plans Collaborative 共同代表)
Anthony Garcia(アンソニー・ガルシア)氏(タクティカル・アーバニズム著者/Street Plans Collaborative 共同代表)
オープントーク
*肩書はすべて当時
マイク・ライドン氏(Street Plans Collaborative共同代表)
アンソニー・ガルシア氏(Street Plans Collaborative共同代表)
林将宏氏(国土交通省道路局 環境安全・防災課 課長補佐)
津島秀郎氏(神戸市都市局都心再整備本部担当部長)
坂本 彩氏(三井不動産日本橋街づくり推進部/(一社)日本橋室町エリアマネジメント事務局)
忽那裕樹氏(E-DESIGN)
村上豪英氏(リバブルシティイニシアティブ)
泉山塁威氏(東京大学先端科学技術研究センター助教・ソトノバ)
コーディネーター西田司氏(オンデザイン代表/東京理科大学准教授)
司会MC ATSUSHI
日時2019年12月11日(水)16:00〜21:00
会場日本橋ホール(日本橋高島屋三井ビルディング/東京都中央区日本橋2丁目5−1)
主催タクティカル・アーバニズム・ジャパン(一般社団法人ソトノバ)
共催東京大学まちづくり研究室
助成大林財団
後援国土交通省

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