ソトノバTABLE
コロナ後のアメリカでのプレイスメイキングの変化とは?|ソトノバTABLE#41レポート
新型コロナウイルスの感染収束に向かうなか、都市での生活やパブリックスペースでの過ごし方は刻一刻と変化しています。それにともなって、よりよいパブリックスペースを生み出すための「プレイスメイキング」の考え方も社会状況の変化の影響を受けています。
日本だけでなく世界の都市におけるパブリックスペースの考え方や、人々の生活はどのように変化したのでしょうか。また、国外のプレイスメイカーはこれらの変化をどのように捉えているのでしょうか。
2023年1月のソトノバTABLE♯41では、3年ぶりにアメリカから来日されたPlacemaking USの共同ディレクターでリーダーの ライアン・スモラー(Ryan Smolar)さんを迎え、自身が活動するアメリカと、日本のプレイスメイキングの変化について語ってもらいました。また、ソトノバメンバーとのクロストークとを通して、パンデミック後のプレイスメイキングを模索しました。
ソトノバからは、共同代表の泉山塁威さん(日本大学理工学部建築学科助教、Placemaking Japan)、同じく共同代表の田村康一郎さん(クオルチーフディレクター、Placemaking Japan)が逐次通訳として、さらに田邉 優里子さん(オンデザイン、Placemaking Japan)が登壇しました。
過去のライアンさん登壇の記事はこちらをご覧ください。
ライアンと議論する世界と日本のパブリックスペースヒント!TUJスピンオフ横浜 後編
プレイスメイキングの心構えとは?|ソトノバTABLE#30前編
プレイスメイキングからエリアマネジメントへ|ソトノバTABLE#30後編
CoverPhoto by sotonoba
Contents
【アメリカ】屋外ダイニングの広がりと現在
アメリカの南カリフォルニアを中心に活動しているライアンさん。都市農家などの生産者やマーケットと協力して健康的な食材の供給を進めるための市の協議会と、地元の中小企業向けの事業改善団体の運営をしています。
まずコロナを受けてアメリカで見られた大きな変化について
レストランが屋外のスペースを使って営業できるようになりました。
また、多くの都市で条例がつくられ、事業者が駐車場などの使われていない場所を利用できるようになりました。
と話してくれました。
United Streets Americaの活動で実施した屋外ダイニング 資料提供:Ryan Smolarライアンさんたちは、事業者たちが無料で支援を受けられる「United Streets America」という組織をつくり、特にマイノリティーや社会弱者の人たちのビジネスを支援しようと試みています。
なかでもカンボジア難民が多い地区では、移民の人たちがパークレットをつかってマーケットを開催し、地元の人たちが多数訪れ盛況となりました。
在米カンボジアコミュニティが開催した屋外イベント 資料提供:Ryan Smolarその他、使われていない土地を都市農地に転換するサポートや、高速道路跡地をコミュニティの場につくりかえる活動もおこないました。
高速道路を撤去し、約16haの土地をコミュニティのための場所に改良 資料提供:Ryan Smolar【アメリカ】パンデミックを経験して、議論されていること
パンデミックでの経験をふまえ、アメリカ社会ではいくつか変化がみられました。第一に、行政が事業者のパブリックスペース利用を柔軟に許可するようになったことが挙げられます。
シアトル市交通局が実施したパブリックオピニオン調査では、新しい屋外ビジネスが多くの人に受け入れられていることも分かりました。
第二に、パブリックスペースの意義が多くの人に理解されたことです。パブリックスペースが社会的、さらに心身の健康にとっても重要であるという点が注目され、多様な活動がおこなわれました。
パンデミックにみられたパブリックスペースでの活動 資料提供:Ryan Smolarしかし、一方でパンデミックの収束に伴う営業コストの急騰や労働力の不足により、飲食店事業者は屋外での営業を取りやめることも起きています。また、パンデミックの収束とともに、活動は屋内に戻っていく傾向にあります。
