アワード
ソトノバ大賞2019に輝くのは誰だ?ソトノバ・アワード2019公開審査会・後編
「ソトノバ・アワード」は、屋外空間を使いこなすプロジェクトを対象とした、日本唯一のアワードです。3回目の開催となる今回は、22019年12月-2020年1月にかけてプロジェクトを公募。2020年2月8日に公開プレゼンテーションと審査を行うソトノバ・アワード2019公開最終審査会を実施しました。
前編の記事では、「プロジェクトデザイン部門」、「実験のデザイン部門」の2部門のうち、「プロジェクトデザイン部門」の発表と質疑の様子をお届けしました。後編となる本記事では、「実験のデザイン部門」の発表・質疑から審査結果の公表までの様子をお届けします。
「ソトノバ・アワード2019」の公募情報や結果は下記をご覧ください。
Contents
個性豊かな5つの実験:「実験のデザイン部門」
「実験のデザイン」部門は、「吉日楽校」「愛知県岡崎市・康生通り「パークレット」社会実験」「九重の竹テント」「移動式焼き場 -七輪車プロジェクト―」「タイニーハウスフェスティバル」5プロジェクトです。
地域の愛着を連鎖させる「吉日楽校」
「実験のデザイン部門」は、働く妖精こと千代田彩華さんによる「吉日楽校」のプレゼンで始まりました。
大規模マンション開発地で、工事が始まる更地の段階から地域と関係性を作ってゆく新しい開発の仕方を紹介しました。「日吉」「楽しみながらみんなで学べる楽校」という言葉から「吉日楽校」と名付けられています。
「吉日楽校」を紹介する千代田さんプロジェクトは、クローバーや芝生を敷きコンテナや什器を使いながら暫定利用の居場所づくりから始めます。しかし、工事現場の一部の仮囲いを開放するだけでは誰も人が来ない為、日常的にイベントの企画を行ったものです。
参加者30名を想定していた「星空教室」(天体観測)開催時には、当日80人以上が集まるってしまうハプニングが起こります。先生・望遠鏡1に対し集客80では全員が主体的に活動できません。そこで、イベントは「参加してもらう・来てもらう」のではなく、住民主体の活動を生み出すような「余白づくり」が必要だと千代田さんは気づきます。
その後の行った焚き火イベントでは、地域住民やディベロッパー、新規住民など各自が参加者を繋いで運営する主体者の逆転現象が起きました。無理なく楽しく自分が関わりたい場所で関わることで、余白をシェアできました。
吉日楽校は、開発後も住民が地域の愛着を連鎖させてゆくことを目標に活動していきます。
審査員の皆さんも楽しそうに発表を聞く様子(右から岡美里さん、荒木源希さん、三浦詩乃さん、小澤亮太さん)「愛知県岡崎市・康生通り「パークレット」社会実験」
「愛知県岡崎市・康生通り「パークレット」社会実験」を名古屋工業大学大学院 鈴木篤也さんが発表します。
愛知県岡崎市にある康生通りは卸・小売業で栄えていました。しかし昭和40年代後半から大型商業施設の相次ぐオープン・撤退により商店街の客足は遠退きます。
2018年3月岡崎市は、まちづくり基本計画を策定し歩道空間の活用を目的とした社会実験を始め、子供のいる光景を取り戻します。鈴木さんは、社会実験の課題や住民の意見をもとに2019年10月8日〜1ヶ月パークレットを設置したことを発表しました。
「愛知県岡崎市・康生通り「パークレット」社会実験」鈴木さん設置空間は、「みちのリビング」と定め、リビングらしさ・康生通りらしさを軸にしつつ、車道1車線を封鎖し歩道を2m拡幅して8つのパークレットを点在させたそうです。実施体制は(株)まちづくり岡崎、岡崎市、大学が主体となり「民間まちづくり活動促進事業」の予算利用や愛知県警との調節をしながら施工会社等とパークレットを設置とのこと。
ボラード(車止めの機能)をイスやテーブルとして代用しながら自分なりの使い方で食べる・寝転がる・座るなどして多くの人が10分以上滞在していたそうです。
通りの店も協力し、本屋の作る小さな図書館や、まちのみんなで植えるプランター、野菜を販売する化粧品屋など、プロジェクトは公共物の柔軟な使い方を発見するきっかけになったようです。
2020年度の常設が決定したパークレットや、(株)まちづくり岡崎の取り組み、2019年社会実験の意見を整理しながら、今後も研究室のワンチームとして活動予定だと発表を終えました。
メモを取りながら発表を聞くゲスト審査員(右から寺井元一さん、岡美里さん、荒木源希さん)雨を楽しむ、「九重の竹テント」
「実験のデザイン部門」もいよいよ中盤。続いては「九重の竹テント」の多田正治さんの発表です。
和歌山市新宮市九重は人口20人の小さな山村集落ですが、若い移住者の積極的な地域活動で集落を盛り上げています。
