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みんなの「やってみたい」が膨らむ!隅田公園「使われる」公共空間マネジメントの心得

東京都墨田区にある、隅田公園・北十間川周辺エリアは、隅田公園のリニューアル・東武鉄道高架下の商業施設「ミズマチ」の開設・北十間川の親水テラス整備・東武鉄道の隅田川橋梁沿いに新設された歩道橋すみだリバーウォークの開通などを経て、2020年にリニューアルオープンしました。

東東京の二大観光地、浅草と東京スカイツリーを繋ぐ中間に位置する本エリアのリニューアルは、2012年から「北十間川・隅田公園観光回遊路整備事業」として、賑わい創出と観光回遊性向上を目的に進められていました。

また、2018年からは地元住民などの関係者を含めた北十間川水辺活用協議会が発足し、ワークショップなどでエリア全体のあり方について議論を深めていきました。その中で、地域の日常をしっかり創り、根付かせ、それ自体が観光資源になるべきではないかという地元の人々からの意見をもとに、地域から愛される、日常の利用を大切にした「サードプレイス」となることを目指すようになったのです。

さらに、区の公共施設マネジメント担当内に、本エリアの利活用促進チームが結成され、二度にわたる社会実験を行いながら、整備、運営のあり方を探っていきました。

詳細については北十間川・隅田公園観光回遊路整備事業の事業紹介もご参照ください。

筆者は墨田区民なのですが、リニューアルから約3年が経った現在、隅田公園の活用はますます広がっていると実感しています。本記事では、隅田公園がハレの時もケの時も使われる空間になっている背景にどのようなマネジメントの工夫や思いがあるのかに迫りました。

本記事を書くにあたっては、リニューアルオープン前後の2018〜2020年度に、東武鉄道から墨田区に派遣され、墨田区企画経営室公共施設マネジメント担当(現・ファシリティマネジメントの担当)となっていた福田一太さん(現・東武鉄道株式会社生活サービス創造本部アセット戦略統括部)と、2018~2021年度に墨田区都市整備課に所属、2020年度は公共施設マネジメント担当、2021年度は観光課を兼任し、現在も墨田区の道路公園課で管理者として隅田公園に関わり続けている浮貝忍さんに話を聞いています。
Cover Photo by Ayane Hamaguchi

(ソトノバ・スタジオ|ソトノバ・ライタークラス2022の卒業課題記事です。)


ハレとケが重なり合う光景

以前の隅田公園は、鬱蒼とした木々に覆われ、地元住民もあまり足を運ばない空間でしたが、リニューアルにより、イベントで活用しやすい舗装広場と気持ちの良い芝生広場が整備されました。

リニューアルから3年経った現在は、早朝から夜まで、犬の散歩や子連れのピクニック、読書や昼寝、コーヒー片手に話し込む姿、テントを張ったりシートを広げる姿があちらこちらで見られるなど、多様な人が思い思いに寛ぎ楽しむ姿が見られます。

02dairy普段から、子連れでのピクニックや犬の散歩など、人々がくつろぐ様子があちこちで見られる Photo by Ayane Hamaguchi

 また、休日には、地域の住民や団体によるイベントが頻繁に開催されており、イベント内容も、地域の個人飲食店が出店するキッチンカーやマルシェ、踊りや音楽、大道芸、屋台DJ、パークシネマなど、多岐にわたります。

03parkcinemaすみだのまちと人を身近に感じられる野外シネマ「すみだパークシネマフェスティバル」 Photo by すみだパークシネマフェスティバル実行委員会

例えば、2022年11月5・6日には墨田区のアートプロジェクト「すみゆめ踊月夜(すみゆめおどりつきよ)」が開催されました。ステージを使った生演奏をBGMに、広場に設置されたやぐらの周りで大勢の観客が気持ちよさそうに盆踊り調の踊りを踊っている光景が見られました。

04yaguraやぐらに吸い寄せられるように踊り出す人々 Photo by 金子愛帆

05uranaiUramichiアーティストが独自解釈した「うらない」を体験できるブースが公園の奥深くなどに点在。筆者もマップを頼りにブースを探して公園内を彷徨い歩いた。Photo by 富田了平

墨田区民である筆者も、隅田公園で開催されているイベントに何度も足を運んでおり、その中でも特に印象深いのが、イベントでの光景が日常の光景と隣合わせにあること。

「すみゆめ踊月夜」の日には、舗装広場で踊る人々のざわめき、熱気といった非日常の光景と、芝生広場でレジャーシートを敷いて思い思いにくつろぐ人々やボール遊びをする子どもたちといった日常の光景のレイヤーが重なっていました。

