レポート

Reports

レポート

ライアンと議論する世界と日本のパブリックスペースヒント!TUJスピンオフ横浜 後編

1月23日に横浜市と共催で開催した「横浜と世界のパブリックスペース活用Tactical Urbanism Japanスピンオフ」。後編ではアメリカ在住でLong Beach Fresh共同代表・ダウンタウン・サンタアナBIDのプレイスメイカーであるライアン・スモラーさんの発表と、発表者とコーディネーター・西田司さんのオープントークの内容をご報告します。オープントークでは日本の都市部における公共空間、そして海外と日本の関わりについても幅広い議論がされました。


(前編・中編はこちら)

アメリカから学ぶプレイスメイキングの極意

最後のスピーカーはLong Beach Fresh共同代表でPlacemaking USのネットワークリーダー、アメリカから来日されたライアン・スモラーさん。ライアンさんはアメリカでの活動や、日本のプレイスメイキングのためになるヒントについてお話されました。

20200123-194234ライアンさん(写真左)の話はソトノバ、Place Capital Lab.の田村さん(写真右)の逐次通訳で進められました。

始めにライアンさんが切り出したのは、プレイスメイキングのよくある誤解。Placemakingはきれいな、見映えがいい場所をつくると勘違いされがちですが、本来は人々の社会的な関係を良好にする機能的な意味があります。例えば、ライアンさんが東京で見かけたこの写真。きれいにしようと思って花壇を置いたと思われますが、見方を変えると人が座れる場所を奪っており、社会的機能については疑問が残ると言います。

これはプレイスメイキング(Placemaking)ではなく、プレイスブレイキング(Place-breaking)だ!という的確な発言に会場がどよめきました。

後半-5プレイスメイキング(Placemaking)ではなく、プレイスブレイキング(Placebreaking) (Photo by Ryan Smolar)

アメリカでのプレイスメイキングの実践

次にライアンさんが話したのはプレイスメイキングの経済的な効果についてです。

古典的な例として挙げられたのは、アメリカ、ニューヨークのブライアントパーク。かつてはギャングの巣窟であり、市はその問題を解決しようと試行錯誤していましたが、本来の便益は誰にあるかと考え、公民連携の仕組みづくりに注力しました。ブライアントパークは複数の高層ビルに囲まれているという立地から、市は周辺の建物の所有者から税金を集めて公園を運営し、その収益で公園を運営するようになりました。周辺の価値上昇に伴いビルの空室も減少するという効果も起こったようです。

さらに公園ではスケートリンク、ニューヨークファッションウィーク、映画上映など、様々な活動にスポンサーを付けて運営しています。他にも、市は公園を区画ごとに事業者に貸し出して、コーヒースタンドやレストランなどが設置されています。公園を訪れる人の多様なニーズを満たす一方、経済的なリターンも得ることに成功している事例です。

(ブライアントパークはソトノバでもいくつかの記事で紹介しています。)

20200123-194631ブライアントパークのプレイスメイキングについて話すライアンさん

また、プレイスメイキングのムーブメントづくりには新しい方法もあります。

例えば、ツールテストという、プレイスメイキングの手法を複数の都市で同時多発的に実験するものです。最近の例では、アメリカとヨーロッパの複数の都市では、照明をテーマに2週間にわたって各都市で屋外照明を設置するツールテストデーを同時に実施しました。そのなかで、ユーゴスラビアのプレイスメイカーがフェンスにイルミネーションを施しました。

これを見てきれいだなとか、汚いなとか、人によって感じることは違うでしょうが、重要なのはこの取り組みが地域の人たちの会話を生むきっかけになる点

だとライアンさんは話しました。人々がフィードバックを出し合うことで、行政と市民が次回もやるべきか、やるべきではないか、といった話をする機会に繋がります。なお、ツールテストは2020年4月に「Placemake Earth Challenge」として開催されることがアナウンスされました。どのような場所、団体でも参加可能なので、ぜひ日本でもプレイスメイキングの実験にチャレンジしてほしいということです!

20200123-195337世界のプレイスメイキングの対話に、日本の皆さんにも参加してほしい!とコメントするライアンさん

プレイスメイキングの主人公は地域の人々

プレイスメイキングは経済的な効果だけじゃなく、健康増進にもつながる

と話をつづけたライアンさん。ライアンさんは生鮮食品が簡単に手に入らないカリフォルニアのある地域で、図書館の敷地に野菜やハーブなどを植えたプランターを置く活動をしています。地域の人たちは植物を育てたり、図書館から料理本を持ってきて、育てた植物をどのように調理しようと話したり、このエディブル・ガーデンで過ごす時間を楽しんでいます。

また、プレイスメイキングを進めるなかでは、地域の人たちが参加しやすい方法を提供する必要があります。例えば、アメリカの都市計画家ジェームズ・ロハスのプロジェクトでは、運河で隔てられている両岸の地域の活性化案を、地域の人々とおもちゃを使った小さな模型を並べて考えます。よりハイテクな方法としては、マインクラフトというゲームを使ってバーチャル空間でまちづくりを考える方法もあります。これについては国連が世界各地にトレーナーを派遣しており、将来的に地域レベルでの実践につなげることも可能です。

