ソト事例

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ストリート|道路空間

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ゆっくりな実践がもたらしていたこと:Park(ing) Day2022日本橋実践

2017年から毎年、ソトノバが国内の実践と開催地支援・人材育成をしているPark(ing)Day!

ソトノバではこれまでPark(ing)Dayを、2017年に大宮(埼玉県さいたま市)、2018年に沼津(静岡県沼津市)、2019年に渋谷宮益坂(東京都渋谷区)、2020年に6都市(横浜・八千代・四日市・長浜・倉敷・竹原)、2021年に4都市(山形・塩尻・米子・神田)で実践及び開催地支援をしてきました。

そして、6年目となる2022年のPark(ing)Dayは、東京都中央区日本橋と長野県岡谷市での開催となりました!

この記事では、Park(ing)Day2022日本橋について、実地観察と、Park(ing)Dayクラス実践者(以下、実践者)へのヒアリングによる当日の様子と実践者の想いを、筆者の感想とともに報告します。


Park(ing)Dayとは

2005年に米国・サンフランシスコの大学生が「道路は誰のものなのか?」という想いから起こした挑戦で始まった、路上パーキングスペースを人のための居場所に変える取組みです。毎年9月第3金曜日に実施され、世界中のパブリックスペースのムーブメントになっています。詳細は、Park(ing)Day JAPANウェブサイトをご覧ください。

ソトノバでも、以前から各記事で取り上げています!記事のリンクを以下にまとめます!

路上駐車場ハックの世界ムーブメントを実践!Park(ing)day2018沼津 | ソトノバ | sotonoba.place

公募参加者が企画から実践まで学ぶ!Park(ing)day2019渋谷宮益坂 | ソトノバ | sotonoba.place

Park(ing)Day2020やってみた!6都市の実践と報告会をレポート | ソトノバ | sotonoba.place

路上駐車スペースを公園に変えるアクションのためのガイド「Park(ing)Dayガイド」を公開! | ソトノバ | sotonoba.place

車両規制なしでの居場所づくりの挑戦!Park(ing)Day2021神田 実践のレポート|ソトノバ|sotonoba.place

設営完了までの時間が長かった… でも、偶然の出来事を生んでいた!?

日本橋での実践を見て、特に印象に残ったのは、当日の設営にはとても時間がかかったことです。

なんと、設営開始予定時刻から2時間ほど遅れて始まり、13時頃に設営が完了していました。実践者へのヒアリングによると、遅くなった理由として、クッションドラム内に入れる水袋の用意などに想定外の時間がかかったこと、現地での最終調整が難しかったことなどがあったそうです。

設営から活動が始まるまでを観察していて、気づいたことが3つあります。

1つ目は、臨機応変に場をつくっていたことです。最初は事前に用意したレイアウト図を見ながらつくっていました。

しかし、「せっかくだからこれも…」「ここら辺がよいのでは…」などみんなで相談しながら、その時の判断で細やかな場づくりを試みていました。

また、想像よりも周辺環境に合っていないという直感を大切にして、当初計画案から変更し、途中で布を吊るした黒いフレームの設置をやめるという決断もしていました。

PD2022_01安らぎを感じるが目隠しにもなる黒いフレームは、予定の2か所から1か所にとどめる photo by Eita SATO

2つ目は、設営後にも、活動を生み出すための工夫を凝らそうとさまざまな「準備」を追加していたことです。

関係者が多く、用意していた一般の人が気軽に座れる雰囲気ではなく、あまり座ってくれないことを察知して、ノートPCでPark(ing)Day実施を伝える張り紙をその場でつくり、近くのコンビニで印刷して貼っていました。

想定通りにいっていない中、場が立ち上がった後でも新しい準備を追加する姿勢は、屋外空間で即興的に場づくりをする上で重要な考え方だと思います。

PD2022_02その場でサクッと貼り紙を作成する Photo by Eita SATO

3つ目は、想定外のまちの人とのコラボレーションを生んだことです。なんと、通りがかったヤクルトレディ(販売員さん)が、Park(ing)Day前の歩道に立って売り始めたのです。

汗をかきながら準備をしている人や、街ゆく人にも声を掛けて販売していました。
このような、何か想定外のことが起こってしまう感じは、ソトならではのことかもしれません。

PD2022_03人だかりの中でヤクルトを売りさばく。やはりソトでは何かが起こる Photo by Eita SATO

素早く実践して、検証した結果をもとに、改善するサイクルを回す手法は、日本でも有効な考えとして広まってきています。

例えば、PPS(Project for Public Space)が体系化したプレイスメイキングの手法として知られる「Lighter(気軽に),Quicker(早く),Cheaper(安く)を重視した取組み」や、ヤン・ゲール事務所が提唱した「アクション志向プランニング」や、ストリート・プラン・コラボレイティブが提唱した「タクティカル・アーバニズム」での頻度高く改善のサイクルを回すことなどが挙げられるでしょう。