06kasanari踊る人々のざわめきとくつろぐ人々の日常が重なりあう Photo by Ayane Hamaguchi

隅田公園でのこのような光景は、どのようにして構築されているのでしょうか。その背景を探ってみました。

みんなが使える「ジブンチノニワ」だからこそ必要な「使うための作法」

実は、このエリアには公共空間を使うための「手引き書(使ってみようみんなの公共空間!北十間川水辺周辺公共空間利活用の手引き)」があります。

行政の手引き書というと、固い決まりごとが羅列され、禁止事項やルールが細かく書かれているイメージがありますが、この手引き書は決まりごとを押し付ける雰囲気は全くありません。全編を通して、公共空間は自分たちのものだから積極的に使っていいのだということ、ただし、みんなのものでもあるから周辺の人や他の利用者にも配慮した使い方を考えていく必要があるということが丁寧に説明されています。

07tebikisyo使い方の事例は、単に使える/使えないの二択ではなく、実現のためにどういった視点での配慮が必要かが示されている  提供:墨田区

この手引き書ができた背景には、本エリアの利活用促進チームの存在があります。チームのミッションは、公共空間が使われるものになるようにマネジメントしていくこと。それならまずは自分たちが使ってみようということで、社会実験「そよ風会議室」を始めました。

08soyokaze「そよ風会議室」(2020年6、7月の合計12日実施)では、職員自ら公園占用許可申請を行い、テントを張って滞在(真ん中が浮貝さん、真ん中左が福田さん) 提供:墨田区

当時、東武鉄道から墨田区に派遣されていた福田一太さんも、社会実験を行ったチームのひとりです。広場にテントを張って設置した会議室で、日がな一日、メンバーと一緒に、「公共性って何だろう」「公共空間はどうあるべきだろう」ということをひたすら話して考えたそうです。

その中で、公共空間を “みんな”のものと言った途端、“みんな”が守らなければならない禁止事項が乱立したり、“じぶん”勝手に使うことに後ろめたさを感じるようになっている状況に気づきました。

手引き書にも書かれている本エリアの活用コンセプトに込めた思いについて、福田さんが話してくれました。

一人一人が集まってはじめて“みんな”が生まれるので、 “じぶん”のやりたいことをやって、そこから“みんな”と繋がっていってほしい。その思いから、公共空間の活用コンセプトを「ジブンチノニワ」としました。

実際、福田さんらがテントを張って毎日公園にいると、住民から「こんな使い方をしたいがどうすればいいのかわからない」といった相談を受けることが多くなったそうです。そこで、「使ってみたい」という思いを持った人を後押しするため、手続きや協議の補助を行う社会実験「そよ風L@B,(そよかぜらぼ)」を実施しました。

福田さんは相談を受ける中で、イベント実施希望者同士を繋いだところ、相乗効果でより良いイベントになっていくのを目の当たりにしたそうです。自分以外の人の目にも触れる公共空間を「使って」イベントを企画・開催するということは、ある種の自己表現にもなります。そのような自己表現がたくさん起こり、その結果、多様な人が繋がりあって新しいことが生まれる光景に、福田さんは公共空間の面白さを感じたといいます。

一方で、公共空間では、やりたいことをやるときに、自分のやりたいことだけではなく、そこに関わるものや人や時間、とにかくいろんなものに対して考えることで、より良い時間・空間が生まれます。条件やルールがあって初めて自由が生まれるのだと、福田さんも浮貝さんも口を揃えて言います。

特に、リニューアル後の隅田公園は区の後援がなくてもイベントができるようになったのですが、それゆえに、そのイベントで公共性が担保されているのかについて、イベントを実施する側がしっかり考える必要があったのです。

まずは「使ってみたい」と思ってほしい。でも、ただ単に使えるというだけではなく、使うための作法は使う側でちゃんと学び考えることが大事だという思いが、この手引き書には込められていたのです。

あらゆる立場から隅田公園マネジメントに取り組んで思うこととは

利活用促進チームで福田さんと一緒に社会実験に取り組んでいた浮貝さんにもお話を伺いました。

浮貝さんは、隅田公園リニューアル時には隅田公園の施設整備を担当していました。その後、利活用促進チームの兼任や、観光課の兼任も経て、現在は維持管理を担当しています。つまり、「整備する」立場や「使ってみる」立場、「使ってもらう」立場など、あらゆる立場から隅田公園のマネジメントに取り組み続けているのです。

そんな浮貝さん、実は2021年の12月にクリスマスイベントを自ら企画しました。そしてなんと、手引き書の使用例に書いてあるものを全て実現してしまいました。

09DJなんとトイレの屋上でDJまで! 提供:墨田区

当時兼任していた観光課の職員としての立場も踏まえて、日常の景色が観光資源になる、観光回遊整備を意識した企画を練りました。浮貝さん自らまちに出て個人店に飛び込み営業を行ったり、周辺の店舗とコラボしたり、地域の人に歌や踊りを披露してもらったり。地域の人を巻き込んだことで、「おらが村」思考を持って隅田公園に関わってくれる人も増えたそうです。