最後にライアンさんからは、

「世界のプレイスメイキングの関係者に対して、日本の皆さんの取り組みは素晴らしいことだといえます。世界のプレイスメイキンググループに参加して、その機会を利用してお互いに協力しながらプレイスメイキングのつながりを深めていきましょう!」

という熱いメッセージで締めくくられました。

20200123-195614おもちゃを使った小さな模型を使って地域の人たちとプレイスメイキングプロセスを進める方法を話すライアンさん

オープントークで深める日本のパブリックスペース活用のヒント

イベントの最後は、コーディネーター・西田司さん(オンデザイン)の司会進行のもと、横浜と世界のパブリックスペース活用についてのオープントーク。

まずは、横浜市が作成した公共空間活用の手引きと共創フロントの仕組みについて。ライアンさんも

「手引きを活用して地域のポテンシャルを高めることができ、共創デスクはワンストップサービスとして市民の活動をナビゲートしてくれる」

と絶賛していました。

20200123-201111公共空間活用の手引きについてコメントをするライアンさん

これに対して横浜市、森脇美也子さんは、

「専門家にとっては当たり前のことでも実践したい地域の人々にとってはそうでないこともある。横浜市がPRしている取り組みもより理解してもらえるようつくった」

と発言されました。

20200123-201014公共空間活用の手引きを紹介した横浜市・森脇美也子さん

パブリックスペースマネジメントの担い手を育む

次に、西田さんは横浜国立大学・野原卓さんに対して、プレゼンで取り上げていた横浜の5つのタイプのパブリックスペースマネジメントに関連して、もっと改良したほうがいいと考える取り組みはあるか、と質問されました。野原さんからは

「魅力的な場所はたくさんあるが、その魅力をどのように伝えるかを考え、その場所を活用する担い手を育んでいく必要がある。担い手も関わり方には段階があるため、重層的でありながら、幅広くカバーできるようになるといい。さらに、日本は沿道の活動を重視しており近隣商店の人と協力することが多いが、視野を広げてみると、遠くからでも頻繁にその場所に通っている愛着の強い人などもいて、幅広い関わり方を視野に入れることも大切。」

と発言されました。

20200123-201543コメントをする野原卓さん

続いて、参加者からは具体的なプレイスメイキングの手法として、泉山塁威さんが紹介されたプレイスゲームの対象者について質問がありました。泉山さんからは

「日本では空間づくりの場合主体者が行政や地権者であり、開発ありきになってしまっているが、行政や地権者は利用者とは限らない。さらに利用者は野原さんが言うような、遠くからでも頻繁に通っているような人も含む可能性があるので、「プレイスホルダー」というような場所に当事者意識を持つ人たちの関係やコミュニティ(プレイス・キャピタル:Place Capital)という意味合いで、これまで「ステークホルダー」と括ってきた人たちの捉え方を再考する必要がある」

と説明されました。

日本と世界のパブリックスペース認識のちがい

また、参加者からは泉山さんに対して日本と世界のパブリックスペースの認識のちがいについて質問がありました。これについては

「日本では人口減少と財源不足が主な要因のため、Park-PFIなどの公園の民活の事業がアメリカより多いのではないかという印象がある。民間に手放す流れは日本が世界より先行してるかもしれない。また、日本のパブリックスペース活用やプレイスメイキングでは、賑わいのために実施されることも少なくないが、海外はLivable City(住みやすい都市)、QOL(Quality of Life:生活の質)向上のためにやっているという話をよく聞く。これは移民の受入れなどの状況の違いにも影響しているでしょう。」

と補足されました。これに対してライアンさんは、カリフォルニアのBIDのディレクターを務めていることもあり、

「アメリカ特有の背景は車社会という非持続的な動きに対する反発という側面がある。都心の空洞化した空間を埋めるように、都市部の人の活動を取り戻そうとしている。しかし、一方で、都市部に残っている居住者やビジネスオーナーのなかには、地価上昇によって賃料が上がり、滞在できなくなってしまうこともある。そのためプレイスメイキングに距離を感じている人もいるのは問題視している。」

と話していました。さらにライアンさんはプレイスメイキングのステークホルダーは誰か、という議論に対して

「誰でもアクセスできるプラットフォームやオープンソースを提供することが重要で、そこから派生してプレイスメイカーが活躍できる」

と補足されました。

20200123-202635コメントする泉山塁威さんとパネルディスカッションの様子

すると、これらの意見を踏まえて、西田さんからは横浜市に対して

「オープンソースの提供については、それを利用して誰かが儲かる場合、どうでしょうか。日本のパブリックスペースでは稼ぐのはよくないという風潮がありますが。」

と質問されました。森脇さんは

「単発のイベントで盛り上がるより、複数回のイベントで継続的に稼いで地域に還元してもらわないと持続性がないと感じるので、長期的に見て価値のあるものを提供してもらうことを重視している。」

