ニュース
【速報考察】道路法改正により歩行者中心の道路空間:「歩行者利便増進道路」創設へ
(Cover Photo: 2019年12月11日(木)Tactical Urbanism Japan2019 タクティカル・アーバニズム国際シンポジウムによる池田豊人氏(国土交通省道路局長)のプレゼンの様子)
2020年2月4日。道路法改正案が閣議決定されました。
今回の法改正によって、これまでの道路空間活用の何が変わるのか、担当者インタビューを元に考察してみたいと思います。
※今回の速報考察は、閣議決定の公表された情報と、国土交通省道路局へのインタビューを元に、個人の見解で考察するものです。
速報考察は、以前日本版BIDの際にも行いましたが、それ以来となり、これまでストリートや道路空間活用などに取り組んできたソトノバ的にも大きなトピックだと思います。
(法律の解説になりますので、難しい内容やテクニカルな内容が多いですが、ご容赦ください。)
速報でツイートしましたが、短時間ながら大きな反響です。
Contents
道路法改正内容は5点。物流、自動運転、災害復旧も。
(1)物流生産性の向上のための特殊車両の新たな通行制度の創設
特殊車両のうち国土交通大臣による登録を受けたものを通行させようとする者は、国土交通大臣による確認を求め、回答を受けた通行経路に従って通行する場合、許可を受けることなく通行できること等を規定
(2)民間と連携した新たな交通結節点づくりの推進
交通混雑の緩和や物流の円滑化のため、バス、タクシー、トラック等の事業者専用の停留施設を道路附属物として位置付けること、当該施設の運営についてはコンセッション(公共施設等運営権)制度を活用することができること等を規定
(3)地域を豊かにする歩行者中心の道路空間の構築
賑わいのある道路空間を構築するための道路を歩行者利便増進道路として指定し、当該道路では、歩行者が安心・快適に通行・滞留できる空間の構築を可能とすること、無電柱化に対する国と地方公共団体による無利子貸付けを可能とすること等を規定
(4)自動運転を補助する施設の道路空間への整備
自動運転車の運行を補助する施設を道路附属物・占用物件として位置付けること、当該施設の整備に対する国と地方公共団体による無利子貸付けを可能とすること等を規定
(5)国による地方管理道路の災害復旧等を代行できる制度の拡充
災害が発生した場合において、地方公共団体からの要請に基づき、国土交通大臣が道路啓開・災害復旧を代行できる道路の対象を拡大すること等を規定
国土交通省HP:http://www.mlit.go.jp/report/press/road01_hh_001283.html
ソトノバでは、「歩行者中心の道路空間」に着目
ソトノバでは、2015年の活動開始以来、道路空間やストリートに関しては、関心テーマとして取り扱ってきました。ソトノバTABLE(2018)での議論、丸の内・仲通りで開催のプロトタイピングフェスティバル、ストリートウィーク(2018)、パークレットの議論(2016, 2017)、Park(ing)dayの実践(2017,2018,2019)、そして、先日のタクティカル・アーバニズム・ジャパンなど、メンバーと共に、活動を蓄積してきています。
そんな中で、ソトノバは、歩行者中心の道路空間、ストリートに着目しています。その中で、今回の道路法改正内容のうち、(3)地域を豊かにする歩行者中心の道路空間の構築に絞って、速報考察していきます。
今回の道路法改正でなぜ歩行者中心の道路なのか。
法律改正には、なぜ?(WHY)が重要だと思います。近年の道路空間の規制緩和、ウォーカブルの動きなど、パブリックスペースや道路空間のパラダイムシフトが盛んです。
今回の法律改正の背景の文章をよく見ると、歩行者中心の道路空間に関して、以下の文章を確認できます。
バイパスの整備等により自動車交通量が減少する道路が生じる一方、コンパクトシティの進展等により歩行者交通量が増加する道路も生じており、歩行者を中心とした道路空間の構築が必要
国土交通省HP(道路法等の一部を改正する法律案):http://www.mlit.go.jp/report/press/content/001327435.pdf
ここで、コンパクトシティなどが進むと歩行者交通量が増加する例を取り上げ、増加した歩行者に対して、歩行者中心の道路空間の構築が必要だと言っています。
道路法改正内容に迫る!
