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ウォーカブルとプレイスメイキングの親和性を探る PWJ2021vol.2#1(前編)

近年、「ウォーカブル」を達成するために、国土交通省都市局等や各自治体で様々な模索がなされています。一方で、「プレイスメイキング」という概念も浸透しつつあり、各地で都市デザインの手法として用いて、実践に移されてきています。

これら2つの概念は共通する点も多く、今後議論の余地がたくさんあり、論点の整理が必要です。また、人の居場所をつくる事業を推進していくためには、各種政策などにも工夫して取り入れる必要が生じてきます。

Placemaking Week Japan2021vol.2では、セッション1「ウォーカブルとプレイスの政策をメイクする|プレイスメイキングブレスト会議①」において、泉山塁威さん(一般社団法人ソトノバ共同代表理事)がコーディネーターとなり、松岡 里奈 さん(国土交通省都市局街路交通施設課 駅まちづくり係長)、佐藤 大輔 さん(札幌市まちづくり政策局都心まちづくり推進室都心まちづくり課 エリアマネジメント担当係長)、髙濱 康亘 さん(盛岡市 都市整備部長)の3名をスピーカーに迎え、これからのウォーカブルシティ政策推進に向け、プレイスメイキングとウォーカブル施策の親和性と両者を掛けあわせた政策への方向性を議論しました。

ソトノバでは、前後編に分けて、この回のレポートをお届けします。

前編では、以上の点を踏まえ、「ウォーカブルとプレイスの政策をメイクする|プレイスメイキングブレスト会議①」についてのイベントの様子について、松岡さんと高濱さんの発表について紹介していきます!


イントロトーク:ウォーカブルとプレイスメイキングについて

はじめに、泉山さんからウォーカブルとプレイスメイキングについての要点をまとめてもらいました。

プレイスをつくることは、目的地をつくることにもつながっている。

このことが、「目的地がなければ人は歩かない(by Jeff Speck)」という言葉や、「目的地をつくるプレイスメイキング Power of 10+ 」において、10種類以上の楽しみがプレイスをつくり、10種類以上のプレイスが目的地をつくるという話から示されます。

プレイスメイキングの5ステップでは、社会実験の実施は4ステップ目にあります。その前段階に、地域と丁寧に向き合い、場所の診断、戦略をつくることなど、やることがたくさんある。これらを踏まえて短期の実験を行うと、継続的に実施できるという最終段階へ向かうことができる。社会実験より前にやることがたくさんあるということは、プレイスメイキングから学べることの1つです。

プレイスは都市や場所ごとに違うので、これをきちんと確認していこうという取組みに「プレイスメイキング・ガイド/プレイス・ゲーム」があります。専門家だけではなく、地域に関わる・暮らしている方々とも一緒に行っていく重要性が語られました。

一方、アメリカのデトロイトでは「プレイスビジョン」としてしっかりまとめて、これをもとにして、ハード整備や社会実験のプロジェクトを行っている。このようなことが、日本でどうやってできるだろうかという疑問も投げかけられました。

最後に、ウォーカブルとプレイスメイキングの親和性として、着目すべき3点をまとめてくれました。

・歩きたくなる都市の先に目的地がある
・「居心地の良い場所=プレイス」であり、これをどうつくっていくか
・交通と滞留空間をどのように共存させていくのか「Link&Place

これらの論点を手がかりにして、登壇者の方の発表内容を見ていきましょう。

ウォーカブルに対する国土交通省の取組み

続いて、松岡里奈さん(国土交通省都市局)から、国交省の今までとこれからの取組みと、施策に取り組む上でのウォーカブルに対する想いを説明してもらいました。

①「居心地が良く歩きたくなる」まちなかづくりの背景と取組みの現在

「居心地が良く歩きたくなる」まちなかづくりの1番のきっかけになったのが、「都市の多様性とイノベーションの創出に関する懇談会」です。ここでは、居心地の良いまちなかづくりの話をしていた訳ではなく、都市の魅力をどう高めるかという、今後のまちづくりの方向性を議論していました。その中で、「居心地が良く歩きたくなるまちなか」からはじまる都市の再生という話につながっていきました。キーワードとして出てきたのが、「WEDO(Walkable 歩きたくなる/Eye level まちに開かれた1階/Diversity 多様な人の多様な用途使い方/Open 開かれた空間が心地よい)」で、これをもとにして取組みが進められていくことになりました。国交省としてそのために制度を整えていこうということで、法律の改正や予算・税制の支援を行い、国全体としての居心地が良く歩きたくなるまちなかづくりの支援が始まったという背景があります。

