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ニューヨーク発 “Open Streets Program” はコロナ禍の都市をどう変えたのか

ニューヨーク市では、当時のマイケル・ブルームバーグ(Michael Bloomberg)市長の下、2007年に着任したジャネット・サディク=カーン(Janet Sadik-Khan)交通局長により、マンハッタンの中心街から自動車を排除し、歩行者のための公共空間を確保するという先進的な取り組みがなされてきました。その取り組みによってマンハッタンがさらに賑わいを増した結果、多くのニューヨーカーたちの支持を得て、ついに2010年にはブロードウェイにおいて車道から歩道への永続的な転用が決定されました。

そこから10年、2020年の新型コロナウイルスの蔓延は、ニューヨークを一時、ゴーストタウンへと変貌させましたが、水面下ではコロナ禍に応じた歩行者空間化の試みが進められていました。

その新しいアクションの一つがニューヨーク市交通局(NYC Department of Transportation (DOT))による “Open Streets Program” です。

2021年から着手されたこのプログラムは、文字通り道路を歩行者や商店に一時的に公共空間として開放し、様々な活動とレストランなどの地元企業を支援することを目的とした取り組みです。プログラムは、市内のさまざまな地域で実施されており、地域の商業地区の活性化や経済活動の推進への貢献が評価されています。

本記事ではニューヨーク市の Open Streets Program の概要と、その効果についてまとめています。

Cover Photo マディソンパーク付近のオープンストリート Photo by Soichiro Harada

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Open Streets Program とは

ニューヨーク市におけるオープンストリートとは、市内の特定の道路をすべての人に開かれた公共空間に変えるものです。

このプログラム設立の目的は、コロナ禍で落ち込んだ経済の促進や、学校活動の支援、文化活動やコミュニティ形成などの活動を支援することです。

運営のニューヨーク市交通局は、地域団体や教育機関、企業グループと協力し、市全域でNYC Open Streets Programを実施しています。

現在は、道路の特性に応じて、3タイプのオープンストリートが展開されています。

1. Full Closure タイプ

Full ClosureFull ClosureとFull Closure:Schoolsタイプのイメージ 出典:NYC DOT

Full Closureタイプは、5番街など観光客で賑わうストリートなどにおいて週末限定で指定されることが多く、Open Streets Program 運用中には、DOTが運営するコミュニティ・プログラムなどの様々なアクティビティやイベントで賑わいます。

原則として、Open Streets Program 運用中は、車両の乗り入れや駐車は厳禁で、緊急車両が通行できるよう15フィートの緊急車線を常に確保することが求められています。

radiocity観光名所であるラジオシティ前のオープンストリート Photo by Soichiro Harada

写真はニューヨークの観光名所の一つであるラジオシティに面したW 50th Street の道路です。撮影時期がクリスマスシーズンだったため、たくさんの観光客でにぎわっていました。その他のFull Closure タイプのオープンストリートについてはほとんど開放されていなかったため、また時期を改めてレポートできればと思います。

2. Full Closure: Schools タイプ

Full closure タイプの中でも学校に近接したストリートに対して適応されるオープンストリートです。チャータースクールの送迎や、休憩、屋外学習の支援を目的としています。

基本的な運用はFull Clusure タイプと同じですが、道路の閉鎖時間がFull Clusure タイプとは異なり、平日の主に就学時間内(午前8時から午後3時)に限定される傾向があります。

school open streetオープンストリート実施時の道路(The Peck Slip School付近の道路)Photo by Soichiro Harada

写真はロウアーマンハッタンにあるThe Peck Slip School という小学校の前の道路です。

平日の登下校時に、子供たちが道路に広がって歩いても危なくないような配慮の一環でオープンストリートが申請されています。

撮影時には下校中の児童と保護者で道路は賑わっていて、道路に面したアートスクールやカフェにたくさんの人があふれていました。

3. Limited Local Access タイプ

Limited LocalLimited Local Accessタイプのイメージ 出典:NYC DOT

歩行者や自転車利用に配慮した道路を対象に指定されるオープンストリートです。

Open Streets Program 運用時間外であれば、時速5マイル以下であれば車両は通行可能です。Open Streets Program 運用中は原則車両の通行は禁止されていますが、以下の場合は通行が許されています。

– 駐車に向かう車両(各規定あり)
– ピックアップ/ドロップオフ
– 配送
– 緊急車両
– 公共事業用車両
– シティサービス車

Open Streets Program の経済効果

※本項はニューヨーク市交通局によるレポートを参考に執筆しています。

openstreetOpen Streets Program実施時のGreenwich Villageの飲食店街 Photo by Soichiro Harada

Open Streets Program 実施前

ニューヨーク市交通局が実施した調査によると、NYC Open Streets Program実施前のニューヨークでは市内のレストラン・バー業界は莫大な経済的損失を被りました。パンデミックの最初の3カ月で市全体の売上は50%以上減少しました(マンハッタンでは70%以上)。

Open Streets Program 実施後

Open Streets Program を採用した街路は、パンデミック前の基準値より平均19%も売上が高いのに対し、そうではない街路は29%も売り上げが減少し、その差は50%近くにもなります。

市は以下の5つのオープンストリートを対象に、パンデミック禍とそれ以前の期間においてバーやレストランの売上を比較しました。結果的にオープンストリートにおける飲食ビジネスは、同じ地域の他のストリートよりも経済成長が大きいことを明らかにしました。

Streets for Recovery: The Economic Benefits of the NYC Open Streets ProgramAstoria:パンデミック前比で44%の売上増加 出典:NYC DOT Streets for Recovery: The Economic Benefits of the NYC Open Streets ProgramPark slope:パンデミック前比で26%の売上増加 出典:NYC DOT Streets for Recovery: The Economic Benefits of the NYC Open Streets ProgramProspect Heights:パンデミック前比で20%の売上増加 出典:NYC DOT Streets for Recovery: The Economic Benefits of the NYC Open Streets ProgramKoreatown:パンデミック前比で15%の売上増加 出典:NYC DOT Streets for Recovery: The Economic Benefits of the NYC Open Streets ProgramChinaown:パンデミック前比で売上は減少しているものの、同地区と非オープンストリートにおける売上減少率は22%、31%であったのに対し、オープンストリート実施道路の減少率は8% 出典:NYC DOT

上記のデータが示すように、Open Streets Program は、地元企業の経済的な回復や促進に大きく貢献していることがわかります。

まとめ

Open Streets Programによる経済効果は大きく、この効果を受けてニューヨーク市長も5番街(Bryant Park から Central Park に至る街路)の全面歩行者天国化についてアクションを起こすことを2022年の年末に発表(New New York: Making New York Work for Everyone)しました。ニューヨーク市の歩行者空間化に関する更なる取り組みは、今後、日本が感染症対策と都市経済の両輪を駆動するための大きなヒントになるかもしれません。

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