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全長1.2kmの空中公園! コペンハーゲン「アーバンリビング計画」の全貌(前編)

デンマークの首都コペンハーゲンは公共性にあふれ、いきいきと市民によって活用されている魅力的な都市のひとつです。

今回は、京都工芸繊維大学大学院修士2回生の由利光が、デンマーク滞在中にフィールドワークした体験も踏まえながら、マクロスケールでコペンハーゲンの都市空間がどのようにデザインされているのかをお伝えします。

ケーススタディとして扱うのは、今デンマークで最も注目を集めている都市開発の1つ「ウェスト・カルベボッド・ブリュッゲ(以下、WKB)」です。この計画の目玉は、なんと言っても複数多用途の建物の屋根をつないでつくられる、全長約1.2kmに及ぶ都市公園!

沿岸部をはじめ急速かつ大規模な開発が進むコペンハーゲンの中でも、特に大胆でユーモアにあふれる開発計画の全貌に迫ります。

市民運動で魅力的な都市空間を実現

WKBを解説する前に、なぜこのような大規模な公共空間の開発が推奨されるようになったのか、その背景を覗いてみたいと思います。

コペンハーゲンの公共空間に劇的な変化を加えた出来事は、大きく2つあります。そのうちの1つが、以前の記事「オープンカフェ天国! コペンハーゲンの街路空間のにぎわいの秘密を読み解く」で紹介している、1962年の「ストロイエ」での社会実験です。

ストロイエ

人々が行き来する現在のストロイエ Photo by JaDAS

もう1つが、「イスランズ・ブリュッゲ」というWKBの対岸部で起きた市民運動です。約30年ほど前まで、コペンハーゲンの沿岸部は工業地帯であり、深刻な環境汚染があったといいます。そんな沿岸部に住む市民が、環境を改善すべく立ち上がりました。一般市民も専門家も関係なく、力を合わせて市民運動を起こしたことにより工場は撤退を決め、跡地には人々の憩いの場がつくられました。

これにより、人々が暮らし続けたいと思える公共空間が沿岸部に生まれ、地価も上がりました。これ以降、人々のための公共空間をデザインすることが、都市開発の基本的な方針となったのです。かつての環境汚染の地から、2013年には「ヨーロッパで最も散歩にぴったりな都市」と称されるほどになりました。

イスランズブリュッゲ

再開発で生まれ変わったイスランズ・ブリュッゲ Photo by JaDAS

都市像を具体化するデンマークの地区計画

2004

WKBの地区計画の範囲を示す航空写真。2004年撮影 Photo by Lokalplan 403 “Rigsarkivet”

過去50年の間にコペンハーゲンが果たした劇的な変化。それを可能にしている都市計画とは、一体どんなものなのでしょうか。

デンマークの都市は主に、「国土計画」「市計画」「地区計画」の3つのスケールで計画されています。都市計画の概要を国土計画が整え、それを基礎自治体が市計画と地区計画を使って物理空間に落とし込みます。市計画の上位層に地域計画というものも存在します。地域計画は、広域自治体の戦略的開発のために作成されます。

用途地域や容積率を定めている市計画は12年計画となっており、4年毎に内容の見直しがなされます。地区計画は、市計画が定めた範囲内で、具体的な絵を描きます。地区計画の適用範囲は幅広く、複数の街区をまとめて計画することもあれば、建物の敷地1つを対象として計画することもあります。

地区計画は、開発の予定がある場合のみ、その開発に向けて作成されます。そのため、開発予定がない地区は地区計画も存在しません。一度計画された場所も、新たな地区計画を作成することで計画を更新することができます。

全長1.2kmの都市公園! 壮大な計画の原点

初期提案

ローカルプランの全体像を示す模型 Photo by Lokalplan 403 “Rigsarkivet”

WKBは、これまで数回にわたって地区計画が更新されながら開発が進められてきた地区です。近年の地区計画と開発の経緯を見てみましょう。

WKBが位置するエリア一帯は、コペンハーゲンの都市計画の失敗作と呼ばれて来た場所です。その主な理由が、居住区域のそばに大きな道路開発をしたことによる居住区域への騒音被害や、銀行などの高層ビルが開発され始めたことにより日射が遮られたことなど。また、コペンハーゲン市の中で最も緑地の少ない地域としても知られていました。これらの問題を解決すべく2003年、公有地であるこの地を再開発し、商業施設や国立公文書館など建設することが国会で決議されました。

当時土地を所有していたDSB(デンマーク国鉄)は、11ヘクタールに及ぶ地区の開発の方向性を決めるために、文化省、地所庁とともに4つの建築事務所を招待したコンペを実施。建築設計事務所Lundgaard&Tranberg Architects(ルンゴード・トランベア・アーキテクツ)がランドスケープ設計事務所SLAと共同で計画した案を選定しました。

「地区計画403番・国立公文書館計画」と名付けられたこの計画の1番の特徴は、建物の影に隠れないように持ち上げられた屋上庭園が、縦長の計画地全体を貫いている点。コペンハーゲン市内で最も緑の少ない地域と言われてきた場所が、緑で覆い尽くされることとなったのです。全長1.2kmに及ぶ都市公園という壮大な計画は、すべてこの瞬間から始まったのです。

WKB_MAP

WKBエリアの航空写真。左側が開発前の1954年、右が開発途中の2018年 コペンハーゲンマップとGoogleマップを基に筆者が作成

前編では、デンマークの地区計画と、その一事例であるWKBの原点について紹介しました。後編では、地区計画が今日まで更新される中で段階的につくられてきた都市空間を細かく見ていきます。最後に、今まさに建設段階に入っているアーバンIKEAの全貌を明らかにしたいと思います。

Cover image by Lokalplan 551 “Kalvebod Brygge Vest II”

テキスト・写真・画像:由利 光 (京都工芸繊維大学大学院)
サポート:矢野 拓洋

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