具体的に道路法改正内容に迫ります。3.地域を豊かにする歩行者中心の道路空間の構築が歩行者中心の道路ですね。
3.地域を豊かにする歩行者中心の道路空間の構築
○ 賑わいのある道路空間を構築するための道路の指定制度を創設(歩行者利便増進道路)
◆ 指定道路では、歩行者が安心・快適に通行・滞留できる空間を整備(新たな道路構造基準を適用)
◆ 指定道路の特別な区域内では、
・購買施設や広告塔等の占用の基準を緩和
・公募占用制度により最長20年の占用が可能
◆ 無電柱化に対する国と地方公共団体による無利子貸付け(※予算関連)国土交通省HP(道路法等の一部を改正する法律案):http://www.mlit.go.jp/report/press/content/001327435.pdf
「歩行者利便増進道路」制度!
「歩行者利便増進道路」という歩行者中心(または賑わいのある)道路空間を構築するための道路を指定する制度、「歩行者利便増進道路」制度ができるようです。
新たな道路構造基準を適用!
指定道路では、「新たな道路構造基準を適用」する歩行者が通行、滞留できる空間を整備するというもの。今まで、道路整備を行う際に、道路構造令に従って道路整備をされていましたが、歩行者の滞留(アクティビティ)というのは位置付けられていませんでしたが、これが正式に位置付けられることになりました。
当たり前に聞こえるかもしれませんが、道路法の目的で、「道路は交通のために供する」とあるように、道路が歩行者中心を法律に組み込むというのは法律の建て付け的に非常に難しかったことを推察します。
具体的にイメージがなかったので、国土交通省道路局さんに資料提供いただきました。歩道の一部(図では車道側)にオープンカフェなどの滞留(アクティビティ)を生む空間を道路整備時にできるようになります。
歩道等とあるので、車道に設置するパークレット(Parklet)の可能性もこれで道路占用許可の範疇では柔軟になることが期待されます。
道路占用者を公募ができる!そして、最大20年の道路占用!
先ほどの道路構造令については道路整備の話でした。では既存の道路空間を活用する動きとして気になるのは道路占用許可です。(※道路使用許可は、道路交通法による交通管理者:警察の対象なので今回は対象外です。)
「占用者を幅広く公募」とあります。確かに言われてみれば、都市公園法の「Park-PFI」(公募設置管理者制度)のように、事業者公募を行うというような道路占用者を公募するというのは今まではあまりありませんでした。道路占用許可の特例でも道路占用者の公募はできたのですが、今回の歩行者利便増進道路制度でもできるようです。また、「道路協力団体」制度は2016年の道路法改正であり、「道路協力団体」も公募できます。
そして、「公募により選定された場合には、最大20年の占用」とあります。これまで確認されているのは、「道路占用許可の特例」の根拠となる「都市再生整備計画」または「中心市街地活性化基本計画」がいずれも計画期間が最大5年でした。計画期間に伴い、道路占用許可の期間も5年になっています。公募すれば、最大20年の占用が可能になります。
これまでも計画を更新すれば道路占用ができるということではありましたが、例えば、道路内建築などによる民間投資を考えると、5年しか約束されていないというのは投資回収などで厳しいものがあります。最大20年ができるとなると、非常にゆとりを持った計画や投資ができることになるでしょう。エリアマネジメント団体、ストリートマネジメント団体による人材に関しても同様のことがいえます。
目標は2025年度末までに概ね50区間の歩行者利便増進道路!
安全かつ円滑な道路交通の確保と道路の効果的な利用の推進
・歩行者利便増進道路の累計指定区間2025年度末までに概ね50区間国土交通省HP(道路法等の一部を改正する法律案):http://www.mlit.go.jp/report/press/content/001327435.pdf
目標は5年で50の歩行者利便増進道路の指定。1年で10ですね。法律は使われないと意味がありません。「官民連携まちづくりの進め方~都市再生特別措置法等に基づく制度の活用手引き~」によれば、2011年に制度創設された道路占用許可の特例が2018年時点で38事例ということで、より「歩行者中心の道路空間」を推進していかなければいけないですね。
気になるポイントを質問してみました!
ここからは、私が今回の道路法改正内容で、気になるポイントを国土交通省道路局の担当者インタビューで聞いていました。
既存の道路占用許可の特例、道路協力団体、国家戦略特区と、できる内容に差はあるのか?
