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リバー・ウォーターフロント|水辺

レポート

東京で水辺通勤はできるか? 東京の川の普段使いの可能性を探る

ソトノバ読者の皆さんは、通勤中に電車から川を見て、「あの水上を移動できたら気持ちよく通勤できるのになぁ」と一度は思ったことがあると思います。私はいつも思っています。

そこで今回、「そんなことって実際にできるの?!」という皆さんの疑問を解消すべく、東京の川で筆者自ら実験を試みました。その様子をレポートします!

※本記事の内容は、ある程度の経験を持つ筆者が細心の注意を払い、東京の川の課題を探るために実施したものです。参考にしていただくことは問題ありませんが、自己責任にてお願いいたします。

市民の生活から切り離された公共空間「河川」

その昔、東京はイタリア・ベネチアにも劣らぬ複雑な水運システムを持っていました。河川や水路、運河は、都市インフラや身近な公共空間としてまちなかに縦横に張り巡らされ、水運や船遊びなどの場として大いに利用されていました。

しかし現在、東京の多くの川は運搬業者や水上バスなどごく一部の人たちしか利用しておらず、市民が気軽に個人的に利用するような存在にはなっていません。

そこで今回、「東京の川を再び身近な公共空間にしたい!」との思いから、市民が通勤や通学、買い物での移動手段として川を普段使いできるのか実際に体験し確認してきました!

柳しま(左)と吾嬬の森連理の梓(右)。ともに歌川広重「名所江戸百景」より。今回の実験場所付近を描写している。

柳しま(左)と吾嬬の森連理の梓(右)。ともに歌川広重「名所江戸百景」より。今回の実験場所付近を描写している。

実はこんなに自由!河川利用のルール!

まず、河川を利用するにあたって気になるのが法律やルール。

「そもそも河川って個人が自由に何をしてもいい場所なの?」と疑問に感じている方も多いかと思います。しかし実は、河川は一般的に「自由使用の原則」があり、河川敷での散歩や釣り、水遊びなど、河川管理者の許可・届出が不要な範囲であれば自由に利用することができるようになっているのです!

ただし、河川での通航については、安全確保や環境保全の観点から、河川法に基づいて河川管理者が他にルールを定めていることも。そのルールの内容は地域によって異なりますが、基本的には船舶の通航方法や様々な制限・禁止区域が設定されています。

その中で、今回使用するスタンドアップパドル(通称SUP)という乗り物は、船舶の一種の非動力船として扱われます。なので、船舶の通航方法を守り、船舶の進入が認められている区域内であれば自由に乗ることができるのです!

ちなみに、非動力船は水上において非常に弱い存在であるため、皆さんがイメージするような動力船並みの制限はほとんどありません。ただし、だからといってめちゃくちゃな乗り方は事故につながります!各自しっかりと安全確保を行い、ローカルの慣習もあわせて守るようにしましょう。

河川に向かって設置されている標識。しっかり守れば誰でも河川を通航できます!

河川に向かって設置されている標識。しっかり守れば誰でも河川を通航できます!

水辺通勤の条件とは?それをクリアするためのツールとは?

では、実際に河川を日常的な移動の場にするにはどうすれば良いのでしょうか?筆者はその最低条件を「陸上→水上→陸上の移動中、常に全ての所持品を持った状態でいること」としました。

なぜなら、陸上に所持品を置いていってしまうと出発地点に引き返さないといけなくなり、移動手段として成立しないから。しかし、水辺のツールは重く大きいものばかりなので、この条件をクリアするのは実は意外と難しいのです。

そこで今回の実験では、空気で膨らませるタイプのインフレータブル式SUPと全ての所持品が入るリュックを用意しました。

慣れてしまえばSUPはどこにでも背負って持っていけます。重さに慣れてしまえば。

慣れてしまえばSUPはどこにでも背負って持っていけます。重さに慣れてしまえば。

いざ東京スカイツリーのふもとから出挺!