とコメントされました。

URが動き出した理由

また、西田さんからはURの中山さんに対して

「URとして、今、プレイスメイキングに取り組む理由はなにか」

と意見を求められました。中山さんは

「これまで行われてきた再開発のなかには、地方でとん挫しているプロジェクトや、容積率の高い建物を建てても収益にならない事例も出ている。一方で空きビルをリノベーションしながら味のある雰囲気を活かして成功している例もあり、その秘密を知りたくてプレイスメイキングの勉強を始めた。現在URが底地を購入して家守会社が建物をリノベーションしてホテルを運営するというプロジェクトを試みている。さらには、あくまで私の妄想だが、そこに広場をつくって、周辺の事業者に稼いでもらうと同時に、利用者の愛着が生まれて、その地域の心の拠り所になるような場所にもなるといった構想を思い描いている。」

という想いを語られました。

民間企業の注目度合いは?

参加者はタクティカル・アーバニズムの動きに民間企業のサポートがあることについて。これに対して泉山さんからは

「日本はちょうど都市政策、プロジェクト、アーバニズムの過渡期にあたり、多くの人が新しい手法を模索している。すでに国などの規制緩和は大きな変革をもたらしたが、どう使いこなしていくかという具体的で実践的な方法はあまり共有されてこなかった。このような背景が民間企業の参画を促していると思う。」

とコメントしました。

アメリカにプレイスメイカーは何人いる?

会場からの質問を質問アプリで見てみると、

「アメリカには何人プレイスメイカーがいる?」

といった質問もありました。ライアンさんは

「PPS(Project for Public Spaces)はリーダー育成の協議会(Placemaking Leadership Council)を組織していて、米国内に1000人以上は参加者がいる。分野は幅広く、ソーシャルワーカーの実践者、社会から切り離されている人々を手助けする人、行政と市民をつなぐような取り組みの実践者など様々。彼らの活動機会が一般的に認められているのは、図書館のエディブル・ガーデンのような活動が医療費削減に繋がるというように、お金を稼ぐというよりは、支出の削減に効果があると認知されているためである。」

と教えてくれました。

登壇者からのメッセージ

オープントークの最後に、登壇者それぞれの今後のパブリックスペース活用の可能性を教えてもらいました。

20200123-204347パブリックスペースの展望を語る登壇者の皆さん

ライアンさん

「日本はプレイスメイキングのアジアでのリーダーシップを取っていく可能性がある。たくさんの知識層が活動している人もいることが知れたので、もっと国外の人とも議論を深めていくことを期待している」

中山さん

「偏った考えに陥らないために、今回の対話は非常にいい機会だった。椅子ひとつでプレイスメイキングという話に目を見開かされたように、自分もオフィスにいるだけでは頭が固くなってしまうので、外にでて実践に関わることが必要と感じている。」

野原さん

「パブリックスペースの利活用を地域レベルで広げるためには、より多くの人がQuality of Life(生活の質)の意義について認知し、持続的な社会の実現に気づかなければならないと思う。活動することで、自分たちの生活がどのように変わるか、という気付きを広げていく必要がある。」

森脇さん

「もし来場者の方から横浜市のパブリックスペースの活用アイデアがあれば、提供していただきたい。外部の人の意見をもらうことで、地域にとっても新しい発見があると思う。」

泉山さん

「今回のイベントは行政とソトノバが開催する初めての試みだったことはソトノバとしても大きかった。行政が自分のまちの政策を考えるのは非常に重要だと思うので、横浜市の手引きの紹介もしてもらえてよかった。また、昨年はTUJ(Tactical Urbanism Japan)をソトノバで企画したが、Placemaking Weekなど今後も国内はもちろん、日本と世界をつなぐムーブメント活動続け、できるだけ海外の人も巻き込んでいきたい。」

20200123-211831-2PlacemakingXになぞらえて、X(エックス)ポーズをするオープントークの登壇者の皆さん(左から、泉山さん、ライアンさん、森脇さん、野原さん、中山さん、西田さん、田村さん)

いかがでしたでしょうか。後編はライアンさんのプレゼンテーション、そして熱いオープントークでした。

イベント当日は参加者からたくさんの質問もあり、盛りだくさんの内容で締めくくられました。話を聞いていた私自身も、横浜市という地域レベル、日本国内の制度や近年のトレンド、そしてアメリカとの比較といった幅広い話を聞くことができ、パブリックスペース活用の最近の動向について理解が深まりました。

今回のイベントでは登壇者の話から、具体的な実践方法や考え方、さらには実践者の人材交流のネットワークなどの紹介がありました。

私自身は実践者としてのフィールドを持っていませんが、登壇者の話を聞きながら改めて実践することのおもしろさ、やりがいを知ることができ、自分は今後どのように関わっていけるだろうと気分が高まりました。このレポートの内容が、すでに実践している方の新しいアイデアにつながったり、パブリックスペースの活用に興味のある方、何か実践の一歩を踏み出してみたい方の参考になれば嬉しいです!

Photo by Takahisa Yamashita

Twitter

Facebook

note

3+