「特例区域では、占用が柔軟に認められる」とある通り、これまでの道路占用許可の特例、道路協力団体、国家戦略特区と道路占用許可の内容に差があるのかを聞いてみました。
回答としては、「無余地性の除外」に関しては、道路占用許可の特例、道路協力団体、国家戦略特区とできることは同じとのことです。その他のことは詳細は政令などでこれから詰めていくそうです。期待したいですね。
道路占用許可の特例のように、都市再生整備計画などの計画への位置づけは必要ですか?
「道路占用許可の特例」は都市再生整備計画を自治体が策定し(都市再生推進法人の提案は可能)、国家戦略特区は「区域計画」という計画を内閣総理大臣認定を受ける必要があります。
今回の「歩行者利便増進道路」は計画の位置づけは必要ないのか?という質問をしたところ、
回答としては、計画の位置付けは不要とのことです。自治体の道路管理者が「歩行者利便増進道路」を指定するということだけでできるようです。(交通管理者である警察協議は必要でしょうね。)
「歩行者利便増進道路」に指定する手続きは具体的にどうなるでしょうか?
計画の位置づけが不要ということは、具体的な手続きが気になるところです。質問してみました。
道路管理者が、市町村への協議(まちづくりとの整合性の観点。市町村道の場合は不要)と公安委員会への意見聴取(道路交通への影響確認の観点)を行った上で、指定します。
国土交通省道路局インタビューによる
回答はこちらです。道路管理者と公安委員会(警察のうち所轄・警察署長の協議ではなく、都道府県公安委員会という行政運営による委員会です)との協議が必要ですね。
道路占用許可期間が20年になっても、道路使用許可の範囲はどうなのか。
道路は道路占用許可(道路法:道路管理者/道路の所管行政)と、道路使用許可(道路交通法:交通管理者/警察)の二重許可になっています。道路占用許可が最大20年認められる場合、道路使用許可の期間がどうなるのか、気になります。
回答としては、道路法のみ改正しているので、道路使用許可の期間が特に変わるわけではないそうです。
歩行者利便増進道路の場合、特例区域の指定や公募時の占用者選定の際に道路管理者が警察へ協議を行う規定としており、その段階で占用範囲や占用物の妥当性は確認されることになります。そのため、その後の道路使用許可における警察協議は円滑化が期待されます。
国土交通省道路局インタビューによる
また、国土交通省道路局インタビューによれば、歩行者利便増進道路の特例区域の指定、道路占用者の公募・選定の際に、警察との協議を行うとのことで、そこで、期間をどうするかなどの運用が決まるそうです。ぜひ、お互いに良い運用を期待したいですね。
歩行者中心の道路空間の可能性
以上が道路法改正内容の解説でしたが、いかがでしたでしょうか?
法律の内容なので、難しくテクニカルな内容も多かったですね。現場の自治体や実務の方にとっては重要な情報かと思います。
ここからは、「歩行者利便増進道路」がこれからできることで、歩行者中心の道路空間の可能性について考察してみたいと思います。
歩行者中心の道路整備へ
まず、道路構造令の改正は大きいですね。今までの道路占用許可の規制緩和は全て道路空間を活用するという運営・マネジメント面での制度が多かったのに対し、道路空間整備の基準である道路構造令が改正されたことです。
古くは、広場の概念を持った街路構造令があったわけですが、今は道路構造令のみ。交通優先の道路構造令の中に「歩行者の利便を増進を図る空間」が位置付けられたことで、施設更新時期にあるこれからの道路空間整備のプロジェクトにおいては大きな一歩となるのは間違いないでしょう。
民間が参入しやすい道路空間活用へ
そもそも、2011年の道路法改正で道路として初めて規制緩和された「道路占用許可の特例」。エリアマネジメント団体、ストリートマネジメント団体の財源確保が期待されていました。しかし、各団体から聞こえるのは道路では稼げないという声。他のパブリックスペースの中で、道路は制約や関係者も多く、悩む人も多いことが道路の関心が高い1つの理由だと思います。
今回の改正内容は、道路空間活用、ストリートマネジメントを行う上で、民間が参入しやすくなったと思います。
1つは道路占用主体の公募です。これまでの道路占用主体が公募されたことは聞いたことがありません(道路協力団体は公募できます)。道路占用主体はこれまで、都市再生推進法人に指定された株式会社、一般社団法人、一般財団法人、NPO法人(特定非営利活動法人)と商店街、任意団体です。