以下に、紹介してもらった取組みをあげていきます。

有識者からなるストリートデザイン懇談会を踏まえて、『ストリートデザインガイドライン』を2020年3月に策定しました。路面だけでなく、沿道も含めた一体をストリートと呼ぶことにし、実際に居心地が良く歩きたくなる街路づくりに取組むに当たって、小さいこと・出来ることからやってみる(Act Now)の参考になることを目的に、デザインのポイントなどがまとめられています。今年の5月にver.2として改訂されました。

他にも、WEDOという考え方に賛同してくれる自治体としてウォーカブル推進都市の募集を行い、情報共有や、今後の政策づくりに対しての参考にするために意見を伺ったりしています。今では、316都市もの自治体(2021.10.31時点)が賛同してくれています。

同様な取組みとして、マチミチ会議(全国街路空間再構築・利活用推進会議)を2019年に立ち上げました。全国の街路・まちづくりに興味のある人を募集し、全国会議と現地勉強会の2種類を行っているそうです。

また、マチミチ通信(hqt-machi-michi@mlit.go.jp)では、国交省の取組みや各自治体のイベントなどをメールで配信しています。最近では、西日暮里エキマピクニック開催(11/27~28)、なんば駅周辺道路空間の再編に向けた社会実験(11/23~12/2)などが配信されているようです。

他にも、コロナの影響を踏まえた報告書、「デジタル化の急速な進展やニューノーマルに対応した都市政策のあり方検討会」の中でも、ウォーカブルが今後のまちづくりの中でも重要とされています。

「WEDO」というキーワードは、ウォーカブルを議論しようとして生まれた訳ではないことからも、「ウォーカブル」という言葉が指し示す意味合いの広さが分かります。また、国土交通省のウォーカブルに対する取組みが増え、多様になってきていると思います。

国の制度・支援等を上手く使いながら、その場所にあったウォーカブルを考えて、実践に繋げていくことが重要だと感じます。

②国土交通省での取組みを通じたウォーカブルに対する想い

自治体の方から話を聞くと、

「事例で出てくるのは大きな自治体が多く、自分たちみたいな小さな所ではできない。地方都市は車社会だからウォーカブルは難しい。」

といった声をよく聞き、ウォーカブルについてまだ伝えきれていないと感じているそうです。WEDOの“EDO”の部分も大事であり、まちなかから車を完全に排除すべきということではないという意見を述べていました。

兵庫県姫路市の事例をみると、交通を捌けるまちの土台をきちんとつくったうえで、駅前広場が実現しています。ウォーカブル単体ではなく、交通施策やいろんなものと一緒に考えていく必要があります。「都市・地域交通総合戦略」という、地方公共団体が中心に交通・鉄道事業者など様々な方々が一緒になって、地域の交通計画をつくっているものがあります。

「ウォーカブルは、人が歩ける空間(路面)だけをただつくることではない。ウォーカブルをきちんと伝えていくことでプレイスメイキングとも上手く連動できるはずだ」

と言っていました。

sotonoba2ただ歩けるだけでなく、空間を一体的に捉える「WEDO」という考え方を伝えていく(松岡さん発表資料より)

小さい地方都市ではできないのかという話においても、小さなことからやってみる(Act Now/できることからやってみる)ことが大切。社会実験の取組みを繰り返す中で、徐々に警察・地元の理解を得られ、更なる取組の推進を図ることができるとしてまとめました。

街路だけではなく、管理の境界を超えて、歩きたくなる環境を総体的につくっていくことが「ウォーカブル」では大切であることが分かります。また、小さな地方都市でも、車を完全に排除する訳でもなく、小さな地方都市らしいウォーカブルを目指すことは充分できるという考えにも深く共感できます。全ての都市がウォーカブルを目指さなくてもいいかもしれませんが、人が居心地がよいと感じる空間を少しずつまちにつくっていければ、小さな地方都市でも歩きたくなる環境が生みだせると思います。

自治体でのウォーカブルの取組み:盛岡市

次に、高濱康亘さん(盛岡市都市整備部長)から、盛岡市でのウォーカブルの取組み3事例を踏まえて「ウォーカブル」に対する想いについて説明して頂きました。

①葺手町こみちでのコロナ占用特例の活用

1つ目の事例は、盛岡で有名なわんこそばの老舗「東屋」の本店がある葺手町こみちという通りで、コロナの道路占用緩和を用いテラス営業を行いました。ストリート全体で行っていて、1m分のテラス席を設け、飲食が出来るようにしました。