パンデミックを経験して現在、アメリカでは社会システムのなかの不公平、不平等に対する議論が高まっています。人種、環境、気候変動といった問題が取りざたされているなか、プレイスメイキングの分野ではよりバランスをとれた社会を目指して、質の良いパブリックスペースや公共交通、住みやすい環境への公平なアクセスについての議論が高まっています。
【日本】パブリックスペースから地域の再生に挑む
さて、パンデミック前後の日本はライアンさんにとってどのように見えているでしょうか。外から見た日本のパブリックスペースの変化について聞きました。
前回、2021年に日本を訪れたときは、地方部におけるコミュニティの高齢化や縮退、人口減少といった問題があると聞いていました。パンデミックが落ち着いた現在、そのような社会的課題にあらがうような動きが顕著になってきたと感じています。地元のよさを再発見したり、地域の活動に参加する人が増えているのではないでしょうか。
と指摘します。
ライアンさん自身が訪ねた地域を例に語ってくれました。
福岡県糸島市では地域の100人が好きな本を販売する「糸島の顔がみえる本屋さん」が開かれるなど商店街の活気が戻っていたり、大分県別府市では、立命館大学のキャンパスがある国際的な立地と安く借りることができる店舗をいかして、起業家精神のある人がクリエイティブな取り組みでコミュニティを盛り上げていたりしました。
北海道旭川市では1970年代に整備された歩行者空間を改善していくなかで、沿道のある建物をアーティストインレジデンスとして活用されている場所を訪れたそうです。
ライアンさんが訪れた旭川の歩行者空間と店舗の方々 資料提供:Ryan Smolarさらに東京都で足を運んだ世田谷では、小田急線下北沢駅の地下化に伴う周辺の改善が進められています。鉄道会社と区がパブリックスペースを生み出すために多くの投資をおこなっていることがわかりました。
賃料が上がることで小さな店舗に影響が及び、ジェントリフィケーション(都市の富裕化)が起きている可能性もあるかもしれませんが、多くの人が変化を前向きにとらえていると感じました。
【日本】もっと自転車のためのインフラが必要
ライアンさんは、そのほか、自転車の利用者の変化についても気が付きました。
福岡や大阪では、パンデミック以降、自転車の数が増えたと感じている一方、自転車のためのインフラは十分でないと指摘します。
今後はスクーターも含めた車両通行の整備やルール化が必要とされています 資料提供:Ryan Smolarこれに対して泉山さんからは
日本では多くの自転車が歩道を走っていることが問題となっています。日本は歴史的な都市の発展から道路面積が限られている点で、アメリカとは異なる工夫が必要になりますが、ウォーカブルの施策で自転車道の整備とプレイスメイキングを同時に実現することを試みています。
との解説がありました。
2023年開催!世界のプレイスメイキングイベントを紹介
ライアンさんは、日本のパブリックスペースは世界とのつながりによってもっと良い効果を発揮できるのではと語ります。プレイスメイキングに関する2023年の国際イベントを紹介してくれました。
・4月「Digital Placemaker Challenge」主催Placemaking Europe、Placemaking US
オンラインで開催する地球環境のためのアクション。今年のテーマは地域のエコロジカルな冊子の製作。
・5月「Placemaking Weekend NYC」
アメリカ、ニューヨークでジェインジェイコブスの誕生日にツアーを実施。
・6月「Village Building Convergence」
アメリカ、ポートランドにて村づくりのイベント。タクティカル・アーバニズムの著者であるマイク・ライドンさんも登場します。
・10月31日~11月5日「Placemaking Summit in Mexico City」主催Placemaking X
世界中のプレイスメイカーを招いたサミットを開催。
屋外ダイニングの成功の秘訣は「繰り返しながら深化するプロセス」
その後は泉山さん、田村さん、田邊さんによる質疑とオンライン参加者から質問に答える形でクロストークがおこなわれました。
登壇者からの質問にパンデミックのときの試行錯誤のエピソードを話してくれたライアンさん photo by sotonobaー(田邊さん) 路上を屋外ダイニングに変えるとき、車が停められなくなることに対する反発はなかったのでしょうか?