都市再生推進法人はそもそも自治体が認めた団体。自治体が認めるということはその道路や地域に対して貢献や活動実績のある団体が求められます。商店街はいうまでもなく、代々その街の道路や地域に貢献してきた実績のある団体。任意団体は協議会などがありますが、地域の代表者やステークホルダーが含まれている例がほとんどです。
担い手不足といわれる中で、地域外から担い手を募集することが、「公募可能」になりました。
一方で、誰でもOKということではなく、公募の体制や地域のプラットフォームなどでチェックや評価機能をしっかり持たせた上で、納得と理解の上で進めるプロセスやビジョンの共有が同時に重要になりますね。
また、公募の場合の最大20年の道路占用は、エリアマネジメント団体、ストリートマネジメント団体が民間投資を呼び込みやすい環境ができるようになったほか、御堂筋のような2037年に全歩行者空間化(フルモール)にするという長期ビジョンを打ち出しやすくなったり、より中長期的なロングタームチェンジ(長期的変化)に目掛けて取り組み易くなったのではないでしょうか
「道路管理者」の権限や役割が増えた
今回の改正で大きい点は、「道路管理者」だけで「歩行者利便増進道路」の指定ができるようになったことですね。これまでの他の道路占用許可制度(道路占用許可の特例、国家戦略特区)は、道路管理者以外の自治体の部署を巻き込まないとできなかったという点で、自治体庁内の調整が必要でした。
道路占用許可の特例であれば、「都市再生整備計画」の策定で都市系部署、または「中心市街地活性化基本計画」の策定で商工系部署。国家戦略特区であれば、企画系部署などと道路管理者と協議をして、特例が実現していると思います。
私がいろいろ話を聞く限り、自治体庁内調整も大変なことも多いようで、1つのハードルではありました。そして、これまでは道路管理者だけではなく、上記の部署の調整や努力も多く、道路空間活用の事例ができていたことも多いのではないかと思います。
道路管理者だけでできるのは、「道路協力団体」制度があるので、これだけでもできないことはないですが、あくまで団体の指定。今回は道路を指定するということで、具体的に、この道路を歩行者中心にしていくというより強いメッセージを地域や自治体、関係部署にも発することができるようになるのではないかと思います。
「道路管理者」を応援する仕組みとムーブメントが重要!
一方で、道路管理者は、道路に関するクレームの連絡が来たり、許可する責任と権限を持っているので、事故時の対応やリスクなど責任を背負っており、気軽に許可できる立場ではないことは他の自治体の部署とも違います。そういったリスクやクレームが許可をしたいと思ったとしても許可できないこともあると聞きます。
ミズベリングを知っているがある方も多いと思います。河川を水辺(ミズベ)といい、ミズベリングフォーラムや水辺で乾杯など市民から自治体までミズベを考えたり、交流したり、楽しんだりするムーブメントです。
先日、タクティカル・アーバニズム・ジャパン2019のプレイベントでも登壇いただいた、ミズベリング・プロデューサーの山名清隆さん。いつもよく話していた言葉を思い出しました。
「2011年の河川法の改正をしても数年動かなかった。河川管理者が許可を出しやすい空気や雰囲気をミズベリングでつくったことで、全国で河川敷地占用許可の特例が増え、河川管理者や河川・水辺を使おう、楽しもうという人が増えていった」とよく言っていました。
よくミズベリングが羨ましいなあと思う時があります。
道路にはミズベリングがありません。そんな想いから、ソトノバでは、ストリートウィークやParklet japan、Park(ing)day Japanなど、道路やストリートのムーブメントを数年間行ってきました。最近では、国土交通省都市局がマチミチ会議を始め、ストリートデザイン懇談会でも議論が始まっています。これからウォーカブルシティ(歩きたくなる都市)の政策も始まっていきますね。
2011年に道路占用許可の特例ができてから9年。2020年になった今年、道路法改正で「歩行者利便増進道路」制度によって、歩行者中心の道路が進んでいくことが期待されます。
ミズベリングを見ていると、「道路管理者」を応援する仕組みとムーブメントが重要なのではないでしょうか。
「道路管理者」を始め、利用者、市民、商店などたくさんの人が参加し楽しむ、道路、ストリートのムーブメントが今こそ必要なのかもしれません。ソトノバでも引き続き、ウォッチしていきたいです。