歩車共存で対面交通(2車線)の通りであったが、岩手県警のウォーカブルに対する理解もあり、滞留空間と車道を分離し、歩行者の通行空間もきちんととって実施しました。

カラーコーンのデザインは商店街の方が行っていて、地域の子供会で切って貼っています。コーンの内側にも紙が貼ってあり、中にLEDライトを入れると、銀河鉄道の形をした模様が薄く浮かび上がるなど、工夫が施されています。工夫の凝らされたカラーコーンが、地域のつながりを生んだ重要なストリートの一部になったそうです。

また、実践してみて、ふとした出逢いや交流が偶然的に起こるという場面に遭遇し、ストリートを活用する1つの意義になると強く感じたそうです。具体的には、沿道の滞留空間で佇む人と、犬の散歩で通りがかる人との間でちょっとしたコミュニケーションが発生して、対岸の滞留者もなんとなくその様子を見て気にするというシーンが印象に残ったそうです。

sotonoba3滞留者と通行者とのコミュニケーションが生まれる(高濱さん発表資料より)

②櫻山横丁~サクヨコ~でのコロナ占用特例の活用

2つ目の事例は、史跡かつ都市公園の範囲内で、戦後闇市の名残で昭和レトロな色気のある場所で、車両通行止めにして、金土日の夕方、全面的に歩行者空間にしました。

sotonoba4薄暗がりのレトロ感漂う中、人々が飲みながら会話を交わしている(高濱さん発表資料より)

③木伏緑地

3つ目の事例は、Park-PFI(公募設置管理制度)という仕組みを使って、2019年9月にリニューアルオープンした施設(店舗棟)と、敷地の半分以上を占める芝生地です。隣接する河川との連携を取り、水際の居場所ができました。

木伏緑地の歩行者量はコロナ前後で変わらず、屋外で安心ということもあったのか、今、オープンスペースが求められていることを実感したそうです。

寒い地方の方へのメッセージとして、冬でもやりようによってはちゃんと賑わうので、諦める必要はないということだそうです!

sotonoba5広々とした芝生と低層の店舗棟が歩行者の居場所をつくりだしている(高濱さん発表資料)

④盛岡市の交通戦略

sotonoba6二つの交通結節点(盛岡駅・バスセンター)に挟まれる場所が中心市街地になっている(高濱さん発表資料より)

ハードの整備を行い、プレイスメイキングの文脈以外にも都市構造の構えをまずつくるということを行っています。2009年10月に「もりおか交通戦略」が策定されました。民間所有だったが2016年に廃止になるとのことで、東端のバスセンターを市が買い取り、官民連携の体制を取って再整備しました。これまでハード整備を中心に進めてきて、いよいよアクティビティをつくる段階になってきています。

sotonoba7拠点・目的地となる盛岡バスセンター(高濱さん発表資料より)

⑤本企画に対する意見提示

これらの盛岡市の取組みを踏まえると、紹介して頂いた3事例のようなボトムアップ的な実践と、交通計画・整備のような全体的な都市戦略の両者が目指すべき都市像としてWalkableがあると、高濱さんは考えています。

Walkableは、地価上昇・安全安心などの話を全て含んだ都市像に関するビジョン・運動論であると提示してくれました。ヒト・モノ・情報が集まる集積する「交換の場」を都市とすると、ヒト・モノ・情報の「接着面」を増やすことがこれから大事になってくるはず。そこで重要なポイントとなるものが、「遅い交通」・「ファジーな空間」であり、これらを創っていくことが、Walkableではないかという意見を述べてくれました。

特に、ファジーは、一切の矛盾の無くつくられる制度ではつくれないので、現場の努力が必要不可欠になってくるとしていました。

個別のプレイスメイキングと全体の都市戦略がかみ合った、タクティカル(戦術的)lなアプローチもとても重要だと話していました。

盛岡では他にも、中心市街地での様々な取組みが行われていて、全体の都市戦略を踏まえたウォーカブル事業の実施が重要になってくるとしてまとめました。

交通計画などの「全体の都市戦略」と、社会実験などの「個別のプレイスメイキング」というマクロとミクロの2つの取組が、上手くかみ合うようなアプローチが重要だという話はとても共感できます。また、プレイスメイキングなどの戦術的なアプローチでは、空間を活用する主体に地域の方々(住民・沿道店舗等)を上手く巻き込めると、その場所らしい空間の使い方ができて、多様性のあるまちがつくっていけると感じます。


前編では、ウォーカブルについて、国土交通省と盛岡市からそれぞれどのような取組みがなされているかの紹介をしました。

後編では、プレイスメイキングの取組みを実践している札幌市の紹介をし、発表された事例等も踏まえて、本題であるウォーカブルとプレイスメイキングの共通点や親和性について議論します。

後編につづく。

テキスト by 佐藤栄太(ソトノバライター)

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