10月某日。すでにちょっと水温が低い秋の昼間に墨田区・江東区の内部河川で実験を試みました。目指すはとうきょうスカイツリー駅から東大島駅へ!江戸時代初期に開削された北十間川と旧中川を通る約5キロ、90分程度のルートです。ちなみに地下鉄では約5.5キロ、15分、280円で行けます。

赤い線が実験で通ったルート、グレーの線が地下鉄を使った場合のルート。

赤い線が実験で通ったルート、グレーの線が地下鉄を使った場合のルート。

全ての所持品をリュックに詰めて電車に乗り、とうきょうスカイツリー駅にて下車。出発地点近くでSUPを膨らまします。そして全ての所持品を背負って、いざ北十間川から出挺!
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早速出会ったのは水上タクシー。2016年8月から運行を始めた東京ウォータータクシーです。川幅が狭いのでここは護岸に座って通り過ぎるのを待ちます。

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その後、ひたすらフラットな水面を進んでいきます。何もいないように見えますが、実は東京に生息しているとは思えないほどの大きなボラがジャンプするので気は抜けません。

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まだ河川敷が整備されていない野生あふれるエリアを抜けていきます。かわいらしい東武亀戸線が走っているのもこの辺り。高架をくぐって旧中川に向かいます。

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船舶は入ってはいけない自然保全区域に注意しながら、野鳥と散歩中のおじさん達に不審に見られつつ下流へ。この辺りはのどかで本当に素敵な水辺になっています。

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ちょっと汗ばんだぐらいで東大島駅付近で上陸、SUPをパパッと折り畳み、そこから歩いて駅へ。無事に駅から駅へ地下鉄ではなく河川を通って移動することができました!

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実際にやってわかった水辺通勤を実現するにあたっての課題とは?

筆者の技術的な未熟さと貧弱な装備という個人的な課題はさておき、実際にやってみてわかった水辺通勤の課題をあげるとするならば、それはずばり、出廷・接岸・上陸できる川岸が圧倒的に不足していること。

近年整備された川岸にはほとんど護岸と転落防止柵がついていて、気軽に川岸に近づくことができませんでした。

ここまで転落防止柵が連続していると心理的にも近づきがたくなる水面。

ここまで転落防止柵が連続していると心理的にも近づきがたくなる水面。

また、SUPに乗ると絶対に生じるのが足元が濡れること。年々川の水質は良くなっていますが、意外とまだまだ臭いはあるので、上陸後に公共交通(将来的には勤務先!)に入ることを考えると、その場で足元を自由に洗える場所が必要になるでしょう。

この2点がどうにか改善されれば、水辺通勤は市民にとって当たり前の選択肢の一つになるかもしれません。

ロマンティック?水辺通勤することの意味と可能性!

皆さんはこの記事を読んで「水辺通勤できそう!やってみたい!」ともちろん思われたと思いますが、改めて水辺通勤の意味や可能性について考えてみましょう。

今回のルートの場合、SUPだと90分、地下鉄だと15分で移動することができ、SUPは地下鉄と比べて圧倒的に遅く疲れる乗り物でした。

でも、そこから見える風景は全く違います。

効率的に暗闇の中を移動する地下鉄に対して、SUPの場合、地域固有の水辺環境を親しみながら川との一体感を味わえるという、ロマンティックな移動ができるのです!

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もう少し深掘りしてみましょう。

昨今、「豊かで丁寧な暮らし」という考え方が流行っています。ソトいうことは、通勤や移動という行為においても同様の考え方をすることができるのであれば、水辺通勤もあながち笑い話とはいえないのではないでしょうか。

以上、ちょっと水辺に対して前のめりな結論になりましたが、実際そんなことを考えてみると、東京の川や水辺は実は大いなるポテンシャルを秘めていて、まさにこれからの時代に求められている場所だと言えるかもしれません。

All photos by Tsubasa Endo

【参考HP】

国土交通省関東地方整備局河川の占用
東京都建設局江東内部河川における船舶の通航方法

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