ライアンさん:
パンデミックのときは自動車の通行量が減ったため、迅速に実行に移すことができました。
カリフォルニアは気候がいいためダイニングを楽しむ人が大勢いました。ニューヨークのOpen Streets Programというプログラムでは、道路を閉鎖して歩行者の場所として活用しました。その結果、たとえばブロードウェイの路上で誰かが歌ったり、近くに住んでいる家族が集まったり食事をする姿が見られました。
ー(泉山さん) サンフランシスコの Shared Space やニューヨークの Open Restaurants は比較的短期間でつくられたもののようですが、デザインが良くクリエイティブに溢れています。どのように実現したのでしょうか?
ライアンさん:
屋外ダイニングが初めてつくられたときは、何の基準もありませんでした。成功が実証されることによって基準が整備されていって、使用する素材、障がい者のアクセス性、デザインの質、路上を占用するときの料金などが考えられていきました。私が取り組んだ地区では、フェンス、椅子、造花のツタなどを購入してデザインに一貫性を持たせるように工夫しました。はじめは数十万円程度の拠出でしたが、うまくいっていると理解した市は、1.5億円以上を費やしてより本格的な整備をするようになりました。パークレットを30台整備したり、消防の対応へ拡大していきました。
アメリカの方がスムーズに許可を取れる?
ー(オンライン参加者) 日本は道路の規制が強く警察との協議も難航することがありますが、アメリカではどうですか?
ライアンさん:
アメリカでも屋外で活動するときの許可は複雑で、多くの人がどこで何の許可を得たらよいのか知らないのが現状です。しかしパンデミックでは規則を一旦解除した結果、ローコストで素早く実験をすることができました。その後、どういったものを規制する必要があるのか考えられるようになりました。
ちなみに食事ができるパークレットの許可となると、まず公共事業部に許可を得る必要があります。その他、消防の許可、構造物や土木工事に関する許可、食事提供に関する保健所の許可、アルコール販売のためには酒類販売など、さまざまな許可が必要となります。
主体的に活動する人を増やすために必要なことは?
ー(オンライン参加者) 日本でプレイスメイキングに関するワークショップをみていると、自分が行動したいという主体的な意見は少ないように感じますが、自分のまちを自分で使う取り組みを増やすにはどのようにしたらよいのでしょうか?
ライアンさん:
会議形式ではうまくいかないと思います。アクションを起こしたい屋外の場所でポップアップ形式でやってみることをお勧めします。アイデアを持っているしかるべき人はその場所にいるけれど、なにをしたらいいか分からないでいることがあります。私は人口の7割がラテン系のコミュニティで活動していたころ、会議をしようとしても子育てや仕事で忙しく、チラシを配っても言語の違いで人を集められないことがありました。そのためメキシコのプレイスメイカーを招いてポップアップ形式のイベントを開きました。
パブリックスペースで活動することが、正しいプレイスメイキングだと思います。
日本のパブリックスペースの可能性
ー(オンライン参加者) 日本の既成市街地は道路が狭く、活用できるパブリックスペースがアメリカより狭いと感じています。ライアンさんがポテンシャルを感じる部分はありますか?
ライアンさん絶賛の下北沢駅周辺のランドスケープ 資料提供:Ryan Smolarライアンさん:
世田谷を訪れ、行政、デベロッパー、コミュニティが一緒になってうまく活動していたようすが印象に残っています。地域からのフィードバックも取り入れて、常設だけでなく一時的なパブリックスペースについてもユニークなパブリックスペースがつくられていました。ランドスケープは地元の園芸グループが担っていて非常に素晴らしかったです。デベロッパーは園芸グループがハーブティー等を提供する店舗や執務スペースもつくっていました。
ポップアップの本屋やサウナのようなアイデアは他の場所でも真似してみたいと思っています。
以上のように、パンデミック後の日本とアメリカのプレイスメイキングの特徴や日本のポテンシャルについても話してくれたライアンさん。視聴していた筆者は
日本は緩やかに変化していく国だと思うが、しっかりと意見を持った人との対話や若くエネルギーのある人の力を取り入れいくことが重要です。
という言葉が印象に残りました。
さいごにライアンさんと対面参加者で集合写真を撮影しました photo by sotonoba次回、ライアンさんは2023年末に再来日予定とのことです!そのときには日本とアメリカで新しいパブリックスペースの動きが起きているのでしょうか。ライアンさんからまた話を聞けるのが楽しみですね。