彼らは、約1000人が来場するマルシェイベントの「九重マーケット」を毎年ゴールデンウィークに開催しています。しかし、2019年はゴールデンウィークの日数が長くイベントでまちがパニックになることが気がかりでした。
そこで「あえて水害の多い地域で6月にやろう」とプロジェクトが立ち上がります。梅雨時の開催は高リスクですが、とりあえず行動することを大事にします。
熊野は林業が盛んで、ヒノキやスギとともに生育する竹は「竹害」として課題になっていたことから、竹を利用したイベント会場をつくりました。完成まで強度や機能性・竹の調達方法・地域連携やボランティアなど様々検討しながら進めます。
デザインは一見複雑ですが、3つの寸法で簡単に作成でき、屋根の傾きや裏表の使い方で4つのバリエーションとリズムが生まれます。屋根にはサトウキビ主原料の環境に優しいプチプチを使用し、1台あたり12,000円で9台製作したそうです。
子供の目線や周辺景色を意識して完成した会場は、時々雨をよけながら「雨を楽しむ」場になりました。今後もマーケットの開催を予定しており、レイアウトや竹の利用をアップデートした方法を考えています。
会場には「九重の竹テント」ミニチュア模型も展示されました移動するコモンズ「移動式焼き場 ―七輪車プロジェクト―」
続いては、
「一瞬で全ての全貌を理解できるような手軽なプロジェクトなので気軽に聞いてください!」
と会場の雰囲気を和やかにして、友渕貴之さんから「移動式焼き場 ―七輪車プロジェクト―」の発表が行われました。
移動式焼き場 ―七輪車プロジェクト―の友渕さん移動式焼き場七輪車とは手押し車に砂利を敷いて炭を乗せ、七輪のように使い移動するものです。1台6500円程度で簡単な手順で製作できる為、ちょっとしたアイデアでまちに繰り出すだけで人が集まる「楽しい場の提供」ができます。
友渕さんは、和歌山県で東京からの移住希望者と共にまちの魅力を発見する七輪車の旅をしました。七輪車を押していると、道ゆく人が押したくなり「少し経ったら変わって!」と交代で楽しむことができます。
活動の収益はなく、単純に時間があって楽しみたいという想いで焼き場を提供しています。七輪の熱は誰でも自由に使うことができる為、暖を取りに来る人や、食材を焼きに訪れる人、興味本位で話しかけにくる人など「多様なアクティビティを創出する交流ツール」となっています。
食材が焼けたら立ち止まってその場で食べる「食材優先のまちあるき」をすると、新たな景色を発見できますます。また、参加者が純粋に楽しむ姿自体もまちの風景になり、まちの魅力を再認識するきっかけになります。交流しながらまち歩きを楽しむことでスキルやお金がなくても場のオーナーになれるのです。
場づくりはまちをどういう風に見立てて受け止められるかであり、このプロジェクトは誰もが参加できるまちづくりの希望を示しました。
暮らしの大集合「タイニーハウスフェスティバル」
「実験のデザイン部門」最後の発表はHandiHouse projectの中田理恵さんから「タイニーハウスフェスティバル」発表が行われました。
中田さんは建築家として「妄想から打ち上げまでを」をコンセプトに、施主も設計士も職人も一緒に行う家づくりに取り組んでいます。
まちなかには、ビル足元の公開空地やただ空いているだけの空き地・公園があり「もったいない」と感じたことがプロジェクトの始まりでした。
「まちに小さな小屋をばらまいてみたらどんな風景になるのだろう、ちょっと面白いことが起こるかもしれない」
という仮説で多様な活動を展開した記録を発表しました。
「断熱タイニーハウス」は、団地の駐車スペースで断熱性能を高い環境に良い暮らしを提案し、1日10人の参加者が小屋を製作しました。当日はミニマルシェの開催や、居住者と本棚を作り「共有図書館」など同時イベントを展開し、何気ないスペースに「可愛らしい何かがある」ことをきっかけに地域へタイニーハウスの存在を知ってもらいます。
クイックデリバリーと呼ばれるトレーラーを改造した小屋を作り、店舗やベンチを格納してまちを周る取り組みでは、青森八戸駅を中心として物販や物づくりワークショップを各地で開催しました。拠点を広げて回り、使われていないまちのあちこちを使い倒します。
2019年11月は、小屋を南池袋公園に集積させ「タイニーハウスフェスティバル」を開催しました。公園で多様な暮らしやオフグリットの暮らしを展示し、様々な世代の人に知ってもらうことで、「特別な接点の場」を生みます。タイニーハウスは欲しい暮らしを実現する方法の一つとして、小さくてもできることから始められるポジティブな発想を導く発表でした。