でも、時間にゆとりをもって、徐々に改善を加えて、積み重ねるように場をつくることで、利用者のアクティビティに合わせることができたり、目の前で場が立ち上がっていく様子を見てもらう「間接的なまちづくりへの参加」につながったりするのではないでしょうか。

今回のPark(ing)Dayを振り返ると、使ってもらい、愛着が生まれるように、凝って居場所をつくっていくうちに、意図せず「ゆっくり」な実践になっていたと思います。

つまり、「LQC(気軽に、素早く、安く)」と「ゆっくり(徐々に改善していく)つくること」は、互いに同居する場づくりの考え方だと思います。

Park(ing)Dayのような運動だけでなく、短期の社会実験においても、場づくりはもっと「LQC」だけではない、日本の都市ならではの実践手法の模索につなげていくべきだと考えます。

以下、当日の実践の様子を見ていきましょう。

実践の様子と実践者が場に込めた想いについて

今回、日本橋でのPark(ing)Dayクラスでは、実践者がA・Bの2つのチームに分かれ、それぞれがコンセプトを企画し、日本橋2丁目さくら通りの路上駐車帯(片側)に連続して設置していたので、日本橋プラザビルの公開空地前の車道に、2種類の滞留空間ができました。

また、実践や設営の参加者は、コーディネーターである慶応義塾大学SFC小林博人研究室の学生を中心に、神戸から参加の大学生や、シンクタンクでまちづくり関連の研究をされている方など、多様な立場の方が参加されていました。

以下で、両チームの実践の様子と、場に込めていた想いを見ていきましょう。

Aチームの実践内容について:ハンモック・風鈴によるやすらぎと活動宣伝のロゴマーク

Aチームの場づくりのコンセプトは、「空を見上げる3分間の余裕を生み出す」でした。

チームのメンバーが最初にこの場所を訪れた時に、豊かな緑・桜が広がる通りではあるけれど、通り過ぎるだけの道になってしまっていることにもったいなさを感じたそうです。

そこで、通るだけではなく道路の真ん中で座り、空を見上げてもらう。そういった心の余裕やゆとりを持つことの豊かさに気づいてもらうことを目指していました。

コンセプトが「3分」である理由は、短い時間でありつつも、心のゆとりが持てそうな長さであることと、ロゴマークをつくる上での使い勝手の良さから選ばれたそうです。

空を見上げる体験を豊かにするコンテンツとして、揺られながらくつろげるハンモックや、まちへの想いが込められた短冊と風鈴が黒いフレームに吊るされていました。

PD2022_04ハンモックでくつろぐ。まわりには車との心理的な距離をつくる木製のファニチャー

また、Park(ing)Dayというまちづくりの運動を広め、目的を直感的に知ってもらうために、コンセプトを表現したロゴマークを作成していました。ロゴマークは、ステッカー・Tシャツ・木製のファニチャーの飾り付けなどに利用されていました。

PD2022_05自作のロゴを活かしたPark(ing)Dayを盛り上げるツール

2021のPark(ing)Day神田で、仰々しいクッションドラムをむき出しにして置いていたことに対して、本当に人々の居場所になっているのか気になっていました。

今回は、心地よさを生むために、クッションドラムを木製のファニチャーで隠して視覚的な美しさに気を配っていました。風鈴を吊るすフレームを固定する重りも木製のファニチャーと調和する色合いを選んでいました。

PD2022_06車を気にせず、楽しくおしゃべりをする

また、その木製のファニチャーは、慶應大学SFC小林博人研究室がもつ工作室でベニヤ板を切り出してつくったそうです。

小林研究室が長年まちに関わり続けることで培ったステークホルダーとの関わりを活かし、このイベントに協力してくれた東京建物株式会社が木製のファニチャーを引き取って、今後も使ってくれる予定だそうです。

Bチームの実践内容について:多様なテーマの本とマスキングテープの彩り

続いて、Bチームの場づくりのコンセプトは、「まちへの視点を変える過ごし方」でした。出発・目的地が固定的な通行人に対して、寄り道の一歩目をつくることを目指していました。

まちへの視点を変えるために、屋外の緑豊かな道端に座って一息つきながら、本を通じて街との新たな関わり方に気づいてもらえるような場づくりをしていました。

本を手に取るきっかけづくりとして、POPの作成をしたり、本の置き方を工夫したそうです。さらに、まちづくりに関するテーマの本を歩道付近に置き、通りかかる人に見えやすくして、「まちづくり」という活動を知ってほしかったという想いもあったようです。

このため、置いていた本は、Park(ing)Dayクラス実践者の方が持参していました。また、まちづくり以外のテーマも含めて、多様なテーマが選ばれていました。

PD2022_07手前にまちに関する本を置く。テーマが食の段ボール箱にはワインを!

