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ウィズコロナ支援!学生×地場木工屋考案まちの「ヤタイ」計画(愛知県豊橋市)

コロナ禍のまちなかにおいて、テイクアウトやテラス営業のためのストリートファニチャー利用という新たな取り組みの模索が進んでいます。そのハード面を支える家具の1つとして、愛知県豊橋市の老津木工有限会社(愛知県豊橋市・代表取締役:松井誠さん)と豊橋技術科学大学建築サークルTYACCの学生のコラボレーションで、費用を抑えつつ、組み立てが容易な「ヤタイ」を設計し、設置、実証実験を行っています。

これまでソトノバでは、同様の屋台による取り組みについて幾つか紹介してきました。

仙台のオープンスペースに屋台が復活!?屋台じゃなく「ヤタイ」??

なぜパブリックスペースでDIY屋台を使うのか?まちを自分ゴト化する手法を考える

上記のような先行記事もある中で、本稿では同社代表の想いを中心に、どのような経緯でこの取り組みを行っているのかを紹介し、ウィズコロナ・アフターコロナの屋外空間における場づくりのヒントになればと思います。


1.「ヤタイ」計画のバックボーン

 老津木工と建築サークルにはそれぞれ培ってきた経験があり、その出会いは豊橋市の施設デジタルファブリケーションの施設「メーカーズラボ」でした。

〇モノづくりへの機運の高まり

豊橋市にメーカーズラボというデジタルファブリケーションの施設が設置されたのは2016年。老津木工の松井さんと豊橋技術科学大学の出会いはそこから始まりました。老津木工は豊橋市に根差した地場の木工屋として、職人の技術と素材を生かしたオリジナルの建具や家具を生み出し続けています。松井さんが仕事をする上で大切にしているのが、自分が面白いと思ったものや得意な技術を皆に伝えたい、知ってもらいたいという思いだそうです。

今回の「ヤタイ」計画も、豊橋市がデジタルファブリケーション施設を設置したモノづくりへの機運の高まりに乗じて、職人の技術とともにまちを盛り上げたいという背景の上に、コロナ禍の飲食店業界をサポートしたいという外的要因が付随した形となっています。

老津木工公式インスタグラムより

一方、建築サークルの「ストリートファニチャーグループ」では、これまでに豊橋まちなか会議とのつながりから屋外空間利用の経験値を溜めてきたというバックボーンがありました。豊橋まちなか会議は、

豊橋駅前周辺エリアをエリアマネジメントの先進的な実験場として捉えてもらい、全国全世界から多くの才能を呼び込みたい。彼らと一緒にまちの主体者としてトライ&エラーを繰り返す中で、エリアの将来像を構想・実現するとともに、日本のこれからの都市の在り方、価値の高め方を示していきたい

という設立趣旨を掲げており、駅周辺のエリアマネジメントの観点から、豊橋駅前大通地区に関係する主要な企業、団体、行政が参画し、豊橋のまちづくり活動を行っています。

nishimura52018/10/14 豊橋まちなかピクニック@豊橋駅

2.「ヤタイ」の活用にむけて

〇道路空間活用に向けたコロナの潮流

このような状況の中、2020年3月頃からの新型コロナウイルス感染症流行に伴い、ソーシャルディスタンスなどの新しい生活様式が提唱され、都市空間は大きな変化を迎えています。特に飲食店業界は大きな打撃を受けましたが、国土交通省では飲食店救済の観点から、飲食店等を支援する緊急措置として、新型コロナウイルス感染症の影響に対応するための沿道飲食店等の路上利用の占用許可基準を緩和する政策が発表されました。

速報考察:コロナ対応で飲食店の路上客席が可能に!国が動く道路占用許可基準を緊急緩和

「コロナという背景に合わせたコロナ道路占用特例の方向性」×「職人の伝統技法」×「学生の持つデジファブスキルや屋外空間利用のノウハウ」=「地元の飲食店のサポートとなる「ヤタイ」の製作」

と、明確なビジョンを持ち、マイナスをゼロへ、ゼロからプラスへをサポートするために試作品を無料レンタルする形で実証実験を行いました。

〇マイナスをゼロへ

「コロナ禍のテイクアウト事業は生活のため」という飲食店は多いと思います。まさにマイナスをゼロに近づけることが目下課題となりますが、多くの飲食店に資金を捻出する余裕がない状況で、できるだけ価格を下げ、組み立てや設置も簡単にできるこの「ヤタイ」には大きな魅力があると思います。

厳しい状況下で、ピンチを救うツールの一つとして、

「少しでも、店舗前の屋外空間を賑やかに、お洒落になれば収益が少しでも増えるかもしれない」

という松井さんの地元への強い想いの下、培ってきた伝統技法×学生のデジタルファブリケーション技術をつかったヤタイの制作とその路上利用というビジョンが固まり、製作と実証を進めていく段階となりました。

ヤタイ組み立ての様子。持ち運びやすさと展開時の迫力は必見です。

〇まずやってみた「試作品の無料レンタル」

2020年11月、豊橋市中心部にほど近い、水上ビルと呼ばれる歴史ある板状建築物が並ぶ大豊商店街で設置実験を行いました。現在の「ヤタイ」は試作段階であるものの、形としてある程度完成しているため、実際に地域の方に無料レンタルで使ってもらい、その感想をフィードバックしてもらうという形式で実施しました。この様子はテレビプレスリリースを通じて報じられています。

nishimura22020/11/01ヤタイと豊橋学生フリーペーパーPLENDを並べた様子@大豊商店街

〇ゼロからプラスへ・アフターコロナの未来にむかう「ヤタイ」のビジョン

「コロナ禍のマイナスからゼロに持っていくためのツールとしてではなく、今後はよりポジティブな、ゼロからプラスへと、この家具に関わる皆が笑顔になれるような空間を演出するツールになって欲しい。」

と松井さんはいいます。

新型コロナウイルス感染症の流行から約1年、その初期から実作、設置、フィードバックといった一連のプロセスを進める中で、プロモーションを継続してきた結果、この「ヤタイ」について個人単位の活用だけでなく、道の駅や商業施設といった大規模な経営主体から利用したいとに連絡が来るようになったそうです。

試作段階から製品化へと進みつつある現状、当初想定していた使われ方を超えて、イベント時にクリエイターや作家へ販売場所を提供する、出展ブースとして活用を検討されるようになっていくように、この「ヤタイ」が屋外空間をよりポジティブに変えていくツールとして大きく広がっていくことを願います。

老津木工 組み立て式ヤタイ ー プロトタイプ ー紹介ページ

テキスト & all photos by 西村隆登

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