質疑応答タイムでのやりとり
「実験のデザイン部門」全ての発表が終わったところで、質疑応答が始まりました。
何を実験しどのような成果が生まれたのか、審査員の泉山から共通の質問を投げかけます。
「吉日楽校」の千代田さんは
「何もなかった場所で活動を開くことで、住民たちはその場所にどういう意識持つのかを実験し、まちは自分たちの楽しむ場所なのだという認識を作ることができた」
とコメント。
「愛知県岡崎市・康生通り「パークレット」社会実験」の鈴木さんは
「人のいない場所で、パークレットを住民がどう使うかを実験し、地方都市でのパークレットのあり方を示すことができた」
と他都市で行われているパークレットとの違いを説明しながら、再整備が決まっている道路に対して歩行空間はどうあるべきか試すことができたと話しました。
「九重の竹テント」多田さんは
「梅雨時、雨の日に外イベントは楽しめるのか、竹が活用できるのかが実験だった。とにかくやってみたという成果があった」
と話し、何事も挑戦していくことへの重要性を示しました。
「移動式焼き場 ―七輪車プロジェクト―」の友渕さんは
「土地を所有しない場づくりがどのようにできるか、気軽にそれぞれの場を作る可能性を模索した。参加者が『空間』と認識しているものを『場』として捉え直すことができた。」
と話します。
「タイニーハウスフェスティバル」の中田さんは
「皆が通る場所でみんなが作ったものを置くという実験を行い、それによって自分も何か作れそうだというマインドや、私も欲しいから始めてみようと考えるきっかけづくりができた」
と話し、多様化する人々の生活に合わせた建築デザインの可能性を示しました。
ほっと一息つきながら、来場者投票タイム
およそ3時間にわたるプレゼンテーションと質疑が全て終了しました。
会場では来場者の一般投票を実施しました。来場者はパネルの前で発表者と会話を弾ませます。みなさんプレゼン時よりほっとした表情で実践者同士の交流を楽しみました。
審査員による公開議論
来場者投票タイムを終え、ソトノバ大賞選定に向けて会場全体で公開議論が行われました。ソトノバ・アワード2019では、社会実験や行政の関わった空間整備、個人プロジェクトなど種類が多様な為、横並びで大賞を選ぶのに難しさもあります。審査員は1人ずつ気になるプロジェクトを紹介し、どれが大賞にふさわしいか会場からの応援演説を取り込みながら議論しました。
その後審査員は別室に移動し、公開討論のやり取りを基にソトノバ・アワード2019の大賞を決定します。
審査員らは審査表であるレーダーチャートを集計し、ゲスト審査員賞とソトノバ審査員賞を決めていきます。総合得点の合計が高得点のものが4プロジェクトあり、その差は僅かです。受賞プロジェクトがどこかはまだわかりません!
ドキドキの審査結果発表!
さて、いよいよソトノバ代表の泉山から発表が行われます。
ソトノバ・アワード2019大賞は、「吉日楽校」!
その後、各部門賞と各審査員が選ぶ特別賞を発表。合計9つのプロジェクトが受賞しました。各賞と審査員の講評は、こちらの記事をご覧ください。
乾杯の後は、飲み物片手に歓談、そして授賞式。会場にプリンターを持ち込み、オンデマンドで制作した賞状を手渡します。
プロジェクトデザイン部門賞は、おとがワ!ンダーランド!
実験のデザイン部門賞は、吉日楽校!重賞です!
特別賞 熱血広場賞(福岡賞)は、新豊田駅周辺公共空間活用プロジェクト!
特別賞 蘇れ!中上健次賞(寺井賞)は、移動式焼き場 −七輪車プロジェクト−!
特別賞 萌芽賞(ソトノバアワード2018大賞受賞者賞)は、YATAI CAFE!
特別賞 ソトノバ審査員賞は、手賀沼ヌマベリングプロジェクト!
一般投票賞(オーディエンス賞)は、愛知県岡崎市康生通りパークレット社会実験!
受賞者のみなさま。おめでとうございます!
交流会では発表者、参加者、審査員も混ざって交流!
発表終了後の交流会では、来場者はPerch.さんのケータリングを楽しみました。発表者の応援に駆けつけたプロジェクトメンバーからの労いや、お酒を交えながら新たなコミュニティを繋ぎます。
パーティフードは、ソトノバのイベントではおなじみPerch.のケータリング カンパイ! 審査員、発表者、参加者も交えたトーク!発表者・審査員・来場者・運営サポートの皆さんお疲れ様でした。2020年もまたアワードで素敵なプロジェクトと出会えることを楽しみにしています。次回も是非ご応募ください!
ソトノバ・アウトの時間。1日を振り返ります。All photo by Takahisa YAMASHITA