10xmas飲食、音楽、ワークショップ、スポーツ屋台、屋上DJ、映画上映…とにかくできると言ったことを全て盛り込んだそう 提供:墨田区

クリスマスイベントで浮貝さんは、①実行委員会=イベント主催者の立場、②個人でのDJ活動など=イベント出店者の立場、③都市整備課=管理者としての立場、④観光課=イベント後援者としての立場の4つの立場を同時に経験しています。

それらを同時にこなすなんて、考えるだけでめまいがしそうですが、そこまでやってみたからこそ、見えている景色があるのかもしれません。そんな浮貝さんが、公園に関わる人たちへの思いを話してくれました。

イベントを企画する人も、管理をする人も、公園を訪れる人たちがここで何をしているかがちゃんと見えているのか。何をするにしても、公園に来る人たちファーストで考えられる人に関わってほしいです。

特に、大々的にイベントをするのであれば、これでもかというくらい周辺への配慮をすべきであり、やりたいことのためにどこまで労力をさけるかが重要だそうです。また、マネジメントも、大変なこともあるけれど、見える景色が面白いからこそやってみる価値があるのだそう。

実際、公園の話をしている浮貝さんはとても楽しそうで、一緒に話している私の方まで、何かここでできないかワクワクしてきました。

徹底した観察から始まる「放牧的」管理

現在は公園の維持管理を担当する道路公園課にいる浮貝さん。利用者をより身近に見られる管理者としての立場を思う存分利用して、来た人が安心して楽しめる管理のあり方を探っています。

その一つとして、2022年の夏から3回にわたり、芝生を楽しむイベントを自ら企画したそうです。来た人が楽しめるよう、ゴザと絵本の貸し出しやガーラントを手作りするワークショップ、ボールの無料貸し出し、芝生のメンテナンスに使う機械の展示やメンテナンス体験などを実施しました。

11sibakari「壊れてもいいよ、怪我しなければ」といってくれる造園屋さんの協力のもと、芝刈り機を展示。乗ったり押したり、子どもも大人も楽しそう。提供:墨田区

競技としてのサッカーは禁止されていても、サッカーボールを使った何かはできるはず、と考え、実際、ボールを貸し出してみると、使っている人たちの間でうまく工夫され、周辺に配慮して楽しむ光景が見られたといいます。

12ball_editedボールを貸し出すと、自然と周辺に配慮して遊ぶ姿が見られた 提供:墨田区

自分自身も丸一日その場に身を置いていたという浮貝さん。そうすることで、公園を訪れる客層や、訪れた人たちがどのように過ごしているかなど、管理に必要なことがよく分かったそうです。

また、芝生を抜群のコンディションに整えるための試行錯誤も繰り返しています。これまでどこからでも入れた芝生広場ですが、四方を低いロープで囲い、入口となる数箇所だけを開けるようにしました。芝生広場と人が行き交う舗装部分を区切ったことで、人々がテントやシートを敷いて「寛ぐ」場所が広場の中ほどから縁辺部へと移動し、広場中央部分の「遊べる」空間が広がりました。囲われていることで安心感が出て、縁辺部での滞在が増えたのでは、と浮貝さんは分析しています。

13houboku入口は人の侵入時に圧が集中してかかるため、毎週入口の場所を少しずつずらすという徹底っぷり Photo by Ayane Hamaguchi

そんな浮貝さんに、理想としている管理のあり方をたずねました。

中にいる人は自由だと思っているけれど、ちゃんとその外側で見えない管理の枠組みにより他者への配慮がなされている「放牧的」な状態が理想。物理的なことだけでなく、思いの枠組みとして、管理側が「ここまでやっていいですよ」という枠を示せるか。

何をやってもいいけど、ここは守ろうね、の「ここ」をどれだけ探れるか、いまだ模索中だと言います。 

使う人ファーストの思いがつくる公園の心地よさ

今回、お二人に話を伺って見えてきたのは、公園を楽しんでもらおう、使ってもらおうという徹底した使う人ファーストの姿勢。その姿勢が、地域の人の「やりたい」の後押しになり多様なイベントが生まれたり、日常の心地よさに繋がっているのだと思いました。

さらに、彼らの思いがイベントを行う側にも伝播していった結果、ハレとケが融合する光景が生まれているのではないでしょうか。

そして、公共空間を使うことで、周辺の人たちにどんな影響を与えるのか、何に気を配るべきなのか。管理する側も使う側も熟考し、対話を通してさらに考えを深めていく、そのプロセスにこそ、公共空間を使う意義や面白さが隠れているように感じました。

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