段ボールで作った箱をズラしてできる空いた所に、本を置いて通行人への視線誘導を試みていたそうです。

設営に参加してくれていた小林研の学生の方が、自前のワインボトルを空にして食をテーマにした所に置くなど、とても自由な使い方をして楽しんでいました。

PD2022_08手に取った本が会話を生み出すきっかけになる

また、座ってもらう地面には、いたずらに芝生を敷かずに、頭上に広がる緑を際立たせるため、ウッドチップを敷きたかったようです。しかし、高価で管理も難しいため断念し、段ボールに変更したそうです。

「ちぎって、はって、彩って」というサブコンセプトも考えていました。自分たちのまちに対して興味を持つきっかけづくりのために、マスキングテープによる彩りを徐々に増やして、新たな風景をつくろうとしていました。また、通り行く人にも貼ってもらえるような、気軽な参加型を目指していました。

PD2022_09カラフルな彩りが、段ボールの上に広がっていく

実践者の方は、実践する中で得た気づきを教えてくれました。当初は、フレームにくくりつける布のゆらぎで、都市に舞う風を感じながら憩って欲しかったそうです。

しかし、自分達が思っているより、フレームがもつ存在感が強かったので、途中まで配置してやめていました。

このように、つくってみた場所の質が想像と違っていた場合、積極的に当初の計画を変更することは、プロの設計者ではない一般人が実践する時に、大事なことかもしれません。

PD2022_10黒フレームの配置を中断して、人が活動しやすい場にする photo by Eita SATO

最後に、A・B両チームの参加者に、車が近くを通る車道で座る体験をして、実際にどのように感じていたのか尋ねてみました。

案外、座っていると、クッションドラムを隠すボックスが目隠しになり、車は気にならない

ただし、実際座るとなると電源やWi-fiなどが欲しくなる」「もう少し人を引き込むには工夫が必要だ

などの意見が出ました。

関係者の楽しみだけで終わらずに、一般の方にまちなかの居場所として体験してもらうためには、もう一工夫必要だと、皆さん感じていたようです。

まとめ:ゆっくりとした実践の可能性

今回のPark(ing)Day2022日本橋は、設営準備にとても時間がかかっていて、実践者もこの点について反省していました。

実際、両チームが最初に想定していたターゲットとなる通行人(会社員)のお昼時を逃してしまったのは、手痛かったかもしれません。

一方で、「LQC(手軽に・早く・安く)」のような、とりあえず小さくやってみる手法をとる時でも、もっといろいろな「早さ」があるのではないかとも考えさせられました。

Park(ing)Dayや短期のアクションを起こす時には、一旦小さく実践することと、ゆっくり改善を加えながら実践することは両立すると思います。

さらに、ゆっくり実践する中で、興味を持ってもらったり、参加してもらったほうが、場所への愛着が持てるかもしれません。

もっといえば、関係者間で共有した目的・ビジョンを達成するために、その場所にあった適切な時間の使い方で、場をつくる手法については、まだ模索する余地があるかもしれません。

例えば、空間や場ができあがり、立ち上がっていく様子を見ることで得られる、驚きや喜びを感じてもらうことで、ゆるく「まちづくり」に関わってもらうこともできるかもしれません。じわじわと育まれる自分のまちへの愛着もあるのではないかと考えました。

最後に、Park(ing) Dayは、ソトを使ってみる良さを知り、感じてもらうための運動的な側面があると思います。

このように直接的に長期的な変化を目指しているわけではないPark(ing) Dayでは、今後もっと日本の各都市で挑戦的な実験を行い、日本の都市ならではの新たな知見を共有していく必要があると感じます。

また、自分を含めて、視察しにきた人が群がっているのは、居場所としては残念な感じがしました。関係者内だけで閉じずに、まちとのつながりを積極的に持てるとよいですね!

PD2022_11参加者のみなさまお疲れ様でした!

Unless otherwise noted, photo by Shingo Maehara

参考文献

出口敦・三浦詩乃・中野卓編著(2019)『ストリートデザイン・マネジメント 公共空間を活用する制度・組織・プロセス』学芸出版社 pp.116-129,137-140

泉山塁威・ソトノバ他編著(2021)『タクティカル・アーバニズム 小さなアクションから都市を大きく変える』学芸出版社pp.134-141

園田聡(2019)『プレイスメイキングアクティビティファーストの都市デザイン』学芸出版社pp.18-38,74-76

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